ペイハラ10個の徹底対策|医療現場を守るための方法を詳細解説

公開日:2026年3月16日
更新日:2026年3月16日

医療機関において患者やその家族による理不尽なクレームや要求、暴力行為などの、いわゆるペイシェント・ハラスメント(ペイハラ)が急増しています。

2025年のm3.comの調査によると、医師会員1,318人のうち、785人(59.6%)がペイハラを受けたと答えています

悪質なペイハラが継続すると、業務に支障が出ることはもちろん、スタッフの離職やメンタルヘルス不調を招くことになりかねません。

本記事では、ペイハラの概要や、ペイハラの対応策についてお伝えします。

ペイハラの具体的な内容と判断基準

まずは、ペイハラの概要として、具体的な内容や、正当なクレームとの違いについてお伝えします。

ペイハラに該当する迷惑行為

ペイハラについては、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などをもとに、次のように具体的に分類するケースが多いです。

暴言型大きな怒鳴り声をあげる、「バカ」「死ね」などの侮辱的な発言、人格否定に関する発言等
暴力型殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、物を壊す、わざとぶつかってくる等
セクハラ型ボディタッチ、身体に関する性的な言動、卑猥な言葉をかける、ストーカー行為に繋がる言動等
時間拘束型長時間にわたり患者・家族等が職員を拘束する、診察室から出ない、長時間もしくは繰り返し電話をかける等
リピート型理不尽な要望を繰り返し求めてくる、郵送やFAXで同じ要求を何度も繰り返す等
威嚇・脅迫型「殺されたいのか」などの脅迫的発言、反社会的勢力との繋がりをほのめかす、異常に接近する、「厚生労働省に言う、SNSで拡散する、口コミで悪く評価する」等ブランドイメージを下げるような脅しをかける等
権威型「俺はたくさん治療費を支払っているぞ」「県議会議員の知り合いだ」など権威を振りかざして要求を通そうとする
院外拘束型患者・家族の自宅や特定の喫茶店に呼びつける等
SNS/インターネット上での誹謗中傷型「職員をスマホで撮影してSNSなどに投稿する」など、批判や脅迫を目的としてプライバシーを侵害する情報をSNS/インターネット上に掲載する

いずれも、医療機関では十分想定できる患者さんとのトラブルです。

いわゆるモンスターペイシェント(問題患者)に該当するトラブルは、基本的にペイハラと考えていいでしょう。

トラブルを起こす患者さんにどう対応したら?モンスターペイシェント(問題患者)の種類と対応法

はじめに ケアネットが2013年に会員医師に対して行った調査(有効回答数1,000人)によると、7割近くの医師が「医療機関や医療従事者に対して、理不尽な要求・暴言・暴力を…

正当なクレームとペイハラの違いと判断基準

患者さんのすべてのクレームがペイハラではありません。

患者さんとのトラブルで、正当なクレームとペイハラとの線引きは、おおむね次のような基準で判断していきます。

正当なクレームペイハラ
「薬の処方ミスがあった」「待ち時間が案内より大幅に長引いている」など、事実に基づき、改善を求めるもの
「治療費を無料にしろ」「土下座しろ」など要求内容が不当、もしくは実現不可能な改善を要求してくる
クレームの手段が社会的常識の範囲内
要求が正当であっても、長時間怒鳴り続ける、暴力を振るうなど、クレームの手段が社会通念上許容される範囲を超えている
医療提供の妨げにならない医療提供の妨げになる

要求内容は正当なクレームであっても、態度や要求方法が徐々にエスカレートしてペイハラになるケースも想定できます。

クレームや不満には誠実に対応して、ペイハラには毅然と立ち向かうことが求められます。

ペイハラが起きる原因

ペイハラは、正当なクレームの延長線上で起こることもあり、その原因は大きく分けて「患者側」と「現場スタッフ側」の2つのケースが考えられます。

患者側が原因となるペイハラのケース

患者さんが原因となるペイハラのケースは、主に次のようなことが考えられます。

・病気や怪我による痛みや不安を抱えており、精神的に余裕がない
・「自分は患者だ」「金を払っているんだ」という過剰な消費者意識がある
・もともと怒りっぽい性格をしている

