都市部?郊外?テナント?建設? 医院・クリニックの開業物件選びで知っておくべきポイントとは?

公開日:2018年11月26日
更新日:2024年3月18日

医院・クリニック開業する際に、最初に決めるべきことで、しかも多くの先生が関心を寄せるのが物件の選定です。

実際に物件の選定は、もっともお金がかかり、気を付けるべき点です。

都市部か郊外か、駅前か住宅街か、テナント・医療モール・承継・医院建設……様々な選択肢があるなかで、何を基準に選んでいくべきか。

物件は、1度選択してしまえば簡単に後戻りできないので、軽率に判断することはあっても慎重になりすぎることはありません。

医院・クリニックの物件選びで失敗しないために、必ず押さえておくべきポイントを解説します。

物件選びで最初に検討すべき3つのポイント

物件選びの非常に大きな選択肢として、次の3つのポイントを考慮することが望ましいでしょう。集患に直接かかわるポイントであるため大きな注意を払う必要があります。

1)都市部か郊外か
2)駅前か住宅街か
3)昼間人口と常住人口の考慮

それぞれのメリットとデメリットをまとめました。

1)都市部か郊外か

一見すると人口の多い都市部のほうが集患しやすいようにも見えますが、狭い診療圏で競合が多く、さらに物価も高くなります。

一方で、郊外は広い診療圏で集患しやすく物価も安いのですが、都市部よりも人口減のリスクが高いので、長期的にだんだん集患しづらくなる可能性はあります。

 都市型郊外型
メリット・人口が多く、集患が見込める
・生活が便利(利便性、子どもの教育や研修等の勉強に有利)
・郊外に比べると先生やスタッフの採用が容易
・競合が比較的少ない
・人口は少ないものの診療圏が広く集患が見込める
・都市型に比べて土地や家賃、人件費が安い傾向がある(土地建物を自己所有にしやすい)
デメリット・競争が激しいことが多い
・競合が多く、診療圏が比較的狭い
・郊外型に比べて土地や家賃、人件費が高い傾向がある
・人口減が予想され、集患が難しくなっていく
・生活・通勤には不便
・先生やスタッフの採用も難しい

2)駅前か住宅街か

駅前は認知性が良く集患しやすいのですが、どうしても競合が多くなります。

テナント物件は開業の初期費用を抑えやすい一方、運営コストが高くなり利益率も下がります。

住宅街は、認知されればかかりつけ医として集患が可能ですが、認知までに時間がかかり短期的な集患は不利と言えます。

スタッフ採用や、調剤薬局との連携も駅前に比べるとやりづらい傾向にあります。

 駅前住宅街
メリット・利便性が高い
・集患に有利
・テナント物件が見つけやすい
・通勤しやすく、採用にも有利
・調剤薬局との連携もしやすい
・比較的、競合が少ない
・運営コストが安い(利益率が高い)
・認知されると、かかりつけとして集患ができる
デメリット・競合が多い(差別化し、埋もれないようにする必要がある)
・運営コストが高い(利益率が低い)
・通勤や採用には不利
・認知されるのに時間がかかる
・テナント物件を見つけづらい
・近くに調剤薬局がないことがある

3)昼間人口と常住人口

患者さんが物件にいる時間帯も考慮する必要があります。

昼間人口が多い地域とは、主に都心のオフィス街や繁華街が該当します。

特にオフィス街となると、昼間は会社員で人が多いものの、深夜や休日になると人口が少なくなる場所です。

常住人口が多い地域は、主に郊外の住宅街で、実際に人が住んでいる場所です。

特に都心では、昼間人口が多い地域と常住人口が多い地域で特徴が違うので、押さえておいてください。

昼間人口と常住人口の特徴と、集患しやすい診療科目をまとめます。

 昼間人口が多い(オフィス街等)常住人口が多い(住宅街等)
特徴・昼間は会社員がいるが、夜間や休日は住んでいる人がいないためほとんど集患が見込めない。そうした場所のテナントで見込めるのは平日昼間人口のみ
・ライフスタイルとして平日昼間の間だけ開業し、夜や土日はしっかり休みたいなら、オフィス街の開業を視野に入れて良い
・朝7時開院のような早朝開院をするのもオフィス街ではお勧め
・住宅街や郊外が該当
・夜間の急患等に対応しなければならないことも考えられる
・いったん集患し、患者との関係が築けると、かかりつけのような位置づけになりやすい
集患しやすい診療科目・風邪や頭痛程度の軽い症状(会社の前や、昼休み、帰りに診察)
・定期検診等
・生活習慣病や不妊治療のような長期間の通院が必要なもの
・周辺に病院が少ない場合は、多くの診療科目を兼ねている医院も多い

診療圏調査の信ぴょう性は?

