少子高齢化に伴い、在宅医療(訪問診療)のニーズは高まっており、実際に厚生労働省等の調査から上昇傾向にあります。

そのため、在宅医療を行う医院・クリニックの開業に興味を持つ先生が増えてきています。

在宅医療の特徴は、まずは医業収入という点では診療報酬点数が高めに設定されている点です(在宅療養支援診療所に適合している場合)。

また、ほぼ外来のない在宅医療専門の医療機関を開業する場合は、開業資金を安く抑えられます。

その点を踏まえて、在宅医療を行う開業医・勤務医の年収の目安、開業資金や開業前に知っておきたいことについてお伝えします。

在宅医療を受ける患者の数は今後も伸び続ける

上のグラフは、厚生労働省が発表している「平成29年(2017)患者調査の概況」のなかの「在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移」を抜粋したものです。

この図から見てわかるように、在宅医療を受けた患者数は、2008年以降増加傾向にあることがわかります。

2017年時点では、在宅医療を受けた推計外来患者数は、18万人程度ですが、これが2025年には29万人まで増えると見られています(厚生労働省「在宅医療の最近の動向」より)。

なお、上の表は、先の「平成29年(2017)患者調査の概況」に掲載されている「年齢階級別にみた在宅医療を受けた推計外来患者数」です。

これを見ると、在宅医療を受けた患者の半数以上が65歳以上であることがわかります。

しかし、逆に言えば小児や65歳以下の成人も半数近くいることになります。小児や成人の在宅医療も年々増加傾向にあり、今後は高齢者に限った話ではなくなるでしょう。

少なくとも、在宅医療のニーズは間違いなく今後も高まり続けると考えられます。

在宅医療を行う開業医・勤務医の年収は?

在宅医療を行う医療機関に特化した開業医と勤務医の年収に関する参考データは、今のところありません。

ただ、あくまで推測ですが在宅医療を行う開業医、勤務医の年収は、開業医全体の平均年収を少し上回っていると考えられます。

なぜかというと、往診料や訪問診療などの診療報酬点数が高く設定されているためです。

外来(再診料)が72点であることに対して、往診料が720点、訪問診療(在宅患者訪問診療1)が833点なので、10倍程度高くなっています。

これは、人員などのリソースが外来よりも多く必要とされることから、このような診療報酬となっています。

また、在宅医療を行う医院・クリニックの勤務医の求人情報を確認すると、年収1,500~2,000万円程度の募集が少なくありません。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によれば、内科勤務医の平均年収は1247.4万円です。

経験や職位にもよりますが、この内科の平均年収と同等、もしくはそれ以上の年収も期待できると言っていいでしょう。

在宅医療を行う医院・クリニック開業の必要資金の目安は?

在宅医療を行う医院・クリニックには、通常の外来を行いながら在宅医療をするのか、在宅医療のみを実施するかの2パターンがあります。

前者の場合は、他の診療科目の開業とあまり変わりませんが、後者の場合は開業資金の相場がかなり下がります。

在宅医療のみの医院・クリニックを開業するのであれば、診察室を設ける必要がなく、医療機器も必要なかったり必要最低限だったりします。

机やパソコンなど事務的に必要な備品は必要ですが、他の診療科目のように広い診療スペースを考える必要がありません。

そのため、一般的な医院・クリニックの開業よりはかなり必要資金が少なく、初期の運転資金を含めても2000~2500万円程度です。

在宅療養支援診療所(在支診)

在宅療養支援診療所とは、在宅医療を受ける患者さんのために、地域で責任をもって診療するための評価基準です。

よく在支診と略されます。

すべての在宅療養支援診療所が満たすべき基準

以下のように、すべての在宅療養支援診療所は、24時間の在宅医療の体制とすることが必要となります。

① 24時間連絡を受ける体制の確保
② 24時間の往診体制
③ 24時間の訪問看護体制
④ 緊急時の入院体制
⑤ 連携する医療機関等への情報提供
⑥ 年に1回、看取り数等を報告している

24時間体制でなくても在宅医療はできますが、在宅療養支援診療所の基準を満たすには、24時間体制が必要ということです。

在宅療養支援診療所の基準を満たしているかどうかは、先ほどお伝えした診療報酬の評価に大きな違いがあるので、よく確認しておきましょう。

機能強化型の在宅療養支援診療所が満たすべき要件

さらに在宅療養支援診療所には、以下のように3つの区分に分けられます。

  1. 単独で24時間体制の緊急連絡、往診体制を取る「単独型」
  2. 複数の病院やクリニックが協力連携する「連携型」
  3. 「単独型」「連携型」の要件を満たさない在宅療養支援診療所

