「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の重要ポイント

公開日:2022年8月25日
更新日:2024年4月11日

2020年以降の新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、オンライン診療を部分的に導入、もしくは導入を検討する医院・クリニックが増えてきました。

保険診療だけでなく自由診療でもオンライン診療は徐々に導入されています。

例えばAGA診療、ED診療、禁煙外来、アトピー性皮膚炎、花粉症、低用量ピル、美容医療、セカンドオピニオンなどといったものです。

オンライン診療は、基本的には厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を遵守して行う必要があります。

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は2022年に改訂されていますが、この点も含めて重要ポイントを解説します。

オンライン診療の定義とは?

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療や、診療の補助行為であるオンライン受診勧奨と遠隔健康医療相談について次のように定義されています。

オンライン診療

遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

オンライン受診勧奨

遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して患者の診察を行い、医療機関への受診勧奨をリアルタイムにより行う行為であり、患者からの症状の訴えや、問診などの心身の状態の情報収集に基づき、疑われる疾患等を判断して、疾患名を列挙し受診すべき適切な診療科を選択するなど、患者個人の心身の状態に応じた必要な最低限の医学的判断を伴う受診勧奨。
具体的な疾患名を挙げて、これにり患している旨や医学的判断に基づく疾患の治療方針を伝達すること、一般用医薬品の具体的な使用を指示すること、処方等を行うことなどはオンライン診療に分類されるため、これらの行為はオンライン受診勧奨により行ってはならない。
なお、社会通念上明らかに医療機関を受診するほどではない症状の者に対して経過観察や非受診の指示を行うような場合や、患者の個別的な状態に応じた医学的な判断を伴わない一般的な受診勧奨については遠隔健康医療相談として実施することができる。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

遠隔健康医療相談

【遠隔健康医療相談(医師)】
遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為。相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は伴わないもの。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

【遠隔健康医療相談(医師以外)】
遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、
一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の対象

※厚生労働省:「オンライン診療の適切な実施に関する指針」より引用

上図のように、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の対象としては、オンライン診療とオンライン受診勧奨が対象となります。

遠隔健康医療相談は対象外となり、オンライン受診勧奨についても一部は適用除外となります。

オンライン診療と診療の補助行為の違いと具体例

オンライン診療と診療の補助行為については、以下のように具体例を示すと、違いがよくわかります。

オンライン診療が診療行為に対して、オンライン受診勧奨は診療を促す行為で処方はできません。

種類具体例
オンライン診療・高血圧患者の血圧コントロールの確認
・離島の患者を骨折疑いと診断し、ギプス固定などの処置の説明等を実施
オンライン受診勧奨・医師が患者に対し詳しく問診を行い、医師が患者個人の心身の状態に応じた医学的な判断を行ったうえで、適切な診療科への受診勧奨を実施(発疹に対し問診を行い、「あなたはこの発疹の形状や色ですと蕁麻疹が疑われるので、皮膚科を受診してください」と勧奨する等)
遠隔健康医療相談・子ども医療電話相談事業(#8000 事業):応答マニュアルに沿って小児科医師・看護師等が電話により相談対応
・相談者個別の状態に応じた医師の判断を伴わない、医療に関する一般的な情報提供や受診勧奨(「発疹がある場合は皮膚科を受診してください」と勧奨する等)
・労働安全衛生法に基づき産業医が行う業務(面接指導、保健指導、健康相談等)
・教員が学校医に複数生徒が嘔吐した場合の一般的対処方法を相談
※「オンライン診療の適切な実施に関する指針」をもとに作成

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の5つの重要ポイント

それでは、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の重要ポイントについていくつかお伝えします。

2022年の改訂内容を反映した形で解説します。以下のことを把握しておくと、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の本文も理解しやすいでしょう。

患者の合意が必要で、診療計画を作成する

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療には、患者側の合意がないと実施できないことになっています。

これは、医師の一方的な都合でオンライン診療を行うことを防ぐためです。

合意内容には、「診療計画」として定めるオンライン診療の具体的な実施ルールが含まれる必要があります。

具体的には、医師はオンライン診療を行う前に、患者さんの患者の心身の状態について、直接の対面診療により十分な診断等を行い、次の診療計画を定めることとしています。

診療計画は2年間保存しなければいけません。

・オンライン診療で行う具体的な診療内容(疾病名、治療内容等)

・オンライン診療と直接の対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミング等)

・診療時間に関する事項(予約制等)

・オンライン診療の方法(使用する情報通信機器等)

・オンライン診療を行わないと判断する条件と、条件に該当した場合に直接の対面診療に切り替える旨(情報通信環境の障害等によりオンライン診療を行うことができなくなる場合を含む)

・触診等ができないこと等により得られる情報が限られることを踏まえ、患者が診察に対し積極的に協力する必要がある旨

・急病急変時の対応方針(自らが対応できない疾患等の場合は、対応できる医療機関の明示)

・複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名及びどのような場合にどの医師がオンライン診療を行うかの明示

・情報漏洩等のリスクを踏まえて、セキュリティリスクに関する責任の範囲
及びそのとぎれがないこと等の明示

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

医師の所在は診療所に限定されない

医師は、必ずしも医療機関においてオンライン診療を行う必要はないが、騒音のある状況等、患者の心身の状態に関する情報を得るのに不適切な場所でオンライン診療を行うべきではない。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