「診療圏調査」とは、ある場所で開業した場合に、1日あたりどれくらいの外来患者数が見込めるのかを科学的、統計的に把握するための調査です。

その地域内の疾患ごとの患者数を、対応する医療機関数で割って算出します。

クリニックの開業支援を行っている事業者は、通常この診療圏調査レポートの作成サービスを行っていますので、活用をおすすめします。

ただし、あくまで診療圏調査のデータはあくまで参考とし、必ず候補地に足を運ぶなどして、以下のデータをたしかめてください。

・競合の医院ごとの競争力(競合先が力を入れている診療科目かどうか)
・再診患者の定着率(医院によってばらつきが非常に大きい)
・都市計画やマンション建設予定等による人口変動
・常住人口、昼間人口の差

競合が多かったとしても、患者が望んでいる治療(夜間診療や早朝診療、出張診療、自費治療等)ができるなどで、差別化ができるなら勝算は低くありません。

一方、競合が多い地域でとりあえず開業しても、競合の中に埋もれてしまい、医院経営で苦労することになるでしょう。

テナント、医療モール、承継、医院建設 それぞれ気を付けるべきこととは?

以前の記事、「失敗を避ける!医療開業 事業計画書作成の5つのステップ」の「開業時によくある3つの失敗パターン 1)開業場所の選択ミス」でお話ししたように、開業場所の選択にはくれぐれも気を付けてください。

・ライバルとなる医院が周りに多く、うまく差別化もできなかった
・診療科目に合った患者が近隣に少なく、集患に苦労する
(例えば極端な例では、子どもの数が少ない高齢化地域に小児科を開業する等)
・取得費用が安かったからと路地裏に開業してしまい、周りから発見されにくく、認知されるまでに時間がかかってしまった
・居抜き物件で医院の名前を変えなかったので、前医院長の悪い評判を引き継いでしまった
・不動産業者の「こんな優良物件が手に入るのは今だけですよ」という強引な勧めに乗ってしまった

その上で、医療物件を選択する際には次の4つの形態を検討することが多いと思います。
ここでは、それぞれの留意点をお話します。

1)テナント
2)医療モール
3)承継、居抜き物件
4)医院建設

1)テナント選択時の留意点

初期投資額を抑えるため、ビルテナントに開業する先生も多くいらっしゃいます。

しかし、テナント開業は様々な制約が発生する可能性があり、また結果として賃料など運営コストがかかる可能性もあるため、以下の点で注意深い確認が必要です。

①医院としての物件調査
②テナントの店子(上下隣)のチェック
③テナントの広告規制の確認
④テナントの賃貸借契約の形態の確認

①医院としての物件調査

医院・クリニックとなる建物は、無床の診療所であれば一般建築物、有床の診療所であれば特殊建築物に該当する点に注意しましょう。

特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。

引用元:建築基準法第2条2項

別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供するもので、その用途に供する部分(同表(一)項の場合にあっては客席、同表(二)項及び(四)項の場合にあっては二階の部分に限り、かつ、病院及び診療所についてはその部分に患者の収容施設がある場合に限る。)の床面積の合計が同表(は)欄の当該各項に該当するもの

引用元:建築基準法第27条の2

建築基準法の他、医療法、バリアフリー法、地方公共団体条例(まちづくり条例)などを遵守する必要があります。

以上を踏まえたうえで物件調査を行い、医院・クリニックとして使用できるかどうか、次の項目をチェックしてください。

【建物・間取り】
・他の施設と物理面・機能面で明確に区画されているか(戸建)

・廊下などと診療所となる場所が明確に区画され、天井まで仕切りがあること(テナント)

・待合室、廊下、診察室は各独立していること

・待合室の広さは3.3㎡以上か

・天井高は2.1m以上か
事務所として貸し出しているような物件で、天井が低い場合、医院として使用できない可能性があります。設置する装置によって決める必要があります。

