【歯科医院の人事労務】スタッフとのトラブル6つの対応策
一般企業に限らず、歯科医院についても、スタッフ雇用や教育、人間関係の悩みはよく聞きます。
実際に歯科医院の院長先生は、資金繰りなどのお金の問題だけでなく、スタッフとの関係でも悩んでいます。
歯科医院にとっても、スタッフ問題は長期的な利益に直結しますし、放置しては院長先生もスタッフも精神的なストレスが溜まる一方です。
ここでは、歯科医院でよく聞くスタッフ間のトラブルの対応策を紹介します。
スタッフ採用でトラブルを未然に防ぐ
以前から医業全体の課題となっていますが、歯科医院も人手不足に悩まされています。
しかし、人手不足だからといって、無理に歯科医院に合わないスタッフを雇用してしまうと、後々トラブルのもとです。
また、せっかくスタッフを雇用してもすぐに辞められてしまわれては、それだけ人件費を無駄にしてしまうことになります。
もっと最悪なのは、これまで良好だったスタッフとの関係までギスギスして、離職されてしまう可能性もあります。
そうなってしまっては本末転倒なので、スタッフ採用は次の視点で慎重に見極めるようにすることがおすすめです。
書類選考や面接については、以下の記事も参考にしてください。
採用の面接に来る人に求める知識と経験を明確にする
先生がどのような人材が欲しいかによって、知識と経験の基準は違ってきます。
知識と経験がある中途採用者の方が即戦力になるのは間違いありませんが、一方で人によっては前職までのやり方を押し通そうとすることもあります。
また、今度は未経験者のみになると、教育に時間がかかり、経験不足から初歩的なミスが発生しやすくなります。
そのため、経験者と未経験者はバランスよく採用することがおすすめです。
また、どちらにしても院長先生の治療方針を明確に伝えることを忘れないようにしましょう。
中途採用は前職の退職理由を確認する
中途採用の場合、前職の退職理由があれば面接時に確認しておきましょう。
退職リスクを判断するうえで、重要なポイントを判断できるためです。
前職の雇用保険の離職票の写しを提出してもらったりするだけでも、雇用後のトラブルを抑えることができます。
面接で前職の退職理由を質問する際のポイントについては、以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。
試用期間を設定する
歯科医院についても、スタッフの試用期間を設けるようにした方がいいこともあります。
単に期間を設けるだけではなく、試用期間中に達成してほしい条件を具体的に示して、新しく採用するスタッフに提示したいところです。
ただし、試用期間だからといって、簡単に本採用拒否ができず、安易に拒否すると不当解雇とされる可能性もあるので注意してください。
試用期間と似たようなものに、トライアル雇用がありますが、こちらは本採用拒否をしやすい反面、雇用条件が限定される点は注意してください。ただし助成金の対象になります。
歯科医院の経営理念をスタッフに浸透させる
先生の歯科医院の経営理念はスタッフに浸透していますか?
経営理念は目に見えないものですが、経営理念が浸透しているかどうかは、スタッフのモチベーションに大きく関わってきます。
経営理念や歯科医院の方向性をスタッフに共有することで、良好なスタッフマネジメントを実現できます。
スタッフ間のチームワークが良くなり、人間関係に悩むこともなくなります。
スタッフ採用についても、経営理念に共感しているかどうかは、採用の可否判断の重要なポイントになります。
経営理念をはっきり打ち出すことができれば、先生が求めるスタッフを採用することが可能です。
給料や休日数に惹かれて入ってきたスタッフと、自分の医院の理念に共感するスタッフ…、どちらを採用したいかは、もう明白ですよね?
また、経営理念は、こういった人事的な理由だけではなく、他の歯科医院との差別化でも重要な要素になります。
経営理念は、先生の治療方針や、集患や売上、スタッフ採用・教育など、歯科医院経営のすべての土台になります。
経営理念がスタッフに浸透しているかどうかは、今後の歯科医院の将来を大きく左右します。
スタッフを変えるのではなく院長先生がどう関われるかを考える
冒頭でもお伝えしたように、歯科医院の先生の90%はお金と人の問題で悩まされています。
人間関係を良好にして良好なスタッフマネジメントを築く方法はたくさんありますが、常に意識しておきたいことが、次の言葉です。
「過去と他人を変えることはできないが、自分と未来は変えられる」
多くの本でよく言われていることですが、人間関係の悪化させる最大の要因は、自分を変えずに、相手を変えようとしてしまうことにあります。
自分を変えずに、相手を変えようとすると、どうしてもイライラしてしまいますし、スタッフ間のトラブルのもとになってしまいます。
例えば、感情的に相手を批判したり、責め立てたり、ガミガミ怒るのは逆効果です。
歯科医院の人間関係を改善したいと考えるなら、それよりも、まずは相手を受け入れて自分なら何ができるかを考えるのが理想です。
しかし、これは言いたいことを我慢することではありません。
そんなことをしたら、問題のあるスタッフは調子に乗りますし、できるスタッフの不満を招いてしまいます。
「叱る」と「怒る」は違うということを聞いたことがある方もいると思います。
叱るときは、何を伝えたいかを、論理的に明確に伝え、相手の成長を促すような関わり方が必要です。
詳しいことは、以下の記事をご覧ください。
問題スタッフは解雇より先に退職勧奨を考える
人間関係を良好にするために、院長先生自身が関わり方を意識するのはもちろんなのですが、それでもどうしても問題スタッフが出てくることもあります。