このように、医師の所在は、必ずしも診療所で行う必要がないということが重要なポイントです。

そのため、産休や育児休暇中の医師でもオンライン診療ができることになります。

ただし、次のことは守らないといけません。

  1. 患者が速やかにアクセスできる医療機関において直接の対面診療を行える体制を整えておくこと
  2. 診療所に容易にアクセスできる場所で行うこと
  3. 騒音がある場所やネットワークが不安定な場所で行わないこと
  4. 患者さんのプライバシーが保護される場所で行うこと
  5. 情報セキュリティがあること
  6. カルテがすぐに見られること

2022年の改訂で初診からのオンライン診療が制度化された

これまでは、「初心は原則対面診療」ということが基本的なルールとなっていました。

理由は、オンライン診療ではどうしても患者さんの心身の情報が得るには不利であることとされていたためです。

そのため、初診については時限的・特例的措置とされてきましたが、コロナ禍などの背景もあり、2022年の改訂で制度化されました。

ただ、以下のように初診からオンライン診療が可能なケースは次のようにルール化されています。

なお、「初診」の定義については、次のように定められています。

本指針上における「初診」とは、初めて診察を行うことをいいますが、継続的に診療している場合においても、新たな症状等(ただし、既に診断されている疾患から予測された症状等を除く。)に対する診察を行う場合や、疾患が治癒した後又は治療が長期間中断した後に再度同一疾患について診察する場合も、「初診」に含みます。
なお、診療報酬において「初診料」の算定上の取扱いが定められていますが、本指針における「初診」と、「初診料」を算定する場合とは、必ずしも一致しません。

引用元:『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&A

初診は原則「かかりつけの医師」が行うこと

オンライン診療では、

・ 得られる情報が視覚及び聴覚に限られる中で、可能な限り、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要があること

・ 医師が、患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より直接の対面診療を重ねるなど、医師-患者間で信頼関係を築いておく必要があること
から、初診については「かかりつけの医師」が行うことが原則である。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

このように、原則的には、かかりつけの医師が行うことと明記されていて、かかりつけの医師とは、次のように定義されています。

「日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師」

引用元:『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&A

このように、最後の診療からどれくらいの期間が経っているか、受診頻度がどれくらいかということまでは明記されていません。

医学的情報が十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、かかりつけの医師でなくても、「医学的情報が十分に把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合」にも、オンライン診療を実施できるとしています。

医学的情報とは、患者さんの既往歴や服薬歴、アレルギー歴など診療に必要な情報のことを指します。

初診前に、医師が「診療前相談」を行う場合

上記の2つの場合に該当しない場合は、オンライン診療を行う際は診療前相談が必要となります。

医療前相談とは、オンラインで医師が患者さんの症状などの医学的情報を確認する行為を言います。

オンライン診療が適さず、対面診療が必要な症状について

オンライン診療の実施の可否の判断については、安全にオンライン診療が行えることを確認しておくことが必要であることから、オンライン診療が困難な症状として、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえて医師が判断し、オンライン診療が適さない場合には対面診療を実施する(対面診療が可能な医療機関を紹介する場合も含む。)こと。
なお、緊急性が高い症状の場合は速やかに対面受診を促すことに留意する。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」には、オンライン診療に適さない症状について詳細に書かれていますので、参考にしてください。

初診のオンライン診療で処方する医薬品について

これまで服薬指導は、薬剤師が対面で指導することが義務付けられていましたが、現在は初診から電話やオンラインを使った診断・処方が可能になっています。ただし、次のルールがあります。

初診からのオンライン診療の場合及び新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合は、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等の関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うこと。

引用元:オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤

初診のオンライン診療で処方する薬については、別途ガイドラインがあるので、そちらを参考にするようにしてください。

また、初診の場合は以下の処方はできません。

・麻薬及び向精神薬の処方
・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)の処方

・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

また、処方すべきでない医薬品の例として、次の不適切な例が具体例として紹介されています。

ⅰ患者が、向精神薬、睡眠薬、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使用されうる利尿薬や糖尿病治療薬、美容目的に使用されうる保湿クリーム等の特定の医薬品の処方を希望するなど、医薬品の転売や不適正使用が疑われるような場合に処方することはあってはならず、このような場合に対面診療でその必要性等の確認を行わず、オンライン診療のみで患者の状態を十分に評価せず処方を行う例。

ⅱ勃起不全治療薬等の医薬品を、禁忌の確認を行うのに十分な情報が得られていないにもかかわらず、オンライン診療のみで処方する例。

引用元:オンライン診療の適切な実施に関する指針

勃起不全治療(ED)については、以下のように、基本的には対面診療の診察のうえで処方することが明記されています。

ED(勃起障害/勃起不全)診療ガイドラインにおいて、心血管・神経学的異常の有無の確認や血糖値・尿の検査を行う必要があるとされており、初診をオンライン診療で行うことは不適切です。
処方においても、対面診療における診察の上、勃起不全治療薬等は処方してください。

引用元:『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に関するQ&A

【まとめ】初診からオンライン診療はできるようになったが一定の制約あり

以上、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の重要ポイントについてお伝えしました。

2022年の改訂版で、初診からオンライン診療ができるように具体的に制度化されましたが、一定の条件、制約があります。

特にオンライン診療が適さないような症状の場合は、速やかに対面診療するという判断も必要です。

・オンライン診療の適切な実施に関する指針
・「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A

この2つについては、自分の診療科目に関わるところは重点的に確認し、適切なオンライン診療を行いましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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