医療法人の変額保険の特徴やメリット・デメリット、経理処理の方法を詳細解説
多くの医療法人は、法人化する際に厚生労働省のモデル定款をベースに設立しているため、資産運用の手段がかなり限られています。
そのため、資産運用とリスクマネジメントの両方を兼ね揃えた変額保険は、加入の検討の余地が十分あります。
変額保険は元本割れリスクや経理処理など、注意点がいくつかあります。
ただ、今後進行すると考えられるインフレや万が一の際のリスクマネジメントの手段として有効です。
そこで、今回は医療法人の理事長の先生が知っておきたい変額保険の特徴や、メリット・デメリットについて解説します。
医療法人の資産運用が限定的な理由
多くの医療法人がベースとしているモデル定款では、次のような記載があります。
資産のうち現金は、医業経営の実施のため確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管する
また、医療法人運営管理指導要綱 には、次の記載があります。
医療事業の経営上必要な運用財産は、適正に管理され、処分がみだりに行われていないこと。そのため、現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとすること(売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと)。
「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと」という記載があることから、株式のような運用性の高い資産の所有が難しいのです。
定款の変更をしようとしても都道府県知事の認可が必要となりますが、要件が厳しく、簡単に受理されません。
そのため、医療法人は資産運用が限定的になってしまうのが実態です。
モデル定款に抵触しないようにするには、国公債のような手堅い資産運用や、投資目的ではない生命保険など、手段がかなり限られています。
変額保険とは?
資産運用の手段が限定される医療法人にとって、資産を運用しながら万が一のリスクに備えることができる生命保険は検討の余地がある手段です。
変額保険は、保険料の一部を投資信託などの金融商品に運用する生命保険の一種で、運用次第で満期保険金や解約返戻金が変動します。
変額保険の基本的な特徴
変額保険は、投資信託などで運用するため、定額保険よりも大きな満期保険金や解約返戻金を受け取れる一方で、当然元本割れのリスクもあります。
ただ、死亡・高度障害保険については、契約時の基本金額を下回ることがありません。
また、保険内容にもよりますが、保険料を損金計上できることができるので、法人税の負担を軽減することができます。
多くの医療法人では、将来の設備投資やスタッフの人員確保が課題となりますが、今はインフレが進んで物価も賃金も上昇傾向にあります。
効果的にインフレに強い資産を確保して、インフレリスクをヘッジできる点は魅力的と言えます。
ただ、元本割れのリスクをどこまで許容できるか、手数料を差し引いてもリターンが得られるかどうかは慎重に検討しないといけません。
定額保険と変額保険の違い
定額保険 | 変額保険 | ||
運用益が出た場合 | 運用損が出た場合 | ||
主な保険の種類 | ・定期保険 ・医療保険 ・養老保険 ・終身保険 など | ・有期型(養老保険タイプ) ・終身型(終身保険タイプ) ・外貨建て年金保険 など | |
資産管理 | 一般勘定 | 特別勘定 | |
死亡・高度障害保険金 | 契約時のまま | 増える | 契約時のまま |
解約返戻金 | 減る | ||
満期保険金 | |||
元本割れリスク | ない | あり | |
インフレリスク | 高い | 低い |
なお、一般勘定とは、運用実績に関わらず、一定の給付が保証されることで、運用のリスクは契約者ではなく保険会社が負います。
一方、特別勘定とは、運用実績に応じて給付が変動して、運用のリスクは契約者本人が負うことになります。
定額保険は、資産運用の機能がないため、良く言えば元本割れのリスクはないのですが、インフレリスクに対応できません。
将来的にどれだけインフレが進んでも、受け取る金額が同じであるため、資産価値が低下している可能性があります。
現在、インフレが進んで物価が高騰しているため、相対的に現金の価値が目減りしていることを実感している方も多いでしょう。
最近では、「〇〇社は、△△の値上げすることに決めました」というニュースが日常茶飯事ですが、それだけ現金の価値が目減りしているのです。
一方、変額保険であれば、物価上昇率に追随するように資産を増やしていくことになるので、インフレによる価値の低下を防ぐことができます。
元本割れのリスクは注意しないといけませんが、万が一の際は、元本割れがあっても基本金額はそのままである点は安心材料です。
法人契約の変額保険のメリット・デメリット