問題スタッフを放置することがあれば、院長先生がストレスになるだけでなくスタッフも不満を感じるようになります。
・いつまでも仕事を覚えず、スキルアップしないスタッフ
・歯科材料やその他器具を乱暴に扱うスタッフ
・被害妄想が激しいスタッフ
・やたらと派閥を作りたがるスタッフ
・患者に対して無愛想なスタッフ
・他のスタッフにパワハラまがいなことをするスタッフ etc・・・・・・
問題のあるスタッフの例を挙げればきりがないところですが、このようなスタッフには、辞めてもらうことも検討する必要があります。
しかし、やはり解雇は、次の労働基準法16条に定められている通り、そう簡単にできるものではありません。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法16条(解雇)
先にスタッフ採用についてお伝えしましたが、問題スタッフの雇用を未然に防ぐため、面接時によく見極めておくことが必要です。
しかし、それでも問題行動を起こすスタッフが院内に出てくることはあります。
その際は、解雇を検討する前に、本人の同意が前提となる退職勧奨を検討しておくといいでしょう。
問題を起こす本人も、歯科医院での仕事が向いていないと感じているかもしれません。
なお、解雇に関する詳細は以下の記事をご覧ください。
就業規則の作成を慎重に考える
次に、歯科医院の就業規則についてです。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
引用元:労働基準法第89条(作成及び届出の義務)前段
つまり、労働基準法では、パートを含めた全スタッフ数が10名未満であれば、就業規則を作らなくて良いことになっています。
また、歯科医院の先生のなかには、就業規則などの諸規定を整備することに抵抗を感じる人も少なくありません。
しかし、就業規則の作成義務がないとはいえ、一定のルールを明確化しなければ、スタッフによって理不尽な扱い方が変わる恐れがあります。
そうなれば、当然スタッフの不満が増えて、トラブルのもとになってしまいます。
就業規則の雛形については、「歯科医院 就業規則 雛形」と検索すれば無料のサンプルがたくさんあります。
また、厚生労働省でも「モデル就業規則」というものもあります。
就業規則には、一長一短あり、最悪逆効果になることもありますがスタッフ数が10人未満のクリニックでも一度検討しておくといいでしょう。
人事評価制度の有無は慎重に検討する
次は、歯科医院の人事評価制度の必要性についてです。
スタッフのモチベーションを上げるために、人事評価制度を導入する歯科医院も多いです。
たしかに頑張ったスタッフが報われるような制度を作りたいと思うのは、スタッフのことを思う歯科医院の先生なら当然のことでしょう。
しかし、この人事評価制度がスタッフとのトラブルを生み出してしまいかねません。
頑張ったと院長先生に認められたスタッフが、処遇面で報われるようになると、その他のスタッフが白けたり不満を持たれたりするケースも多いのです。
そのため、人事評価制度を取り入れたがために、職場風土が悪化することも少なくありません。
注意しないといけないことは、人事評価制度の導入によってスタッフが院長先生に目が向いてしまうことです。
本来であれば、院長先生もスタッフも患者さんのほうに目を向けるべきです。院長先生も本来ならば、自分ではなく患者さんのほうに目を向けたいと思っていると思います。
しかし、人事評価制度の導入によって、この「患者さんのために」が妨げられてしまいかねません。
仮に院長先生が営利追求型であれば、患者さんよりも営利追求のために貢献したスタッフが評価されることになります。
そうなれば、患者離れ、スタッフの離職、スタッフ間のトラブルの発生が起きる可能性があります。
もちろん、人事評価制度について否定的な見方をしているわけではありません。
人事評価制度があることで、優秀なスタッフが正当に評価されて、モチベーションアップに繋がります。
人事評価制度が効果的になる歯科医院と、逆効果になる歯科医院の違いは、先に述べた経営理念です。
経営理念をスタッフに浸透させるということは、院長先生が営利を追求しつつも、常に患者さんに目が向いていることになります。
ブレない経営理念なくして、人事評価制度を取り入れても、トラブルの元になるだけでしょう。
また、人事評価制度だけではなく、得意分野を伸ばせる表彰制度の導入という手もあります。
院長先生も、スタッフも、患者さんもwin-win-winを目指せる制度を作っていきましょう。
【まとめ】スタッフと良好な関係を築いて理想の歯科医院を実現する
以上、歯科医院のスタッフのトラブルの対応策について解説しました。
- ・ブレない経営理念を構築し、スタッフと共有する
- ・スタッフ採用のときに、トラブルを未然に防ぐ仕組みを構築する
- ・職場の人間関係の原則を知る
- ・問題のあるスタッフにはやむを得ずに退職勧奨をすることがある
- ・少人数の歯科医院でも就業規則を制定する
- ・人事評価制度は逆にトラブルの元になることがある
スタッフとのトラブルがなくなるだけで、次のようなメリットがあり、マネジメントが大幅に改善します。
- 院長先生もスタッフもストレスから解放される
- 患者さんに目が行くようになる
- 結果として利益が上がる
そのため、自分の思い描く歯科医院を作り上げることができるでしょう。
もし、改善できることがあれば、ぜひ取り入れて、理想の歯科医院を実現してほしいと思います。
なお、労務に関するトラブルに関しては、詳細は最寄りの社会保険労務士に相談するようにしてください。
監修者
亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。