医院・クリニック開業時の採用面接、書類選考、採用後のスタッフ教育で失敗しないコツとは?
「一生懸命スタッフを教育をしても全然育ってくれない!」
「承継開業してスタッフも引き継いだけど、全然言うことを聞いてくれない」
「勤務していた前の病院から付いてきてくれたスタッフに、『先生は変わっちゃいましたね』と言われてしまった……」
医院・クリニックを経営していく上で重要な集患や患者満足度は、優秀なスタッフをそろえられるかどうかで決まると言っても過言ではありません。
特に開業時のオープニングスタッフ選びには最新の注意を払いましょう。
そこで今回は、スタッフや勤務医の採用、採用直後のスタッフ教育について留意すべき点を解説します。
スタッフを募集する方法とは?
スタッフを募集する方法として、主に次のようなものがあります。
1)ハローワーク
2)民間の転職サイト、エージェント
3)チラシ配布
4)看護学校や専門学校での募集
5)紹介(縁故採用)
6)引継ぎ(居抜きや医院承継の場合)
7)顔なじみの看護師等
8)SNSを活用する
それぞれの方法の留意点等を解説します。
ハローワーク
ハローワークを利用する最大のメリットは、手続きの費用が無料であること。
採用にかかるコストは0です。
ただし無職の期間が長い方、前の職場を何らかの理由で解雇された方もいるため、ハローワーク経由の求職者の質が低い傾向にあることは否めません。
最悪の場合、連絡なしに面接に来ないというケースも。
利用する場合は、他の方法と併用したり、スケジュールに十分な余裕を持たせたりしましょう。
民間の転職サイト、エージェント
転職サイトやエージェントを使って採用すると、掲載費用がかかり、さらに採用の際は、一般的に一求職者の年収の20~30%程度を報酬として支払わなければなりません。
その分、エージェントに「こんな人を採用したい」と伝えることで、応募者に対するチェックや条件に合う希望者を紹介してもらうことが可能です。
無料のハローワーク等と比較し、より求める人材に近い方を採用できる可能性が高くなるでしょう。
チラシ配布
人件費・交通費を抑えたい、急な呼び出しにも対応してほしいなどの理由で、近隣から採用したいときに使える手段です。
院長先生がご自身で直接チラシを作成・印刷すればコストを抑えられますが、反応率の高いチラシを作るにはプロの手を借りた方が確実でしょう。
ただし、クリニックの診療科目によっては、求職者が近所でないほうがいい場合もあるため、注意が必要です。
例えば、診療科目が泌尿器科や婦人科、精神科、心療内科など、治療内容がデリケートな場合です。
治療していることを知られたくないのに、受付に近所の方、顔見知りの方が座っていたら……、「もし噂でも立てられたら?」と来院しづらくなってしまうでしょう。
診療科目によっては遠方の方を採用したほうが良いケースもあることを留意しておきましょう。
看護学校や専門学校での募集
看護学校や専門学校の就職担当者等に声をかけ、募集をかける方法です。
当然ながら一からの丁寧な教育が必要になります。
紹介(縁故採用)
信頼感があって安心して採用することができますが、一方で、性格やスキルに難があっても断りづらい、紹介者との関係が悪化する、などのリスクがあります。
紹介してもらった知人の手前、厳しく接することが難しい場合もあります。
こうしたリスクを回避するためにも、縁故採用といえども私情に流されず、しっかりとした面接を行うようにしてださい。
引継ぎ(居抜きや医院承継の場合)
居抜きや医院承継の場合に、前任のスタッフや勤務医をそのまま雇用することです。
採用の費用が抑えられること、教育がそれほど必要ではないこと、引き継いだ患者さんと顔見知りであることなど、大きなメリットがあります。
ただし、引継ぎの場合は職場が変わらないため、前院長のやり方を無意識に踏襲して、自分の言うことを聞いてくれないことが考えられます。
後述するように、経営理念、役割、具体的な業務内容を伝えて教育しましょう。
顔なじみの看護師等
大学病院など以前同じ勤務先で働いていた看護師などを、採用することです。
同じ職場にいたという安心感、信頼感はとても大きいでしょう。
ただし、以前は双方とも雇われの立場でしたが、今後は雇う側と雇われる側になります。
彼らには同僚ではなく経営者として接する必要があり、勤務態度等に対する注意などもしないといけませんから、以前の関係は保てなくなるでしょう。
「開業したら、先生が細かいチェックばかりするようになった」、「以前言われなかったことを言われる」と言われるかもしれませんが、最初にしっかりと説明しておくことが必要です。
できれば面接を行い、他に面接官がいる場合には、彼らの意見も聞いて採用を決めるべきでしょう。
また、前職の病院から見ればスタッフの引き抜きということになるので、スタッフ引き抜きによるトラブルには十分注意してください。
SNSを活用する
ハローワークを活用した求人や、転職サイトの利用には一長一短あり、必ずしも応募があるとは限りません。
そこで最近増えてきたのが、SNSを活用して求職者に興味を持ってもらい、求人に応募してもらう方法です。
具体的には、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSを活用し、日々の情報をタイムリーに発信する採用方法です。
詳しいことは、以下の記事をご覧ください。
面接ではここを見るべき!具体的なやり方とは?
