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はじめに
医院・クリニックのスタッフ教育というと、何も知識や技術、スキルのことだけではありません。
例えば看護師の場合は、治療技術の向上だけでなく、患者さんに対する接遇力や、クリニック全体のチームワークも教育で培われます。
患者満足度を向上させるためには、技術的なものはもちろん、コミュニケーションや柔軟な対応力も求められます。
そこで今回は、医院・クリニックのスタッフ教育で重要なポイントについてお伝えしていきます。
ポイント1:「指摘」が「叱責」と受け取られないためには?
院長先生やベテランスタッフであれば、「これはだめだよ。こうするんだよ」とスタッフに「指摘」する場面が出てきます。
しかし、指導した本人が「指摘」したつもりが、「叱責」と受け取られたりすることは少なくありません。
もちろん、「叱責」と受け取られれば、スタッフのモチベーションに関わってきますし、積み重なればパワハラと認識されるかもしれません。
なぜ、「叱責」と受け取られてしまうのでしょうか?
「これはだめだよ。こうするんだよ」という教え方ばかりでは、スタッフに「やらされ感」を与えてしまうからです。
細かいことを指摘して、改善や修正を促すほど、自主的に動くモチベーションを下げてしまい、やがてスタッフは嫌々働いてしまうのです。
でも、改善した方が良いことを指摘しなければ、今度はスタッフの成長に繋がりません。では、どうすれば良いでしょうか?
この場合、「スタッフに考えさせる」ことを意識するのです。
スポーツの話を例に挙げると、箱根駅伝で2連覇を達成した青山学院大学陸上部の原晋監督の選手への指導方針がそうでした。
選手が「右足が痛いが、どうしたら良いですか?」と聞かれたら「なぜ痛いのか、自分で考えてみなさい」と問い返すそうです。
選手は自分で考え、答えを導き、それに対して原監督は意見を伝えるようにしていたそうです。
これはクリニックのスタッフ教育でも大きなヒントです。
敢えて答えを最初に言わず、考えさせることで「やらされている感」を排除するのです。
技術的なスキルは、ある程度指導側が教えないといけないこともあるでしょう。
しかし、自己分析の習慣を身に付けさせることで、スタッフは自発的にモチベーションを掘り起こすことができるのです。
また、考える力を養うことで、早い段階でスキルが熟成し、柔軟な対応力が身につくようになるでしょう。
ポイント2:スタッフの成長に繋がる褒め方
スタッフに指摘して改善を求める場合もそうですが、一方で褒め方にも注意が必要です。
単に「ありがとう」「助かったよ」とスタッフに声がけするのも、もちろん大切ですが、このときにも、「指摘」を加えた褒め方をするのです。
例えば、「今日の◯◯な対応は、とても良かったよ」という褒め方です。
ただ「ありがとう」と言われ続けるだけでは、やがてスタッフは社交辞令としか受け取らなくなるでしょう。
たいしてモチベーションも上がらないでしょう。
しかし、褒められた理由を言われれば、スタッフの承認欲求を満たすことができるため、モチベーションを上げることが可能なのです。
また、自分の得意なところ、長所を自覚するようになるので、ますます自信を持って仕事に励むことができるでしょう。
ポイント3:スタッフを否定しない考え方
どうすればスタッフの成長を促すことができるか、その基本的な考え方をクリニック全体で浸透させると、スタッフの成長速度は激増するでしょう。
それは「否定をしない考え方」です。
人はそれぞれ色々な考え方や価値観を持っています。
育ってきた環境や影響を受けてきた人達は、各々違います。
日本人と外国人で価値観が大きく違うのは明白ですが、同じ日本人同士でも価値観は違うのです。
ですから、スタッフの言動や行動について、否定的な感情になっても、次のように考えるようにする習慣は欠かせません。
「なぜ、あのスタッフはこのような発言をしたのか? 行動したのか?」
感情はコントロールすることはできませんが、思考や行動はコントロールできます。
否定的な感情が生まれても、否定的な思考や行動は抑えることができます。
とはいえ、否定的な感情を抑えて、態度に出さないのは、習慣づけないとなかなか難しいかもしれません。
しかし、相手を否定することなく自分の伝えたいことを伝えていくことができるようになれば、スタッフとの人間関係や成長速度は劇的に変わるでしょう。
ポイント4:余計な先入観を持たない
上記の「否定しない考え方」に近いところがありますが、スタッフに対して「余計な先入観を持たない」ことも大切です。
もちろん、スタッフ採用時には直感は大切です。
これは「自分のクリニックに合っているか、合っていないか」を判断するうえでは、とても大切な視点です。
しかし、スタッフの言動や行動を見て、頭ごなしに「あいつはだめな奴だ」とレッテルを貼ってしまうと、スタッフの成長を止めてしまいます。
スタッフの自信、自己肯定感を下げるようなことに繋がってしまうためです。
例えば、スタッフがあまりに技術的に低レベルな質問をしてきたとします。
その場合、多くの院長先生は「自分から調べたりしない人だ」とレッテルをばりって貼ってしまいがちです。
たしかにそうかもしれませんが、もしかしたら、不安だから敢えて聞いている可能性がありますし、いろんな方法を探っている可能性もあります。
「この人は〇〇だ」と決めつけることは避け、質問が多いようなら「なぜそう思ったのか」「あなた自身はどう思うか」と問いかけるなどして、「まず自発的に考えてもらう」という視点で接するようにしましょう。
そのようにしていけば、スタッフを依存させず、自発的に動くにはどうしたら良いか、という視点で接することができるでしょう。
レッテルを貼らないのは最初は難しいかもしれませんが、これができると、院長先生は負担なくスタッフ教育ができるようになるでしょう。
スタッフは、ストレスを感じることなく、成長していくことができます。
ポイント5:院長先生とスタッフの価値観の決定的な違い
先に「価値観は人それぞれ違う」ということを書きましたが、もう少し詳しく延べます。
ある治療院の経営者が、このようなことを言っていました。
「院長は自院の利益主義、スタッフは自分の幸せ主義」
これは開業医の先生とスタッフでも、同じことが言えるのではないでしょうか?
