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はじめに
スタッフ雇用・教育の悩みは、一般企業の経営者のみならず、歯科医院でも抱えていることでしょう。
能力不足や協調性の欠如による解雇トラブルや、人間関係のトラブルによる離職の問題、等々。
実際に歯科医院の院長先生で、人間関係のトラブルで悩んでいる人は多いと思います。
しかし、スタッフの定着にはこの問題を解決することは絶対条件です。
スタッフ教育や人間関係は長期的にも利益に直結しますし、放置しては精神的なストレスが溜まる一方です。
ここでは、歯科医院によく起こるスタッフ間のトラブルの対応策を紹介します。
スタッフとの関係にお悩みの歯科医院の先生は、ぜひ参考にしていただければと思います。
トラブルを未然に防ぐ歯科医院のスタッフ雇用
昨今、人材の確保の難しさは歯科医院も例外ではありません。
しかし人手不足だからといって、無理にスタッフを雇用してしまうと、後々トラブルのもとです。
例えばせっかくスタッフを雇用してもすぐに辞められてしまわれては、それだけ人件費を無駄にしてしまうことになります。
もっと最悪なのは、これまで良好だったスタッフとの関係までギスギスして、離職されてしまう可能性もあります。
そうなってしまっては本末転倒です。人件費をかけたにも関わらず、マイナスの結果になるようなことは避けたいもの。
人材確保が困難なほど、スタッフ雇用について焦るのもわかりますが、そういうときほど採用の時点での慎重さが必要になります。
歯科医院のスタッフの雇用についてチェックしたいポイントは以下の通りです。
(1)採用の面接に来る人の知識と経験
先生がどのような人材が欲しいかによって、基準は異なりますが、
知識と経験があるほうが即戦力になるのは間違いありません。
チェックリストを作成し、雇用条件を細かく設定していきましょう。
(2)前職の退職理由
志望理由だけでなく、前職の退職理由についても聞いておくようにしましょう。
雇用後のトラブルを避けるために、前職の雇用保険の離職票の写しを提出してもらうことも有用です。
(3)試用期間の設定
スタッフの試用期間を設けるようにしましょう。
また、単に期間を設けるだけではなく、試用期間中に達成してほしい条件を具体的に列挙して、新しく採用するスタッフに提示するのも良いでしょう。
スタッフ採用時には、試用期間専用の雇用契約書を締結することも考えていくべきでしょう。
歯科医院の経営理念の必要性
先生の歯科医院には経営理念はあるでしょうか。
そしてその経営理念はスタッフに浸透していますか?
経営理念は目に見えないものですが、経営理念が浸透しているかどうかは、スタッフのモチベーションに大きく関わってきます。
経営理念を共有できるスタッフと一緒に働くことは、未然のトラブル回避にも繋がります。
スタッフ雇用についても、志望者が先生の経営理念に共感しているかどうかは、とても重要なポイントになります。
経営理念をはっきり打ち出すことができれば、先生が求めるスタッフを採用することが可能です。
給料や休日数に惹かれて入ってきたスタッフと、自分の医院の経営理念に共感するスタッフ……、どちらを採用したいかは、明白かと思います。
また経営理念は、こういった人事的な理由だけではなく、他の歯科医院との差別化でも重要な要素になります。
経営理念は、集客やリピートなどの売上、スタッフ雇用・教育のすべての基礎になります。
経営理念がスタッフに浸透しているかどうかは、今後の歯科医院の将来を大きく左右すると言ってよいでしょう。
歯科医院の職場の人間関係の考え方
人間の悩みの85%は人間関係と言われていますが、歯科医院の先生にとっても、最も大きな悩みは対スタッフ、もしくはスタッフ間の人間関係といわれています。
スタッフに対する悩みの種は尽きないかもしれませんが、愚痴を言っても始まりません。
また飲み会などで、スタッフに対する愚痴ばかり言っては、さらにスタッフ間の人間関係を悪化させるだけです。
ここで職場の人間関係において、重要となる考え方でよく言われるのが
「過去と他人を変えることはできないが、自分と未来は変えられる」というものです。
歯科医院に限った話ではないですが、人間関係の悪化させる最大の要因は、自分を変えずに相手を変えようとしてしまうことにあります。
自分を変えずに相手を変えようとすると、どうしてもイライラしてしまいますし、スタッフ間のトラブルのもとになってしまいます。
スタッフを変えようとする前に、院長の自分がスタッフとどう接していけば良いかを考えることが、とても重要となります。
もちろん感情的に相手を批判したり、責め立てたりガミガミ怒るのは逆効果です。
歯科医院の人間関係を改善したいと考えるなら、自ら愚痴や批判を辞め、相手を受け入れるようにしたいところです。
しかし、これは言いたいことを我慢することではありません。
その方法では問題のあるスタッフは調子に乗りますし、有能なスタッフの不満を招いてしまいます。
「叱る」と「怒る」は違います。
叱るときは、何を伝えたいかを論理的に明確に伝え、相手の成長を促すような関わり方が必要です。
歯科医院の問題スタッフへの対応と解雇について
しかし、歯科医院の先生も1人の人間です。感情的に怒りたくなるようなこともあるでしょう。
特にイライラする原因が問題のあるスタッフである場合、「感情的になるな」と言われても限界があります。
そして、問題のあるスタッフに対しては、同じように他のスタッフもイライラしているはずです。
・いつまでも仕事を覚えず、スキルアップしない、する気がない給料泥棒
・歯科材料やその他器具を乱暴扱うスタッフ
・自分のお金を使うわけではないからと、やたらと無駄遣いするスタッフ
