産婦人科の開業資金や重要ポイントは? 開業医・勤務医の年収についても解説
産婦人科で開業しようと考えている先生に向けて、開業医・勤務医の年収、開業資金の目安、開業の重要ポイントについて解説します。
産婦人科や婦人科の開業は、お産や不妊治療、人工中絶に対してどこまで治療するかによって大きく予算が違ってきます。
本記事では産婦人科について中心にお伝えし、妊婦ではなく女性特有の病気に特化した婦人科については別記事で紹介します。
※本記事で出している年収額や開業資金などの金額は、あくまで目安として参考値として捉えてください。
産婦人科と産科、婦人科の違い
産婦人科で開業するか、お産のない婦人科で開業するか、妊婦に特化して産科で開業するか検討している先生もいらっしゃるかと思います。
また、産婦人科でも、産科・婦人科どちらに力を入れるか考えている先生もいらっしゃるでしょう。
そこで、まずは産婦人科と産科、婦人科の統計データ上の違いについて簡単にお伝えします。
産婦人科、産科、婦人科の医師数
「2018年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、産婦人科、産科、婦人科の医師数としては、次のようになっています。
病院 | 診療所 | |
---|---|---|
医師数の総計 | 298,127人 | 103,836人 |
産婦人科 | 6,706人 | 4,072人 |
産科 | 445人 | 109人 |
婦人科 | 847人 | 1,097人 |
言うまでもなく、病院、診療所ともに産婦人科を標榜していることが多いです。
ただ、病院に比べると、診療所の方が婦人科の割合が多くなっていることがわかります。
病院については、産婦人科、産科、婦人科の合計に対する婦人科の割合は10.6%に対して、診療所は20.8%です。
本記事は産婦人科の開業を中心にお伝えしますが、レディースクリニックをはじめ、診療所になると婦人科の割合が多くなります。
これは、不妊治療をはじめ、お産以外の女性特有の病気だけでも需要が高まっていることが一因としてあると考えられます。
この点については、婦人科開業の記事で詳しくお伝えしたいと思います。
産婦人科、産科、婦人科の女性医師の割合
産婦人科、産科、婦人科ともに、女性患者を診療する科目なので、女性医師の割合が高いイメージです。
同じく「2018年医師・歯科医師・薬剤師統計 」では、産婦人科、産科、婦人科の女性医師の割合を見てみると、以下のようになります。
病院 | 診療所 | |
---|---|---|
全診療科目の女性割合 | 23.0% | 19.6% |
産婦人科 | 44.5% | 26.4% |
産科 | 40.0% | 14.7% |
婦人科 | 36.7% | 39.7% |
このように見てみると、やはり産婦人科、産科、婦人科ともに女性医師の割合が高いことがわかります。
ただ、婦人科は病院、診療所ともに女性医師の割合が高いですが、産婦人科と産科は、診療所になると女性医師の割合が低くなっていることがわかります。
お産の対応がない婦人科に比べると、勤務時間が不規則になりがちな産婦人科は、ワークライフバランスを取りづらいことも一因として考えられます。
ただ、患者さん側から見れば、産婦人科も婦人科も、女性特有の悩みや感情が理解できる女性医師の方が安心感を生むことがあるでしょう。
そのため、産婦人科についても女性医師のニーズはかなり高いと考えられます。
産婦人科の勤務医の年収
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によれば、産婦人科の勤務医の年収は1,466.3万円です。
同調査では、脳神経外科の1,480.3万円に次ぐ高水準で、産婦人科の勤務医の先生は、比較的高水準であることがうかがえます。
産婦人科の次に勤務医の年収が高いのは外科(1,374.2万円)です。
これらの診療科目に共通するのは、労働条件が過酷で直接患者さんの命に関わるといった、ややネガティブなイメージも先行している点です。
たしかに産婦人科の場合、妊婦のお産の時間がコントロールできないので、労働時間が不規則になりがちです。
このような背景もあって、時間外労働が発生しやすく年収が高くなっていると考えられます。
逆に眼科や皮膚科など、ワークライフバランスを取りやすいと言われる診療科目の勤務医の年収は低めです。
勤務医の年収となると、労働条件の過酷さと年収が反比例する傾向にあります。
産婦人科の開業医の年収
第22回医療経済実態調査の一般診療所(個人・青色申告を含む)で、医業・介護収益から費用を引いた損益差額を年収とした場合、産婦人科の開業医の先生の年収は4,551.9万円と算出されています。
同調査の全開業医の平均年収は2,763万円(健保連の算出)で、2番目に年収の高い眼科が3,377.9万円であることを考えると、産婦人科だけ突出しているように思われます。
ただ、「医療経済実態調査」については、調査客体によって無作為に抽出するため、数値が大振れすることも考えられます。
産婦人科の医院・クリニックの診療科目別利益については、第21回医療経済実態調査では1860.4万円と、2倍以上の差があります。
肌感覚でも産婦人科の開業医の先生だけ突出して年収が高いとは考えられないので、あくまで参考程度と捉えるのが妥当でしょう。