面接時の質問はあらかじめ用意しておき、表にしておくと、応募者を横並びで比較できるのでよいでしょう。
1人あたり20~30分、場合によってはもう少しやっても良いでしょう。
面接時の求職者への質問事項
優秀で長く働いてくれるスタッフを採用するのであれば、面接では次のことを確認する質問をするようにしましょう。
・志望動機
・経験年数
・アピールポイント(得意な技術や接遇など)
・やりたい業務
・他のクリニックに応募しているかどうか
・働く意欲や向上心
・インシデント経験(医師・看護師向けの質問)
・残業や代わりの出勤が大丈夫かどうか
・前職の退職理由
面接時で重要な確認事項
面接時に重要視すべきは、応募者の回答の内容よりもその際の態度や印象です。
・言葉遣い
・相手に伝わる言い方ができるよう、気を遣っているか
・仕事に対する意欲が感じられるか
・受け答えがはきはきしているか
・素直で柔軟性がありそうか
など、応募書類では見えづらい点を確認しましょう。
また、開業までのスケジュールを示し、
・雇用契約日
・医療機器/電子カルテの操作説明日
・接遇(患者さんへの接し方)研修の日
などの事前準備の日に来られるかも確認してください。
医療に対する価値観を共有できることも条件なので、こちらの医療方針を話し、共感してもらえるかどうかも確認しましょう。
なお、内視鏡の取り扱いに精通している、マンモグラフィーの取り扱いに詳しいなど、高度の専門能力を有していてどうしても欲しい人の場合は、給与面や福利厚生面を手厚くすることを検討しても良いでしょう。
採用を見合わせたほうがいい人の特徴とは?
面接をしてみて、こうした人は採用を見合わせるのが無難でしょう。
1)きちんとしたあいさつができない人、愛想の悪い人
2)面接時の言動に常識を欠いている人
3)労働条件や待遇に対する質問が多い人
4)以前の勤務先の悪口を言う人
5)一方的に話し続ける人
6)極端に悪筆な人
7)両親との関係が良くない人
きちんとしたあいさつができない人、愛想の悪い人
説明の必要もありませんが、社会人として常識に欠けるといえるでしょう。
患者さんへの接遇態度も悪い可能性が高く、患者さんとのクレームやトラブルが増える可能性があります。
面接時の言動に常識を欠いている人
面接時の言動には注意をしてチェックしましょう。例えばこうした言動の方には注意が必要です。
・「お座りください」と言われていないのに勝手に椅子に座る
・面接時にコートを脱がない、帽子を取らない等
・かなり化粧が濃い
・香水がかなりきつい
・ネイルが派手
・携帯の電源を切っていない
・終了時に引いた椅子を元に戻さない
労働条件や待遇に対する質問が多い人
面接は自分の志望動機や適性をアピールする場です。
残業代は?有給の取得条件は?昇給は?など質問が多すぎる人は、待遇にしか興味がない可能性があり、要注意です。
この点を見抜くポイントは、最後に「他に不明な点や疑問点はありますか?」と聞くことです。
もし、「待っていました」と言わんばかりに労働条件や待遇に関する質問ばかりしてくる人がいれば要注意です。
こうした人は、何かささいな不満があったらすぐに辞めてしまう可能性が高いです。
対価に見合った労働をする前に、いろいろ不満を言ったり、要求を言ったりする可能性が高いので、採用を見合わせた方がいいでしょう。
以前の勤務先の悪口を言う人
前職の退職理由について確認し、後ろ向きな理由が多い場合はやめておいた方が無難です。
こうした人は他の人に責任を押し付け、院長先生や他の医師、スタッフの悪口を言ったり、人間関係のトラブルを起こしたりする可能性があるからです。
一方的に話し続ける人
1つ質問をすると簡潔に答えず、ずっとダラダラと話し続けるようなタイプの人。
院内の雰囲気も壊してしまい、またコミュニケーションを取りづらい可能性があります。
極端に悪筆な人
ほとんどの求職者がパソコン等で履歴書を作成してくるため、筆跡を知るのは困難ですが、質問票に記載してもらうなどして、確認しておきましょう。
特に事務作業をお願いする場合に、あまりに悪筆だと困ってしまうからです。
両親との関係が良くない人
少し意外かもしれませんが、親子関係を聞いたとき、両親の悪口を言うような人は要注意です。
自己肯定感が低いうえに言い訳が多く、他責思考の傾向があるためです。
職場でも良好な人間関係を築ける可能性が低いです。
未経験者(新人スタッフ)はどの程度採用すべきか?
