オンライン診療の施設基準と地方厚生局への届出の概要や手続き方法
2022年の診療報酬の改定により、オンライン診療の診療報酬が次のように見直されました。
- 初診料:214点⇒251点(届出をしなければ214点のまま)
- 医学管理料の項目追加と評価を対面診療の87%に見直し
- 在宅医療のオンライン診療の評価の見直し
改定により、オンライン診療の診療報酬が引き上げられたため、積極的に導入しやすくなりました。
しかし、オンライン診療の施設基準を満たして、地方厚生局に届け出ることが必要になります。
施設基準の届出をしていなくても、現行ではオンライン診療ができますが、届出をしないと初診の診療報酬が214点のままなど、優遇されません。
そこで、今回はオンライン診療の施設基準の概要や届出手続きについて解説します。
オンライン診療の施設基準の内容
オンライン診療に関わる届出を地方厚生局にする前に、施設基準を満たすことが必要となります。
厚生労働省の資料を引用すると、オンライン診療の施設基準の内容は以下の通りです。
- ①情報通信機器を用いた診療を行うにつき十分な体制が整備されていること。
- ②厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療を行う体制を有する保険医療機関であること。
引用元:厚生労働省保険局医療課「令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅱ(情報通信機器を用いた診療)」より抜粋
情報通信機器を用いた診療に必要な十分な体制を整備(対面診療を行える体制)
最初の「情報通信機器を用いた診療を行うにつき十分な体制が整備されていること」とは、具体的に次の通りです。
ア 保険医療機関外で診療を実施することがあらかじめ想定される場合においては、実施場所が厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン指針」という。)に該当しており、事後的に確認が可能であること。
イ 対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められていることを踏まえて、対面診療を提供できる体制を有すること。
ウ 患者の状況によって当該保険医療機関において対面診療を提供することが困難な場合に、他の保険医療機関と連携して対応できること。
引用元1:「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)」
引用元2:日本医師会「オンライン診療入門~導入の手引き~」
つまり、対面診療を行える体制を整えておくことも求められます。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療を行うこと
もう1つが、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療を行う体制を有している医療機関であることです。
なお、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」については、診療報酬の改定に合わせて2022年に改訂されています。
改訂内容は、次の記事を参考にしてください。
【関連記事】「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の重要ポイント
厚生労働省が定める研修を受講する
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」には次の記載があるため、オンライン診療を行う場合は、厚生労働省が定める研修を受講しなければいけません。
オンライン診療の実施に当たっては、医学的知識のみならず、情報通信機器の使用や情報セキュリティ等に関する知識が必要となる。
このため、医師は、オンライン診療に責任を有する者として、厚生労働省が定める研修を受講することにより、オンライン診療を実施するために必須となる知識を習得しなければならない。引用元:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」より抜粋
しかし、厚生労働省の定める研修は、e-ラーニングでいつでも受講することが可能であるため、診療には支障が出るほどではないと考えられます。
オンライン診療のルールを詳しく学べる機会と思って受講しましょう。
【研修プログラムの内容】
①オンライン診療を行う医師向けの研修
・オンライン診療の基本的理解とオンライン診療に関する諸制度
・オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項
・オンライン診療の提供体制
・オンライン診療とセキュリティ
・実臨床におけるオンライン診療の事例②緊急避妊薬の処方に関する研修
・経口避妊薬(OC)について理解すべき事項-各種避妊法とOC全般
・緊急避妊引用元:厚生労働省「オンライン診療研修・緊急避妊薬の処方に対する研修」より抜粋
他の医療機関と連携して対応できる体制を作る
オンライン診療を行った先生自身では、対応困難な疾患の患者さん、もしくは緊急性がある場合は、適切な医療機関を紹介しなければいけません。
そのため、オンライン診療を行う場合は、他の医療機関と連携して対応できる体制を作る必要があります。
「かかりつけの医師」がいない場合等においては、オンライン診療を行った医師が対面診療を行うことが望ましいが、患者の近隣の対面診療が可能な医療機関に紹介することも想定される(ただし、オンライン診療を行った医師自身では対応困難な疾患・病態の患者や緊急性がある場合については、オンライン診療を行った医師がより適切な医療機関に自ら連絡して紹介することが求められる。)。
引用元:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」より抜粋
インターネット環境の整備
インターネット環境を整備するのはもちろんなのですが、以下の点に注意してオンライン診療の環境を整備してください。
- 「リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段」を使う必要があるので、LINEなどのチャットのやり取りのみの診療は不可
- Zoom、FaceTimeなどご自身で使いやすい通話アプリを用いる