多くの産婦人科の開業医の先生の年収は、だいたい2,500~3,500万円くらいの先生が多い印象にあります。
産婦人科の開業資金の目安
冒頭でお伝えしたように、産婦人科の開業資金については、お産や不妊治療、人工中絶などをどこまで対応するかによって、開業資金が大きく変わってきます。
産婦人科のクリニック開業では、出産前後の検診には対応するが、分娩は取り扱っていないケースが多くあります。
分娩なし、さらに人工中絶なしの産婦人科を例にしても、最低でも4,000~5,000万円と、内科や他の診療科目と同等の開業資金が必要になると考えられます。
もちろん、さらに損益分岐点に達するまでに運転資金を用意する必要がありますし、分娩を取り扱う場合は、土地・建物がかなり大きくなります。
分娩を取り扱う場合は8,000万円~1億円の開業資金が必要になる場合もあります。
また、不妊治療についても開業資金は大きく左右され、最新の医療機器を導入することになれば、やはり上乗せして開業資金がかかります。
このように産婦人科は分娩、不妊治療、人工中絶など、どこまで扱うかを開業前に検討しておく必要があります。
そして、無駄なコストがかからないように準備しておきましょう。
ただ、逆に考えてみれば産婦人科の開業は、差別化を明確に図りやすいところがあります。
どの治療に力を入れるとしても、開業資金は上乗せして必要になりますので、コンセプトを明確にして必要額を投資するようにしましょう。
産婦人科開業の重要ポイント
最後に、産婦人科開業の重要ポイントについてお伝えします。
様々な選択肢があるので、治療方針をしっかりと決め、他の競合と差別化を図りつつ、無駄なコストを削っていきましょう。
物件の選定は慎重に
産婦人科の開業については、結婚している女性患者さんが通えるように、都心の一等地よりも住宅街の方が比較的多くなります。
そのため、新築の戸建て建設の場合が多いですが、どれくらいの大きさの土地・建物が必要かについては、すぐには回答できないところがあります。
繰り返しになりますが、分娩を扱うかどうかなど、治療方針によって必要な大きさが大きく変わってくるためです。
内装費用についても、導入する医療機器によって大きく選択肢が変わってきます。
例えば大きな医療機器を導入する場合は搬入経路や耐荷重の確認も必要になってきますので、十分検討するようにしましょう。
一方で、産婦人科を標榜しつつ、婦人科に近い診療内容であれば、駅近のテナント物件などで開業するのも検討する余地があります。
医療機器の選定も慎重に
産婦人科では、内科以上にエコー(超音波診断装置)やX線関連など、内科に比べると特殊な医療機器が必要となるケースが多くなります。
また、不妊治療に力を入れる場合は、最新の医療機器が必要になったり、研究用の設備が必要になったりすることもあるでしょう。
不妊治療にどこまで力を入れるか決めておく
産婦人科の場合、お産の対応をどこまでするかを決めておくのは言うまでもないのですが、不妊治療についても、どこまで力を注ぐかを決めておかなくてはいけません。
少子高齢化対策の1つである不妊治療については、今後も需要が高く、将来性は高いですが、一方で治療方針が様々あります。
一般的な不妊治療にするのか、高度で最新の不妊治療まで行うのかによって大きく開業資金が変わります。
専門性の高い領域ですので、不妊治療を行う場合は、じっくりと治療方針を決めましょう。
女性が安心して通える設備、内装、雰囲気づくり
産婦人科に通うのは女性の患者さんだけなので、安心して通える設備、内装、そして雰囲気づくりが必要です。
例えば、トイレだけでなくパウダールームも用意している産婦人科クリニックは多いですし、プライバシーへの配慮が必要なことがあります。
特に婦人科にかかる病気の場合は、院内が外から見えないような配慮が必要な場合もあるでしょう。
これらについては、治療方針や想定する患者さんの属性、立地によって変わってきますので、詳細を詰める際に検討していきましょう。
設備や内装だけでなく、デリケートになっている妊婦さんや赤ちゃんがリラックスできるような雰囲気づくりも大切です。
そのため、スタッフに対する接遇教育も重要になってきます。
女性医師の開業は十分周知する
女性に安心感を与えるという意味では、女性医師の開業は有利に働く診療科目と言えます。
そのため、女性医師が産婦人科を開業する際は、ホームページや看板、チラシなどで女性が院長であることを周知するようにしましょう。
もちろん、女性というだけで主な訴求にはならず、あくまで集患要素の1つなので、どういった治療に力を入れているかを中心に伝える必要はあります。
【まとめ】産婦人科は治療方針を十分検討すること
以上、産婦人科の勤務医・開業医の年収と開業資金の目安、重要ポイントについてお伝えしました。
冒頭でもお伝えしている通り、産婦人科は治療方針によって、開業準備の方法が大きく変わってくる診療科目です。
先生がどの治療に力を入れていくか、他院と差別化を図っていくか十分検討して、無駄なコストを削りつつもニーズの高いクリニックに作り上げていきましょう。
産婦人科の開業をお考えの先生は、ぜひご相談ください。
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監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。