・電気設備 必要な電力容量を確保できるか
必要に応じて電気容量を増やす際の追加費用を確認します。

・空調設備 エアコンは十分か、移設・増設することはできるか
移設・増設が必要ならその追加費用を確認します。

・換気設備 各部屋の給気や換気、最終排出先の確認

・給排水衛生設備の確認
医院には手洗い、流し台、トイレ等の衛生設備が必要です。衛生器具については医師や患者の導線を確認の上、設置しましょう。

・消防設備 自動火災報知設備や避難口誘導灯、スプリンクラーといった設備の設置

・ビル指定業者(B工事業者)の有無
ビル指定業者については、指定業者のため金額交渉が難しく変更もできないので想定より割高になる可能性が高くなります。事前に工事区分表を入手し、工事業者はどこか(指定業者がいるかどうか)を確認しましょう。

【診察室】
・診察室の広さは9.9㎡以上

・診察室と処置室を兼ねる場合、カーテンなどで区画できるようにすること

・医師1人に対して一室であることが望ましい

・1部屋で1つの診療科目であることが望ましい

・給水設備を整えることが望ましい

【調剤場所】
・待合室と調剤所の間には天井までの仕切りがあること

・採光および換気を十分にし、かつ清潔を保つ

医院・クリニックの内装については、以下の記事も参考にしてください。

【関連記事】【医院・クリニックの内装】レイアウト決定のために押さえておくべきチェックリスト

②テナントの店子(上下隣)のチェック

テナントを借りる場合、病院の落ち着いた雰囲気を壊すような店子が入っていないかどうかをチェックすることが必要です。

もし近隣に、学生や生徒でにぎわっている予備校や学習塾、習い事などの教室、飲食店などが入っている場合は要注意です。

またイメージや入りやすさの問題から、夜のお店や消費者金融などの入っている建物も、できれば避けたいところです。

③テナントの広告規制の確認

「○○医院」のような袖看板や広告を条例で禁止しているケース(横浜市)や、デザイナーズビルなどでオーナーが看板を禁止しているようなケースがあります。

特に表通りに面していない場合は、もし看板を設置できないと、医院があることが患者に認識されない可能性があり、集患が難しくなってしまうでしょう。

④テナントの賃貸借契約の形態の確認

賃貸借契約期間が10年以内に設定されているようなことがないかを確認してださい。

医院開業の際には、内装工事や医療機器の設置等に費用をかけ広告宣伝費もかけて認知度を上げることが必要です。

それが数年後に移転しなければならない、となると大きな損失を出してしまうことは避けられないでしょう。

特に将来、医療法人化を検討している場合は要注意です。医療法人化の要件に「長期間にわたり賃貸借契約を継続することの保証」という項目があることが多く、満たせない可能性が出てくるからです。

