厚生局の保険診療における集団指導と個別指導の内容と重要ポイント

公開日:2022年2月28日
更新日:2024年4月8日

医院・クリニックを開業したあと、正しく保険診療が行われることと不正請求を防ぐために厚生局から指導を受けることがあります。

厚生局の指導には、大きく分けて集団指導と個別指導があります。

厚生局の指導はどの先生でも不安に思いますが、基本的に拒否することができません。

特に新規開業したばかりの医院・クリニックには必ず集団指導と個別指導が入ります(新規指導)。

指導の通知が来た場合は、毅然とした対応をするようにしましょう。

厚生局の集団指導の主な種類


まずは集団指導についてお伝えします。

厚生局の集団指導は、主に診療報酬改定時・指定更新時・保険医療機関の新規指定の医療機関に対して行われる集団指導と、集団的個別指導に分けられます。

診療報酬改定時・指定更新時・新規指定時の集団指導

ここでいう集団指導には、主に3つのタイプに分けられます。

  1. 2年に1回の診療報酬改定時に行われ改定時集団指導
  2. 保険医療機関の更新時に行われる指定更新時集団指導
  3. 新規開業の保険医療機関を対象に行われる新規指定時集団指導

新規指定時集団指導は、承継開業の医療機関も対象となり、新規指定後半年後くらいに行われます。

いずれも大きな会場で、多くの先生が集まって講習会形式で行われるもので、主に点数説明会などがこれにあたります。

実施の1ヶ月前に郵送で通知される旨が届くので、その通知に基づいて集団指導に参加するようにしてください。

基本的には欠席が認められませんが、冠婚葬祭などの事情があれば認められる場合があるので、厚生局に相談するようにしてください。

講習会の内容は、なかには厳しい話もありますが、算定項目のヒントになるような話もあるので、前向きに話を聞くようにしましょう。

基本的に講習会に参加するだけでよく、その後の指導・監査や処分といったものはないのでご安心ください。

集団的個別指導(集団指導部分)

集団的個別指導とは、レセプトの1件あたりの平均点数が高い医療機関について行われます。

具体的には15の累計区分別に1件当たりのレセプトで基準平均点を超える医療機関を対象に、上位8%が選定されます(東京保険医協会HPより)。

過去2年間に個別指導を受けた保険医療機関と、当年度内に個別指導を予定している保険医療機関は選定から除外されます。

集団的個別指導は、講習会形式の集団指導と、面接形式の個別指導を組み合わせたものになります。

なお、前々年度に集団的個別指導を受け、さらに高点数が続くような場合は翌年の個別指導の対象とされやすくなります。

厚生局の個別指導の内容と主な種類

個別指導については、主に次の5個のパターンがあります。

院長先生だけでなく、経理担当者の事務職のスタッフがいる場合は一緒に個別指導に参加することをおすすめします。

場合によっては弁護士の立ち会いがあってもいいでしょう。厚生局から納得のいかない根拠不明な指導が出てくるリスクを減らせます。

個別指導では、厚生局や都道府県の職員、学識経験者として都道府県の医師会の先生が個別指導に立ち会います。

個別指導についても、実施1ヶ月前に誘導で通知書が簡易書留で届きます。

集団指導と同様、厚生局が休日となる土日祝日を除いて実施されます。

個別指導は集団指導と同様、税務調査などと違って、特別な理由がない限り拒否したり延期したりすることができません。

そのため、もし個別指導の日が診療日であっても休診して出席する必要があります。

もし、個別指導の拒否をした場合は、個別指導の結果が「要監査」となり、監査が行われてしまうので注意してください。

新規個別指導

新規開業の保険医療機関に対して行われる個別指導です。

新規集団指導が新規指定後半年後くらいに行われ、新規個別指導は新規指定後1年後くらいに行われます。

新規集団指導と新規個別指導は、承継開業も含めて開業後に必ず行われます。

簡易書留の通知書が届くと驚くかもしれませんが、新規個別指導は、後述する情報提供による個別指導などと違って必ず行われます。

新規開業したばかりの先生は、開業して1年くらい経ったら、通知が来るものだと思ってください。

新規の個別指導については、1回1時間程度で終わります。

1ヶ月前に届く個別指導の通知については、日時や場所の他、当日持参を求められる書類等が記載されます。

持参物の1つとして、指導対象として選定された患者さんのカルテがあります。

新規個別指導については、患者さん10人分のリストが実施日の1週間前に送付されます。

先生は、個別指導当日に指定のカルテを持参してください。

また、その他の資料の提出を求められることもありますが、こちらについても厚生局が指定した期限を守って提出するようにしてください。

もし持参するものや提出物が足りなかった場合は、別途個別指導が行われることにもなりかねないので注意しましょう。

情報提供による個別指導

患者さんや審査支払期間から不正請求の疑いがあるとして、厚生局に通報したような場合に行われる個別指導です。

具体的には、患者さんに通知される医療費と、自分の窓口負担額が合わないような場合に疑いを持たれて通報されたような場合です。

この個別指導も、新規個別指導と同様に指導1ヶ月ほど前に郵送で通知があります。

患者さんのカルテの提出については、新規個別指導よりも多く、患者さん20人分のリストが個別指導の1週間前、10人分が個別指導の前日に送付されます。

つまり、計30人分のカルテを持参する必要があります。

集団的個別指導(個別指導部分)