・被害妄想が激しいスタッフ
・やたらと派閥を作りたがるスタッフ
問題のあるスタッフの例を挙げればきりがないところですが、このようなスタッフには、辞めてもらうことも検討せざるを得ません。
実際に、就業規則において協調性の欠如をスタッフの解雇理由として定めるケースも多いです。
しかし、やはり解雇は、次の労働契約法16条に定められている通り、そう簡単にできるものではありません。
労働契約法16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
実際の訴訟の例を見ても、法的に解雇事由として認められることは限られてきます。
簡単に解雇できないのであれば、問題スタッフの雇用を未然に防ぐ手段が必要になります。(先に書いた雇用条件、試用期間の設定、理念の浸透など)
しかし、それでも問題行動を起こすスタッフが院内に出てくるのは防ぎきれないこともあると思います。
ただひとつ言えるのは、このような周りにストレス要因を撒き散らすスタッフ自身、大きなストレスを抱えている可能性が高いことです。
月に1回、院長が自らスタッフと面談している歯科医院は、スタッフとの関係が良好であるという報告もあります。
このように面談の機会を設けるなど、スタッフが悩みを打ち明けやすい環境を設定することも重要です。
トラブルを予防するための歯科医院の就業規則
次に、歯科医院の就業規則についてです。
労働基準法第89条(作成及び届出の義務)前段
常時10人以上の労働者を使用する労働者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければいけない。
労働基準法では、パートを含めた全スタッフ数が10名未満であれば、就業規則を作らなくて良いことになっています。
また歯科医院の先生のなかには、就業規則などの諸規定を整備することに抵抗を感じる人も少なくありません。
しかし、就業規則の作成義務がないとはいえ、一定のルールを明確化しなければ、スタッフによって扱い方が変わる恐れがあります。
そうなれば、当然スタッフのなかで不公平感が芽生え、大きな労使トラブルのもとになってしまいます。
就業規則の雛形については、「歯科医院 就業規則 雛形」と検索すれば無料のサンプルがたくさんあります。
法的な義務のない歯科医院でも、最低限労働基準法で定められたことは決めておくことをおすすめします。
歯科医院の人事評価制度は逆効果?
次は、歯科医院の人事評価制度の必要性についてです。
スタッフのモチベーションを上げるために、人事評価制度を導入する歯科医院も多いでしょう。
たしかに頑張ったスタッフが報われるような制度を作りたいと思うのは、スタッフのことを思う歯科医院の先生なら当然のことです。
しかし、この人事評価制度がスタッフとのトラブルを生み出してしまいかねません。
頑張った(と院長に認められた)スタッフが、処遇面で報われるようになると、その他のスタッフが白けてしまうことがあります。
じつは、このように評価されていないスタッフが白けてやる気をなくすケースはとても多いのです。
人事評価制度を取り入れたがために職場風土が悪化し、スタッフが次々と退職……このようなトラブルも決して少なくありません。
なぜかというと、人事評価制度の導入によって、スタッフは院長先生に目が向いてしまいます。
本来であれば、院長先生もスタッフも患者のほうに目を向けるべきです。
しかし、人事評価制度の導入によって、この「患者さんのために」が妨げられてしまいかねません。
もし、院長先生が営利追求型であれば、患者さんよりも、営利追求のために貢献したスタッフが評価されることになります。
そうなれば患者離れは起こる、スタッフが離職する、残ったスタッフとはトラブルは絶えない……。何も良いことはありません。
しかし、人事評価制度について否定的な見方をしているわけではありません。
逆に人事評価制度がなければ、今度は優秀なスタッフが報われず、優秀な人材を失うことになりかねません。
人事評価制度によって歯科医院良い方向に向かうか悪い方向に向かうか、大きな違いは、先に述べた経営理念です。
経営理念をスタッフに浸透させるということは、院長先生が営利を追求しつつも、常に患者さんに目が向いていることになります。
ブレない経営理念なくして、人事評価制度を取り入れてもトラブルの元になるだけでしょう。
また、人事評価制度だけではなく、得意分野を伸ばせる表彰制度の導入という手もあります。
院長先生も、スタッフも、患者さんもwin-win-winを目指せる制度を作っていきましょう。
まとめ
以上、歯科医院のスタッフのトラブルの対応策について書きました。
・ブレない経営理念を構築し、スタッフと共有する
・スタッフ雇用の際、トラブルを未然に防ぐ仕組みを構築する
・職場の人間関係の原則を知る
・問題のあるスタッフとの接し方に気をつける
・少人数の歯科医院でも就業規則を制定する
・人事評価制度は逆にトラブルの元になることがあることを念頭に入れておく
スタッフとのトラブルがないほど人間関係が良好なら、どのような歯科医院ができるでしょうか?
・院長もスタッフもストレスから解放される
・患者さんに目が行くようになる
・結果として利益が上がる
きっと、自分の思い描く歯科医院を作り上げることができるのではないでしょうか。
このなかで改善できることがあれば、ぜひ取り入れて、理想の歯科医院を目指していってほしいと思います。
ご相談・お問い合わせ

- 亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。
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