長期安定的な医院・クリニック経営を実現する4つの成功ポイント

公開日:2025年4月24日
更新日:2025年4月24日

長期安定的なクリニック経営を実現したり、医業発展を目指したりするには医療技術も重要ですが、経営の成功ポイントをつかんでおくことも重要です。

どんなに医療の技術が優れていたとしても、経営が成り立たなければ元も子もありません。

クリニック経営で重要なポイントは、大まかに分けて「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分けられます。

開業医の先生は、医師であると同時に経営者でもあるので、経営のコツをつかむことはとても重要です。

今回は、4つの成功ポイントに分けて、クリニック経営のコツについてお伝えします。

【ヒト】採用、トラブル、マネジメントなど人事・労務戦略のコツを実践する

多くの先生は、医業収入や資金繰りなど「カネ」の問題だけでなく、人材採用やスタッフとの人間関係など「ヒト」の問題にも悩んでいます。

クリニック経営において、人間関係や退職トラブル、人材不足などの問題と向き合いながら、大きな成果を出す組織作りが大切になります。

なお、クリニック経営で必須となる人事・労務戦略については、以下の書籍も参考にしてください。

経営理念を明確にする

スタッフにやる気があり、活気があるクリニックに共通している点は、経営理念を明確にして、院内に浸透していることです。

スタッフと同じ方向に向かっていくには、経営理念やビジョンを通して院長先生が道筋を示さないといけません。

また、スタッフ採用においても、経営理念に共感した人でなければ離職率が高くなる傾向にあります。

医療業界に限った話ではないですが、経営理念に基づいた経営を実践することで、離職率が80%から一桁に変わった事例もいくつかあります。

もちろん、経営理念は人事の話に留まりません。

経営理念はクリニック経営の土台になるものなので、経営者として正しい意思決定を素早く行うことができるようになります。

まだ経営理念が明確になっていない先生は、次の手順で経営理念を作ると良いでしょう。

①他の医院・クリニックの経営理念をたくさん見てみる

②クリニック経営で実現したい願望を書き出す

③クリニック経営で絶対にやりたくないことを書き出す

④自分のクリニックの強み・弱みを書き出す

⑤地域や社会に貢献したいことを書き出す

⑥①~⑤を踏まえて外せないキーワードを3つ考える

⑦実際に経営理念やビジョンを書き出してみる

ただ、経営理念は、無理矢理作るものではなく、先生の口から自然と出てくるものではないと意味がありません。 耳障りがいいだけで自分自身が腑に落ちていないものではなく、院長先生らしい理念にすることが大切です。

経営理念をスタッフに浸透させる

経営理念をスタッフマネジメントに活かすのであれば、スタッフに浸透させる必要があります。

経営理念を院内の壁に貼っておく、人材採用向けにホームページに掲載するといったことも必要ですが、スタッフの目に触れるだけではなかなか浸透しません。

・経営理念をもとにした院長先生の考えをスタッフに伝える

・日頃から経営理念について考えてもらう

・幹部クラスとのミーティングで経営理念を共有する

といったことを意識することで、徐々に浸透していきます。

もし、なかなか浸透しないようであれば、経営理念やビジョンを考え直すのもありです。

「実態と違う」「スタッフから受け入れられない」「ステージが変わって合わなくなった」といったことは十分出てきます。

1度作った経営理念を変えてはいけないということはありません。

院内の状況や患者さんの属性、時代の変化に合わせて柔軟に改善していきましょう。

理想の人材像を明確にしてスタッフを採用する

医療業界の採用は厳しい状況が続いています。

ただ、無闇に応募してきた人を採用しても、すぐに辞める可能性が高くなります。

また、せっかく採用したのに面接時の印象と違って能力を発揮してくれず、動きが悪いこともあります。

面接時と採用後のギャップをなるべくなくすには、院長先生が理想の人材像を次のように明確にすることが大切です。

・経営理念を明確にして求職者に伝える

・職種や実務経験の有無だけでなく性格や価値観など理想のスタッフ像を具体化する

・求人募集で求職者に伝えたいことを考える

この3つを守って、求人応募に取り組むことが必須となります。

なお、書類選考や採用面接のコツについては、以下の記事をご覧ください。

医院・クリニック開業時の採用面接、書類選考、採用後のスタッフ教育で失敗しないコツとは?

