クリニックの福利厚生11選|優秀なスタッフが集まる制度と税務リスク回避の注意点


慢性的な人手不足の傾向があるクリニック経営において、優秀なスタッフの採用と定着は常に大きな課題です。
基本的には、給与や福利厚生を基準に就職先を選ぶ人ではなく、経営理念に共感くださる人をスタッフとして採用することが望ましいです。なぜなら、給与や福利厚生を基準に仕事を選ぶ人は、さらに良い条件の仕事を見つけた途端に転職する可能性が高いからです。
しかし、だからといって給与や福利厚生の水準が低くても大丈夫だということにはなりません。
売り手市場が続く医療業界では、以前より給与や福利厚生の水準が上がっていると考えることが妥当です。
そこで、本記事では、医院・クリニックのスタッフからよく求められる福利厚生と税務上の注意点についてお伝えします。
福利厚生には主に2種類ある

福利厚生については、大きく分けると、法律で義務づけられている法定福利厚生と、任意で設ける法定外福利厚生に分けることができます。
まずは、法定福利厚生と法定外福利厚生の違いについてお伝えします。
法定福利厚生
法定福利厚生とは、法律によって事業主(医院・クリニック)に提供が義務付けられている福利厚生のことです。
主に以下の社会保険の事業主負担分を指します。
・健康保険
・厚生年金保険
・介護保険
・雇用保険
・労災保険
・子ども・子育て拠出金(児童手当など)
これらの法定福利厚生は、導入していない場合に法令違反となるため、対象となる医院・クリニックに実施義務があります。
法律で義務づけられている社会保障制度の費用を法定福利費と呼んでいます。
開業準備中の先生など、社会保険の加入条件や内容について詳細を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
その他、広い意味では年次有給休暇や生理休暇、産休、育休、介護休業、定期健康診断なども労働基準法、育児・介護休業法、労働安全衛生法などで義務づけられています。
法定外福利厚生
法定外福利厚生とは、法律による義務はなく、クリニックがスタッフのために独自に設ける福利厚生制度のことです。
後述するように、住宅手当、家族手当、医療費の補助、レクリエーション費用などが該当し、これらにかかる費用を法定外福利費と呼びます。
ただ、法律で義務づけられていないからといって、法定外福利厚生を設けなくていいわけではありません。
冒頭でお伝えしたように、人手不足の現在は給与や福利厚生の水準が上がっています。
スタッフが求めている福利厚生を充実させるかどうかで、スタッフ採用や定着率にも大きく関わってきます。
クリニックのスタッフに求められる法定外福利厚生11選と税務上の注意点