このなかで、精神的な余裕がない患者さんが多ければ、内装の雰囲気を変えたり、接遇態度を変えたりすることで改善するかもしれません。

現場スタッフが原因となるペイハラのケース

患者側ではなく、現場スタッフの対応や院内の雰囲気がペイハラの引き金となることもあります。

・待ち時間が長くてイライラした挙げ句に診察時間が短い
・治療や検査内容の説明不足がある
・現場スタッフの態度や言葉遣いが、患者さんの怒りを買う
・医師とスタッフ間の連携ミスが起きた

現場スタッフの対応が原因であれば、接遇態度や対応方法の改善が必要であることがあります。

ペイハラを原因とした診療拒否は基本的に応召義務違反にはならない

ペイハラで、開業医の先生が最も懸念しているのが応召義務ではないかと思います。

たしかに「患者を断ってはいけないのではないか?」という不安から、理不尽な問題患者の要求に従ってしまうこともあり得ます。

しかし、2019年12月、厚生労働省は応召義務の解釈について、次の通知を出しました。

診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。
※診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。
※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」より抜粋

つまり、ペイハラを行う問題患者に対しては、診療を拒否しても応召義務違反とはならないと考えられます。

ただ、先ほどお伝えしたように、ペイハラになるのか、正当なクレームなのかによって応召義務は変わってくるので注意が必要です。

なお、応召義務違反については、以下の記事をご覧ください。

医療費の未払い…ペイハラ…診療拒否できる? 応召義務を負う必要がない7つのケース

医師・歯科医師は、「診察や治療を求められた際には、正当な事由なく拒否をしてはならない」という応召義務が定められています。 【医師法第19条】 診療に従事する医師は…

