個人開業医の税務対策|経費計上できる費用とできない費用は?


個人開業医になったら、勤務医時代と違って適切な税金対策が必要となります。
個人開業医が行うことができる税金対策は、主に次のようなものです。
・正確な経費計上
・社会保険診療報酬の概算経費の特例
・小規模企業共済やiDeCo、経営セーフティ共済などの利用(医療法人は加入不可)
・減価償却費の計上
・医院開業に伴う赤字の繰り越し
そのなかでも本記事では、経費計上について詳しくお伝えします。
経費については税務調査でも指摘されやすいので、注意して正確に計上しましょう。
個人開業医が経費にできるもの、できないもの、そして注意が必要なグレーゾーンなどに分けて解説します。
個人開業医が経費計上できる費用

所得税法上、必要経費として認められるのは、医業収入を得るために直接必要な費用です。
まずは、医院経営において全額経費計上できる代表的な費用をお伝えします。
人件費・法定福利厚生費
スタッフに支払う給与や賞与などの人件費は経費となります。
また、クリニックが負担するスタッフの社会保険料も法定福利厚生費として経費計上が可能です。
ただし、生計を一にする配偶者や親族への給与は、原則として青色事業専従者給与の範囲内でのみ経費として認められます。
青色事業専従者給与の要件の1つに、次の記載があります。
その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
そのため、配偶者が週に1~2日程度、先生のクリニックでパート勤務しても経費計上できないため注意してください。
また、青色事業専従者給与は、「社会保険診療報酬の概算経費の特例」とは同時適用ができない点も注意が必要です。
医院・クリニックの家賃・水道光熱費
テナントとして借りているクリニックの家賃、共益費、管理費に加えて、日々の診療で発生する水道光熱費は全額経費になります。
ただ、物件を借りる際の初期費用や更新時の費用については、扱いに違いがあるため注意が必要です。
| 仲介手数料 | 支払ったその年に、一括で全額経費として計上する。 |
| 礼金 | 一定額(原則20万円)以上のものは、その年に一括で経費計上できず、繰延資産として数年に分けて償却する。 |
| 敷金・保証金 | 退去時に返還されるため、支払った時点では経費ではなく資産とする。 |
| 更新料 | 支払ったその年に、一括で全額経費として計上する。 |
| 火災保険料 | 支払ったその年に、一括で全額経費として計上する。 |
礼金を繰延資産とするのは、建物を賃借するための権利金という扱いになるためです。
法人が建物を賃借するために支払った権利金、立退料などの費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは、繰延資産となります。
ただし、建物の賃借に際して不動産業者などに支払った仲介手数料については、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。
なお、後述するように、自宅兼クリニックの家賃、水道光熱費については家事按分となります。
設備費
診療に必要な医療機器、パソコン、待合室のソファ、電子カルテシステムなどの導入費用です。
青色申告を行っている場合、「少額減価償却資産の特例」が適用されるため、取得価額が40万円未満の設備であれば、その年に一括で経費計上できます(年間合計300万円まで)。
一方、40万円以上の高額な医療機器や内装設備などは、法定耐用年数に応じて数年に分けて少しずつ減価償却していくことになります。
医院・クリニックの通信費
クリニックの固定電話、インターネット回線、予約システムの通信費用、患者さんへの案内状の郵送代(切手代)などの通信費は全額経費になります。
しかし、院長先生個人の携帯電話やパソコンについては、経費として認められるのは困難です。
修繕費
医療機器のメンテナンス代や故障時の修理費用、クリニックの内装・外装の修繕費用は全額経費になります。
しかし、資産価値を高めたり使用可能期間を延長させたりする大規模な改修は資本的支出となり、減価償却が必要になります。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
利子割引料
クリニックの開業資金や運転資金として、金融機関から融資を受けた際の借入金の利息は利子割引料として経費になります。
広告宣伝費
ホームページの制作・維持費、Web広告、看板の設置費用、チラシの印刷、ポスティング費用などの広告宣伝費は全額経費となります。
税務上、不正が疑われやすい項目でもあるため、税務調査ではチェックされやすい項目です。
経費計上できる場合とできない場合がある費用

