診療拒否できる? 応召義務を負う必要がない7つのケース

公開日:2024年8月28日
更新日:2024年8月28日

医師・歯科医師は、「診察や治療を求められた際には、正当な事由なく拒否をしてはならない」という応召義務が定められています。

【医師法第19条】

診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

応召義務違反については特に罰則の適用はないものの、場合によっては医師免許の取消もしくは停止になる可能性があります(実例は確認されていません)。

医師が第十九条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第七条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。

※厚生労働省 「第10回 医師の働き方改革に対する検討会|医師の応召義務について 」

しかし、医師法第19条は、「正当な事由で診療拒否すれば応召義務違反にはならない」とも読み取れます。

実際、次のようなケースの場合、「診療拒否できるのか? できないのか?」と判断に迷うこともあるでしょう。

・クリニックの休診日に急患がやってきた
・完全予約制のクリニックで患者さんが予約なしで来院してきた
・医療費の未払い金が残っている患者さんが来院してきた
・ペイハラなど迷惑行為をする患者さんが来院してきた
・医師自身が重病などで診療できない状況である
・患者さんに専門外の診療を求められた
・言葉の通じない外国人が来院してきた

また、2023年に新型コロナウィルスが第5類に移行したことで、コロナに関する応召義務の考え方について改めて整理されました。

そこで、応召義務の「正当な事由」について、院長先生が知っておくべきポイントをお伝えします。

診療を拒否できる「正当な事由」とは

応召義務違反とならない、診療を拒否できる「正当な事由」について、厚生労働省では以下のように整理しています。

医療機関の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが正当化されるか否か、また、医師・歯科医師個人の対応としてどのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)であること。

このほか、医療機関相互の機能分化・連携や医療の高度化・専門化等による医療提供体制の変化や勤務医の勤務環境への配慮の観点から、次に掲げる事項も重要な考慮要素であること。

・診療を求められたのが、診療時間(医療機関として診療を提供することが予定されている時間)・勤務時間(医師・歯科医師が医療機関において勤務2 医として診療を提供することが予定されている時間)内であるか、それとも診療時間外・勤務時間外であるか
・患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係

※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について 」より抜粋

つまり、診療拒否の正当な事由になるかどうかは、次の3点が基本的な考え方になると見ていいでしょう。

・病状の深刻度や緊急性
・患者さんが来院したのが診療時間内か? 診療時間外か?
・患者さんと医科歯科クリニックとの信頼関係

3つ目の「患者さんとクリニックとの信頼関係」とは、例えば患者さんに迷惑行為があるかどうか、医療費を支払っているかという点になります。

この場合は診療拒否できる? 応召義務を負う必要がない「正当な事由」7つのケース

先にお伝えした3点を踏まえて、応召義務を負う必要がない「正当な事由」について、7点お伝えします。

ただ、応召義務を負うかどうかは個別性のある問題なので、あくまで判断基準の目安として、詳細は専門家に確認してください。

クリニックの休診日に急患がやってきた

クリニックの休診日に急患がやってきた場合は、他の病院や診療所での受診を指示すれば、診療しなくても応召義務違反とはなりません。

緊急対応が必要な場合
(病状が深刻な救急患者)
緊急対応が不要な場合
(病状が安定している患者等)
応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない。
 
※必要な処置をとった場合においても、医療設備が不十分なことが想定されるため、求められる対応の程度は低い。(例えば、心肺蘇生法等の応急処置の実施等)
 
※診療所等の医療機関へ直接患者が来院した場合、必要な処置を行った上で、救急対応の可能な病院等の医療機関に対応を依頼するのが望ましい。
即座に対応する必要はなく、診療しないことは正当化される。ただし、時間内の受診依頼、他の診察可能な医療機関の紹介等の対応をとることが望ましい。
※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」を元に作成

