はじめに

炎上とは、インターネット上において、不祥事の発覚や失言・詭弁などと判断されたことをきっかけに、非難・批判が殺到して、収拾が付かなくなっている事態や状況を指す。

SNSを含むソーシャルメディアが普及したことにより、さまざま情報発信やコミュニケーションツールとして便利になった反面、度々ニュースでも騒がれている「ネット炎上」。

英語ではflamingと言い、まさに「炎」「燃え上がる」といった意味で呼ばれています。

ネット炎上は、芸能界、スポーツ界、政界などの有名人に限った話ではありません。

現代のネット社会で生きている以上は、そこに存在する全ての人や物、あるいは企業などの法人、団体から個人に至るまで、あらゆるものがネット炎上の可能性に晒されているのです。

それゆえ、いつ何時、突然わが身に降りかかるかも知れません。

ネット炎上は、もはや他人事ではないのです。

もちろん、医院・クリニックにおいても、それは例外ではありません。

多くのさまざまな人と関わる医療分野において、ネット炎上は特に気を付けなければならない重要項目の1つです。

状況によっては、ネット炎上が原因で悪評が立ち、廃院の危機に陥る可能性もあり得るのです。

そこで今回は、医院・クリニックが気を付けておくべき「ネット炎上」の5つのポイントについてお伝えしていきます。

ネット炎上のメカニズム

まずは、ネット炎上が起こるメカニズムについてお伝えします。

ネット炎上は、以下の3つのフェーズで構成されています。

①火種フェーズ

まずは、炎上の発端となる段階で、個人などの少数の人が、ネットから見つけ出した情報を身近なSNSで発信するところから始まります。

特に、Twitterが問題の温床となるケースが多いと言われています。

②拡散フェーズ

上記①の情報が、更に他のTwitterや2ちゃんねる等の匿名掲示板に、どんどん拡散されていきます。

しかも、拡散が進むにつれて、内容や表現が勝手に誇張され、過激になっていくことも少なくありません。

③炎上フェーズ

更に、まとめサイトやニュースサイトにも広く展開され、ますます事態が大きくなっていきます。

最悪の場合、Yahoo!など大手ニュースサイトや、テレビの報道番組でも取り上げられ、炎上が世界規模に及んでしまうことも。

そうなると、もはや鎮火まで相当な時間を要するだけでなく、世間からの信頼は完全に失墜し、結果的に廃業に陥ってしまう事態にもなりかねません。

ネット炎上の原因

ネット炎上の原因としては、具体的な内容はさまざまありますが、大きく2つの種類に分類されます。

1つ目は、情報を発信する(医院・クリニック)側の落ち度や不注意によるものです。

具体的には、以下の①~③のケースがあります。

①事件や事故、犯罪行為、不道徳行為の公開

医師の診察ミスやスタッフ間の連携ミスといった医療過誤や医療事故、または経営や運営上の不祥事等がこれに当たります。

また、ニュースでも度々報じられているような、いわゆる「バカッター投稿」や「バカスタグラム投稿」といったものも、医療業界内において実際に存在しているのです。

最近では、「手術中にピースサインで記念撮影」した写真をSNSに投稿して、炎上した事例が話題となりました。

これらの問題は、単にSNSで拡散されるだけでなく、メディアに取り上げられることによって、更に大炎上に発展してしまう可能性もあるので、特に注意が必要です。

インターネットを正しく使いこなすための知識や能力のことを指す、「ネットリテラシー」という言葉があります。

インターネットの常識を持ち、ネット上で得た情報を正しく理解・取捨選択し、適切な利用と対応ができる能力が、ネット社会において今後より一層求められるのではないでしょうか。

②情報漏洩やプライバシーの公開

企業による情報漏洩が問題となっています。

原因としては、海賊版サイトからのウィルス感染や、ファイル共有ソフトからの漏洩のみならず、電子メールの誤送信やSNSの操作ミスからも起こり得ると言われています。

インターネット上で一度漏れてしまった情報は、瞬く間に拡散されるので、回収はほぼ不可能に近いでしょう。

企業としての信用問題のみならず、場合によっては、損害賠償訴訟に発展する可能性も生じます。

したがって、企業側としては、パソコン及びインターネットの利用に関してきちんとルールを定め、全ての関係者に周知徹底させる必要があるのです。

万が一、何らかの原因で情報漏洩が起きてしまった場合は、被害を最小限に留めるためにも、とにかく迅速で適切な対応が求められます。

③他人を不愉快にさせる発言

政治、宗教、ジェンダーなど、特に繊細なテーマに対して過激な意見を発信したことに対し、それが炎上に発展する場合があります。

表現の仕方しだいでは、人によってさまざまな捉え方がされるので、不用意な書き込みは炎上を助長し、非常に危険です。

SNSの中には匿名で書き込みが出来るものが数多く存在するのを良いことに、発言がどんどん激化してしまう傾向にあります。

SNSに書き込む際には、ついつい安易な投稿をしてしまわないよう、また、投稿したことに対する影響力を冷静に考えるなど、くれぐれも注意が必要です。

原因の2つ目は、情報発信者(医院・クリニック)側の落ち度や不注意とは関係なく、誤解や悪意によって誹謗中傷されるものです。

具体的には、例えばライバル店がターゲットを陥れるために、事実と異なる不利益な内容の投稿をするケースです。

また、ターゲットのプライバシーに関わる誹謗中傷を載せたりして、意図的に炎上を煽る悪質なケースもあります。

他にも、本人が知らないところで噂話から端を発して、それがネットで炎上するまでに発展してしまうケースもあるのです。

本人の耳に入るまで時間がかかるので、事態に気づいた時には、もはや手遅れになっている場合が多いでしょう。

未然に防ぐことが難しいので、被害に会った場合の適切な対応策をきちんと備えておく必要があります。

ネット炎上した場合の対処法は?

