脳神経外科の開業医・勤務医の年収は? 開業資金や注意点も解説

公開日:2019年3月1日
更新日:2024年3月18日

脳神経外科で開業しようと考えている先生に向けて、脳神経外科の開業医・勤務医の年収、開業資金の目安、開業事例について解説します。

脳神経外科はCTやMRIなどの大掛かりな医療機器を導入するかどうかで開業資金が大きく変わってきます。

また、診療内容によって開業医の年収は比較的バラツキが出やすいところがあります。

そのため、本記事で出している金額などについてはあくまで参考値として捉えてください。

脳神経外科の勤務医の平均年収は1,480万円

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によると、脳神経外科の勤務医の平均年収は1,480.3万円です。

これは、勤務医の平均年収ではもっとも高く2番目に高いのが産婦人科の1,466.3万円、3番目が外科の1374.2万円です。

たしかに脳神経外科は勤務医のなかでは年収が高いイメージはあるかもしれません。

もちろん、勤務医になると年齢層によっても変わってきます。

同調査では年収層の分布についても掲載されており、一例として一般外科と比較すると次の通りです。

 脳神経外科外科
年収300万円未満1.0%2.1%
年収300~500万円3.9%2.4%
年収500~700万円2.9%4.7%
年収700~1,000万円10.7%11.8%
年収1,000~1,500万円21.4%27.9%
年収1,500~2,000万円40.8%39.1%
年収2,000万円以上19.4%12.1%

このように、年収1,500万円以上が全体の60%程度、2,000万円を超える層も20%弱と、かなり高年収層の割合が多いと言えます。

外科と比較しても、年収1,500万円を超える割合は外科より多くなっています。

脳神経外科の年収が高い理由としては、くも膜下出血や脳卒中のように命に関わる緊急手術が多いことが要因として考えられます。

こういう生死に関わる治療が多く、緊急の対応が多い診療科目といえば脳神経外科以外にも産婦人科、外科が挙げられます。

いずれも勤務医のなかでは高年収の診療科目である一方で、人手不足の状態が続いている診療科目です。

厚生労働省の「平成30年度第4回医道審議会医師分科会医師専門研修部会」資料でも、この3つの診療科目は、必要医師数に比べて実際の医師数が少ないことがわかっています。

緊急の対応が多くなると責任が求められると同時にワークライフバランスが維持しづらいので、高年収でも敬遠される現状があるかもしれません。

脳神経外科の開業医の年収は?

