精神科は、触診等の必要がなく、カウンセリング中心の会話が診療の大部分を占めるため、オンライン診療を導入しやすい診療科目の1つです。

しかし、オンライン診療の診療報酬点数の低さなどもあり、欧米諸国に比べると、日本はオンライン診療の浸透がほとんど進んでいません。

2022年にオンライン診療の診療報酬は改定され(対面診療の87%)、以前より導入しやすくなったものの、まだオンライン診療の普及には時間がかかると思われます。

本来オンライン診療と相性が良い精神科も、診療報酬点数や五感を使った診療の難しさの問題で導入は難航している印象です。

しかし、なかにはオンライン診療を積極的に導入して、全国から患者さんの会社休職相談などを受け入れているメンタルクリニックもあります。

そこで、今回は精神科のオンライン診療のポイントやメリット・デメリット、注意点についてお伝えします。

オンライン診療の初診に関する提言

一般社団法人日本医学会連合「オンライン診療の初診に関する提⾔」では、次の点に関して大まかな目安を示しています。

・オンライン診療の初診に適さない症状
・オンライン診療の初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤

オンライン診療の初診に適さない精神系の症状

「オンライン診療の初診に関する提⾔」では、オンライン診療に適さず、医療機関での受信を勧めるべき様々な症状を示しています。

そのような精神系の症状として、以下を挙げています。

(1)患者本⼈の診察への同意が確認できない場合
(2)薬物等の強い影響下にある場合
(3)⾃傷・他害⾏為の危険が⾮常に⾼い場合

オンライン診療と相性の良い精神疾患の診療ですが、必ずしもオンラインだけで成立するとは限りません。

薬物等の影響が強い場合や、自傷行為、他害行為の可能性が高い緊急性が高く慎重な判断が必要な症状は、医療機関での対面診療が推奨されています。

なお、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の「プライマリ・ケアにおけるオンライン診療ガイド」には、オンライン診療に適していない症状リストがあります。

精神科に関わる症状としては、次の症状が挙げられています。

(精神科)
・希死念慮
・虐待を疑う場合
・新規の抑うつ、不安、パニック動作

(その他)
・薬物加療内服/中毒

希死念慮や薬物加療中など強い症状の場合は、対面診療をするのが望ましいと考えられます。

上記の症状が見られず、落ち着いた診療が可能な場合にオンライン診療を実施すべきでしょう。

オンライン診療の初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、精神科で処方される向精神薬や睡眠薬等の薬剤の処方は、初診の場合はできない規定になっています。

初診の場合には以下の処方は行わないこと。

・麻薬及び向精神薬の処方
・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)の処方
・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方

また、再診のオンライン診療では、以前から処方されている向精神薬や睡眠薬は処方できますが、これまで処方されたことのない向精神薬や睡眠薬は処方できません。

「オンライン診療の初診に関する提⾔」のなかにある「オンライン診療の初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤」では、精神系の症状では次の薬剤が挙げられています。

・ 向精神薬(厚⽣労働省が定めた本件に関する講義を受講した医師及び精神保健指定医もしくは精神科専⾨医は処⽅可)
・ クロザリル
・ コンサータ
・ ビバンセ
・ モディオダール
・ リタリン
・ ⿇薬及び向精神薬取締法に関するベンゾジアゼピンを含めた薬剤

これは、「⼀律に初診処⽅不可とすることを⽬的とするものではなく、担当医は個々の患者の状態によって柔軟に対応する必要がある」とするものです。

しかし、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、初診で向精神薬と睡眠薬処方ができない規定となっている以上は、指針に従うことになります。

精神科のオンライン診療のメリット

以上のことを踏まえ、精神科のオンライン診療のメリットについて解説します。

精神科のオンライン診療は、医療機関側よりは患者さん側のメリットの方が大きいですが、それだけ実需と患者満足度の向上を図りやすくなります。

オンライン診療共通のメリット

診療科目に関わらず、オンライン診療に共通するメリットとしては、次のことが挙げられます。

  1. 感染症のリスクや病気の症状悪化の予防
  2. 治療からドロップアウトの防止
  3. 待ち時間による患者さんからのクレームがない

これらは、精神科にも基本的にはあてはまると考えていいでしょう。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【関連記事】オンライン診療のメリット・デメリットと導入までの検討事項

