クリニックの経営に大事なSWOT分析の考え方
クリニックの運営において気になることの1つは、もちろん来院数。
なかでも気になるのは、
他の競合クリニックと比べて患者さんに来てもらえるか?
今後も来院してもらえるかどうか?
他のクリニックと比べて、ご自身のクリニックが選ばれる理由は何なのか?
ということでないでしょうか?
もし他のクリニックより優位な「強み」が患者さんの選ぶ理由になっていれば、多くの患者さんに来てもらえるでしょう。
一方、他のクリニックよりも劣る「弱み」があるのであれば、それを放っておいてはいけません。
また他のクリニックとは関係なく、周りの環境も経営に影響します。
これらを分析しておくことは、クリニックの経営を成功に導く大きなポイントの1つです。
特に新規開業される前には、ぜひ考えておきましょう。
そこで今回は、ご自身のクリニックについての分析方法の1つであるSWOT分析とその活かし方について解説します。
SWOT分析とは?
クリニック経営を行っていく上で、2つの側面を考えることが必要となります。
1つは、競合となるクリニックや法律の改正、地域の動向といったご自身のクリニックを取り巻く外部環境です。
そしてもう1つが、得意としている治療や持っている設備、院長先生自身の得意なことなど、ご自身のクリニックの内部資源です。
この2つをプラス面とマイナス面に分けて考え、全部で4つの項目に分けるものが、上図に示すSWOT分析と呼ばれる表形式で記述する方法です。
SWOT分析の名称は、4つに分けられるそれぞれの項目の頭文字から付けられたものです。
具体的には、SはStrength(強み)、WはWeakness(弱み)、OはOpportunity(機会)、TはThreat(脅威)の頭文字から付けられたものです。
SWOT分析の目的
SWOT分析の最大の目的は、ご自身のクリニックの強みと弱みを認識して、何を強調し補完していくべきかを考えること。
そして、周りのコントロールできない環境を分析し、環境変化への将来的な対策も打てるようにすることです。
SWOT分析はご自身のクリニックを客観的に認識するとともに、今後どのように経営していくか、その基盤となるものなのです。
SWOT分析では、この目的を考えて作成することが重要です。
この目的を忘れて書いてしまっては、経営体質の根本は変わりません。
クリニック経営を強化するSWOT分析の書き方
SWOT分析の書き方は、4つに分けられた項目に、文章を箇条書きで書いていく方法がとられます。
ただ、まずは大枠から整理する必要があるので、まずは外部環境と内部資源に分けて書いてみてください。
外部環境と内部資源を書き出したら、「強み(S)」「弱み(W)」「機会(O)」「脅威(T)」の4つに分類していきます。
それでは、SWOT分析の書き方について、手順に従って具体的にお伝えしていきます。
【手順①】外部環境を書き出す
外部環境は、クリニックを取り巻くすべての環境で、次のようなものがあります。
- ・マクロ(経済・社会・国際的な医療状況など)
- ・競合関係(同業・異業種で比較に値するもの、将来的な競合関係など)
- ・業界動向(業界、関連業界、法律など)
- ・患者さん(近隣の住民・勤労者といった来院する可能性がある人、既存の患者さんなど)
ざっくり言うと、時勢の流れや、身近な競合クリニックの動向を分析するということです。
以上をもとに、まずは自分のクリニックに影響すると考えられるものを、とにかく書いていくことをおすすめします。
【手順②】内部資源を書き出す
内部資源は、自身のクリニック内のことで、患者さんに直接影響があることなどを書きます。
内部資源の重要な要素は、よく人・物・金・情報と言われたりしますが、例として上げると、次のようなものです。
- ・人(院長先生ご自身、スタッフ、外注先、外部協力者、推薦者など)
- ・物(物件、内装、医療機器、付加的なサービスなど)
- ・金(売上、各種経費、ローンの返済、経常利益、内部留保など)
- ・情報(治療方法、治療技術、集患ノウハウなど)
以上をもとに、ご自身のクリニックについて思いつくところをたくさん書いてみましょう。
【手順③】「強み(S)」「弱み(W)」「機会(O)」「脅威(T)」に分類する
次に、外部環境と内部資源について書き出したことを、「強み(S)」「弱み(W)」「機会(O)」「脅威(T)」の4つに分けて対策や方法を考えていきます。
- (1)強み:他クリニックとの差別化や、患者さんに来院して頂くためのアピールポイント
- (2)弱み:患者さんが来院しない理由にならないように、改善していく事柄
