クリニック経営のマンネリ化を防いでスタッフのやる気を維持する7つの秘訣

公開日:2020年6月30日
更新日:2024年3月18日

最近スタッフのモチベーションも低下している。しかも、患者満足度も最近低いし、実際に来なくなった患者さんもいる。

最近毎日同じことの繰り返しだからか、全体的に覇気がない。もしかして、クリニック全体がマンネリ化しているのではないか?

医院・クリニックに限らず、経営が停滞する理由のひとつにマンネリ化があります。大規模な病院やクリニックであれば、人事異動などでマンネリ化を防ぐこともできます。

しかし、中小規模の個人開業のクリニックや医療法人では、そうもいきません。

そこで、今回はクリニックのマンネリ化を防ぐ秘訣について、考えます。

新人とベテランをバランスよく採用する

新人スタッフとベテランスタッフについては両方採用し、各々の業務にバランスよく配置するのが理想です。

職務によっては、スキルで熟練したベテランスタッフを多めに採用したい気持ちもあるでしょう。

しかし、ベテランスタッフばかりでは、今までのやり方を押し通そうとして、新しい治療や取り組みに消極的になりがちです。

その結果、時代に取り残されるのはもちろん、クリニックが全体的にマンネリ化した雰囲気ができ、結果としてスタッフのモチベーションに影響します。

もちろん、看護師にしても受付窓口にしても、新人スタッフばかりでは初歩的なミスが続き、患者さんの不安やクレームに繋がります。当然院長先生の教育時間も割かれてしまいます。

このようなことを防ぐため、新人とベテランを両方バランスよく配置すると良いでしょう。

そして、ベテランスタッフに新人の指導を担当してもらい、早い段階でスキルアップを促すことができます。しかも、院長先生が教育に携わる必要もなくなります。

新人であれば、比較的新しい治療や取り組みに積極的です。

経験年数が多い人を多く採用すれば良いとは限りません。偏りなく採用するようにしていきましょう。

風通しの良い職場にする

マンネリ化を防ぐためには、スタッフの意見が活発に出てくるような雰囲気を作り上げることが欠かせません。

トップダウン型のボスマネジメントがマンネリ化を生む

院長先生の方針を一方的に押し付けるトップダウン型のボスマネジメントでは、スタッフが意見を言いにくくなります。

ミスしてはいけない、間違ったことをしてはいけないという雰囲気が、かえって業務をぎこちなくしてしまい、スタッフは楽しく仕事ができません。

そればかりか、意見が言いにくいので、新しい取り組みを導入しづらくなり、早い段階でマンネリ化を招いてしまうでしょう。

クリニックに、常に新鮮な空気をもたらし、モチベーションを維持するには、スタッフと対等な立場で、意見を交わせる雰囲気が大切です。

不平・不満を言わないのは大量離職のサインの可能性も

このように考えると、不平・不満を言わないのは、必ずしも職場に満足しているだけでなく、風通しの良くない職場環境になっている可能性もあることがわかります。

単純に院内で意見を言い合って不平や不満を解消できるのであればいいですが、そうでない場合は大量離職などが発生する可能性もあります。

・不満が言いにくくて心の中で爆発しそう
・もはや不満を言うのを諦めて転職活動している

このような場合は、不平・不満が噴出している状態よりも事態は深刻です。

しかも、院内で言えなかった不満は、スタッフは退職後に口コミで言いふらす可能性もあるので、新規採用でもマイナスになる可能性があります。

そして、このような状態を生み出している原因が、先ほどお伝えしたボスマネジメントです。

もし、自分が一方的に方針を押し付けているだけで、スタッフに考える余地を与えていないのであれば、早急に改善を図りましょう。

相談者になれる人が1人以上いるのが理想

意見や質問が言いやすい雰囲気を作るには、潤滑油となるような相談者が1人以上いるのが理想です。

「この人には言いやすいけど、この人には言いにくい」「立場上、これを院全体に言うのは気が引ける」といった経験はないでしょうか?