もちろん、これは医院・クリニックに限ったことではなく、あらゆる会社でも同じことです。
これは各々の立場上、絶対に変えることのできないことであり、優劣をつけるわけにはいきません。
価値観の違いが起こることは絶対なのです。
さらに、クリニックの大半を占める女性の場合、妊娠・出産・育児といった事情が必ず出てきます。子育て中の女性の価値観は、自分だけでなく子どもにも向きます。
このような価値観の違いを認識した上で、院長先生はスタッフと接すると、よりスタッフの立場を理解できるようになるでしょう。
ポイント6:「自分が経験したこと」を伝える
先に、「スタッフに考えさせる」ようにして、自発的なモチベーションを促す話をしました。
しかし、あまり「自分で考えろ」と突き放してばかりでは、返ってスタッフは困ってしまうでしょう。
おそらく、「この人は全然教えてくれない、何もしてくれない」と思われて、かえって不信感を抱くでしょう。
これはなぜかというと、敢えて「自分で考えろ」と突き放すのは、指導側に明確な答えや方向性を準備できる状況で、初めて功を奏するためです。
スタッフが考えてみたことに対して、経験に裏打ちされた明確な答えがなければ、スタッフは到底納得できません。
ポイントは、その答えが理論や机上の知識だけでなく、経験に裏打ちされているということです。
経験がもとになっていないと、明確で柔軟な回答ができなくなります。
ただ、院長先生が看護師や医療事務の仕事を経験するわけにはいきません。
そこで、ベテランのスタッフの力を借りるのです。
別記事で、クリニックのシニア採用や継続雇用の話をしましたが、定年間際のスタッフに教育担当になってもらうのも一つの手でしょう。
【関連記事】【看護師等の65歳以上の求人】クリニックのシニア採用の好事例と助成金活用
【関連記事】医院・クリニックの定年廃止や延長、継続雇用のメリットとデメリット
ポイント7:「できない」ことよりも「できる」ことにフォーカスを
スタッフ教育の理想は、各々のスタッフが自主的に動き出すようになることです。
クリニックによっては、若手のスタッフの割合が多い場合と、ベテランスタッフの割合が多い場合の両方あるでしょう。
これは一長一短があり、ベテランスタッフの割合が多い場合、技術的に熟練したスタッフが多くなる反面、保守的になりがちです。
保守的、つまり「できることを増やすよりも、できないことをしない」という前提だと、安定感はあるものの、積極性や自主性が育まれません。
それでは、マンネリが生じてしまい、スタッフ全体のモチベーションが低下してしまいます。
そこで、積極的に新たなことに挑戦してみる、つまり「できること」にフォーカスしていくことも必要です。
これは新しい治療の導入だけでなく、患者さんに対する接遇、集患対策、スタッフ間のコミュニケーションにも同じことが言えます。
1つでも良いので、新しいことに挑戦していくことで、クリニック全体の活気を保つことができるでしょう。
【まとめ】自主性を引き出すことが、スタッフの成長に繋がる
以上、成長に繋がるスタッフ教育の7つのポイントについてお伝えしました。
この7つのポイントで共通しているのは、スタッフの自主性を引き出すことができることです。
各々のスタッフが積極的に、自ら進んで動き出すことが、各々の成長に繋がります。
おそらく、どれか1つでも取り入れれば、スタッフのモチベーションは格段と高まり、仕事をするのが楽しくなるでしょう。
ぜひ、スタッフがイキイキと働くことができて、患者満足度の高いクリニックを目指してください。
ご相談・お問い合わせ

- 亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。
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