法人契約の変額保険のメリット・デメリットをまとめると次の通りです。
メリット | デメリット |
・受け取る金額が増えることがある ・インフレに強い ・死亡・高度障害保険金は目減りしない ・損金計上できて法人税の対策ができる | ・受け取る金額が減ることがある ・デフレに弱い ・手数料が高くて割に合わないことがある ・すぐに解約すると損する可能性がある |
変額保険は、万が一に備えながら資産運用をしていきたいという方には向いています。
特に医療法人は資産運用の方法が限られているので、個人以上に変額保険のメリットは大きくなると言えます。
変額保険の主な種類
変額保険には、主に終身型(終身保険タイプ)と、有期型(養老保険タイプ)に分けられます。
いずれも、死亡・高度障害保険金は運用成績が下がっても、契約時の金額は維持されますが、解約返戻金や満期保険金は運用成績次第で上下します。
終身型(終身保険タイプ) | 有期型(養老保険タイプ) | |
保険期間 | 一生涯 | 一定期間(期限あり) |
死亡・高度障害保障 | 一生涯(最低保障あり) | 保険期間内(最低保障あり) |
満期保険金 | なし | あり |
解約返戻金 | あり | あり |
終身型(終身保険タイプ)
定額保険でいう終身保険と同様に、一生涯死亡・高度障害保障が継続する変額保険です。
そのため満期保険金はなく、解約しなければ必ず基本金額以上の死亡保険金が支払われることになります。
後述する有期型よりも、死亡保障と資産形成の両方を目的とする方に向いています。
有期型(養老保険タイプ)
10年、15年など保険期間が決まっている変額保険です。
死亡保険金や高度障害保険については、保険期間中に万が一の事態が起きなければ受け取れません。
その代わり、満期を迎えると満期保険金が支払われますが、運用成績次第で変動します。
満期を迎えると、死亡保障はなくなりますが満期保険金が支払われるので、退職金の財源づくりに向いています。
法人契約の変額保険の経理処理
法人税対策の観点からも、法人契約の変額保険に関心を持っている理事長先生も多いと思いますが、経理処理の方法には注意が必要です。
特に2019年の税制改正以降、解約返戻率が50%を超える法人保険に対しては損金算入割合が大幅に減少しています。
損金算入できない部分は資産計上しないといけないので、法人税を減らすことができません。
契約者が法人、被保険者が理事長・役員・スタッフ、死亡保険金受取人が法人とした場合は、次のように経理処理をしていきます。
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上割合 | 取り崩し期間※1 |
0~50% | 全額損金算入可能 | ||
50~70%※2 | 保険期間の当初40%の期間(超えた分は全額損金計上) | 40%(60%は損金算入) | 保険期間の75%相当期間経過後から保険期間の終了日まで |
70~85% | 60%(40%は損金算入) | ||
85%超85%超 | 最高解約返戻率となる期間終了まで※3 | ①1~10年目 最高解約返戻率の90% ②11年目以降 最高解約返戻率の70% | 解約返戻金が最高金額になった後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し※3 |
※1:残りの保険契約期間の年数に応じて均等に分けること
※2:被保険者1人当たりの年間保険料の合計が30万円以下の場合は、全額損金算入可能
※3:解約返戻金の増加割合により、資産計上期間が異なることがある
上記のように、まったく損金算入できないわけではないので、死亡保険金や退職金の積立には有効な方法です。
一時期のように節税を目的とした法人保険は税制改正による規制でほとんど姿を消しています。
本来の生命保険の役割である資産形成とリスクマネジメントの観点から加入を検討するといいでしょう。
【まとめ】医療法人の変額保険で資産運用と万が一のリスク管理を
医療法人契約の変額保険について解説しました。
インフレリスクと万が一の際のリスクに備えることができる法人契約の変額保険は十分検討の余地があります。
元本割れリスクや手数料が主なデメリットなので、どれだけリスクを許容できるかは十分検討しましょう。
また、経理処理が以前より複雑になっているので、税金対策については保険税務に詳しい税理士に相談するようにしてください。
税理士法人テラスのグループ法人であるFPテラスでは、開業医の先生に合った生命保険のご提案ができる医療専門FPが在籍しています。
最新の保険商品の知識も踏まえ、今後のライフプランや事業状況に応じて、医療専門FPは適切な保険戦略を提供します。
保険税務に詳しい税理士も在籍しているので、ぜひご相談ください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。