- (3)機会:外部環境をもとにどんなチャンスがあるのかを分析し、新たな患者さんを取り込む広告宣伝や設備投資を考えるなどの新たな取組み
- (4)脅威:脅威から機会に変えたり、悪影響を最小限に抑えたりするための取組み。既存の患者さんに再来訪してもらう工夫を行ったり、長期的な設備投資を考えたりする上での参考にする
なお、記述しているうちに「機会」と「脅威」、「強み」と「弱み」の線引きが難しいところが出てくるかもしれません。
曖昧なところは、とりあえずどちらかに入れておいて、あとで判断することで構いません。
SWOT分析で重要な2つのポイント
ここまで、SWOT分析の書き方の一連の流れについて具体的に説明しました。
次に、SWOT分析で経営を強化するために欠かせない重要なポイントについてお伝えしていきます。
【ポイント①】とにかくたくさん書き出すことが大事
外部環境にしても内部資源を書き出すにしても、SWOT分析においては、まずはたくさん書いてみることが大事です。
書いていくだけではキリがないように思えるかもしれませんが、たくさん書きだすことで、改めてご自身のクリニックへの認識が深まります。
量を書いていくことで、今まで考えられていなかったこと、もしかすると経営で重要な部分も再度検討できる場合もあります。
あくまでご自身のクリニックのことを客観的に、そして多面的に理解することです。
もし可能であれば、クリニックのスタッフや外部の専門家など関係者を巻き込んで、会議のような形で列挙しても良いでしょう。
短時間で数多くのことが浮かび、チームとして取り組むことで対策を立てやすくなります。
もちろん、すべてが正しいわけではありませんが、最終的に絞れば良いので、まずはたくさん書いてみることを大事にしてください。
【ポイント②】SWOT分析で一番大事なのは「強み(S)」
「強み(S)」「弱み(W)」「機会(O)」「脅威(T)」の4つのどれもが大事ではあります。
ただ、患者さんに選ばれるクリニックを考えた際に、最も大事になるのは「強み」になるでしょう。
なぜなら、患者さんに選ばれるのも、印象に残るのも、口コミが発生するのも、「強み」があってこそだからです。
ドラッカー教授も指摘する「強み(S)」の重要性
ベストセラー作家であり経営学者であったP・F・ドラッカー教授も「強み」について、多くの記述をされています。
「成果をあげるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない」
引用元:(『ドラッカー名著集1 経営者の条件』, ダイヤモンド社)
このドラッカー教授の文章では「人」について書かれていますが、クリニックの一番の強みとなるのは、やはり院長先生ご自身です。
ですから、ご自身の強みも考えることが必要となります。
ところが、自分の強みを客観的に自分で知るのは難しいことです。先のドラッカー教授も、こう書いています。
「誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思っている。だが、たいていは間違っている」
引用元:(『プロフェッショナルの条件』, ダイヤモンド社)
強み(S)は自分で考えるより他人に聞く
強みを知るうえで大事なことは他の人に聞くこと。一番良いのは既にいらっしゃる患者さんに聞いたり、アンケートを取ったりすることです。
患者さんのアンケートは、悪い点も改善の際の参考になりますが、良い点は強みと考えることもできるからです。
ただ、患者さんはなかなか本音を話してくれないかもしれません。
その場合は、他の先生やスタッフ、患者さんのご家族などにも機会があれば聞いてみても良いでしょう。
まとめ~SWOT分析の書き方と強みの重要性~
以上、クリニックの経営に大事なSWOT分析の作成と強みの重要性について解説しました。
SWOT分析は、内部資源と外部環境をそれぞれプラス面、マイナス面に分けて、4つの項目で表現したものです。
それぞれ、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)と呼ばれ、英語での頭文字をとってSWOT分析と呼ばれているものでした。
SWOT分析は、とにかくたくさん書いてみることが大事で、周囲の方々と一緒に考えてみるなど、客観的に考える工夫もできるでしょう。
SWOT分析の中では「強み」が最も大事になります。
特に院長先生ご自身の強みを患者さんやスタッフなどからヒアリングすることも有効です。
医院・クリニックを将来に渡って、よりよく経営していくためにもSWOT分析を有効に活用してみてください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。