所定の要件を満たした単独型、連携型については機能強化型の在宅療養支援診療所と言われており、2012年に新設されています。

これは、在宅療養支援診療所によって、実際の診療内容や実績に大きな差がある実態を考慮して新設されたものです。

そのため、この区分の違いで、診療報酬の評価に違いがあります。

単独型と連携型の必要要件の違いは以下の通りです。

単独型連携型
在宅医療を担当する常勤の医師3人以上在宅医療を担当する常勤の医師連携内で3人以上
過去1年間の緊急往診の実績10件以上過去1年間の緊急往診の実績連携内で10件以上、各医療機関で4件以上
過去1年間の看取りの実績又は超・準超重症児の医学管理の実績いずれか4件以上過去1年間の看取りの実績連携内で4件以上かつ、各医療機関において、看取りの実績又は超・準超重症児の医学管理の実績いずれか2件以上

※厚生労働省「在宅療養支援診療所(在支診)及び在宅支援病院(在支病)の施設基準の概要(平成30年度~)」より抜粋

このように、クリニック単独で診療体制や実績を求められる単独型はかなりハードルが高いところがあります。

在宅医療専門の医院・クリニック開業の注意点

在宅医療を行う医院・クリニックを開業する際は、在宅医療専門とするのか、通常の外来も兼ねるのかを決めておかなくてはいけません。

在宅医療を専門とする場合は、開設要件や施設要件に一定のハードルがあります。

しかし、以下の要件を満たさなくても在宅療養支援診療所の要件を満たせば診療報酬等の評価についてはクリアできるので、あくまで目安と捉えてください。

在宅医療専門の医院・クリニックの開設要件

厚生労働省「在宅医療のみを実施する医療機関に係る保険医療機関の指定の取扱いについて」によれば、在宅医療専門の医院・クリニックを開業する際は以下の要件を満たさないといけないとされています。

(1)無床診療所であること。

(2)当該保険医療機関において、在宅医療を提供する地域をあらかじめ規定し、その範囲(対象とする行政区域、住所等)を被保険者に周知すること。

(3)(2)の地域の患者から、往診又は訪問診療を求められた場合、医学的に正当な理由等なく断ることがないこと。

(4)外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、(2)の地域内に協力医療機関を2か所以上確保していること(地域医師会(歯科医療機関にあっては地域歯科医師会)から協力の同意を得ている場合にはこの限りではない)。

(5)(2)の地域内において在宅医療を提供し、在宅医療導入に係る相談に随時応じること及び当該医療機関の連絡先等を広く周知すること。

(6)診療所の名称・診療科目等を公道等から容易に確認できるよう明示したうえ、通常診療に応需する時間にわたり、診療所において、患者、家族等からの相談に応じる設備、人員等の体制を備えていること。

(7)通常診療に応需する時間以外の緊急時を含め、随時連絡に応じる体制を整えていること。

在宅医療専門の医院・クリニックの施設要件

在宅医療専門の施設要件としては、先にお伝えした在宅療養支援診療所の条件に加えて、次の5つを満たしている必要があります。

このように考えると、在宅医療専門の在宅療養支援診療所の開設要件は、ややハードルが高いと考えられます。

①在宅患者の占める割合が95%以上
②5か所/年以上の医療機関からの新規患者紹介実績
③看取り実績が20件/年以上または15歳未満の超・準超重症児の患者が10人以上
④(施設総管の件数)/(在総管・施設総管の件数)≤0.7
⑤(要介護3以上の患者+重症患者)/(在総管・施設総管の③看取り実績が件数)≥ 0.5

【まとめ】今後の医療に在宅医療(訪問診療)は不可欠

以上、在宅医療を行う医院・クリニックの開業医・勤務医の年収の目安、開業資金の目安や開業前に知っておきたいことについてお伝えしました。

診療報酬の観点からも、在宅医療が充実していることが積極的に評価されていることがわかります。

このように国も在宅医療に関して積極的な姿勢を示し、実際に在宅医療のニーズが今後も高まることはほぼ明白です。

今後内科などで開業を考えている先生は、外来を中心にするにしても、在宅医療を行うかどうかは検討した方がいいでしょう。

なお、一般内科の開業資金や注意点、開業医の年収についての記事は、こちらをご覧ください。

【関連記事】内科の開業医の年収は?勤務医の年収との比較と開業資金についても解説

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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