医療法人は分院展開が可能になります。

診療圏や売上の拡大、もしくは税金対策を踏まえた親族開業のため、クリニックを分院展開しようと考えている院長先生は多いのではないでしょうか?

分院展開の行政手続きは、医療法人の設立同様に多くの手続きがあるので、早めの計画・行動が必要です。

また、分院展開には、メリットだけでなく様々なデメリットがあることも忘れてはいけません。

実際に、分院展開は本院の経営とは違う様々な問題が発生しやすく、失敗してしまうケースもあります。

そこで、クリニックの複数経営をしたいと考えている院長先生に向けて、医療法人の分院展開の重要ポイントについてお伝えします。

分院展開3つのメリット

まずは、分院展開のメリットについてお伝えします。

経営が軌道に乗ってきた医療法人であれば、分院展開を考える余地は十分あります。

診療圏が拡大して売上が増加する

言うまでもないですが、分院展開して経営がうまくいけば診療圏が拡大して売上が増加します。

集患できる場所が複数できるため、多くの売上・利益を見込むことができます。

スケールメリットが得られる

分院を開設することで、スケールメリットを得ることができます。

医薬品や備品などの仕入れをまとめて一括購入できるので、仕入れ値を安く抑えることができます。

また、単体の求人広告で、本院と分院両方へ求人できるので、広告費用を全体的に抑えることもできます。

柔軟な人材配置ができる

本院だけの場合、折り合いが悪いスタッフがいても、片方を異動させることができません。

そのため、職場の雰囲気が悪くなったり、退職トラブルに巻き込まれたりすることがあります。

しかし、分院を開設しておけば、片方を異動させることができるので、円満な雰囲気を保ち、離職率も低減しやすくなります。

分院展開3つのデメリット

次に、分院展開のデメリットについてお伝えします。

原則、本院の院長が分院の院長を兼ねることはできません。

【医療法第12条第2項】
病院、診療所又は助産所を管理する医師、歯科医師又は助産師は、次の各号のいずれかに該当するものとしてその病院、診療所又は助産所の所在地の都道府県知事の許可を受けた場合を除くほか、他の病院、診療所又は助産所を管理しない者でなければならない。

そのため、分院長を雇用しないといけなくなります。

分院長を雇用しても、トラブルがあれば分院展開の失敗に繋がるので注意しましょう。

分院長の採用難易度が高い

分院長は、設備資金の借入金や、テナントの賃料、人件費など、様々な経営上のコストで責任を負う立場のため採用難易度が高く、なかなか決まりません。

分院長に適した能力・スキルが必要なことはもちろん、自身の経営・診療方針、診療スタイル、性格や価値観が合致している必要があります。

医療法人の基本方針にそぐわない分院長の存在は、スタッフ間のトラブルが増えたり、患者離れが起きたりする原因につながります。

人選ミスそのものが、分院経営の致命傷になることがあるので、慎重に採用を進めて分院展開を図っていく必要があります。

分院長が退職して代わりがいなければ閉院しなければいけない

本院の分院長を雇用しても、診療方針が合わないなど仲違いして退職されてしまうケースがあります。

退職後、次の分院長が見つからなければ分院経営ができなくなるので、閉院せざるを得ないことになります。

分院長不在を理由に閉院することになれば、分院に投じた資金が回収不能となってしまいます。

経営悪化リスクがある

一般企業の店舗展開でも同じことが言えますが、本院の経営がうまくいっても、分院がうまくいかず、経営が悪化してしまうことがあります。

もし、分院の経営が赤字になっているようであれば、いくら本院で利益が残っていても補填しなければいけません。

本院の院長先生の目が行き届かないばかりに、分院の経営がずさんになってしまい、結果として患者離れが起きてしまったケースも存在します。

分院展開3つの重要ポイント

分院展開のメリット・デメリットを踏まえて、理想的な分院開設の重要ポイントをお伝えします。

分院展開は、医院開業と同様に物件選びや内装・医療機器、資金調達はもちろん、分院長選びがとても重要なポイントとなります。

そのため、後述するように分院展開の理由を明確にして、どのような分院を開設するか考えることが大切です。

※本記事は医療法人化していることを前提としています。個人クリニックの院長先生は、分院展開前に医療法人に変更する必要があります。

【関連記事】医療法人化するなら知っておきたい設立の手続きのスケジュールと検討事項

物件や分院長選びの前に分院展開の理由を明確にする

分院展開の理由は、事業拡大や税金対策を踏まえた親族開業などが大きな理由となっていることが多いです。

しかし、分院展開するのならば、経営理念や診療方針を振り返り、分院展開の理由を明確にしましょう。

分院を開設する場合は、次のヒト・モノ・カネが必要になります。

  1. 分院の開設にかかわる費用(物件、内外装、人件費など)
  2. 分院の立地や物件
  3. 内装や医療機器の選定
  4. 分院長として適切な医師
  5. スタッフの採用や教育方針

