医師の退職金はどれくらい?もらえないこともある?

公開日:2025年4月14日
更新日:2025年4月14日

給与が高い医師の先生は、退職金の相場が高いと思われがちです。

しかし、勤務先の病院やクリニックに「退職金制度がなかった」というケースも少なくありません。

また、フリーランスの先生や、個人開業医の先生には退職金がない点も注意が必要です。

退職金は、老後の人生や相続対策に大きく関わってきます。

ご自身の退職金の状況を把握して、老後に向けた資産形成や相続対策を考えて、準備しておくことが大切です。

医師は退職金がもらえないこともある?

まずは、退職時に勤務先から退職金をもらえるかどうかについてお伝えします。

勤務先の退職金については、最低限次のことは確認するようにしましょう。

法律上は退職金がもらえないこともある

法律上、雇用主は必ずしも退職金を労働者に支払わないといけないという義務はありません。

雇用契約書や就業規則についても、勤務先に退職金規程が特になければ、退職手当については記載しなくても良いことになっています。

冒頭でお伝えしたように、勤務先の病院やクリニックによっては退職金制度がないのはこのためです。

勤務先に退職金規程があれば退職金はもらえる

法律上は雇用主に退職金支払いの義務はありませんが、退職金規程があれば、退職金の支払い義務が発生します。

この場合、雇用契約書や就業規則にも記載しなければいけなくなるので、次の項目の記載があるはずです。

・退職金の支給(適用される労働者の範囲、支給要件など)
・退職金の額(勤続年数に応じた支給率など)
・退職金の支払方法及び支払時期
※【参考】厚生労働省「モデル就業規則

そのため、勤務先の退職金の有無については、まずは雇用契約書や就業規則を確認しておくと良いでしょう。

退職金規程がなくても退職金をもらえる可能性がある

勤務先によっては、就業規則や雇用契約書に退職金規程に関する記載がなくても、慣例的に退職金が支払われていることがあります。

この場合は、懲戒解雇などでない限りは退職金を請求できる可能性があります。

実際に、退職金規程がなくても、雇用主が退職金を支払うように命じた判例もあります。

⇒⇒⇒【参考】全国労働基準関係団体連合会:宍戸商会事件

求人応募時の求人票や勤務先のパンフレットに「退職金支給あり」などの記載がないか確認しておくと良いでしょう。

退職金規程がなく、退職金が慣行として支払われるような場合に問題となるのが算定方法です。

これまで同じような立場や勤続年数の医師に、どのような基準で退職金を支払ってきたのかということです。

何か基準があれば、それに従うことになりますが、勤務先の支払い能力によって前後する可能性はあります。

医師の退職金はどれくらい?

医師の退職金は、統計的な公的データがあるわけではないですが、勤務医の先生が定年まで勤務した場合は一般的に1,000~2,000万円と言われています。

大企業の会社員とあまり変わらないくらいの額ですが、あくまでも目安と考えてください。

勤務先の退職金の算定方法によって大きく変わりますし、勤務先の給与水準や勤続年数、支給率などによっても大きく変わってきます。

退職金の算定方法については、以下の4つのパターンのいずれかが取り入れられていることが多いです。

定額制基本給や業績は反映せず、勤続年数に合わせて一律の退職金が発生する
基本給連動型「基本給×支給率×退職事由係数」で計算される。支給率は勤続年数によって変動する
別テーブル型「基本金額×支給率×退職事由係数」で計算され、退職時の役職によって変わってくる
ポイント制「退職金ポイント×ポイント単価/(円×退職事由係数)」で計算される。基本給、勤続年数、役職、退職理由などの要件をポイントに換算する