- 騒音により音声が聞き取れない、ネットワークが不安定であり動画が途切れるといったトラブルがないような場所でオンライン診療を行うこと
- 患者さんの個人情報が漏洩しないように、外部から隔離した場所でオンライン診療を行う
- 同時に複数の患者さんへの診療は行わないこと
- 医師側から患者さん側に繋げることを徹底する(第三者のオンライン診療を防ぐため)
- 診療録など、過去の患者の状態を把握しながら診療することで、対面診療と同等程度に情報を得られる体制を構築すること
- サイバー攻撃やウィルス感染などのセキュリティ対策を構築しておく
- 端末立ち上げ時、パスワード認証や生体認証などを用いて操作者の認証を行うこと
- 録音や録画については、患者さんの同意があってから行うこと
- 初診の患者さんなど、お互いに本人であることが不明ならば身分証明書などで確認する
- 医師だけでなく、他の医療従事者が同席する場合は、患者さんの同意を得る
- 日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」に該当する場合は対面診療を実施する
※厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」や日本医師会「オンライン診療入門~導入の手引き~」をもとに作成
なお、以下のことは最低限遵守する事項ではなく、推奨事項ですが、可能なら実施しておきましょう。
・医師と患者さんが1vs1で診療することを確認するため、診療の開始及び終了時間をアクセスログとして記録する
・オンライン診療実施前に、動作確認しておく
・患者が速やかにアクセスできる医療機関に容易にアクセスできるように努める
※厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を元に作成
診療計画を示す
オンライン診療を行う場合は、次のように診療計画を定めて、患者さんの合意を得ておくことが必要となります。
そのため、オンライン診療を行う前に、事前に診療計画を定めておくことが必要となります。
また、診療計画については2年間保存しておくことが必要です。
医師は、オンライン診療を行う前に、患者の心身の状態について、直接の対面診療により十分な医学的評価(診断等)を行い、その評価に基づいて、次の事項を含む「診療計画」を定め、2年間は保存すること。
・オンライン診療で行う具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)
・オンライン診療と直接の対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)
・診療時間に関する事項(予約制等)
・オンライン診療の方法(使用する情報通信機器等)
・オンライン診療を行わないと判断する条件と、条件に該当した場合に直接の対面診療に切り替える旨(情報通信環境の障害等によりオンライン診療を行うことができなくなる場合を含む。)
・触診等ができないこと等により得られる情報が限られることを踏まえ、患者が診察に対し積極的に協力する必要がある旨
・急病急変時の対応方針(自らが対応できない疾患等の場合は、対応できる医療機関の明示)
・複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名及びどのような場合にどの医師がオンライン診療を行うかの明示
・情報漏洩等のリスクを踏まえて、セキュリティリスクに関する責任の範囲及びそのとぎれがないこと等の明示引用元:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
オンライン診療に係る施設基準の届出の手続きと必要書類
施設基準を満たしたあとは、地方厚生局に施設基準に関する届出が必要になりますが、必要書類は次の2枚で、さほど難しいことはありません。
①別添7:基本診療料の施設基準等に係る届出書
②様式1:情報通信機器を用いた診療に係る届出書添付書類
書類については、各地方厚生局のホームページでダウンロードできます。
特に注意事項もなく、簡単に完成します。以下のことを記載して届出をすれば、施設基準に係る届出自体は終了します。
別添7:基本診療料の施設基準等に係る届出書
別添7については、不正や違反がないということと、施設基準を満たす医療機関であるということにチェックするだけです。
様式1:情報通信機器を用いた診療に係る届出書添付書類
様式1については、まずは上記の施設基準を満たしていることを示す次の項目にチェックします。
・「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療を行う体制があること
・対面診療を行う体制があること
・厚生労働省が定める研修を修了している
その他、医師が保険医療機関外で診療を行う場合は、次のことを記載する必要があります。
・「医療を提供しているが、医療資源の少ない地域」の保険医療機関に該当するかどうか
・実施場所
・患者の急病急変時に適切に対応するため、患者が速やかにアクセスできる医療機関において直接の対面診療を行える体制の具体的内容を記載
・医療機関にいる場合と同等程度に患者の心身の状態に関する情報を得られる体制の具体的内容を記載
・物理的に外部から隔離される空間であるかの状況
また、自院以外で緊急時に連携する保険医療機関をあらかじめ定めている場合は、名称や所在地などを記載します。
【まとめ】施設基準を満たしてオンライン診療を行う
以上、オンライン診療の施設基準と地方厚生局への届出の概要や手続き方法について解説しました。
地方厚生局への届出自体は簡単ですが、その前に施設基準を満たすように、オンライン診療の環境や体制を整備することが必要です。
オンライン診療の診療報酬が見直されていることから、厚生労働省としても推奨していますし、診療報酬アップに繋がります。
施設基準を満たすには、オンライン診療のシステムの構築が必要になりますが、詳しいことはシステムの事業者にご相談ください。
今ではたくさんのオンライン診療のシステムがたくさんあります。
なお、オンライン診療の診療報酬の2022年の改定については、以下の記事を参考にしてください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。