2)医療モール選択時の留意点

医療モールを選択する場合、物件として医院を前提にしているため医療物件としての要件を満たしている場合がほとんどです。

ただし、建物自体が古い場合などは新しい要件に対応していないケースも想定されるため、調査を行っておく方が無難でしょう。

また、医療モールを選択する場合の注意点として、既に入っている医院を把握しておいてください。

小児科と内科など、診療科目によっては患者の奪い合いが生じるケースがあり、近くに競合の医院があることになるからです。

他にも、例えばインフルエンザの予防接種はどの診療科目でも実施できるので、患者の奪い合いになり、関係が悪化する可能性もあるので注意が必要です。

3)承継、居抜き物件選択時の留意点

もし、先生の理想に近いクリニックが売りに出ている場合は、承継開業(M&A)がおすすめです。

開業資金を抑えられ、しかもすでに繁盛している医院の患者さんやスタッフ、設備を引き継げるので、運転資金も新規開業の半分くらいの用意で済みます。

ローリスク・ハイリターンな開業と言えますが、次の点は注意しましょう。

・内装の新調や医療機器の買い替えで思ったより費用がかかってしまうことがある

・前院長の悪い評判も引き継いでしまうことがある

・承継による休診期間が長いと、患者さんが離れる可能性がある

・スタッフを引き継ぐ場合、前院長よりも雇用条件を下げることができない

・医療法人の場合、資産だけでなく負債も引き継ぐ

・医療法人の場合、税務調査を引き継ぐこともある

・医療法人の場合、承継前の損害賠償責任を負うことがある

売り手とのマッチングを十分に検討するのはもちろん、良いことだけでなく悪いことも引き継ぐことになるので注意しましょう。

内装や医療機器だけでなく、評判やスタッフの雇用条件など目に見えない部分も含めて評価しないと、かえってコストがかかってしまうことになります。

なお、医療法人の事業承継には行政の許認可が深く関わってきます。

売主と買主が合意して売買が成立しても、買主はすぐに診療をスタートできず、行政手続きを経てからでないと診療は開始できないのです。

そのため、売買は成立したけど、行政で認可が出なかったというトラブルもあります。

M&Aについては、以下の記事も参考にしてください。

【関連記事】医院・クリニックの後継者不在なら廃院か?M&Aか?

4)医院建設選択時(戸建て物件)の留意点

戸建て物件による医院建設は、テナント開業や承継開業と違って条件の制約がなく、医院・クリニックのレイアウトを自由に決めることができ、最も理想を実現しやすいです。

しかし、開業資金が非常に大きく、莫大な借入金が必要になってしまうことも多いのです。

集患がうまくいかなくても簡単に移転できないため、開業形態の中では最もハイリスク・ハイリターンの形態と言えるでしょう。

また、設計や建設に日数を要するので、開業までの準備期間が長くなることも念頭に、前述の通り慎重に事業計画を立てていきましょう。

その他、気を付けておくべきこと

その他に、下記のことにも注意しましょう。

1)地元の有力者の開業状況
2)近隣の大学病院出身者の開業状況
3)将来の増築や診療科目の変更の考慮
4)不動産付きのコンサルタントにご用心

1)地元の有力者の開業状況

開業候補地において、地元の有力者(医師会の重鎮や政治家や地元の有力者の子息など)がすでに同じ科目の医院を経営していないかに注意してください。

そうした場合、競合する診療科目で開業してしまうと、地元に対する彼らの影響力が大きく、難しい立場に追いやられる可能性もあるでしょう。

2)近隣の大学病院出身者の開業状況

開業候補地において、近隣の大学病院出身者が開業していないかにも注意しましょう。

また近隣の大学病院出身のドクターが開業していない場合でも、後日、もしそうしたドクターが開業すると考えてみてください。

そのドクターは出身病院から患者を紹介されたり、出身病院で外来を担当したりと、パイプを維持していけるので、追い抜かれる可能性もあります。

逆に自分が属している大学病院や関連病院の近隣に開業する場合、同じ診療科目のドクターがいなければ開業するのは有利になります。

ただし、先輩等がすでに開業していると「なぜ同じ地域に開業するのか」と取られてしまうことも考えられます。

3)将来の増築や診療科目の変更の考慮

今は無理でも、将来オペ室を増室したい、診療科目を増やしたい…。

そうした展望があるのであれば、経営が軌道に乗って余剰資金ができてから取り組もうという計画があるかもしれません。

その際、増築できるように、次の想定が必要になってくるでしょう。

・必要な土地を押さえておく
・地主と交渉しておく
・テナントを借りる際に、院長室や医局等のスタッフスペースを転用する

4)不動産付きのコンサルタントにご用心

不動産会社やそれに近いところにいるコンサルタントに、土地・建物探しを依頼した場合、その不動産会社の物件を強く勧められる可能性があります。

「ぜひここにしてください!」と強く言われる可能性もありますが、複数の物件を比較したり、他の人の意見を聞いたりして冷静に判断をしましょう。

思わぬ高値で、物件をつかまされてしまうことになるかもしれません。

まとめ 物件選びのポイント

これまで、医院・クリニックの物件選定のポイントについて解説しました。

  1. 都市部か郊外か、駅前か住宅街か、昼間人口か夜間人口のどちらを重視するか
  2. 診療圏調査における留意点
  3. テナント、医療モール、承継、医院建設のそれぞれの留意点
  4. その他、気を付けておくべきこと

物件をいったん選んでしまうと、少なくとも数年、長ければ数十年は簡単に変更できません。

変更したとしても多額の費用が掛かってしまうでしょう。

そうしたことにならないように、ここで挙げたポイントを頭に入れ、納得のいく物件選びができるよう、ご検討ください。

なお、テナント開業については、注意点をもう少し詳しく解説した記事があるので、合わせてご覧ください。

【関連記事】医院・クリニックをテナント開業するときの10個の注意点

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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