「一生懸命スタッフを教育をしても全然育ってくれない!」「承継開業してスタッフも引き継いだけど、全然言うことを聞いてくれない」「勤務していた前の病院から付いてき…

最近は、特にSNSを活用した採用の成功例が多いので、以下の記事も参考にしてください。

クリニックで優秀な人材の応募が集まる!採用でSNSを安価に有効活用する方法

昨今人材不足が課題になっているクリニックも多いでしょう。 そこでホームページに求人情報を載せたり、求人サイトを使って応募してみたり、ハローワークを活用してみるも…

問題スタッフとのトラブルを防止する

戦力として期待していたスタッフが、実は問題スタッフだったという悩みを持つ院長先生は少なくありません。

また、最初はやる気を見せていた優秀なスタッフが、問題スタッフに豹変してしまうこともあります。

問題スタッフによるトラブルをそのままにしておくと、他のスタッフのモチベーション低下に繋がり、最悪退職連鎖のきっかけになる可能性があります。

だからといって、今の労働関係の法律では、安易に懲戒解雇するわけにもいきません。

「お前はクビだ!」と看護師に叫ぶ前にクリニックの院長先生が知っておきたい労働法とパワハラ問題

仕事の覚えが悪い、遅刻を繰り返している、他のスタッフからも不満の声が上がっている、患者から苦情が来ている、そして何より使えない……。 そんな問題ある看護師やスタッ…

次のような方法で、問題スタッフを放置することなく毅然と向き合うことが必要です。

①問題スタッフを放置せず指摘する

②問題スタッフに指摘した事実を記録する

③指摘して改善されなければ書面で業務改善要求する

④問題スタッフ本人だけでなく当事者にもよく話を聞く

⑤担当を変えたり業務量を調整したりする

これで改善が見られなければ、退職勧奨が必要でしょう。

【クリニックのスタッフ問題】角を立てずに円満に退職を促すには?

遅刻や欠勤を繰り返すわけではなく、目立ったトラブルを起こすわけではない。 ただ仕事にやる気がなく、同僚との協調性もなく、患者さんからの評判も悪い。他のスタッフか…

医院・クリニックの退職勧奨|スタッフとのトラブルに悩む開業医の先生へ

開業医の先生にとって、スタッフさんとの関係は大きな悩みごとの1つです。 採用してみたものの、実は自分のクリニックには合わない、業務についていけないスタッフもいま…

退職勧奨の場合も、「あなたは優秀な人だ。だから他の職場の方が合っていると思う」など、角が立たないように円満に退職を促すことが大切です。

スタッフのやる気を削がずに改善点を指摘する

スタッフが業務上のミスをしたときなど、どうしても厳しく指摘しないといけない場面が出てくることがあります。

しかし、いくら必要な指摘でも「叱責」と受け取ったスタッフは嫌々働くこととなり、働くモチベーションを下げてしまいます。

あまり叱責ばかりでは、怨念を持って退職されるなど、トラブルに繋がりかねません。

そこで、スタッフのやる気を削がずに改善点を指摘することを身に付ける必要があります。

・改善点だけでなく良かった点も指摘する

・良かった点は第三者を介して間接的に褒める

・良くない点は第三者を介すのではなく直接指摘する

・「言わなくてもわかるだろう」は厳禁にする

・上から目線で一方的に押さえつけない

詳細は、以下の記事をご覧ください。

成長に繋がるクリニックのスタッフ教育10個のポイント

医院・クリニックのスタッフ教育というと、何も治療の知識や技術、スキルのことだけではありません。 例えば看護師の場合は、治療技術の向上だけでなく、患者さんへの接遇…