分院展開の目的が明確でなければ、上記について検討しようがありません。

もしかしたら、新しく医師やスタッフを採用したり,現在のクリニックを改装したりすれば、分院展開まで必要ないことがあります。

近隣に分院を開設して機能分化しようという医療法人も多いですが、今のクリニック内に新たな部門を作れば良い場合もあります。

つまり、目的次第では、クリニックを複数作る必要がないこともあるのです。

様々な選択肢があるなかで、分院展開の意義を見出だせるのであれば、本格的に検討してもいいでしょう。

分院展開の理由が明確になったら、どのような分院を開設するかを考えましょう。

以下のように、立地など集患戦略に大きく関わってきます。

分院のタイプ立地・集患戦略
本院と同じタイプのクリニック遠方の立地で、診療圏を拡大する
機能分化外来診療を分院で行い、手術を本院で行うなど。本院と近い方がいい
違う診療科目本院が産婦人科で分院が小児科など。本院と近い方がいい

分院長の適任者を見つかった頃がベストタイミング

分院長不在では、分院展開はできませんから、分院解説の行政手続きに入る前に、分院長の適任者が必要です。

分院長に適任の医師が見つかった頃が、分院展開のベストタイミングと言えるでしょう。

もし、分院長として適任者が見つかっていないようであれば、分院展開を急ぐべきではありません。

適任とは言えない医師を分院長にして、分院展開して経営を悪化させては本末転倒です。

また、医療法人の方針と合わずに退職されてしまえば、閉院しなければいけないことになります。

何より重要なことは、理念や診療方針を共有することです。

たとえご家族や友人であっても、診療方針に対する考え方が一緒とは限りません。

他のスタッフ同様、もしくはそれ以上に分院長の定着は大きな課題になってきます。

実際に「分院長がすぐ辞めてしまう」という話は多く聞きます。

また、分院長は分院の管理者であり、医療法人の理事でもあるわけですから、役員の1人という意識は欠かせません(医療法第46条の5第6項)。

【医療法第46条の5第6項】
医療法人は、その開設する全ての病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(指定管理者として管理する病院等を含む。)の管理者を理事に加えなければならない。
ただし、医療法人が病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を二以上開設する場合において、都道府県知事の認可を受けたときは、管理者(指定管理者として管理する病院等の管理者を除く。)の一部を理事に加えないことができる。

分院長が高いモチベーションで分院を運営していくために、必ず経営理念と診療方針は共有するようにしましょう。

また、医療法人の役員であるとはいえ、医師としての側面の方が強くなります。

スタッフの労働契約と同様、あらかじめ報酬や契約期間、勤務形態について、必ず合意書を交わしてください。

分院長は雇われ院長の立場で、分院経営を任される責任者です。

インセンティブを含めて分院長にふさわしい報酬形態を用意しましょう。

開業予定日から逆算して計画的に行政手続きを行う

分院の立地と分院長が決まり、資金調達の目処もついたら具体的に分院展開の行政手続きを行います。

分院開設には医療法人設立と同様に多くの手続きがあり、認可まで時間を要します。

開設予定日から逆算し、早めに行動を起こすのが良いでしょう。

具体的には、医療法人の行政手続きの流れは以下のようになります。

ただ、基本的には定款変更などに精通している行政書士に一任するとスムーズでしょう。

医療法人の行政手続きの流れ
  • ①事前協議
  • ②定款変更認可の手続き
  • ③法人変更登記申請の手続き
  • ④分院診療所の開設の手続き
  • ⑤保険医療機関指定申請等の手続き
  • ⑥その他関係官署等への届出、申請の手続き

スケジュール感としては、②定款変更認可の手続きに2.5~3ヶ月くらいかかり、トータルで4~6ヶ月くらい見込んでおく必要があります。

なお、本院の決算が赤字であったり、大幅な債務超過になったりしている場合は、認可がおりない可能性があります。

しかし、必ずしも「本院の赤字=分院展開できない」ということではありません。

施設の増設や医療機器の買い替えなど、明確な理由が説明できて、黒字に転じる見込みが十分あれば認可がおりることもあります。

とはいえ、分院展開は経営上のリスクも伴うので、設備投資など意図的な理由がなく赤字が続くなら、まだベストタイミングとは言えないでしょう。

【まとめ】分院展開の理由を明確にして計画的に準備を進める

医院開業でも同じことが言えるのですが、分院展開は、複数経営する理由を明確にして立地や分院長を選び、計画的に準備を進めることが大切です。

院長先生が分院長を兼ねることができないので、特に分院長選びが大きなポイントとなります。

分院展開の理由とコンセプトを明確にして、分院長に適した人材ができた頃が分院展開のベストタイミングと言えるでしょう。

立地や分院長選び、資金調達などの課題がクリアできたら、開業日から逆算して分院展開の行政手続きを行いましょう。

当社でも、医療法務に精通した行政書士が在籍しており、分院展開のサポートも可能です。

分院展開を検討中の先生は、まずは無料相談でお問い合わせください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

ご相談・お問い合わせ

お問い合わせはこちらから

この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