クリニックのスタッフからニーズの高い法定外福利厚生を、税務上の注意点とともに紹介します。
福利厚生として導入する際は、税務処理についてもよく確認するようにしてください。
住宅手当や家賃補助
法定外福利厚生の代表的なところが、住宅ローンの一部を補助する住宅手当や、家賃の一部を補助する家賃補助です。
生活費の中で住居にかかる費用の割合は大きく、スタッフは実質的に手取りが増加して生活に余裕が生まれることを実感できます。
住宅手当や家賃補助があることで、住居費の割合が高い若手スタッフや遠方にいるスタッフも採用しやすくなるでしょう。
【税務上の注意点】
住宅手当や家賃補助は給与とみなされ、所得税や社会保険料の対象となる点は注意してください。
役員や使用人に支給する手当は、原則として給与所得となります。具体的には、残業手当や休日出勤手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となります。
一方、クリニックが社宅として物件を借り上げて、一定の家賃をスタッフから徴収する形にすればクリニック側は経費計上でき、スタッフ側も節税になります。その際、スタッフから徴収する家賃が賃貸料相当額に満たない場合は、差額が給与として課税対象となるので注意してください。目安としては、スタッフからは賃貸料相当額の50%以上を徴収すると、給与として課税されなくなります。
(2)使用人から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合
受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与として課税されます。
ただし、使用人から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50パーセント以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。
また、院長先生の親族のみ家賃を補助するなど、特定のスタッフだけに社宅に住ませる場合も経費として認められない可能性があるので注意してください。
家族手当
配偶者や子どもなど、扶養家族がいるスタッフに対して支給するのが家族手当です。
法定外福利厚生であるため、支給条件はクリニックによって異なりますが、「配偶者〇円、子ども1人につき〇円」といった形で規定することが一般的です。
言うまでもなく、家族を持つスタッフの経済的負担を軽減することが可能になります。
【税務上の注意点】
家族手当も給与とみなされ、所得税や社会保険料の対象となります。
最近はライフスタイルの多様化やスタッフの公平性を重視し、家族手当を廃止して子ども手当へ集約したり、基本給へ振り替えたりするケースが増えています。
特別休暇
年次有給休暇や産休・育休など法律で定められた休暇とは別に、クリニック独自で付与する休暇制度が特別休暇です。
具体的には、次のような特別休暇があります。
【特別休暇の例】
・慶弔休暇
・リフレッシュ休暇
・病気休暇
・夏季休暇
・ボランティア休暇
・バースデー休暇
・アニバーサリー休暇
特別休暇は、無給か有給かを自由に設定することができますが、基本的には有給にした方がスタッフの満足度を得られます。
自己啓発支援(学会・研修補助など)
看護師、歯科衛生士、医療事務などのスキルアップや資格取得を金銭面からバックアップする制度です。
学会参加費・交通費の負担、外部研修やセミナーの受講料補助、資格取得時の受験料負担や報奨金の支給などが該当します。
スタッフの学習意欲を高め、習得した最新の知識や技術が還元されることで、クリニック全体の医療サービスの質向上につながります。
【税務上の注意点】
自己啓発支援が福利厚生費や研修費に計上できるかどうかは、次の観点で判断されます。
・業務上の必要性が高く、医療サービスの質の向上に直結すること
・研修費や資格取得費用など、社会通念上適正な額であること
・一定の基準を満たすスタッフが対象であること
役員や使用人に、仕事に関係のある技術や知識を習得させるための費用を支給する場合があります。
この場合には、役員または使用人としての職務に直接必要な技術や知識を習得させ、または免許や資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用または大学等の聴講費用に充てるための費用として適正なものに限り、給与として課税しなくてもよいことになっています。
趣味や教養、個人のキャリアアップのみを目的とした自己啓発は、福利厚生費や研修費には計上できないので注意してください。
医療費補助
医療費補助は、労働安全衛生法で義務付けられた定期健康診断の枠を超え、より高度な健康管理をサポートする制度です。
具体例としては次のようなものです。
・人間ドックの費用補助
・婦人科検診(乳がん・子宮頸がん検診)
・インフルエンザ等の予防接種
上記の医療費補助については、カフェテリアプラン(スタッフが付与された一定のポイント内で好きなメニューを利用する制度)を通じて行われるケースもあります。
【税務上の注意点】
クリニックの医療費補助となると、自院で無料診療をするケースもあります。この場合、自家診療にあたるので、スタッフが協会けんぽに加入していることが条件となり、医師国保・歯科医師国保では保険診療の請求ができません。
当組合の被保険者の方が、自己又は家族の所属する保険医療機関において療養を受けた場合、自家診療となり、請求および給付ができないことになっております。
当組合では、「組合規約」や「給付規程」でこれを規定しています。
なお、自家診療の請求が判明した場合は、その時点から3年間遡及し、該当の診療報酬明細書(調剤を含む)を返戻させていただきます。
また、診療費が社会通念上適正とされない場合は、クリニック負担分を経費にしようとしても否認されることがあるので注意してください。
スポーツクラブ関連費用補助
スポーツクラブ関連費用補助は、スタッフの健康増進を目的として、フィットネスクラブやヨガスタジオなどの利用料を補助する制度です。
スタッフが気軽に身体を動かすことができて、運動不足解消やストレス軽減につながり、業務生産性が上がるかもしれません。