【モノ】医療法人化や分院展開など事業拡大のタイミングを図る

クリニック経営が軌道に乗ってくると、医療法人化や分院展開など事業拡大のタイミングがやってきます。

医療法人化・分院展開など失敗しないポイントについて解説します。

医療法人化のタイミングを知る

クリニックによって、医療法人化のベストタイミングは変わってきますが、一般的には、次のことが目安となります。

・親族が医院を承継、もしくは他の後継者が医院を引き継ぐ場合

・所得税の税率が40%(年間所得1,800万円)を超えてきた場合

・将来住宅ローンや学費などで多額のお金が必要にならない場合(医師のライフプラン)

・医療機器の償却期間が終わるタイミング(開業6年)

・社会保険診療報酬が5,000万円を超えている

・分院展開や介護事業などの事業拡大のプランがある

税金対策上、医療法人化を検討している先生も多いと思いますが、事務負担など医療法人独自のコストも発生するので、よく検討するようにしてください。

詳細は、医療法人化に詳しい最寄りの税理士にご相談ください。

また、個人開業医と医療法人の違いについては、冊子になっているので、興味のある方は、以下からダウンロードしてください。

分院長に適した人材がいれば分院展開を考える

医療法人の場合、分院展開を検討している先生も多いでしょう。

診療圏の拡大や、税金対策を踏まえた親族開業など、様々な目的があるかと思いますが、一番重要なことは分院長に適した人材がいるかどうかです。

分院長が退職して、代わりがいなければ閉院しなければいけなくなってしまう点は注意しましょう。

詳細は以下の記事をご覧ください。

【カネ】良好な資金繰りを実現する強固な財務体質を実現する

お金の問題は、最もクリニック経営で悩みの多いポイントです。

金融機関から融資を得るポイントに加え、返済の必要がない補助金や助成金の活用についてもよく検討しておきたいところです。

長期安定的なクリニック経営を実現するカネのポイントの代表的なところを解説します。

資金調達の手段や有利な条件で融資を得るポイントを知る

資金繰りを改善して、良好な経営を行うには、必要に応じて資金調達していくことが重要です。

集患・売上は重要ですが、いくら患者さんが来院しても利益が残らず資金がショートしてしまえば元も子もありません。

有利な条件で融資を得ることはもちろん、場合によっては補助金や助成金の活用も組み合わせることもおすすめです。

以下の記事は、これからクリニックを開業する方に向けて記載していますが、追加融資を検討している先生にも共通する内容なのでぜひ参考にしてください。

医院開業の資金調達|自己資金、金融機関の融資、補助金の申請の重要ポイントを解説

「自己資金はいくらくらい用意すればいいの?」「祖父や祖母が開業資金を援助してくれると言っているけど、注意点は?」「本当に金融機関は融資してもらえるの?」「開業…

医院・クリニックの開業医が使える医療業向け4つの補助金を詳細解説

「資金調達の方法として、融資だけでなく補助金や助成金も活用できないか?」 と考えている開業医の先生も多いのではないでしょうか? 銀行や公庫などの融資と違い、返済の…

事業計画書を見直す

クリニック開業前に、金融機関から融資を得るために事業計画書を作っているはずです。

事業計画書は基本的には資金調達のために行うものではありますが、実際は開業後の検証材料としても利用できます。

開業前に作成した事業計画書と今の経営数値を見てみると、ある程度の乖離が発生しているはずです。

想定していた計画と、実際の数値でどの程度の差異があり、原因が何かを検討することで経営改善のヒントに繋がることがあります。

詳細は、以下の記事をご覧ください。

失敗を避ける!医院・クリニック開業 事業計画書作成の5つのステップ

医院・クリニック開業にあたり、開業資金がまずいくら必要になるのかを算出するために事業計画書の作成が必要となります。 金融機関から資金調達するには、作成した事業計…

開業したら保険を見直す

開業医になると、勤務医時代になかった様々なリスクをカバーする必要があるので、保険の見直しが必要となります。

具体的には、次の保険の見直しが必要になることが多いです。

医師賠償責任保険

所得補償保険

火災保険等の休業補償

団体信用生命保険

民間の生命保険

ドル建て終身保険

詳細は、以下の記事をご覧ください。

開業医が加入・見直ししたい7つの保険|リスクに備える

勤務医時代から生命保険や火災保険に加入している先生は多いですが、開業医になると見直しが必要になることが多いです。 開業医になると、勤務医時代にはなかった様々なリ…