経験者と未経験者は、バランスよく採用するほうがよいでしょう。
たとえば、受付係を複数人置く場合、全員が経験者より、未経験者を組み合わせたほうがよい場合もあります。
未経験者を指導する際に、さりげなく経験者をも指導することができるからです。
経験者は前職のやり方を押し通そうとしがちです。
全員が経験者の場合、院長が望むやり方を指導すると、経験者との関係が悪化してしまうことがあります。
しかし、未経験者と一緒に経験者に新しいやり方を指導するかたちを取ると、経験者も新しいやり方を受け入れやすくなるのです。
反対に、未経験者のみでは、機器の取扱いや窓口での連絡、会計など、初歩的なミスが増える可能性があります。
勤務医を雇用する際に、将来の退職に注意
常時2診制や将来の拡張(分院展開)を考えているのであれば、勤務医を雇用することも考慮に入れておきます。
その際に、勤務医も将来的には自分自身で開業したり、何らかの事情で退職したりする可能性があることを考慮しておきましょう。
採用時に、開業の意思がないかどうかを確認しておくほうがよいでしょう。
優秀な医師であれば、給料や福利厚生などの待遇を手厚くしたり、将来分院を任せる可能性があることを伝えたりするなどしてもよいでしょう。
ただし、「絶対」ということはありませんから勤務医が退職してしまった場合の代替案も考えておいて下さい。
また、採用する医師の中には将来独立して新規開業しようと考えている方も多いです。
そのため、「退職時に半径何km以内には開業しない」という取り決めも必要になることが多いです。
スタッフ教育では、理念、役割、具体的な業務内容を伝えよう
採用後のスタッフ教育では、次のことを伝えましょう。
1)経営理念
2)各自の役割
3)業務チェックリスト
経営理念
自院の経営理念を説明して話し合い、スタッフに浸透させましょう。
理念やミッション・ビジョンに共感できるかどうかは、スタッフのやる気に大きく関わってきます。
単に経営理念だけではなく、自院の診療科目の選択理由、院長先生がどのような考え方で医療サービスを提供するかを具体的に明示する必要があります。
経営理念は文書化し、スタッフの見えるところに掲示しましょう。
また、採用面接時でも、経営理念はチェックしているか、どんな点に共感しているかは確認しておくのが理想です。
各自の役割
院長先生、看護師、受付事務、医療技術員、場合によっては院長夫人や事務長それぞれの役割、業務内容を明確にしておきましょう。
職務内容一覧表に、指揮命令系統を明示し、それに従って職務を遂行できるようにしてください。
業務チェックリスト
業務チェックリストがあると、指導や昇級の際のチェック項目としても使え、便利です。
職務ごとに作成しましょう。
下記に受付業務のチェックリストの例を挙げます。
カテゴリ | 項目 |
---|---|
電話対応 | ・3回以内のコールで取っているか
・電話機のそばに筆記用具とメモ用紙があるか ・相手が名乗らないときには,積極的に名前を確認しているか ・伝言を頼まれたら要点を復唱して確認しているか,自分の名前を告げているか ・診療時間中に,勤務医や院長への伝言のルールを守っているか(口頭でなく,メモを渡す等) |
接遇 | ・患者様を笑顔でお迎えしているか
・待合室の患者様への気配り・目配りができているか ・明るくあいさつができているか ・患者様に接する際に,笑顔でハキハキと対応しているか ・専門用語ではなく分かりやすい言葉で説明しているか ・患者様に対して,命令形,指示形(~してください)ではなく,依頼形・疑問形(~して頂けますか?・~してもよろしいでしょうか?)で話しているか ・長時間お待たせした患者様には,「お待たせして申し訳ございませんでした」と声をかけているか ・診察券・保険証やお金の受け渡しは相手の方を向いて両手で受け取っているか ・会計する際に,治療費用,預かり金額,お釣りの金額をしっかりと告げているか ・次回の予約を必ず確認している(不要の場合は不要であることを確認している)か ・面会者,出入りしている業者に対しても丁寧な対応をしているか |
・髪が伸びすぎていないか,長い髪は束ねているか
・髪の色が,明るすぎないか(金髪などはNG) ・アクセサリーを控えているか ・濃い化粧になっていないか ・香水がきつすぎないか ・爪は短く切ってあるか,ネイルは最小限か ・顔色が健康的か ・ユニフォーム・シューズは,清潔感があり綺麗か ・名札を,見やすい位置にまっすぐ付けている(曲がっていない)か |
【まとめ】試用期間を設け、スタッフを見極めよう
スタッフ、勤務医の採用方法や面接の方法、教育について解説しました。
ただし、短時間で相性や性格をすべて見抜くことは難しいと思います。
そこで、スタッフや勤務医には、2~3ヶ月間の試用期間を設けるのもいいでしょう。
・最初は緊張感があってもだんだん手を抜く
・患者さんとのやり取りに高圧的なところがある
・患者さんに曖昧な説明をしている
・遅刻が増えた
・服装が華美になってきた
などがないか、採用したスタッフや勤務医についてしっかり観察してください。
長い付き合いになる、頼りになるスタッフや勤務医は慎重に採用し、良い人には是非長く勤務してもらえるよう、待遇を良くしていきましょう。
ただし、試用期間については、簡単に本採用を拒否すると解雇扱いとなってしまうなど注意点もあります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
優秀で長く働いてくれるスタッフを採用して、人間関係が良好で生産性の高いクリニックを作っていきましょう。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。