退職金規程などで、退職金の計算方法がわかるので確認してみると良いでしょう。

医師の退職金が支払われるケース

勤務医・開業医の先生含めて、医師に退職金が支払われるケースは次の通りです。

大規模の病院・クリニックに長期間勤務している

大学病院や大きな医療法人など、比較的規模の大きい病院やクリニックに長期間勤務している場合は退職金が支払われる可能性が高いです。

先ほどお伝えしたように、退職金規程の有無や内容は確認しておくようにしましょう。

医局からの紹介により関連病院に勤務している

大学病院の医局からの紹介で関連病院に勤務している場合は退職金がもらえますが、勤務先が変わるごとにリセットされます。

そのため、多くの退職金はもらえないことが多いです。

雇用契約を結んでいる

退職金規程のある病院や企業と雇用契約を結んで働いていれば、退職時に退職金が支給されます。

この場合も、退職金規程の有無や内容をよく確認するようにしましょう。

医療法人の理事長や役員である

個人の開業医の先生には退職金はないですが、退職金規程のある医療法人の理事長や役員の先生であればもらえます。

一般的には「最終の月額役員報酬×勤続年数×功績倍率」の計算式で計算することが目安となります。

功績倍率については、理事長が3.0、理事や監事であれば1.5~2.5くらいが目安になります。

その他、顕著な功績があれば、特別功労金(30%以内の退職金を加算)をもらえることもあります。

医療法人の退職金は、もちろん法人税の損金計上ができます。

しかし、上記の目安から大きく逸脱して過大になってしまう場合は損金として認められない可能性があるので注意してください。

医師の退職金が支払われないケース

一方、次の場合は、医師の先生は退職金がもらえなくなります。

実際、医師の先生で退職金が支払われないというケースは少なくありません。

退職金規程のない小規模の医院・クリニックに勤務している

大規模の病院と違って、小規模の個人医院や医療法人は退職金規程がないことも珍しくありません。

特に開業間もなく経営が軌道に乗っていないような場合は、退職金を支払う余裕がないので十分あり得ます。

求人応募時や雇用契約時は退職金の有無を確認するようにしましょう。

勤務先の勤続年数が短い

勤務先の勤続年数が短い場合は、退職金が少額になりますし、そもそももらえないこともあります。

規定の年数に達していないと退職金が支払われない退職金規程となっていることも多いためです。

フリーランス医師として働いている

当たり前のことですが、フリーランスで働く医師は退職金がもらえません。

退職金規程のある病院やクリニックであっても、非正規雇用になるので退職金の対象外となります。

個人の開業医として働いている

フリーランス医師同様、個人事業主となる開業医の先生も退職金がありません。

退職金は、そもそも雇用主がスタッフに支払うものであり、雇用主がもらうものではないのです。

そのため、個人の開業医の先生は、後述するようにご自身で資産を形成していく必要があります。

退職金がない場合は自分で資産形成する

退職金がない場合は、自分で資産形成することになります。

具体的には、次のように税金対策をしながら老後の資金を形成していきましょう。

方法内容勤務医個人開業医
小規模企業共済小規模の経営者や個人事業主向きの積立による退職金制度。預貯金は増えないが、掛金は全額所得控除、引き出し時は退職所得が適用されるので税金対策が可能。×
企業型DC企業型確定拠出年金。雇用主が掛金を拠出して、スタッフが自ら年金資産の運用を行う制度。掛金は全額所得控除、運用益は非課税、引き出し時は退職所得が適用されるので税金対策が可能。
iDeCo掛金を自分で支払って老後に備える個人型確定拠出年金。税金対策については企業型DC同様の効果あり。
新NISA運用益が非課税になる。2024年より大幅に拡充された。
貯蓄型の保険変額保険、終身保険、養老保険など貯蓄性のある保険に加入して、満期保険金や解約返戻金を得る。法人保険の場合は法人税の損金算入ができる。

このように、様々な手段があるので、詳細は最寄りの医療専門FPなどに相談するようにしてください。

なお、上記の内容について気になる方は以下の記事もご覧ください。

医師に適した6つの投資と、投資に成功する医師の5つの特長

NISAやiDeCoなど、国が投資を推奨する政策を進めていることもあり、投資に関心を寄せる医師が増えてきています。実際、何もしないままではインフレリスクで現金の価値が目…

退職金にかかる税金は他の所得より低い

勤務先からもらえる退職金や、小規模企業共済やiDeCo、企業型DCを引き出した際のお金は退職所得に該当します。

退職所得の金額は、次の計算式で計算されます。

退職所得の金額=(退職金額-退職所得控除)×1/2

※退職所得控除

勤続20年以下40万円×勤続年数 (80万円に満たない場合は80万円)
勤続20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

あとは、計算された退職所得に応じた所得税を支払います。

退職所得は、退職金に退職所得控除を差し引いた金額の半分で計算されるので、他の所得より税金が低くなります。

退職金に関する税制については、今後見直す動きも出てきていますが、今のところ退職所得は税金対策上有利になります。

【まとめ】退職金の有無を確認して老後の資産形成をする

以上、医師の先生の退職金についてお伝えしました。

勤務医の先生は、勤務先によっては退職金が出ることもあれば、出ないこともあります。

また、個人開業医の先生は退職金が出ませんし、医療法人の理事長先生なら役員退職金という形で受け取ることになります。

そのため、一概に医師の退職金の相場がいくらという話はできません。

ただ、勤務医の先生が定年を迎える際の退職金は1,000~2,000万円が目安となるでしょう。

もし、退職金を受け取れないようであれば、新NISAやiDeCoなどで計画的に老後の資産形成をすると良いでしょう。

最後までご覧いただきありがとうございました。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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