医療法人化した先生は、変額保険も検討することをおすすめします。

【情報】医療広告規制を遵守して集患対策を行う

ホームページやチラシ、SNSなどと使った集患は医療業界でも行われます。

ただ、医療業界の場合は医療広告規制を遵守しなければいけません。

次のことを意識して集患対策を行うようにしましょう。

ホームページの集患対策は必須

患者さんの属性や診療科目に関わらず、ホームページの集患はほぼ必須です。

若い世代はもちろん、今は高齢の患者さんもスマートフォンでホームページをチェックしてから来院します。

特に美容外科や精神科・心療内科など最寄り駅でなくても患者さんが来院するクリニックでは必須となります。

また、一般内科など、近所のクリニックについても患者さんはホームページの治療内容や口コミでチェックします。

競合の多いクリニックになると、ホームページや口コミの内容が悪いと近隣でも来院されません。

医療広告規制を遵守しつつ、診療内容をわかりやすく掲載しておき、「この症状なら診てもらえる」と患者さんに認知してもらうことが大切です。

詳細は、以下の記事をご覧ください。

医院・クリニック開業時のホームページ制作で気をつけたい9つの対策

医院・クリニック開業時の重要な集患・増患対策のひとつにホームページ制作があります。 特に今では若い世代だけでなく、シニア世代の患者さんもスマートフォンでホームペ…

医療広告規制を遵守する

言うまでもなく、ホームページやチラシ、SNSに至るまで医療広告規制を遵守しなければいけません。

広告規制というと、景品表示法や薬機法が有名ですが、医療法では特に厳しい医療広告の規制があります。

他の業種の商品・サービスでは記載可能な文言も、医療広告ではNGになっていることが多いので注意してください。

【医療広告ガイドライン徹底解説】知らないと怖い医療広告規制12個のポイント

医院・クリニックなどでホームページ、チラシを作成する際に気を付けなければいけないのが広告規制です。 医療機関の広告は景品表示法だけでなく、医療法により厳しく規制…

良い口コミを得られるように患者満足度を上げる

GoogleMapなどの口コミは、集患対策や人材採用に大きな影響を受けます。

実際、悪評が多かったり、口コミの評価が低かったりすると、集患でマイナスになります。

また、口コミの評価自体は悪くなくても、数が少なくても印象は良くありません。

悪い口コミの対処法や、良い口コミを得る方法については様々ですが、一番重要なことは日頃から患者満足度を上げることです。

患者満足度の高いクリニックは、やはり良い口コミが多く集まっている傾向にあります。

悪い口コミによる対処法や、良い口コミを集めるコツについては、以下の記事をご覧ください。

【クリニックの口コミ対策】悪評の対処法や良い評価を集めるポイント・注意点を詳細解説

医院・クリニックのインターネット上の口コミは、集患対策や求人採用に大きく関わります。 例えば、集患対策でMEO対策(Google Mapsで上位表示させるための対策)を施して、…

【まとめ】医療の技術×経営ノウハウで長期安定的な経営に繋げる

以上、クリニック経営の成功のコツについて「ヒト・モノ・カネ・情報」に分けてお伝えしました。

経営者目線で、経営ノウハウを身に付けながら日々の診療を行うようにすることが大切です。

クリニックが長期安定的な経営を実現して存続していくことは、地域に住んでいる患者さんにとっても必要不可欠なことです。

税理士法人テラスでは、長期安定的な経営や医業発展を目指す開業医の先生や、ご開業を検討している勤務医の先生に向けて、「開業医の経営塾」(オンライン:有料)を開催しています。

これまで累計200名の先生が受講され、「ヒト・モノ・カネ・情報」という4つの医院経営のポイントについて学んでいます。

ご興味のある先生は、まずは説明会を開催しておりますので、是非ご参加ください!

最後までご覧いただきありがとうございました。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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