先ほどお伝えした集団的個別指導の個別部分に該当します。

場合によっては、集団指導部分だけが行われ、個別指導がないこともあります。

高点数による個別指導

先ほどもお伝えしたように、2年前に集団個別指導を受け、前年度も高点数であった保険医療機関が対象となる個別指導です。

個別指導後の再指導

上記の個別指導の結果、後述するように厚生局が引き続き指導を行う必要があると判断した場合に行われます。

個別指導の結果と指導後の措置

個別指導の結果については、1ヶ月程度すると郵送で届きます。

結果には4種類あり、良好な結果の順番から次の通りです。

・概ね妥当
・経過観察
・再指導
・要監査

なお、個別指導の結果について指摘事項があった場合は、別途提出が必要な書類がありますので、作成のうえ期限までに提出してください。

また、指摘事項に伴って診療報酬の返還を命じられた場合は、それも別途必要な書類がありますので、作成のうえ提出が必要です。

概ね妥当

個別指導の指導後の措置として、もっとも良好な結果が「概ね妥当」です。

「概ね妥当」は、特に問題点がなかった場合に判定されますが、実際に該当する医療機関は数%程度と少なく、多くは次の経過観察に該当します。

経過観察

個別指導で軽微な問題点があった場合は、「経過観察」となります。

多くの医療機関は、軽微な問題点すら見つからないことは少なく、この場合は経過観察に該当しますが、再度個別指導が行われるわけではなく、比較的良好な措置と言えます。

再指導

先ほどもお伝えしたように、問題点が軽微と言えず、その後の改善を厚生局が確認する必要があると判断すれば「再指導」となります。

だいたい約1年後に再指導が行われます。

もし根拠不明な指摘事項があれば別途協議が必要となりますが、明確な間違いがあれば、再指導までに改善するようにしましょう。

改善が見られなければ、再指導が繰り返されたり監査に発展したりするようなことも考えられます。

要監査

もっとも重い措置が、不正請求が明らかになった場合や強く疑われる場合の「要監査」です。

指導と監査では、言葉は似ていますが、この場合では意味合いは全然違ってきます。再指導の場合は、不正請求の疑いまでは強くありません。

監査が行われる前には、レセプトによる書面審査や患者さんなどに対する調査が行われ、この結果に基づいて監査が行われます。

監査後の行政上の措置としては、一番重いのが保険医療機関・保険医の「取消」、次いで重いのが「戒告」、一番軽いのが「注意」になります。

故意でなくても、重大な過失が認められれば処分の対象になり得るので注意してください。

また、少額の不正・不当金額でも取消処分になる可能性もあります。過去に約13万円の不正請求で取消処分になった例があります。

なお、要監査に当たる不正請求の例としては、次のものがあります。

①架空請求:実際に診療を行っていないものにつき診療をしたごとく請求すること。診療が継 続しているものであっても当該診療月に診療行為がないにもかかわらず請求を行った場合、当 該診療月分については架空請求となる。

②付増請求:診療行為の回数(日 数)、数量、内容等を実際に行ったものより多く請求すること。

③振替請求:実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振替えて請求すること。

④二重請求:自費診療を行って患者から費用を受領しているにもかかわらず、保険でも診療報酬を請求すること。

⑤ その他の請求
ア 医師数、看護師数等が医療法の標準数を満たしていないにもかかわらず、入院基本料を減額せずに請求した場合
イ 入院患者数の平均が基準以上であるにもかかわらず、入院基本料を減額せずに請求した場合
ウ 施設基準の要件を満たしていないにもかかわらず、虚偽の届出を行った場合
エ 保険診療と認められないものを請求した場合
(患者の依頼のない往診、健康診断、無診察投薬、自己診療等)等。

引用元:※厚生労働省保険局医療課医療指導監査室「保険診療の理解のために」

なお、取消処分となった場合は、原則5年間は再指定・再登録は行わないこととなっています。

令和元年度の指導・監査等の実施状況

厚生労働省保険局医療課医療指導監査室「保険診療の理解のために」によると、令和元年度の指導・監査等の実施状況は次の通りとなっています。

(1)指導・監査等の実施件数
・監査を受けた保険医療機関等:55施設
・監査を受けた保険医等:129人

(2)取消等の状況
・保険医療機関等の指定取消/指定取消相当:21施設
・保険医等の登録取消/登録取消相当:15人

(3)返還金
・指導、適時調査、監査により返還を求めた金額:約109億円

引用元:厚生労働省保険局医療課医療指導監査室「保険診療の理解のために」

【まとめ】集団指導・個別指導は拒否せず、毅然と対応する

以上、厚生局の集団指導・個別指導についてお伝えしました。

厚生局の指導については、基本的には拒否することができず、拒否した場合は監査に繋がる可能性もあるので、診療日であっても空けておくようにしましょう。

そして、厚生局と感情的な言い争いを行うようなことはせず毅然とした態度で対応し、再指導があった場合は、次回の個別指導までに速やかに改善してください。

なお、医療機関が行政から受ける指導や検査というと、保健所の立入検査がありますが、こちらについては、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】転ばぬ先の杖 保健所立入検査にはこう備えよう

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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