医院・クリニックの開業医が使える医療業向け4つの補助金を詳細解説

公開日:2024年10月11日
更新日:2024年11月20日

「資金調達の方法として、融資だけでなく補助金や助成金も活用できないか?」

と考えている開業医の先生も多いのではないでしょうか?

銀行や公庫などの融資と違い、返済の必要がない補助金は、資金調達の方法として有効に活用したいところです。

探してみると、医院・クリニックなど医療業も利用できる補助金は少なくありません。

そこで、今回は、開業医の先生が知っておきたい医療業向けの補助金を解説します。

融資・補助金・助成金の違い

クリニック・医院の経営で、資金調達手段を確保することは重要なことです。

新しい設備を入れたり、従業員を雇ったりする際、資金が不足しているとできません。

開業医の先生が資金調達でよく利用する手段には、融資・補助金・助成金があります。

融資補助金助成金
概要金融機関から資金を借りること新事業の開始、設備導入時などに受給される従業員の雇用や教育などに受給される
管轄金融機関
×(必要)
経済産業省
○(不要)
厚生労働省
○(不要)
返済

金融機関からの融資だけでなく、返済の必要がない補助金・助成金についても知っておき、有効に活用しましょう。

融資、助成金、補助金のどれもが、毎年のように制度変更が行われています。

ホームページを見たり、専門家から情報を得たりして最新情報をチェックしましょう。

クリニックの資金調達全般については、以下の記事も参考にしてください。

医院開業の資金調達|自己資金、金融機関の融資、補助金の申請の重要ポイントを解説

「自己資金はいくらくらい用意すればいいの?」「祖父や祖母が開業資金を援助してくれると言っているけど、注意点は?」「本当に金融機関は融資してもらえるの?」「開業…

融資

融資は、主に銀行や信金、日本政策金融公庫などから事業に必要としている資金を借りることです。

もちろん、借りるからには返済が必要となります。

クリニック開業時から設備導入時、分院展開などでは融資を受けることは必須となります。

なるべく金利が低く、返済期間を長く設定して余裕を持った資金繰りにしましょう。

返済が済むと、金融機関から信用を得られやすくなるので、再度融資を受ける際に有利になります。

補助金

補助金については、本記事では主に経済産業省管轄のものを指します。

補助金は、特徴のある新しい事業を行ったり、新規設備を導入したりする場合に、認められた計画が採択され、「もらえる」というものになります。

そのため、融資と違って原則返金する必要はありません(補助金の事業で一定以上の収益を上げた場合には、返還するという注意書きがある補助金もあります)。

注意点は、補助金は実際に行ったことに対して支給される、後払いになるものがほとんどということです。

そのため最初に費用を用意する必要がありますが、補助金の受給が決まっていれば、金融機関からの融資も受けやすくなる傾向があります。

補助金は掛けた費用の全額ではなく、一定割合が受給されるようになっており、補助上限額、補助率が定められています。

例えば、IT導入補助金(通常枠)は、補助上限額が最大150万円、補助率1/2の補助金です。

300万円を使う事業計画を実行すると、1/2にあたる150万円が受給できることになります。

ただし、400万円を使う事業計画を実行した場合は、1/2にあたる200万円ではなく、補助上限額にあたる150万円まで支給されることになります。

また、補助対象事業の対象外の事業となっている場合は、補助金は受給されません。

補助金は積極的に活用したいところですが、何か設備を導入したいときなどの補助と考えてください。

助成金

助成金とは、本記事では主に厚生労働省管轄のものを指します(クラウドファンディング活用助成金のような、実質的には補助金となるものは除きます)。

助成金は、従業員の雇用や教育など、採用や育成に関して、条件を満たす取り組みを行った場合等に資金が支給されるものです。

補助金同様、支給された助成金は、返済の必要はありません。

クリニック開業時は利用する機会はほとんどないですが、開業後は利用機会が出てくることもあります。

補助金同様、頻繁に名称や制度が変わったり、終了になったりしているので、最新情報を確認するようにしてください。

クリニック・医院の開業時や経営に使える医療業向け補助金4つ

主に経済産業省の中にある中小企業庁が幅広く募集しており、医院・クリニックの開業・運営が対象となる補助金を代表的に4つ紹介します。

名称や制度(補助対象事業、補助上限額、補助率等)は変更になることがあるので、都度最新情報を確認するようにしてください。

なお、補助金のなかでよく知られている小規模事業者持続化補助金は、医療法人、個人開業医の先生ともに対象外となります。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業補助金(ものづくり補助金)

