開業医が加入・見直ししたい7つの保険|リスクに備える

公開日:2024年10月21日
更新日:2024年11月20日

勤務医時代から生命保険や火災保険に加入している先生は多いですが、開業医になると見直しが必要になることが多いです。

開業医になると、勤務医時代にはなかった様々なリスクをカバーする必要があるためです。

しかし、医院・クリニックを開業すると、診療だけでなく集患、資金繰り、スタッフマネジメントなど多くのことを考えないといけません。

そのため、自分自身の保険の見直しまで考える余裕がない先生が少なくありません。

開業という大きなライフステージの変化を機に、無駄な保険の解約はもちろん、今までの保険の加入・見直しを検討しましょう。

医師賠償責任保険|医療事故の損害賠償に備える

医師賠償責任保険は、医療事故が原因で患者さんの身体に障害を与えて、法律上の損害賠償責任を補償する保険です。

医師賠償責任保険の種類は、大きく分けると次のように3種類になります。

勤務医賠償責任保険勤務医個人の医療事故のための賠償責任保険。
日本医師会医師賠償保険医師会加入の開業医のための賠償責任保険。医師会に加入すると、強制的に自動加入となる。保険料は医師会の会費に含まれている。
病院賠償責任保険個人の医療事故による損害賠償の他、スタッフの医療事故による管理責任や、医療業務以外による損害賠償(医療施設賠償責任保険)の機能を持つ保険。

上表にあるように、勤務医時代から勤務医賠償責任保険に加入している先生もいらっしゃると思います。

しかし、勤務医賠償責任保険は、あくまで自分が医療事故を起こした場合に加入する個人的な保険です。

開業医になれば、管理者としての責任も負うことになるので、勤務医時代に加入する医師賠償責任保険とは別物として考えないといけません。

医師会に加入している先生は、上表の通り日本医師会医師賠償保険に加入しています。

【対象となる事故】医療行為によって生じた身体の障害につき損害賠償を請求され、その請求額が100万円を超えるものが対象となります。

【支払限度額】損害賠償金の年間総支払限度額(最高限度額)は、1事故1億円、保険期間中3億円となります。

【免責金額】1事故 100万円(同一医療行為につき)

※日本医師会 ホームページをもとに作成

ただし、開設者・管理者としての賠償責任や、医療法人の責任部分にも備えたい場合は、日医医賠責特約保険に任意加入する必要があります。

医師会に入っていない先生は、上表の病院賠償責任保険の加入を検討する必要があるでしょう。

所得補償保険等|病気やケガで診療できない場合に備える

勤務医と違って開業医の先生は、ご自身が病気やケガで診療ができなくなった場合の収入減に備えるための保険も検討の余地があります。

収入が入ってこないリスクに備える保険としては、所得補償保険就業不能保険収入保障保険があります。

いずれも名称が似ていて混同されやすいですが、次のように補償(保障)内容が異なるので、違いを理解して加入を検討しましょう。

補償(保障)期間目的保険会社
所得補償保険1~2年ケガや病気の収入減を補う(※)損害保険会社
就業不能保険60~70歳まで生命保険会社
収入保障保険死亡・高度障害時に家族の生活費を補う
※所得補償保険は、精神疾患は対象外になっていることが多い

特に開業医の先生のような個人事業主がケガや病気による収入減を補いたい場合は、所得補償保険をおすすめします。

長期的な補償が可能な就業不能保険や収入保障保険については、現在加入している生命保険と併せて加入の有無を判断するといいでしょう。

なお、所得補償保険には、GLTD(団体長期障害所得補償保険)という保険があります。

GLTDは、ケガや病気になって働けなくなった場合でも、60~65歳まで所得を補償してくれる保険です。

1~2年で補償が終わる所得補償保険と違い、長期的な補償が可能な点では、生命保険会社が用意する就業不能保険に近い性質があります。

GLTDは、福利厚生でスタッフが加入できるようにしていることが多いです。

火災保険の休業補償|災害で診療できない場合に備える

医院・クリニックを開業して火災保険に加入する際に注意したいのが、休業損害補償が付いているかどうかです。

火災や浸水など災害によって建物が損壊してしまうと、休診せざるを得なくなります。

その間も、スタッフの給料、家賃などの支払いに対応しばければいけません。

上記の所得補償保険や就業不能保険は、あくまで院長先生の病気やケガに対する補償なので、災害時に補償する火災保険とは別物として考える必要があります。

詳細は、以下の記事をご覧ください。

医院・クリニックの火災保険|災害時に備えるための失敗しない考え方・選び方

はじめに 医院・クリニックの院長先生にとって、ご自身の病気やケガはもちろん、災害に対するリスクマネジメントの意識は重要です。 ほとんどの方がご自宅で火災保険に入…