そういったことを避けるために、相談できる人を設けるのもいいでしょう。

これは、事務長的な役割を持つ人が担うのもいいですし、院長先生の奥様が担うのもいいでしょう。

以下の記事も参考にしてみてください。

【関連記事】クリニックで事務長を採用するメリットと円滑な経営を実現する5つの方法

【関連記事】クリニックで働く院長の妻とスタッフとのトラブルを防ぐ6つのポイント

ほどよい緊張感を保つ

スタッフから活発な意見が出て、マンネリ化を防ぐには、風通しの良い職場にすることが第一条件になります。しかし、一方で緊張感を保つことも大切です。

クリニックの目指すことは、安心・安全の場を作ることではありません。安心・安全の場でスタッフが成長していける職場作りです。

程よい緊張感とは?

スポーツの例を挙げると、鹿島アントラーズの石井正忠元監督が大切にしていたのが、この「緊張感」だったと言います。

タイトルを獲得したシーズンと、優勝争いに絡めなかったシーズンの違いは、緊張感があるか、ないかだったと言います。

「結果を残せている時期は、練習から緊張感があります。
選手自身が積極的に練習に取り組み、お互いに要求し合う声が出ていたりする。練習にしっかりとメリハリがあります。
一方、結果が出なかった時期は、練習の雰囲気が悪かったり、選手が監督からの指示待ちだったり、ということがありました。
一定の緊張感があるなかで練習に取り組むことが、すごく大事なのだと思います」

鹿島アントラーズ 石井正忠元監督

クリニック経営の程よい緊張感

これはクリニック経営にも同じことが言えるでしょう。

石井元監督の言葉からわかるように、緊張感とは、「失敗してはいけない」というピリピリした空気感ではありません。

むしろ、選手(クリニックに置き換えればスタッフ)が各々の目標に向かって、自立的に動くことを言います。

石井元監督が言う「練習の雰囲気が悪い、選手が監督からの指示待ち」という状態が、「緊張感のない」状態とするならば、上記のボスマネジメントは、良い意味の緊張感を奪う行為とも言うことができるでしょう。

・「院長先生の言うこと聞かないと怒られる」「失敗したら説教される」というピリピリした空気のなかで仕事するか

・自分の職場での目標を掲げて、達成を目指す程よい緊張感で日々の仕事に励むか

どちらの緊張感がクリニック経営に良い結果をもたらすかは明白でしょう。

経営理念の浸透とゴール設定がマンネリ化を防ぐ

スタッフに長く働いてもらい、かつクリニック経営のマンネリ化を防ぐためには、やはりチームとしての土台が重要になってきます。

土台とは、経営理念であり、スタッフにも十分経営理念が浸透させ、大まかなゴール(院長先生の方針)を設定しておくことが重要です。

目標がなければ働くことが楽しくなくなる

マンネリ化に悩んでいるクリニックの多くは、スタッフが目標なく日々の仕事をこなしているケースが大半です。

「このクリニックで働いている間に、こういう人材に成長したい」

という、理念に基づいた目標設定がなければ、徐々にスタッフのモチベーションは下がっていきます。

「目に見えないものは重要視しない」これは日本人の特性として、よく言われることです。

しかし、理念や指針をスタッフに浸透させているクリニックと、そうでないクリニックでは、院全体の雰囲気が全然違います。

目標がなければ、いずれ働いていても楽しくなくなるのは当然です。

利益重視の自分の方針を押し付けるボスマネジメントではなく、院の方針を示した上で、自分なら何ができるか。

院長先生は、スタッフと一緒に考える機会を設けても良いでしょう。

経営理念の浸透は新しい良さを生む

どんなにクリニック経営を強化しても、どうしてもスタッフの退職は発生します。

離職率ゼロが理想ですが、自院の方針に合わないと感じて退職するスタッフもいるでしょうし、やむを得ない理由で退職するスタッフもいます。

しかし、クリニックの経営理念がしっかりしていれば、代わりに新しく入ってきたスタッフの成長を促進し、新しい良さも生まれます。

2012~2019年まで湘南ベルマーレの監督を勤めた曺貴裁監督(当時)は、このように語っています。

「それまで積み上げてきたものが選手の能力によって培われたものだとしたら、選手が入れ替わってしまうと継続性がなくなる。
けれども、チームの土台がしっかりあるチームならば、新しく入ってきた選手はそれを学ぼうとするし、すでにいた選手ともつながって、新しい良さが生まれる。
選手が入れ替わったからサッカーが変わるとしたら、個人に依存したスタイルだったということ。
我々のチームはそうではないし、そういうものを目指してもいません」