医院・クリニックが取り組むべき10個のペイハラ対策

医院・クリニックが行うことができるペイハラ対策について、詳しくお伝えします。

ホームページや院内掲示でペイハラへの対応を周知する

まずは、ホームページや院内掲示で、次のようなことを周知しておくといいでしょう。

※厚生労働省 あかるい職場応援団「トップの意識の高さからマニュアル策定やHPへの対応方針を公開」より抜粋

上図のような内容を患者さんに周知することで抑止力になると同時に、いざという時に「掲示の通り対応します」と伝える根拠になります。

患者側とスタッフ側双方から事実確認を行う

先ほどお伝えしたように、患者さんとのトラブルは、患者さんに原因がある場合もあれば、スタッフに原因があることもあります。

また、一方的に患者やスタッフの言い分だけを聞いても、主観や誇張が含まれることがあります。

必ず患者さんからもスタッフからも状況を聞き取り、事実関係をフラットに把握しましょう。

事実確認を行うだけでなく、特に患者さんの話に耳を傾けることは、怒りの感情を抑えて冷静さを取り戻す意味でも重要です。

ペイハラに反論するのではなく事実を詳細に伝える

興奮している問題患者に「それは違います」と反論すると、火に油を注ぎます。

問題患者に冷静になってもらうためにも、現場スタッフなどから聞き取った事実を、詳細に伝えるようにすることが大切です。

感情的な言葉の応酬は、ペイハラをエスカレートさせることになりかねません。

ただ、明らかに院内ルールやモラルに反するようなことをしている問題患者であれば、明確にNoと伝えるようにしましょう。

ペイハラが酷い問題患者には「警察を呼ぶ」「弁護士に相談します」と伝える

身の危険を感じたり、業務妨害が続いたりする場合は、「警察を呼びます」「顧問弁護士に対応を一任します」と警告しましょう。

この一言で問題患者は引き下がる可能性がありますし、法的措置への切り替えを意味する強力なカードとなります。

1人の問題患者に対して複数人で対応する

ペイハラの対応は、なるべく1人の問題患者に対して複数人で対応するようにしましょう。

1対1では、状況を客観的に把握しづらいですし、身の危険も生じやすくなってしまいます。

複数人で対応すれば、暴力沙汰になってもすぐに制止しやすいですし、警察へ迅速に通報できます。

他の患者さんから離れた安全な場所へ誘導して対応する

受付や待合室で、問題患者に大声を上げられると、他の患者さんへの迷惑になります。

他のスタッフの目がある開かれた場所へ誘導するか、逆に患者を刺激しないよう、他の患者さんを遠ざけるなどの配慮が必要です。

できれば防犯カメラを設置して、カメラから映るところに移動することで、ペイハラの証拠を残すことができます。

トラブル内容の記録を残しておく

問題患者のペイハラについては、なるべくトラブル内容を記録して証拠として残しておくようにしましょう。

・スマホやボイスレコーダーなどで会話を録音しておく
・いつ、どこで、誰が、何を言われたかを記録しておく
・防犯カメラのある場所でペイハラ対応する

そうすることで、医院・クリニック側で法的措置を含めた対応を取りやすくなります。

スタッフ教育のなかでペイハラ対策を周知する

スタッフ教育のなかで、ペイハラ対策について周知して、対応をシミュレーションしておくのもいいでしょう。冒頭でお伝えしたように、6割近くの医師はペイハラを経験しています。

別の調査では、9割程度の医療スタッフがペイハラを経験したというデータもあります。

鳥取県内の病院や訪問サービスの現場で、医療従事者が患者やその家族から暴言や理不尽な要求などを受ける「ペイシェント(患者)ハラスメント」(ペイハラ)が深刻化している。病院などを対象に行った調査では9割の施設で事例が報告されており、県は新年度、対策に乗り出す。
読売新聞オンライン「医療従事者への「ペイハラ」深刻化、病状悪化に苦情・性的な言動も…鳥取県が対策に本腰」より抜粋

ペイハラはどの医院・クリニックでも起こり得るので、事前対応をしておくメリットは大きいでしょう。

ペイハラ対応をマニュアル化する

先ほどお伝えしたように、ペイハラには様々なケースがありますが、各々のトラブルについてマニュアル化しておくのもおすすめです。

具体的には、トラブル発生時の対応方法や連携などのルールなどを決めておき、誰でも閲覧できるようにしましょう。

インターネット上の悪い口コミ対策をしておく

ペイハラを行う問題患者は、院内で理不尽な要求をしたり暴言を吐いたりするだけではありません。

医院・クリニックからいなくなった後に、Googleマップなどに悪意ある口コミを書くことがあります。

原則として反論は書き込まず、事実無根の誹謗中傷であれば、まずはプラットフォーム側に削除依頼を出します。

ただ、プラットフォーム側が削除に応じるとは限らないので、その場合は悪い口コミに対して誠実な返信をするといいでしょう。

誠実な返信をすることで、医院・クリニックの印象がかえって良くなることがあります。

口コミ対策については、以下の記事をご覧ください。

【クリニックの口コミ対策】悪評の対処法や良い評価を集めるポイント・注意点を詳細解説

医院・クリニックのインターネット上の口コミは、集患対策や求人採用に大きく関わります。 例えば、集患対策でMEO対策(Google Mapsで上位表示させるための対策)を施して、…

【まとめ】ペイハラ対策で医療現場を守る

パワハラなどと同様に、ペイハラについては放置してはいけません。

問題患者が多ければ、それだけ現場は疲弊して、スタッフの離職やモチベーションの低下に繋がる可能性があります。

ペイハラは、決して珍しいことではないので、本記事のように対策をして、確実に対処していくようにしましょう。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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