美容クリニック開業の現状と失敗しない8個のポイント|開業支援実績が多い税理士が詳細解説


ここ数年、美容クリニックの増加率が大きく、厚生労働省が美容医療への医師流出のため規制案を出しているほどです。
一方で2024年のアリシアクリニック倒産など、大手美容クリニックが倒産するケースも少しずつ出てきています。
美容クリニックは自由診療で報酬が高めなので、若手医師を中心に人気となっており、都心を中心に競争が激化している実態があります。
他院と差別化しようとして、無理に最新の医療設備を導入したり、広告費をかけたりしてしまうと資金繰りを圧迫します。
その状態で思うように集患できなければ、経営不振に陥りかねません。
今回は、美容クリニックを取り巻く現状を踏まえて、開業で失敗しないポイントについてお伝えします。
美容クリニックを取り巻く現状

まずは、美容クリニックを取り巻く現状から簡単にお伝えします。
・美容クリニックの増加率は高い
・美容医療への医師流出に厚生労働省が規制を検討中である
・経営不振に陥る美容クリニックが増えている
経営不振に陥っている美容クリニックが増えている背景には、前払金に頼るビジネスモデルであることや、医療の質の低下などがあります。
美容クリニックの増加率は43.6%と突出している
「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告 」によると、一般診療所の美容外科の施設数は、2020年は1,404件に対して、2023年は2,016件となっています。
美容外科の施設数は、3年で43.6%も増加していることになります。
同じく増加傾向にある形成外科の増加率が15.0%、乳腺外科が11.7%、皮膚科が6.2%であることに比べると、突出して増加率が高いです。
【一般診療所の増加率が高い診療科目】
2023年の施設数 | 2020年の施設数 | 増減率 | |
美容外科 | 2,016 | 1,404 | 43.6% |
形成外科 | 2,491 | 2,167 | 15.0% |
乳腺外科 | 952 | 852 | 11.7% |
腎臓内科 | 2,399 | 2,154 | 11.4% |
糖尿病内科 | 4,647 | 4,196 | 10.7% |
【一般診療所の減少率が高い診療科目】
2023年の施設数 | 2020年の施設数 | 増減率 | |
放射線科 | 2,738 | 3,031 | 9.7% |
麻酔科 | 1,792 | 1,943 | 7.8% |
歯科 | 1,608 | 1,725 | 6.8% |
小児科 | 17,778 | 18,798 | 5.4% |
外科 | 11,773 | 12,405 | 5.1% |
※「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告 」を元に作成
形成外科や皮膚科も、診療内容によっては美容医療と関連性があることを考えると、美容クリニックの進出が際立っていることがわかります。
これは、美容医療へのニーズが高いこともありますが、美容クリニックを開業する医師のメリットが強いことが最も大きいです。
実際、自由診療が中心となる美容クリニックは、他の診療科目より高収入で、しかも時間外労働も少ないところがあります。
ワークライフバランスを維持しやすく、仕事と家庭を両立しやすいので、女性医師にも人気の診療科目になっています。
美容医療への医師流出に厚生労働省が規制を検討している
美容医療をはじめとする保険外診療へ医師流出が止まらない現状を是正するため、厚生労働省が対策を打ち出す。内科や外科など、公的保険の対象となる一般的な診療に最低5年ほど取り組まなければ、自前のクリニックを開いても保険診療を提供できないようにする。
※日本経済新聞「美容医療への医師流出防止 開業には5年の保険診療経験 」
美容医療の質の低下によるトラブルの防止と、医師偏在の是正を目的として、厚生労働省が規制案を検討中です。
実際、医師が国家試験に合格したあと一般的な保険診療科での実務経験を積まずに、直接美容クリニックに就職する「直美(ちょくび)」が増えています。
保険診療の経験を積んでいないので診療でトラブルを起こしやすく、安全性を損なうリスクが高いとして問題となっています。
規制案については、今後の動向を注目することになりますが、何かしらの対策が取られるのではないかと思われます。
経営不振に陥る美容クリニックが増加している
美容外科に進む若手医師が増加し、美容クリニックの開業件数が増加している一方で、経営不振に陥る美容クリニックも増えています。
2024年に大手美容クリニックのアリシアクリニックが倒産したことは多くの先生の記憶に新しいでしょう。
多くの美容クリニックでは、患者さんから多額の前払金を集めて運転資金に充てていますが、アリシアクリニックも同じ手法で事業を拡大していました。
テレビCMでもお馴染みで順調に成長しているように見えたものの、実態としては自転車操業そのものでした。
契約数が鈍化して資金の流れが止まると、固定費や広告費が大きな負担となり、一気にキャッシュフローが逼迫してしまったのです。
アリシアクリニックは倒産に陥りましたが、同様のビジネスモデルで経営不振に陥っている美容クリニックは増えています。
新規契約数が減り、経営不振に陥る美容クリニックが増えている背景には、先ほどお伝えした直美の問題もあります。
他の診療科目で経験を一切積んでいない若手医師が増えることになれば、美容医療の質が低くなることは避けられません。
今は、医療の技術や接遇に関しては、SNSやGoogleの口コミなどであっという間に広がります。
競争が激化している美容クリニックでは、医療の質を担保できなければ、今後生き残ることは難しいと言えるでしょう。
美容クリニック開業で失敗しないための8つのポイント