しかし、上表のように、病状が深刻な急患の場合は、対応可能な医療機関とスムーズに連携して、必要最低限の処置をすることが求められます。

悩ましいのは、診療時間の終了間際に来院した患者さんを受け入れるかどうかです。

この場合でも、上表のように緊急対応が必要かどうかで判断が分かれます。

そこまで病状が深刻でなければ、翌日に来院してもらったり、夜遅くまで診療している病院やクリニックに受診を促したりすれば問題ないと思われます。

しかし、緊急対応が必要であれば、応召義務が伴うので適切な治療を施す必要があるでしょう。

完全予約制のクリニックで患者さんが予約なしで来院してきた

完全予約制の医科歯科クリニックの場合でも、患者さんが予約なしで来院することがあります。

病状が深刻でなくても、急に体調不良になれば予約なしで近隣のクリニックに足を運ぶことは十分想定できます。

このケースでは、上記のクリニックの休診日に急患がやってきた場合と同様に考えていいでしょう。

深刻度や緊急性のない患者さんが予約なしで来院した場合は、予約を入れて受診するように促す分には問題ないと考えられます。

ただし、すぐに救急救命処置が求められる場合は、例え専門外であっても他の医療機関に搬送するまで必要最低限の措置を取ることが求められます。

医療費の未払い金が残っている患者さんが来院してきた

過去に自院の医療費の未払いがある患者さんから診療を求められた場合でも、すぐに診療拒否できるわけではありません。

しかし、資金力があるにも関わらず、内容証明郵便などで再三の督促に応じなかった場合は、診療を拒否しても応召義務違反とはならない場合があります。

以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。具体的には、保険未加入等医療費の支払い能力が不確定であることのみをもって診療しないことは正当化されないが、医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないこと等は正当化される。また、特段の理由なく保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には、悪意のある未払いであることが推定される場合もある。

※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」より抜粋

診療を拒否する際は、患者さんの経済状況に応じた行政や福祉、生活保護や無料低額診療事業へ誘導することも大切です。

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ペイハラなど迷惑行為をする患者さんが来院してきた

暴言を吐いたり暴力を振るったりする患者さん、特にクリニックの業務を妨害するような場合は診療を拒否しても応召義務違反とはならない場合があります。

診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。

※診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。

※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」より抜粋

ペイハラに該当するような迷惑行為の場合は、録音などをして、迷惑行為の証拠をつかむようにしましょう。

暴力を振るうような場合は警察に通報するなどの対応が必要です。

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医師自身が病気などで診療できない状況である

医師自身が病気やケガなどで休診せざるを得ない状況であれば、診療を拒否しても応召義務違反とはならない場合があります。

病気やケガの程度にもよりますが、もし患者さんから問い合わせが来た場合は、他の病院や診療所に誘導するしかないでしょう。

患者さんに専門外の治療で診療を求められた

患者さんに専門外の診療を求められたケースについては、上記「クリニックの休診日に急患がやってきた」場合と同様の考え方になります。

可能な範囲で応急処置をしたうえで、他の病院や診療所に誘導するようにしましょう。

文化的理由や言語的な障壁により診察が出来ない方が来院してきた

言葉でのコミュニケーションが困難な方が来院してきた場合、意思疎通が困難なことを理由に診療を拒否しても応召義務違反にならない場合があります。また、文化的な理由により診療行為自体が困難な方も同様です。

外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則である。外国人患者については、文化の違い(宗教的な問題で肌を見せられない等)、言語の違い(意思疎通の問題)、(特に外国人観光客について)本国に帰国することで医療を受けることが可能であること等、日本人患者とは異なる点があるが、これらの点のみをもって診療しないことは正当化されない。ただし、文化や言語の違い等により、結果として診療行為そのものが著しく困難であるといった事情が認められる場合にはこの限りではない。

※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」より抜粋

新型コロナウイルス5類移行に伴う応召義務の考え方

冒頭でお伝えした通り、新型コロナウィルスの5類移行に伴い、コロナに関する応召義務の考え方も変わっています。

5類移行前は、コロナ感染者に対する診療が困難な場合は、適切な医療機関への受診を勧めて保健所の指示に従うように誘導すれば問題ないとされていました。

つまり、コロナによる診療拒否は「正当な事由」とみなされて、基本的には応召義務違反とはならなかったのです。

しかし、5類移行に伴い、コロナによる診療拒否は「正当な事由」にはならなくなりました

具体的には、位置づけ変更後は、患者が発熱や上気道症状を有している又はコロナにり患している若しくはその疑いがあるということのみを理由とした診療の拒否は「正当な事由」に該当しないため、発熱等の症状を有する患者を受け入れるための適切な準備を行うこととし、それでもなお診療が困難な場合には、少なくとも診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨すること。

※厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」より抜粋

【まとめ】応召義務違反かどうか迷う場合は専門家に相談すること

応召義務を負う必要がないケースや、コロナ5類移行における応召義務の考え方についてお伝えしました。

診療を拒否しても応召義務違反にならない「正当な事由」について知っておくことで、臨機応変に対応しやすくなるでしょう。

ただ、応召義務違反になるかどうか迷う場合は、最寄りの専門家に個別で相談するようにしてください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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