元勤務先から看護師を引き抜くのは違法?医院開業で失敗しない4つの絶対条件

公開日:2026年6月11日
更新日:2026年6月11日

開業を控えた勤務医の退職トラブルで、よく問題になるのが看護師などのスタッフの引き抜きです。

医院開業を控えた先生の多くは、勤務先から優秀な看護師や事務スタッフを引き抜いているのは事実ですし、引き抜き自体は違法ではありません。

開業を控える先生であれば、信頼関係がすでにできている看護師を引き抜きたいと考えることは自然です。

しかし、勤務先の病院やクリニックが引き抜きを禁止している場合、大きなトラブルに発展する可能性があります。

また、開業後に、引き抜いた看護師とトラブルが発生する可能性にも注意が必要です。

そこで、今回は医院開業時に看護師を引き抜く際の注意点をお伝えします。

看護師の引き抜きは推奨するがトラブルに十分注意すること

基本的に、勤務先の看護師や事務スタッフなどを引き抜くことはおすすめの採用方法の1つです。

特にオープニングスタッフは、経営が軌道に乗るまでは定着が難しい傾向にあります。

また、現状医療業界の採用は売り手市場が続いているため、新規開業の医院・クリニックのスタッフ採用が年々難しくなっています。

しかし、すでに信頼関係ができていて、能力を発揮してくれる優秀なスタッフを採用できれば、開業後の経営やマネジメントがスムーズに進みます。

さらに、採用コストを大幅に削減することができるメリットもあります。

ただ、看護師などのスタッフ引き抜きは慎重にならないといけません。

勤務先の病院・クリニックにとっては大きな痛手です。

勤務先の規模によっては、勤務医1人が辞めるだけでも影響があるのに、優秀なスタッフまで一斉退職されては、怨念を抱くのも無理はありません。

場合によっては、損害賠償を請求されるトラブルに発展する可能性があります。

万が一損害賠償を請求された場合は、先生も弁護士を立てて争わなくてはいけないので、費用と労力の負担は大きくなります。

裁判をきっかけに悪い評判が立つようであれば、開業後の経営に影響を及ぼしかねません。

大切な開業初期段階で、不要なトラブルは起こさないようにすることが一番です。

看護師など勤務先のスタッフを引き抜く際の4つの注意点

それでは、具体的に看護師や事務スタッフなど勤務先のスタッフを引き抜く際の注意点をお伝えします。

特に看護師長や事務長などの引き抜きは、勤務先の経営に打撃となるため、損害賠償を請求される可能性が高くなります。

また、引き抜いたスタッフに、新規開業医院の雇用条件などを十分説明しないと、開業後にトラブルになる点にも注意してください。

強引な勧誘を避ける

勤務先を退職して医院開業する際、看護師などに執拗な勧誘をすることはタブーです。

特に嘘をついたり、勤務先の悪口を言ったりして大量に看護師や事務スタッフを引き抜いた場合は、勤務先に訴えられる可能性が高いです。

周囲には退職と新規開業を伝えた方がいいですが、引き抜きたい気持ちがあっても最終的にはスタッフの自由意志に任せましょう。

スタッフの自由意志による引き抜きであれば、ほぼ問題は起きません。

優秀な看護師や事務スタッフを引き抜きたいなら、「先生に付いていきたい」と思ってもらえるほど良好な関係を築いておくことが大切です。

もちろん、引き抜きたいスタッフに対してだけでなく、院長をはじめとする勤務先と良好な関係を築くことは言うまでもありません。

退職時のトラブルは、使用者と労働者いずれかの怨恨から生まれることが多いです。

なお、スタッフだけでなく、患者さんに対しても強引に転院を勧めてトラブルになるケースがあるので注意してください。

引き抜き禁止の覚書がないかを確認する

勤務先の雇用契約書や就業規則などで、引き抜きを禁止する合意を交わしていないか確認してください。

何らかの合意書を交わしている場合、看護師や事務スタッフの引き抜きができない可能性があります。

勤務先の病院やクリニックによっては、大量離職を防ぐために、新規開業時のスタッフ引き抜きを禁止していることがあります。

しかし、先生の強引な勧誘ではなく、スタッフの自由意志で転職するということであれば、勤務先の規約違反に当たらない可能性があります。

スタッフの自由意志で転職するのであれば、引き抜きに該当しないためです。

【日本国憲法第22条第1項】

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

また、上記の憲法第22条より、勤務先はスタッフの職業選択の自由を阻害することはできないので、スタッフの転職自体を禁止することはできません。

看護師に十分説明して最終的に書面を交わすこと

新規開業医院に引き抜くスタッフについては、待遇面を口頭ではなく、必ず雇用契約書など書面の形にして説明しましょう。

例えば、「今の給料より増やす」と口頭で伝えたのに、実際は待遇面が劣っていたことになれば確実にトラブルになります。

転職時の給与だけでなく、昇給などについても十分説明しておくことが必要です。「昇給額が前職より少ない」とトラブルになることがあるからです。

先生の勤務先によっては、新規開業医院の方が待遇面でどうしても劣ってしまうケースもあります。

その場合でも、正直に待遇面について説明して、お互いが納得できる形で転職してもらいましょう。

スタッフの獲得を優先するあまり、メリットばかり説明することは避けてください。

また、今の勤務先以上の待遇を求めるスタッフは、あまり採用をおすすめしません。

給与で勤務先を決めるスタッフは、他に良い条件の職場が見つかったら、すぐに転職する可能性が高いためです。

特に開業初年度は、賞与を支払うことが厳しいことが多いです。

転職のデメリットもしっかり説明して、それでも一緒に働きたいと思えるスタッフであれば、末永く勤めてくれる可能性が高いでしょう。

開業後に看護師を引き抜かれるリスクがある

先生が新規で医院開業した後、雇用した勤務医が独立開業することは十分考えられます。

医院の近くに開業することもありますし、患者さんや看護師、事務スタッフを引き抜くこともあります。

この場合、雇用契約書や就業規則などで競合避止義務や引き抜きの禁止に関することも記載しておくことが必要です。

しかし、原則としてスタッフには職業選択の自由があるため、よほど悪質なことをされない限り、開業の制約を加えることに限界があります。

普段からスタッフとの関係を良好にしたり、待遇を手厚くしたりするように努めましょう。

【まとめ】引き抜きによるトラブルは十分気を付ける

以上、新規医院開業時に勤務先の看護師や事務スタッフを引き抜く際の注意点についてお伝えしました。

他にもオープニングスタッフ採用としては、一般的な求人応募や縁故採用などがありますが、勤務先から引き抜くことも有効な手段です。

実際、医院開業時に元の勤務先のスタッフを採用したという話は多いです。

ただ、トラブルには十分注意しなければいけません。

スタッフ引き抜きというと、勤務先とのトラブルのイメージが強いですが、引き抜いたスタッフとのトラブルにも要注意です。

自由意志で先生に付いてくることを前提とし、待遇面や業務内容などをよく説明して、書面を交わすようにしましょう。

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笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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