団体信用生命保険|融資を受けているときに万が一の場合に備える

団体信用生命保険というと、住宅ローンが発生した際に加入する印象がありますが、それ以外の借入金に対しても加入できます。

そのため、開業時に金融機関から融資を受ける際は、団体信用生命保険にセットで入ることで、万が一に備えることができます。

ただ、団体信用生命保険は死亡時や高度障害に補償されるもので、一時的な病気やケガは対象外になります。

そのため、団体信用生命保険に加入していても、所得補償保険や就業不能保険の加入は十分検討の余地があります。

また、団体信用生命保険に入らず、通常の生命保険に加入するという手もあります。

実際に、団体信用生命保険と生命保険どちらがいいか悩んでいる先生も多いと思います。

団体生命信用保険と生命保険のメリット・デメリットの違いを示すと、次のようになります。

団体信用生命保険生命保険
 保険金・解約返戻金の課税○(かからない)×(一時所得扱い)
生命保険料控除×(対象外)○(対象)
保険料×(割高の傾向)
入院保障△(特約で可能)
自宅療養××

一概にどちらが良いかは人それぞれですが、先生の健康状態や年齢によっては、生命保険の方が割安になることもあります。

団体信用生命保険は、借入金の金利の一部として支払うことが大半ですが、保障内容の割には一般的な生命保険より割高な傾向があります。

団体信用生命保険に加入すると金利は変わらないこともありますが、0.2~0.3%ほど割増しになることが多いです。

3大疾病保障などの特約を付けると、当然金利が上がるので注意が必要です。よく比較検討して加入するようにしましょう。

民間の生命保険(死亡保障)|勤務医時代から保障内容の見直しを

勤務医時代は、民間の生命保険に加入していなかったり、加入しても安価に抑えていたりしていた先生も多いと思います。

しかし、開業医となると、労災などの公的な補償を受けることができなくなるので、生命保険の重要度が増します。

無駄に加入する必要はもちろんありませんが、明らかにライフステージが変化するので、見直しを検討するといいでしょう。

ただし、団体信用生命保険同様に、民間の生命保険では所得補償保険のような休業補償がなく、自宅療養には対応していません。

そのあたりも加味しながら、生命保険の見直しをしましょう。

保障内容が重複するなど、無駄がないように、最低限必要な分だけ加入することがポイントです。

医療法人の生命保険|医療法人化したら検討したい

勤務医から開業医になれば生命保険の見直しが必要になりますが、医療法人化した際は法人保険の加入も検討の余地があります。

ただ、昔人気のあった低解約型逓増定期保険や長期平準定期保険など、節税目的に偏った法人保険商品は、国税庁が規制をかけて姿を消しています。

とはいえ、過度な節税目的の法人保険がなくなったという話だけで、本来の生命保険の役割を持つ保険商品は残っています。

生命保険を活用して相続対策をすることもできるので、十分検討の余地はあるでしょう。

詳細は、以下の記事をご覧ください。

税制改正後の医療法人の生命保険は本当にメリットがあるのか?

医療法人化を機に、これまでの生命保険の見直しや、法人名義で生命保険に加入することを検討している先生も多いでしょう。 リスクマネジメントとして個人で生命保険に加入…

ドル建て終身保険|長期の資産形成&死亡保障に

民間の生命保険(死亡保障)や所得補償保険は、掛け捨てで、リスクに備えるための保険です。

リスクマネジメントではなく、老後資金などで長期的な資産形成を目的とするのであれば、ドル建ての終身保険なども検討の余地があります。

ただし、資産形成を目的とするならば、次表のように新NISAやiDeCoなど、保険以外の投資商品と比較検討する必要があります。

ドル建て終身保険iDeCo新NISA
税金対策死亡保険金で相続税の非課税枠がある・拠出時非課税
・運用益非課税
・給付時一時金なら退職所得控除
・運用益非課税
払込停止
払込再開×
途中引出し
(早期解約で元本割れ)
×
(60歳まで不可)
死亡保障××
推奨する人・死亡保障を得ながら資産形成したい
・お任せで積立したい
・通貨分散したい
・所得税を減らしたい
・リスクを抑えた資産形成で老後に備えたい
・60歳まで引き出さなくていい
・老後だけでなく様々な目的で運用したい
・運用益の非課税枠を利用したい
・ある程度リスクを取った投資もしたい

このように、目的によって選択肢が大きく変わるので、自分にとって最適な方法を選びましょう。

iDeCoや新NISAの詳細については、以下の記事をご覧ください。

医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士が知りたいiDeCoの基礎知識とNISAや他年金制度との違いを詳細解説

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【まとめ】勤務医から開業医になったら保険の見直しも必要

以上、勤務医から開業医になった先生が加入・見直しを検討した方がいい保険についてお伝えしました。

勤務医と開業医では、保険に対する考え方が変わってきます。

特に、病気やケガ、災害などで収入がゼロになるリスクがあるので、所得補償保険や火災保険の休業補償などは検討の余地があるでしょう。

税理士法人テラスのグループ法人であるFPテラスでは、開業医の先生のライフプランに合った保険を提案できる医療専門FPが在籍しています。

保険の加入・見直し、無駄な保険の解約等を検討している先生は、ぜひご相談ください。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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