以上のことを踏まえて、美容クリニック開業で失敗しないためのポイントを解説します。
美容クリニックの増加や高収入でワークライフバランスを維持しやすい傾向があります。
ただ、それだけに美容クリニックの開業件数は他の診療科目より突出しており競争が激化しています。
競争が激化しているからこそ、集患に力を入れることはもちろん、医療の質を維持することが、美容クリニックで失敗しない大きなポイントとなります。
また、最新の医療設備を揃えようとすると、開業資金が莫大になる点も注意しなければいけません。
「患者さんを治したい、良くしたい」という大義があることが前提になりますが、次の点は意識して開業準備しましょう。
経営理念や開業コンセプトを明確にする
美容クリニックの開業に、経営理念や開業コンセプトは欠かせません。
美容クリニックは、高収入やワークライフバランスなどメリットばかりではなく、競争の激化や高額な開業資金などデメリットもあります。
美容クリニックの場合、高級感を演出する内装や最新の医療機器の導入によって、開業資金が高額になる傾向があります。
医療機器は集患に直結するとはいえ、最初から無理な設備投資は資金繰りを圧迫します。
実際に、開業したものの半年程度で閉院してしまった美容クリニックも少なくありません。
開業コンセプトや経営理念を明確にすることは、どの診療科目でも同じです。
ただ、競争が激化しており、開業資金が多額になりがちな美容クリニックは特に慎重に経営理念やコンセプトを考える必要があります。
自分が誰にどんな診療をしたいのかによって、美容クリニックの開業物件や内外装、必要な医療機器、集患対策は大きく変わってきます。
曖昧なまま開業準備すると、必要以上に開業資金をかけてしまうことになりかねません。
開業する前に、必ず経営理念と開業コンセプトは明確にしてから準備を進めましょう。
激戦区以外でもベストな立地・物件があるかもしれない
美容クリニックというと、都心の一等地のアクセスの良い場所に開業するイメージが強いですが、言うまでもなく激戦区です。
たしかに、都心でわかりやすく、アクセスの良い立地の方が患者さんは来院しやすいです。
また、美容クリニックの患者さんの属性を考えても、都心のオフィス街や繁華街の方が合っている傾向があります。
しかし、都心の場合は美容クリニックの激戦区であるうえに、広いスペースを確保できない場合が少なくありません。
特にプライベート空間を大切にしたい先生には、都心で適切な物件を探すことは困難なことが多く、見つかっても賃料が高額です。
競争が激しくなく、十分なスペースを確保できる場所で開業したいなら、都心から離れた場所で開業する選択肢もあります。
実際、美容クリニックは、他の診療科目に比べても遠方から来院する患者さんが多い傾向にあります。
Webマーケティングでしっかりとインターネットで露出できれば、十分集患は可能です。
視認性が悪い立地での開業はあまりおすすめしませんが、わかりにくい場所なら、ホームページで写真や動画を使って詳細に道案内することでカバーはできます。
実際に、都心から離れた場所に美容クリニックを開業した事例があります。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
必要な医療機器に絞って無理のない資金で開業する
美容クリニックは、内装や医療機器、広告費などで開業資金が高額になりがちです。
あくまで目安ですが、開業資金が低い精神科・心療内科に比べると4~7倍くらい違ってきます。
美容クリニックの場合、開業資金に占める医療機器の割合が高くなります。
必要最低限の医療機器に絞って、具体的な資金計画を立てていく必要があります。
不要な医療機器の購入などで、キャッシュフローを圧迫しないようにしましょう。
開業資金についての詳細は、以下の記事をご覧ください。
内装は高級感以外にも大切な要素がある
美容クリニックの場合、高級感のある内装をイメージして、多額の資金をかけるケースが多いです。
内装の設計では高級感を演出すること自体は間違いではないのですが、患者さん目線で次の点も忘れないようにしましょう。
・患者さんのプライバシーに配慮している
・待合室など十分なスペースが確保されている
・患者さんやスタッフの動線が確保されている
・パウダールームが広くて充実している
・控えめで落ち着いたデザインで緊張感を和らげている
また、開業コンセプト次第では、高級エステのような雰囲気を出さず、他の診療科目の医療機関のような内装にするという手もあります。
実際、あまりラグジュアリーな雰囲気や重厚感を出してしまうと、かえって患者さんを緊張させてしまうことがあります。
いずれにしても、医療機器同様に、患者さんの属性に合わせて内装も必要なところはお金をかけて、不要なところは省く姿勢が重要です。
詳細は、美容クリニックの施工に詳しい業者に相談するようにしてください。
実績・経験が豊富な医療技術の高いスタッフを採用する
美容外科医や看護師を採用する場合は、医療の質を保てるように、必ず実績と経験があるスタッフを採用します。
先ほどお伝えしたように、近年では保険診療の実務経験を積まないまま、直接美容外科医になるような若手医師も少なくありません。
しかも、以前より日本国内での美容外科に対する心理的ハードルが低くなり、さらに医療の質が下がりやすくなっているとも言われています。
サービスの側面が強いと言われる美容クリニックですが、医療の質を保てなければ、トラブルが起きやすくなります。
実際に、全国の消費生活センター等の美容医療サービスに関する相談件数は、年々増加傾向にあります。