【税務上の注意点】
スポーツクラブの費用を福利厚生費とするには、クリニックが法人契約を結び、全スタッフが平等に利用できる状態にしておくのが原則です。
(1) 法人会員として入会する場合 入会金は資産として計上するものとする。ただし、記名式の法人会員で名義人たる特定の役員又は使用人が専ら法人の業務に関係なく利用するためこれらの者が負担すべきものであると認められるときは、当該入会金に相当する金額は、これらの者に対する給与とする。
(2) 個人会員として入会する場合 入会金は個人会員たる特定の役員又は使用人に対する給与とする。ただし、無記名式の法人会員制度がないため個人会員として入会し、その入会金を法人が資産に計上した場合において、その入会が法人の業務の遂行上必要であるため法人の負担すべきものであると認められるときは、その経理を認める。
※国税庁「第3款 会費及び入会金等の費用」より抜粋
上記は、ゴルフクラブの入会金について記載されたものですが、スポーツクラブやアミューズメント施設に関しても準用されます。
上記(2)の記載の通り、スタッフが個人的に契約しているスポーツジムの月会費を、毎月給与と一緒に渡している場合は、給与扱いとなるので注意してください。
食事支給
昼食や残業食などを支給する福利厚生もあります。
食事代をクリニック側で負担することで、スタッフは生活費にゆとりを持てることを実感できます。
【税務上の注意点】
食事の支給を福利厚生費に計上するには、次の2点を満たす必要があります。
(1)役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2)次の金額が1か月当たり3,500円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
そのため、1食何千円もする高級弁当などは、福利厚生費として計上することは実質的に不可能になります。
企業型確定拠出年金
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、クリニックが掛金を拠出し、スタッフが自ら運用する年金制度です。
福利厚生の一環として導入することで、クリニック側・スタッフ側双方に大きな税制・社会保険料上のメリットがあります。
【クリニック側の主なメリット】
・事業主の掛金に社会保険料がかからない
・福利厚生費として損金算入できる
【スタッフ側のメリット】
・拠出金は全額所得控除となる
・運用益非課税となる
・一時金として受給すると退職所得控除扱いになる
詳細は、以下の記事をご覧ください。
保育施設利用補助
女性スタッフが中心となる医院・クリニックでは、子育て支援に関する福利厚生のニーズは高いです。
育児・介護休業法で定められた産休や育休、短時間勤務などを実施することは当然ですが、クリニック独自の福利厚生も検討の余地があります。
その中の1つが、保育施設の利用補助です。
具体的には、保育施設やベビーシッター、病児保育などの利用料金の一部をクリニックが補助する制度です。
【税務上の注意点】
クリニック側は、原則福利厚生費として損金算入ができますが、以下の条件を満たさなければいけません。
・補助額が社会通念上妥当な金額であること
・特定の役員や親族だけでなく、全スタッフが対象であること
・現金支給でないこと
・明確な規定があること
退職金制度
退職金制度は法律で定められているわけではありませんが、医院・クリニックの多くが採用しています。
退職金制度があった方が、求人上は有利になりますし、スタッフは末永く働こうと考えます。
また、退職金には社会保険料がかからないので、人件費の負担軽減にもつながります。
退職金制度の詳細は、以下の記事をご覧ください。
社員旅行
近年は社員旅行に行きたいと考えるスタッフは多くないので、福利厚生としては慎重な検討が必要です。
「プライベートの時間を大切にしたい」「休日は育児に専念したい」と考えるスタッフは少なくありません。
しかし、社員旅行はスタッフ間の親睦やリフレッシュの効果があるのも事実で、チームワークが向上することがあるので検討の余地はあるでしょう。
【税務上の注意点】
もし、社員旅行を企画して、福利厚生費として経費処理したい場合は、次の条件を満たすように注意してください。
(1)旅行の期間が4泊5日以内であること。
海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。(2)旅行に参加した人数が全体の人数の50パーセント以上であること。
工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50パーセント以上が参加することが必要です。(注1)上記いずれの要件も満たしている旅行であっても、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員にその不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされます。
(注2)次のようなものについては、ここにいう従業員レクリエーション旅行には該当しないため、その旅行に係る費用は給与、交際費などとして適切に処理する必要があります。
1 役員だけで行う旅行
2 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
3 実質的に私的旅行と認められる旅行
4 金銭との選択が可能な旅行
詳細は、以下の記事をご覧ください。
【まとめ】スタッフが求める福利厚生で選ばれるクリニックに

今回は、クリニックのスタッフに求められる福利厚生や、税務上の注意点についてお伝えしました。
福利厚生の充実は、採用力の強化と定着力向上のための重要な投資になります。
ただ、当然ながら経費がかかってしまう点と、スタッフが活用しない福利厚生では本来の目的を果たせない点に注意が必要です。
クリニックによって、向き不向きの福利厚生があるので、最寄りの社会保険労務士や税理士とよく相談してください。





監修者
亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。