では、実際にネット炎上が起こってしまった場合の対処法についてお伝えします。

起こってしまった事実に関しては、今更変えようがありません。

ここから、「どう対応するか」が重要になってきます。

ここでの対応の仕方を誤ってしまうと、かえって炎上が大きくなってしまうので、細心の注意が必要です。

まず大事なのは、迅速に情報を集めて現状をきちんと把握すること。

  1. いつ頃から、
  2. どの媒体を通じて、
  3. どんな情報が流れていて、
  4. どんな反響があるのか。

状況が把握できなければ、適切な対応は出来ませんので、まずはしっかりと情報を収集して、現状を把握して下さい。

そして、情報発信者に落ち度や不注意がある場合は、「速やかに謝罪をしましょう。」

ここで安易に投稿を削除・訂正してしまっては、「証拠隠滅」と捉えられる恐れもあり、余計に周囲の反感を買うなど、かえってヒートアップさせてしまいます。

謝罪と同時に、今後の予防策を説明し、くれぐれも企業側としての誠意が伝わるように対応して下さい。

一方で、事実無根の誹謗中傷の場合です。

状況を見守り、徐々に沈静化しているのであれば、何もせずにただただ収束を待ちましょう。

しかし、一向に収束する気配がないどころか、更に誹謗中傷が過激になっている場合は、「冷静に反論」することが求められます。

その際には、事実無根の証拠や根拠を示し、丁寧に説明する必要があります。

それでも収まらない場合は、会社を守る最終手段として、いよいよ法的対応を検討して下さい。

悪質な誹謗中傷に対する法的対応について

悪質な誹謗中傷に対しては、法的な手段を取ることが効果的な場合があります。

特に、誹謗中傷の中に具体的な内容が含まれている場合や、脅迫的な文言が含まれている場合には、法的手段が効果的となる可能性が高まるでしょう。

まずは、プロバイダ宛てに内容証明郵便を送り、侵害情報の削除請求を行います。

プロバイダに対しては、プロバイダ責任法に基づく発信者開示情報の請求、名誉毀損罪、信用毀損罪、業務妨害罪として刑事告訴する方法があります。

また、裁判所を用いた差止請求、損害賠償請求、侵害情報削除の仮処分申し立ても行えます。

なお、SNS上での誹謗中傷は、ほとんどの場合が匿名で行われていますので、法的対応の際は、発信者の特定方法も問題になってきます。

プロバイダが、発信者情報の開示に応じるかどうかは、定かではありません。

プロバイダに保存されている情報(IPアドレスやタイムスタンプといったアクセスログ)そのものが削除されてしまわないよう、早めに対策を打っておくことが重要です。

ネット炎上対策の総合サービス企業

ところで、ネット炎上対策のための総合サービスや、ソーシャルメディアの運用代行を行っている企業が存在しているのをご存じでしょうか?

そこでは、例えば以下のようなサービスを実施しています。

  1. 24時間365日、炎上対策のプロフェッショナルが、自社に関するネット上の投稿を常に監視し、緊急事態に備えている。
  2. 炎上発生時のシミュレーションを行い、炎上対応力の把握と、体制強化に向けたアドバイスやコンサルティングを行う。
  3. 従業員向けに、社内PCやSNS利用に関しての教育と意識付けを徹底指導。
  4. 企業が発信しているSNSを含むソーシャルメディアの運用代行業務。

このように、専門知識と経験を備えたプロ集団による「炎上させない組織作り」を目指した総合的なサービスを提供しているのです。

実際に大手企業で導入しているところも数多くありますので、こうした炎上対策のプロフェッショナルに依頼する方法で危機管理を行うのも、一つの手段として有効ではないでしょうか。

まとめ

今回は、医院・クリニックのネット炎上についてお伝えしました。

  1. まずは、ネット炎上のメカニズムを知ろう。
  2. ネット炎上の原因は大きく2つに分けられる。
  3. ネット炎上した場合の対処法は?
  4. 悪質な誹謗中傷に対する法的対応について。
  5. ネット炎上対策の総合サービス企業

SNSを含むソーシャルメディアによる情報発信は、とても便利で手軽に利用でき、上手く活用することで集客に結びつけることも可能です。

その一方で、誤った使い方によって、院の存続をも脅かす危険なものにもなり得るのも事実です。

ネット炎上は、決して他人事ではありません。

いざという時のために、事前にきちんと対策をして備えておかなければならない、重要課題の一つと言えるでしょう。

ぜひ、今回お伝えした内容をご活用していただき、貴院の発展にお役立ちいただければと思います。

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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