湘南ベルマーレの監督 曺貴裁監督(当時)

曺貴裁元監督の言葉を借りると、何のためにクリニックを経営し、何を目指して日々診療を行うことが重要かということです。

土台がしっかりしていれば、新しく入ってきたスタッフは治療方針を学ぼうとし、既存のスタッフとも連携して、新人ならではの良さも発揮します。

もし、スタッフの退職によってクリニックの経営が傾くようであれば、個人に依存したスタイルだったと言わざるを得ないでしょう。

土台がしっかりしていれば、院内の重要ポストにいるスタッフが入れ替わるようなことがあっても経営は揺るがず、かえって新しい良さを生み出します。

離職はない方がいいに越したことはないのですが、それでもスタッフは退職する時期が来ます。

スタッフが入れ替わっても揺るがないような経営理念を作りましょう。

一方的に教えるのではなく、考えさせる

先にお伝えしたボスマネジメントの一例になりますが、一方的に「こういう場合は、こうするんだ!」という一方的に押し付けるのはマンネリ化を招きます。

スタッフが考えなくなってしまい、指示待ち人間に育ってしまうためです。

指示待ち人間になってしまうと、チームの意図を汲んで動いてもらえなくなりますし、スタッフ自身、楽しく仕事ができなくなります。

そのため、何かスタッフがミスした場合、業務の生産性が低いような場合は、すぐに指摘するのではなく、考えさせるようにしましょう。

考えさせる教育とは?

では、一方的に教えるのではなく、考えさせる教育とは、どのようなものを言うのでしょうか?