一方で、脳神経外科の開業医の年収については、医療経済実態調査でも損益差額が示されておらず、明確な根拠で目安を示すことはできません。

ただ、肌感覚としては一般的な開業医とは傾向が大きく変わらないか、少し高年収というところで、平均すると2,500~3,000万円くらいではないかと思われます。

脳神経外科も診療内容によって年収は大きな差が出て、高年収になると年収8,000万円くらいの先生もいらっしゃるようです。

しかし、これは借入金の返済などを含まない金額です。

後述するようにCTやMRIなどの大型の医療機器を持つと開業資金が多くなり、借入金の返済額が多くなります。

そのため、損益分岐点を超えられるようになるまでに時間がかかり、手元に残るお金は他科の開業医の先生より少なくなることも考えられます。

年収に関しては比較的他科よりは高年収のイメージはありますが、借入金の返済期間を十分考えないと失敗するリスクが高くなります。

脳神経外科の開業資金の目安

冒頭からお伝えしている通り、脳神経外科で気になるのは開業資金です。

脳神経外科の開業には、以下の2パターンが考えられます。

  1. CTやMRIなどの大型医療機器を持たず、他の病院と連携する
  2. 自前のCTやMRIを導入する

CTやMRIのような大型医療機器を導入しないのであれば、開業資金は一般的な外科とは大きく変わりません。

だいたい5,000~6,000万円くらいが目安になると考えていいでしょう。自己資金ゼロで、融資だけで賄えそうな額ではあります。

しかし、クリニック開業の時点でCTやMRIを導入する先生は多く、この場合になると開業資金は最大で2億5,000万円程度かかります。

もちろん、CTやMRIを導入するのであれば、しっかりと資金計画を立てて計画的に返済しなければいけません。

ただ、今では金融機関も脳神経外科クリニックの開業は資金が必要なことはわかっているので、融資の交渉で必要以上に身構える必要はないでしょう。

脳神経外科開業の主な注意点

ここで、開業資金が多めにかかる傾向の脳神経外科クリニック開業の注意点についてお伝えします。

CTやMRI導入時は内装費や運転資金も考慮に入れて総合的に判断する

CTやMRIは医療機器そのものの価格が大きいですが、必要スペースが大きくなるので内装費にも大きな影響を与えます。

特にMRIについては外からの磁気をシールドしなければいけないので、シールド工事を施す必要があります。これを考えると最低でも60坪程度は必要と言われています。

さらにMRIは重量が大きいので、機器の総重量に対する床の耐荷重も考慮に入れて設計しなければいけません。

CTやMRIについては施設基準も明確に設定されています。

以上のことから、脳神経外科の開業は内装費にも要注意しなければいけません。

あと運転資金で注意したいのが診療放射線技師の人件費です。

医師や看護師、受付だけでなく、放射線技師も何人採用するか明確にしておく必要があります。

CTやMRIを導入する際は、このような総合的なコストを考えて導入機器を考えるようにしましょう。

リハビリ施設を置くかどうかを検討する

脳神経外科クリニックの開業で、内装や運転資金の観点で重要な検討事項がリハビリ施設の有無です。

脳梗塞やくも膜下出血などの病気の患者さんは、例え命が助かったとしても長期間のリハビリが必要となる可能性が高いです。

そのため脳神経外科クリニックでも理学療法士を採用してリハビリ施設を設置するようにすれば、一定の需要が見込まれ、収益の柱となるかもしれません。

ただし、必ずリハビリ施設を設置する必要はなく、他の連携できる病院や医院・クリニックがあれば連携することでも良いかと思います。

これは開業するクリニックの方針次第というところです。

整形外科の開業もそうですが、脳神経外科クリニックの開業でも、放射線技師や理学療法士の採用が必要なこともあるので、人件費については要検討です。

このように、脳神経外科クリニックの場合は、開業準備の時点で明確にしなければならないことが多い科目と言えます。

段階的な設備投資を検討する

医療機器をすべて揃えようとすると、開業資金が億単位かかり、借入金の返済額が多く、長くキャッシュフローを圧迫する可能性があります。

場合によってはすべて機器を揃えた方がいいような場合もありますが、資金との段階的に設備投資することも検討する必要があります。

開業時にすべて揃えたが、実はあんまり使用していないということも十分あり得ます。CTやMRIに限らずエコーや心電図機器も含めて開業時に必要な機器は十分検討しましょう。

また、医療機器は購入ではなくてリースにすることも考えるようにして、どちらが合っているか検討するようにしてください。

物件は内装の大きさも考慮して選定する

大型の医療機器を導入するかしないかで、適切な開業場所が変わってきます。

できるだけアクセスがよく、駅から近い場所や車で通院しやすい場所に開業できればいいことは言うまでもありません。

しかし、脳神経外科の場合はスペースが大きくなる傾向にあるので、ある程度の敷地が必要となることが多いです。

そのため、内装の大きさも考慮して物件を選定するようにしてください。

CTやMRIを導入しないなら、近くに紹介できるCTやMRIを導入している病院やクリニックがあるのが理想です。

他科の病院・クリニックとの連携を図る

CTやMRIなどを導入するのであれば、「内科」「外科」「産婦人科」などと連携を行って、CTやMRIが必要な患者さんを紹介してもらうようにしましょう。

脳疾患の手術が必要な場合も同様です。

そのため、開業前から近隣の病院やクリニックに周知するようにしていきましょう。

脳神経外科の開業事例~せたがや上町脳神経クリニック~

脳神経外科の開業事例として「せたがや上町脳神経クリニック」を紹介します。

せたがや上町脳神経クリニックは、長いこと脳神経外科医として多くの手術経験を積んだ高見先生が、予防医療に特化して取り組んでいこうと開院したクリニックです。

せたがや上町脳神経クリニックは最新型のMRIやCTを導入しています。

これは大きな病院ではMRIの検査などが順番待ちになることが珍しくないので、早い検査をしたい患者さんにも有効とのことです。

高見先生が、どのように開業されたかは、詳しくは以下のインタビューをご覧ください。

【関連記事】せたがや上町脳神経クリニック

【まとめ】脳神経外科は開業資金に要注意

以上、脳神経外科の勤務医・開業医の年収と開業資金の目安、注意点についてお伝えしました。

CTやMRIを導入し、リハビリ施設も用意するとなると、多額の開業資金や運転資金が必要となる脳神経外科は、開業準備の資金計画の重要度が高くなります。

多少借入金の返済期間が長くなることは仕方ないにしても、十分採算が取れるのか、手元に資金が残るのかを検討しなくてはいけません。

医療機器や内装については慎重な検討が必要となるでしょう。

資金面だけでなく、理学療法士や放射線技師などの採用も必要となるので、スタッフマネジメントも重要となります。

脳神経外科の開業をお考えの先生は、ぜひご相談ください。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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