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業補助金は、頻繁に名称が変更になりますが、通常「ものづくり補助金」と呼ばれるものです。

ものづくり補助金は、次のような名目の補助金となっており、設備導入を目的として使われることが多いです。

中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的な製品・サービスの開発、生産プロセス等の省力化を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援します。

※「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分) 」より抜粋

医院・クリニックの場合は、個人開業医の先生の方は応募可能ですが、医療法人の応募はできません。

該当しない組合や財団法人(公益・一般)、社団法人(公益・一般)、医療法人及び法人格のない任意団体は補助対象となりません。

※「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分) 」より抜粋

補助金が受給された後、5年間の事業家報告期間内に医療法人化した際は、補助金を一部返還しないといけなくなります。

個人開業医の先生でも、すでに医療法人設立に向けて動き出している場合は不向きの補助金と言えます。

補助対象事業の注意点としては、保険収入のある事業は対象とならないので、主に自費診療向きの補助金と言えます。

(過去又は現在の)国(独立行政法人等を含む)が助成する制度との重複を含む事業を申請する事業者。すなわち、補助対象経費の重複に限らず、テーマや事業内容から判断し、本事業を含む補助金若しくは委託費と同一若しくは類似内容の事業(交付決定を受けていない過去の申請を除く)、又は公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬、固定価格買取制度等との重複がある事業を申請する事業者は補助対象となりません。

※「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分) 」より抜粋

導入する設備を少しでも保険適用の治療に使うと、補助金返還となるので注意しましょう。

医療保険の制度の変更によって、補助金で取り組んだ自費診療の内容が保険診療となった場合も、補助金返還となる可能性が高いです。

また、あくまで「革新的な製品・サービスの開発、生産プロセス等の省力化を行い、生産性を向上させるための設備投資等」が対象となるため、既存設備の増加などは対象となりません

例えば、来院患者数の増加に伴い、既存の歯科治療用のチェアーユニットを増やした場合は対象外となります。

あくまで、医院・クリニックでは、次のいずれかの事業計画である必要があります。

・設備を導入することによって、既存のあるいは新規の患者様に新しい治療やサービスを提供する計画
・新しい治療方法や管理を行うための機器の導入を行う計画

例えば、医院・クリニックでは次のような採択例があります。

・1日で治療が完了する革新的歯科サービス
・革新的な睡眠時無呼吸症候群治療
・マイクロスコープを活用した革新的な治療サービス
・健康器具の商品化
・衛生環境の充実による患者満足度の向上

まとめると、個人開業医の先生で、5年以内に法人化の予定がなく、自費診療の新規導入をしたい方向きの補助金ということになります。

現状(2024年10月現在)の補助金額、補助率、補助対象経費は次の通りです。

補助金額補助率
省力化(オーダーメイド)枠従業員数5人以下:100~750万円
6~20人:100~1,500万円
21~50人:100~3,000万円
51~99人:100~5,000万円
100人以上:100~8,000万円
■補助金額1,500万円以下
中小企業:1/2
小規模企業者・小規模事業者 再生事業者:2/3
■補助金額1,500万円超
1/3
製品・サービス高付加価値化枠◼通常類型
従業員数5人以下:100~750万円
6~20人:100~1,000万円
21人以上:100~1,250万円
◼成長分野進出類型(DX・GX)
従業員数5人以下:100~1,000万円
6~20人:100~1,500万円
21人以上:100~2,500万円
■通常類型
中小企業:1/2
小規模企業者・小規模事業者 再生事業者:2/3
新型コロナ回復加速化特例:2/3
◼成長分野進出類型(DX・GX)
2/3
グローバル枠100~3,000万円中小企業:1/2
小規模企業者・小規模事業者:2/3
※省力化枠、製品・サービス高付加価値化枠は、大幅な賃上げに取り組む事業者の補助上限額が引き上げられる