それは、「どうすれば良いと思う?」「それはなぜ?」と問いかけることです。

もちろん、聞かれたことを「自分で考えろ」と突き放すのは、「何もしてくれない人」という不満を生みます。

院長先生や、先輩スタッフが明確な方向性を示すことができるなら、敢えてそれを言わず、一度スタッフに考えさせましょう。

その方が、スタッフは自主的に考えて仕事をする習慣が身につくので、自然と周りの意図を汲んで仕事をしてくれるようになります。

マンネリ化を防ぐことはできますし、チームの生産性は結果的に高くなるでしょう。

教育体制・プログラムの見直しも検討する

現状、スタッフに考えさせる機会が少ないと感じたら、教育時の接し方も重要ですが、場合によっては教育体制・プログラムの見直しも必要です。

一見矛盾するように見えますが、スタッフに考えさせるためには、教育内容はある程度統一したものでなければいけません。

先輩スタッフAさんから教わったことでBさんに怒られるようなことがあれば、スタッフは混乱し、かえって考えることが難しくなるからです。

そのため、経営理念などの土台と治療方針を共有し、教育プログラムを統一したものにし、さらに意見や質問がしやすい職場環境づくりを目指しましょう。

土台を共有することで、スタッフは自分で物事を考えることができるようになり、自発的に動けるようになります。

タスクの締め切りを守らせる

マンネリ化が浸透している場合、日々のタスクに対して、時間にルーズになりがちです。

時間にルーズになれば、業務の優先順位を考えずに「まあ、これは後からで良いか」となってしまいます。

だらだらと仕事をすることになり、生産性も上がりませんから、余計な残業代の発生に繋がることもあります。

ひどい場合だと「別の仕事で忙しいし、やらなくて良いか」に変わり、本来やるべき業務が進まなくなってしまいます。

緊急を要することでなくても、各々のタスクに締め切りをつけることで、時間を意識し、緊張感を保つようにしましょう。

また時間制限内で業務を終わらせることにより、スタッフが達成感や満足感を得られるようになるため、モチベーションの維持にも繋がります。

緊急性が低く、重要度の高い業務を優先的に

上記のように、各々の業務に締め切りを設けることも大切ですが、タイムマネジメントの話では、上の座標のように緊急性と重要性を意識することも大切です。

タイムマネジメントや自己啓発の書籍で多く紹介されている考え方なので、ご存知の先生もいるかもしれません。

長期的にクリニック全体の生産性を高め、しかもマンネリ化を防ぐには、次の緊急性と重要性のマトリックスに沿った考えは欠かせません。

緊急性が低く、重要度の高い業務の割合を増やす

上記の緊急性と重要性のマトリックスから、以下の4つの分類に分けることができます。

①緊急性:高、重要性:高
②緊急性:低、重要性:高
③緊急性:高、重要性:低
④緊急性:低、重要性:低

この中で、言うまでもなく最優先事項は①の緊急性も重要性の高い業務ですが、これが終わると、③の緊急度の高いことに取り掛かりがちです。

しかし、本来大事なことは、②の緊急性が低くて重要度が高いことで、優先順位としては、次のようにすることが理想です。

◎:①⇒②⇒③⇒④
×:①⇒③⇒②⇒④

また、①や③の時間を減らし、いかに②の緊急性は低いが重要度が高いものの業務の割合を増やすかが、長期的な生産性の向上に繋がります。

各々のクリニックによって違いますが、例えば緊急性も重要度も高いタスクというと、急患対応やトラブル対応などが挙げられるでしょう。特に生命に関わるような場合もあります。

一方、緊急度は低いが重要度が高い項目は、長期的なゴール設定を考えた際に必要な項目です。

例えば研修参加などの自己啓発にかかる時間、新しい治療の導入、生産性を高めるシステムの導入などが挙げられます。

日々のタスクに締め切りを設定する際も、この緊急性と重要性のマトリックスを意識して設定すると良いでしょう。

忙しさがマンネリ化を作る

この重要性と緊急性のマトリックスですが、あまり診療時間が忙しく、院長先生やスタッフに余裕がないと実行が難しいです。そして、院内のマンネリ化を生み出してしまいます。

つまり、①③のように常に緊急性の高い業務にばかり時間を取られている状態です。

人々の生命と健康を守るのが医療機関の役割ですから、診療科目によっては緊急度の高い治療が多くなります。

しかし、忙しすぎて精神的にも肉体的にも疲労してしまう状態では、本当に重要なことに目がいかなくなってしまいます。

そして、淡々と多忙な業務をこなすことだけになり、マンネリ化した雰囲気を作ってしまいます。

この状態が続けば、当然スタッフの離職や体調不良が相次ぐことになりますし、院長先生も本来の目的を忘れてしまうでしょう。

人件費を意識することも重要ですが、場合によっては新たな採用を検討し、即戦力となるような教育体制を築くことも重要です。

院長先生やスタッフに、多少の気持ちの余裕が持てるようになると、自ずと緊急度が低いが重要なことに目がいきます。

結果的に離職を防ぐことにも繋がり、余計な人件費を減らすことにも繋がるでしょう。

心身ともに余裕のある状態は、かえってメリハリを生み、経営の強化に繋がるのです。

【まとめ】安心・安全の空間の中で心地よい緊張感を

以上、クリニック経営のマンネリ化を防ぎ、スタッフのモチベーションを維持する秘訣についてお伝えしました。

大切なことは、「怒られてはいけない」というピリピリした緊張感ではなく、スタッフが内発的動機を促す緊張感であることがわかります。

このような心地よい緊張感は、トップダウン型のボスマネジメントではなく、むしろ安心・安全の空間の中でしか生まれません。

ぜひ、本記事で紹介した秘訣のうち、1つでも取り組めるようなことがあれば、ぜひ実践していきましょう。

スタッフマネジメントについては、以下の記事も参考にしてください。

【関連記事】成長に繋がるクリニックのスタッフ教育7つのポイント

【関連記事】医院・クリニックで働くスタッフのモチベーションを高める4つの秘訣

【関連記事】医院・クリニックのスタッフ間の人間関係5つの注意点

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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