医業に関連していれば経費になるものの、プライベートとの境界線が曖昧になりやすい費用についてお伝えします。
税務調査で指摘されやすく、否認されやすいので注意してください。
接待交際費
会食費用や贈答品代などは、医業に直接関連する支出であれば、接待交際費として経費計上できます。
もちろん、家族や友人との飲食はプライベートな出費とみなされるので経費計上できません。
そのため、接待交際費は税務調査で「本当に医業に関連する支出なのか?」とチェックされやすい項目の1つです。
税務調査で否認されないためには、領収書の裏面などに次の情報を必ずメモしておくようにしましょう。
・誰との飲食か(相手の名前、役職、会社名・医療機関名)
・人数(自分を含めて何名か)
・会合の目的(例:〇〇病院との連携強化の打ち合わせ、医療機器導入の情報交換など)
誰と、何の目的で会ったのかを明確に説明できるようにしておくことが大切です。
なお、ゴルフについては、年会費やプレー代は交際費に計上できますが、入会金は計上できないので注意してください(医療法人の場合は資産計上)。
また、ゴルフについては、ゴルフ場に照会すれば誰とプレーしたかはすぐにわかります。
プライベートの仲間や私的なレッスンを経費計上しようとしても、すぐに発覚するので、ごまかしは厳禁です。
会議費
院内でのミーティングや、外部の医療関係者との打ち合わせにかかった費用も原則経費計上できます。
具体的には、貸し会議室の利用料、会議の際に提供したお茶代や弁当代(常識的な金額の範囲内)などです。
接待交際費と同様に、誰と・何の目的で会議をしたのか、領収書にメモを残しておくようにしましょう。
会議費についても、内容次第では税務調査で否認されることがあります。
旅費交通費(出張・社内旅行など)
学会参加や勉強会への交通費・宿泊費は旅費交通費として経費計上できます。
また、スタッフの慰安を目的とした社内旅行も福利厚生費として計上できます。
ただ、経費として計上するには、条件を満たさなければならないため注意が必要です。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
教育研修費
医療技術の向上やクリニック経営のために参加するセミナー参加費、医学書の購入費などは経費計上できます。
一方で、資産運用セミナーや一般的な英会話スクールの費用など、医業との関連性がないと判断される場合は経費計上できません。
法定外福利厚生費
自己啓発支援、スポーツクラブの利用など福利厚生費は経費計上できます。
しかし、院長先生(またはその家族)のみが利用している場合は、事業主の個人的な支出とみなされるので経費にはなりません。
法定外福利厚生費については、種類によって税務上の注意点があるので、詳細は以下の記事をご覧ください。
衣服、靴などの購入費
医師の白衣、スタッフの制服などは、業務上必須であるため経費計上できます。
一方で、通勤時などに着るスーツ代は、原則としてプライベートでも使用できるため経費として認められません。
ただし、「学会発表や講演会に登壇するために専用で購入した」といった理由であれば、例外的に経費と認められる場合もあります。
医師会・歯科医師会関係費用
医師会や歯科医師会の入会金、年会費は原則として経費になります。
しかし、福祉共済負担金や政治連盟に対する負担金は、必要経費には算入できません。
個人開業医が家事按分できる費用

プライベートと事業の両方で使用しているものは、家事按分によって、医業で使った比率分のみを経費計上します。
車両費
通勤や往診、訪問診療などで使用している自動車にかかる費用(ガソリン代、車検代、自動車税、自動車保険料、減価償却費など)は家事按分となります。
医療法人であれば、事業用で購入して全額損金計上することもできますが、個人開業医の場合は、事業用と家事用の明確な区分ができません。
例えば、「週に5日は通勤で使用し、2日はプライベートで使用している」のであれば、全体費用の約7割を事業用として経費計上します。
自宅兼クリニックの家賃・水道光熱費
自宅兼クリニックの場合は、建物の総床面積のうち、医院が占める割合で家賃や固定資産税、水道光熱費などを按分して経費計上します。
開業医が経費計上できない費用

最後に、一見すると医業に関連しそうでも、税務上は経費として認められることが極めて困難な費用をお伝えします。
大学の同窓会費
大学の同窓会費は、私的な親睦の要素が強いので、原則として医業の必要経費には認められません。
開業医の先生の場合、仕事上の患者さんの紹介や情報交換につながることもありますが、過去の判例で否認されています。
【参考】国税不服審判所「平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 129頁 」
そのため、開業医の先生も、大学の同窓会費の経費計上は極めて困難であると考えられます。
医院開業後に大学院に入学した際の学費
教育研修費が経費計上できるなら、医院開業後に大学院へ入学する場合も、経費計上できそうに思えます。
しかし、大学院の学費は「個人の資格取得・地位向上のための支出」と判断される傾向が強く、一般的には業務とは直接関係しないとされます。
そのため、大学院の学費は基本的には経費計上できません。
【まとめ】正確な経費計上で健全な税金対策をする
個人開業医の経費計上についてお伝えしました。
個人と明確に区分される医療法人と比べると、個人開業医の先生はプライベートとの線引きが曖昧になりがちです。
顧問の税理士に相談して、正確な経費計上を行い、健全な税金対策を心がけてください。
なお、開業医の先生の確定申告については、以下の記事をご覧ください。
税理士法人テラスでは300件を超える医科歯科クリニックの税務サポート実績があり、豊富な経験・知識を持つスタッフが在籍しています。
一般企業や他業種の個人事業主と違い、医院・クリニックの税金対策は医療法などの法律も関わるため、医院経営に対する理解とサポート経験が欠かせません。
税理士だけでなく、医業専門の社会保険労務士や行政書士、ファイナンシャルプランナーも在籍しているため、複合的な問題もワンストップで対応することが可能です。
医科歯科クリニックの税務・会計に関しては、ぜひご相談ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。




監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。