【補助対象経費】

※「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分) 」より抜粋もしくは、それを元に作成

IT導入補助金

生産性向上のためのソフトウェア、サービス等を導入する事業に対する費用を補助するための補助金です。

「IT導入補助金2024公募要項 」より抜粋

具体的には、ソフトウェア、サービス等を提供するIT事業者が登録したソフトウェアやサービスである「ITツール」の導入を行う場合が対象になります。

登録されたIT事業者の中から、導入を依頼する業者を選ぶことになります。

登録されていないIT事業者は補助の対象とならないので注意しなければいけません。

IT事業者と一緒になって申請を進めることになるので、ある程度サポートを受けながら申請できる傾向にあります。

IT導入補助金は、個人開業医の先生だけでなく、従業員数300人以下の医療法人も利用できます。

しかし、保険収入のある事業は対象とならない点は注意してください。

以下の事業者については、(ト)で規定する要件の適用外とする。
(中略)
健康保険法、国民健康保険法、労災保険、自賠責保険の対象となる医療等の社会保険医療の給付等を行う保険医療機関及び保険薬局

※「IT導入補助金2024公募要項 」より抜粋

医院・クリニックの導入事例としては、電子カルテ、レセコン、予約管理システムなど様々あります。

ITツールの導入をする際は、IT導入補助金が活用できないか確認しましょう。

現状(2024年10月現在)の補助金額、補助率、補助対象経費は次の通りです。

多くの方が利用する通常枠は1プロセス以上で5~150万円、2プロセス以上で150~450万円以上、補助率は1/2となります。

※「IT導入補助金2024公募要項 」より抜粋

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金は、その名の通り、事業を承継して、新規事業や取り組みを開始する際に受給できる補助金です。

中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金(以下、「本補助金」という。)は、中小企業者及び個人事業主(以下、中小企業者と個人事業主を総称して「中小企業者等」という。)が事業承継、事業再編及び事業統合を契機として新たな取り組みを行う事業等(以下、「本事業」という。)について、その経費の一部を補助することにより、事業承継、事業再編及び事業統合を促進し、我が国経済の活性化を図ることを目的とする。

※「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 公募要領」より抜粋

個人開業医の先生は利用できますが、医療法人は利用できません。

【対象となる中小企業者等】

(中略)

※ 資本金(出資金)又は従業員の基準を満たせば、医者(個人開業医)、農家(会社法上の会社又は有限会社である農業法人)、農家(個人農家)は中小企業者等に含むものとする。 ※ 社会福祉法人、医療法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、学校法人、農事組合法人、組合(農業協同組合、生活協同組合、中小企業等協同組合法に基づく組合等)は中小企業者等に含まないものとする。

※「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 公募要領」より抜粋

親子承継、第三者承継(M&A)の際は利用を検討したい補助金の1つです。

事業承継・引継ぎ補助金には、「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3つに分けられます。

①経営革新枠

経営革新枠は、親子承継やM&A後に経営革新のための投資を行う費用を一部補助するための補助金です。

申請する際は、自由診療に関する設備投資のみが対象となり、保険診療に関する場合は対象外になるので注意してください。

補助対象事業は、以下のいずれにも合致しないこと。

(中略)

公的医療保険及び介護保険からの診療報酬及び介護報酬、固定価格買取制度等との重複がある場合

※「中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 公募要領」より抜粋

経営革新枠の補助金の内容、補助上限額、上限額については次の通りです。

対象補助金額補助率
創業支援類型
(Ⅰ型)
事業承継を機に創業する場合100~600万円または800万円
※上乗せ額(廃業費)+150万円以内
1/2または2/3
経営者交代類型
(Ⅱ型)
親族や従業員間で承継する場合
M&A類型
(Ⅲ型)
M&Aの場合