※政府広報オンライン より抜粋
特に2020年以降、美容医療サービスに対する相談件数が増えていますが、美容クリニックが増加してきた時期と重なります。
どんなに内装やWebマーケティングに力を入れても、質の低い施術になってしまえばあっという間に悪評が広まります。
先生ご自身の医療技術が高いことはもちろんですが、スタッフの実績や経験も十分に考慮して採用しましょう。
接遇力の高いスタッフを採用して患者満足度を高める
医療技術の高いスタッフを採用することはもちろん、美容クリニックでは患者さんに対する接遇力も強く求められます。
美容クリニックは、施術だけでなく、サービスの側面がどうしても強くなります。
そのため、豊富な美容医療の知識に加えて、レベルの高い接遇が求められます。
その他、待ち時間の長さや予約のしやすさ、受付・会計対応なども患者満足度を大きく左右します。
院全体で患者満足度を上げられるように、教育することも大切になります。
また、患者さんに積極的にアンケートを取ることも重要です。
患者さんの不満を反映して改善していくことが、患者満足度向上の秘訣です。
患者満足度向上については、以下の記事をご覧ください。
Webマーケティングに力を入れるが制作会社に丸投げはしない
医院・クリニックには様々な集患方法がありますが、美容クリニックの場合は特にWebマーケティングが有効です。
美容医療は、比較的インターネットで探す患者さんが多い点と、比較的遠方からでも通ってもらえるためです。
評判の美容クリニックになると、全国から患者さんが集まるようなこともあります。
ホームページ制作やSEO、MEO対策、リスティング広告、ポータルサイト掲載、SNS運用、YouTubeなど予算の範囲内で検討しましょう。
ただ、制作会社にすべて丸投げしてしまうようなことは避けた方が良いです。
患者さんの属性や、どういう施術を欲しているかは、医院開業コンセプトを考えている先生しかわからないためです。
銀座マイアミ美容外科の丸山直樹先生は、前職の大手美容外科時代から、開業された今も、Webの広告宣伝に力を入れておられます。
銀座マイアミ美容外科様のホームページはこちら

制作会社に丸投げするようなことはなく、実際の患者さんの属性を自ら分析して、広告掲出のエリア、対象の属性などの指示を細かく指定されているそうです。
広告予算の配分についても、開業当初は毎週見直しており、経営が軌道に乗った現在も1ヶ月に1回は見直しているそうです。
銀座マイアミ美容外科の丸山先生のインタビューは、以下の記事をご覧ください。
美容クリニックでは、Web広告費に多額の投資をしがちで、資金繰りを圧迫するケースが少なくありません。
制作会社と密な連携を取って、PDCAを繰り返して最適化していきましょう。
医療広告ガイドラインの広告規制に注意する
美容クリニックは、Webマーケティングに力を入れた方が良いですが、その際気を付けなければいけないのが医療広告ガイドラインの広告規制です。
医療広告ガイドラインは、2018年に大幅に改訂されて厳格化されていますが、主に美容クリニックのトラブルが相次いだことが背景になっています。
つまり、医療広告ガイドラインは、美容医療などの自由診療を意識して作られたところがあり、特に美容クリニックは注意しなければいけません。
実際、医療広告ガイドラインは、景品表示法や薬機法に比べてもかなり厳格です。
虚偽・誇大広告(JAROで言うところの嘘、大げさ、紛らわしい)はもちろんのこと、体験談の記載はNGですし、特典やキャンペーンに関する記載もNGです。
ただ、院内掲示や院内で配布するパンフレット、書籍や冊子およびそれらを紹介する広告については医療広告とはみなされません。
そのため、医療広告ガイドラインの対象外になるので、体験談なども載せてOKになります。
実際、院内のディスプレイで患者さんの体験談を掲載している美容クリニックは多数あります。
このように、美容クリニックの場合は医療広告ガイドラインを遵守しつつ、戦略的な広告戦略が求められます。
少なくとも、医療広告ガイドラインに詳しい制作会社に相談するようにしましょう。
医療広告ガイドラインについての詳細は、以下の記事をご覧ください。
【まとめ】医療技術と接遇の質を前提にして無理のない資金で開業する
美容クリニックの開業についてお伝えしました。
美容クリニックは開業件数が増えてきている一方で、開業直後から経営不振に陥るケースが少なくありません。
実際、美容クリニックは開業資金、家賃、広告費ともに高額になる傾向があり、ハイリスク・ハイリターンの開業とも言われます。
患者さんの属性なども見極めて、無理なく費用対効果の高い内装や医療機器で開業することが理想です。
なお、美容外科や美容皮膚科の開業医・勤務医の年収や開業資金については、以下の記事で詳しく解説しています。

税理士法人テラス、テラスグループでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。
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監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。