精神科や心療内科に抵抗がある患者さんも受診しやすい

精神科特有の特徴として、受診に抵抗のある患者さんが多いということがあります。

例えば、精神科に関しては、あまり駅前の好立地で、目立つ看板を設置すると、かえって患者さんが来院しづらいということが起こり得ます。

通院しているところを人に見られたくないという心理が働くためです。

うつ病や不眠症などの精神的な症状に対する理解は年々進んでいるものの、日本人の特性として、精神科受診に対して抵抗のある人は依然として多いです。

しかし、オンライン診療を導入することによって、通院中のところを人に見られる懸念がないため、受診のハードルが下がります。

そのため、「精神科には通いたくない」と考えている人に対しても受診を促すことが可能になります。

遠方からわざわざ通っていた人が受診しやすい

もう1つの精神科の患者さんの特徴として、「近所の精神科に行きたくない」ということがあります。

これは、「通院しているところを人に見られたくない」という心理に通じるものがあります。

・通院の移動中に知り合いに会いたくない
・近所の精神科だと知り合いが勤めているかもしれない
・待合室で知り合いとばったり会いたくない

具体的には、このような心理が働き、住まいの最寄り駅から2~3駅以上離れたメンタルクリニックに通う人も少なくありません。

特に遠くから通う患者さんにとっては通院時間や交通費の節約になるため、オンライン診療のメリットは大きく、満足度が高くなります。

対人恐怖症やパニック障害の患者さんが受診しやすい

精神科や心療内科は、うつ病や睡眠障害だけでなく、対人恐怖症や社会不安障害、パニック障害の患者さんも診療範囲になります。

このような患者さんは、外出が困難な場合もあり、オンライン診療の導入は受診のハードルを下げることができます。

結果的に投薬治療が必要なので通院を要する患者さんに対しても、初診がオンラインというだけで治療の大きなきっかけになり得ます。

対面診療よりオンライン診療の方が短いことが多い

診療内容や治療方針によって違いは生まれますが、オンライン診療の方が対面診療より早く終わることが多いです。

実際にオンラインで会議すると、会議室などで集まって会議するよりも短く終わることがありますが、同じことがオンライン診療でも起こり得ます。

そのため、対面診療に比べると、オンライン診療の予約が詰まるということは少なくなる傾向にあります。

全国からオンライン診療を受け付けることができる

精神科に限ったことではないですが、オンライン診療になれば、全国から患者さんを集めることもできます。

患者さんの会社の休職に必要な診断書や傷病手当金申請書などの書類は、来院しなくても郵送でやり取りができます。

そのため、休職に特化した全国の人を対象としたオンライン診療を行うようなことも可能です。

ただし、オンライン診療の初診は薬の処方ができない点や、対面診療も合わせるのであれば、全国から集患するのは限界があり、一部の診療に限定されるでしょう。

精神科のオンライン診療のデメリットと注意点

次に、精神科のオンライン診療のデメリットと注意点について解説します。

概ね、上記の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」「オンライン診療の初診に関する提言」を把握することが解決策になると考えられます。

精神科の受診にも情報不足が起こり得る

日本精神科病院協会「オンライン診療に対する日本精神科病院協会の見解」(2020年10月28日)では、オンライン診療に関する問題点について、以下のように掲載しています。

①有効性の側面
視覚的に観察されるのは患者の身だしなみで、服装・着衣がきちんとしているか、頭髪の手入れが十分であるか、化粧は自然であるか、手指の爪・皮膚などが清潔であるか、刺青、顔面、手首やのどなどの傷痕(自傷行為)、注射痕の有無(覚せい剤の使用)などである。
表情・態度・動作・話し方などは、患者を自然にふるまわせたときの表出と、問診に対する反応として示されるものとがある。
一般に表出とは、精神内界を外部に表すことである。顔貌・姿勢・態度などは、感情の不随意的表出であり、非言語的表出、身体言語などとよばれることがある。
オンライン診療は、医師と患者のやりとりがPC/スマホの画面越しであり、医師の五感を使った診察に制限が生まれる。じょうきに示した現在症の把握には適した条件を満たしているとは言い難い。

②安全性側面
オンライン診療は、医師と患者のやりとりがPC/スマホの画面越しであり、患者の状態を把握しにくく、状態の変化に気付きにくい可能性がある。
症状を見逃して誤診する可能性があり、病状の悪化にとどまらず、たとえば希死念慮の強い患者に対しての適切な介入ができないとなると、自殺既遂に及ぶ危険性も否定できない。

触診などがない精神科の診療は、他の診療科目に比べればオンライン診療に適している方ですが、五感を使った診察に制限が出てきます。

そのため、上記の「オンライン診療の初診に関する提言」の「オンライン診療の初診に適さない症状」は把握すべきところでしょう。

なりすまし受診の可能性

「オンライン診療に対する日本精神科病院協会の見解」では、安全性の側面について以下のような記載もあります。

オンライン上の画像のみで本人確認が行われることを逆手に取って、処方箋を受け取るために、本人のふりをして受診する「なりすまし受診」が発生する可能性も否定できない。
オンライン診療においては、全国の多数の医療機関を短時間で受診することが容易となり、「処方箋目的(薬の売却目的)」の受診が増加する危険性がある。

これについては、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも次のような記載があります。

患者が、向精神薬、睡眠薬、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使用されうる利尿薬や糖尿病治療薬、美容目的に使用されうる保湿クリーム等の特定の医薬品の処方を希望するなど、医薬品の転売や不適正使用が疑われるような場合に処方することはあってはならず、このような場合に対面診療でその必要性等の確認を行わず、オンライン診療のみで患者の状態を十分に評価せず処方を行う例。

つまり、オンライン診療であれば、本人のふりをして医薬品を手にして転売するリスクがあるということです。

言うまでもなく、医薬品販売業の許可なく医薬品を転売することは薬機法違反にあたりあます。

ただ、この点については、オンライン診療の初診では向精神薬と睡眠薬等が処方できない規定になっていることから、抑止力は強いと考えられます。

【まとめ】オンライン診療はメリットもデメリットもあるが診療内容によって導入が必要

以上、精神科のオンライン診療のメリット、デメリットや注意点について解説しました。

精神科のオンライン診療は、診療報酬点数の問題から導入が難航していましたが、今後は時間がかかりつつも徐々に浸透していくと思われます。

精神科のオンライン診療は、比較的導入のメリットが大きく、実需と患者満足度の向上が見込めます。

治療方針によっては、オンライン診療の導入の検討の余地はあるでしょう。

以下の記事も合わせてご覧ください。

【関連記事】「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2022年改訂版の重要ポイント

【関連記事】精神科・心療内科の開業医の年収は?勤務医との比較や開業資金についても解説

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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