②専門家活用枠

専門家活用枠は、第三者承継(M&A)にかかる専門家や仲介業者へ支払う費用が対象となる補助金です。

そのため、親子承継は対象外となります。

専門家活用枠の補助金の内容、補助上限額、上限額については次の通りです。

対象補助金額補助率
買い手支援類型
(Ⅰ型)
譲り受ける側50~600万円
※上乗せ額(廃業費)+150万円以内
2/3
売り手支援類型
(Ⅱ型)
譲り渡す側1/2または2/3

③廃業・再チャレンジ枠

M&Aによって事業を譲り渡すことができなかった場合、新たなチャレンジをするために、既存事業を廃業する場合の費用を一部補助する補助金です。

補助上限額、上限額については次の通りです。 ただし、経営革新枠、専門家活用枠と併用申請する場合は、各事業における事業費の補助率に従うことになります。

補助金額補助率
50万円
※上乗せ額(廃業費)+150万円以内
2/3

医療施設等施設設備費補助金

医療施設等施設設備費補助金とは、へき地診療所の環境充実などを目的に受給する補助金です。

かなり対象が絞られる補助金ですが、該当しそうな場合は確認してください。

補助下限額(1か所あたり)補助率
へき地診療所100万円1/2
過疎地域等特定診療所250万円
(改修時100万円)
1/2
へき地保健指導所166万円
(沖縄県250万円)
1/3
(沖縄県1/2)
研修医のための研修施設100万円1/2
臨床研修病院100万円1/2
へき地医療拠点病院250万円1/2
医師臨床研修病院研修医環境整備1/3
離島等患者宿泊施設 施設整備事業1/3
産科医療機関施設整備事業66.6万円1/3
死亡時画像診断システム施設整備1/2

他にも都道府県や市区町村による補助金も探してみる

経済産業省や中小企業庁が募集する補助金以外にも、都道府県や市区町村で募集している補助金もあります。

特に市区町村で募集されている補助金は、一般にはあまり知られていない場合もあります。

選ばれやすいものや実質的にはほぼすべての応募者に支給されているものも、自治体によっては存在します。

例えば、独自の創業に対する補助金があったり、ホームページ作成に補助が出たり、賃料の一部を補助してくれたりする都道府県や市区町村があります。

ほとんどが募集時にはホームページに掲載されます。

ただ、時期が限られており、募集時期以外の期間には、ホームページを見るだけではなかなかわからないものもあります。 気になる場合には、担当部署に問い合わせてみたり、専門家に聞いてみたりするのが一つの方法でしょう。

補助金申請時の注意点

補助金は、残念ながら使いたいと思うすべての事業者がもらえるものではありません。

新しい取り組みを申請した上で、採択されてはじめて使えるものになります。

もちろん、不採択ということもありますので、申請書をしっかり記述して提出することも必要です。

それ以外にも要件の確認などを考えると、専門家に任せたほうがいいという場合もあるでしょう。

自分でも書くことはできるけれども、採択の確率を上げるために専門家に支援を依頼される先生もいらっしゃいます。

補助金支援の専門家は、資格としては「中小企業診断士」が多いですが、資格に関係なく支援している専門家もいます。

まわりに知り合いが居ない場合には、国から「経営革新等支援機関」という認定を受けている民間コンサルティング会社や専門家を検索してみる方法もあります。

また、補助金それぞれで作られた意図も異なりますので、対象となる経費が異なります。

必要な資金の用途に合った補助金なのかどうかを、まずは確認してみて下さい。

【まとめ】融資だけでなく補助金を活用する

医院・クリニックが利用できる補助金について紹介しました。

一般企業に比べて、医院・クリニックが利用できる補助金は限定的で、医療法人が利用できなかったり、保険診療では対象外だったりする補助金もあります。

ただ、融資と違って返済不要なので、何か設備を導入する際などは十分検討の余地があります。

特にものづくり補助金やIT導入補助金は検討の余地があるでしょう。

詳しいことは、最寄りの中小企業診断士などの専門家に確認するようにしてください。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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