医院・クリニックのスタッフ間の人間関係5つの注意点
医院・クリニックの院長先生にとって、スタッフとの人間関係は悩みの種です。
「職場満足度調査」などでスタッフのクリニックを辞めたい理由を調査すると、半分以上は人間関係が原因です。
クリニックに限った話ではないですが、人間関係が悪く、院内の雰囲気が悪くなれば、給料が良くてもスタッフの離職率は増加します。
せっかく採用したスタッフが数ヶ月で辞めてしまうと、それまでの人件費や教育にかけた時間が無駄になり、大きな損失です。
スタッフとの人間関係を悪化させる要因は早期に解決し、人間関係を良好に保てるようにしていきたいものです。
スタッフとの人間関係が良くなれば、スタッフ全員のモチベーションが上がるので生産性も上がり、長期的な売上アップに繋がります。
そこで今回は、医院・クリニックのスタッフ間の人間関係で注意したい5つのポイントについてお伝えしていきます。
特定のスタッフに対して「えこひいき」してませんか?
院内の雰囲気がギスギスしたり、スタッフ間の人間関係が悪くなったりしている原因は、院長先生自身が作り出しているケースもあります。
例えば、特定のスタッフに対してえこひいきしているというものです。
えこひいきしたスタッフが辞めるケースや大量離職の可能性も
特定のスタッフにだけ待遇を良くしたり、人によって明らかに態度が違っていたり。
院長先生のえこひいきは、思った以上に周囲のスタッフはすぐに察知して、不公平感、そして不信感につながります。
改善しなければ、スタッフ間で不満を募らせることになり、クリニック内の雰囲気は急速に悪化します。
院長先生のえこひいきが原因で、優遇されたスタッフが他のスタッフから白い目で見られ、気まずくなることもあります。
最悪、院長先生が優遇していたスタッフが辞めてしまったり、不満を募らせたスタッフが大量離職したりすることもあり得ます。
そして実際に医院・クリニックでは大量離職のようなケースはよく耳にします。
えこひいきと誤解されないための工夫
こういった最悪の事態を避けるには、普段から院長先生がスタッフに対して気を配ることが大切です。
例えば、
- 各スタッフとの会話の回数を意識して、偏りがないようにする
- スタッフに話しかけるときは口調を統一する
- 常に笑顔を絶やさず、スタッフによってあからさまに態度を変えない
- 各々のスタッフの性格に合わせたコミュニケーションを考える
また、えこひいきしないことも大事ですが、優秀なスタッフに対する正当な評価が、えこひいきと誤解されないようにすることも大切です。
正当な評価をしたつもりが、スタッフは「不公平だ。なんであの人ばかり」と感じてしまうことは珍しくありません。
これを防ぐためには、スタッフも納得できるような人事評価制度をスタッフと一緒に作っていくのも有効でしょう。
そうすれば、給与で優遇されているスタッフに対して、他のスタッフが不公平感を覚えることもなくなります。
また、全員を公平に扱うという姿勢よりは、一人ひとりのスタッフを大事にしていることを示すことが重要です。
個人面談などで、スタッフが悩んでいること、不満や不安などを聞いたりして寄り添うようにしましょう。
「うちの院長は◯◯に対してえこひいきしている」
と思われている時は、だいたい院長先生とスタッフとのコミュニケーションが希薄になっていることが多いです。
院長先生が自ら、スタッフに対して「一緒に地域医療に貢献する仲間」という意識を持って接していれば、このような事態は避けられるでしょう。
スタッフや看護師間で生まれる派閥を避けるには?
医院・クリニック内の人間関係に亀裂を生む原因の1つに、スタッフ間で生まれる派閥があります。
職場という狭い空間、特に女性の多い職場ではスタッフ同士で派閥が生まれやすいです。
派閥で辞めるのは張本人ではなく孤立したスタッフ
閉鎖的な職場空間で生まれる派閥は、人間関係を悪化させ、スタッフが働きづらくなるので百害あって一利なしです。
お互い足を引っ張りあったり、孤立したスタッフを罵倒したり。
こういった派閥を放置すれば、当然スタッフは働くのがつらくなり、離職率の増加に繋がります。
しかも辞めていくのは派閥を生んだ本人ではなく、孤立して職場に生きづらさを感じたスタッフです。
ですから、スタッフ間の派閥をなくさない限り、新しいスタッフを採用しても、結局次から次へとすぐに辞めていくでしょう。
さらに最悪の結果、対立している派閥のどちらかが反旗を翻して大量離職に繋がることも十分考えられます。
派閥を改善した事例
とある歯科医院でも、スタッフ間の派閥間の対立により、院内の雰囲気が急速に悪化していました。
このままではいけないと感じた院長は、次の抜本的な改革を行いました。
- 対立しているスタッフたちに、敢えて同じ仕事を割り振る
- スタッフの潤滑油となるように心がける
- 飲み会や食事会などでは、派閥に関係なくスタッフ同士が交流できる工夫をする
派閥で対立しているスタッフに同じ仕事を割り振ったりすることは勇気のいることかもしれません。
かえって仕事が進まなくなることも考えられます。
しかし何もしなければ、スタッフ間の派閥は解消されません。
同じ仕事を割り振ることで、コミュニケーションの機会が生まれたりします。
最初はギスギスしたみたいですが、そういったときに院長先生が潤滑油になるように間に入ったことで何とかなりました。
また、飲み会や食事会なんかも、院長先生が真ん中に入って敢えて違う派閥同士で会話が盛り上がるように配慮しました。
そうすることで、うつ病寸前のスタッフが続出していた歯科医院は、見事に派閥を解消させ、院内の雰囲気は劇的に良くなりました。
なれなれしいスタッフにはどう対応する?
院長や目上の医師に積極的にコミュニケーションを図るスタッフは、一見すると好ましい姿に映ります。
しかし、なかには度を超えてなれなれしい態度で接するスタッフも少なくありません。
院長先生がえこひいきしていると誤解される可能性も
なれなれしいスタッフは、他のスタッフから「なれなれしくて気持ち悪い」「媚びている」と嫌悪感を抱かれます。
それだけならまだしも、話しかけられている院長先生が、えこひいきしていると映ってしまう可能性があります。
先に書いたように、えこひいきしてなくても、えこひいきと誤解されることは避けないといけません。
付かず離れずの態度で、ときには毅然とした対応を
気持ち悪いぐらいなれなれしいスタッフの存在は、人間関係の亀裂、院内の雰囲気の悪化を生んでしまいます。
しかし、なれなれしいスタッフに対して、冷たく突き放したり、怒鳴ったりするのはタブーです。
こういったなれなれしくて媚を売るスタッフほど、機嫌が悪くなると逆にトラブルを生んだりするものです。
では、どのようにしていったら良いかというと、
- ほかのスタッフと話をするときと変わらない態度を保つ
- 仕事のやりとり以外では2人きりで話をするのを避け、他のスタッフを交える
- 相手の調子に合わせず、ときには受け流したりもする
「うるさい!」と冷たく突き放してはだめですが、付かず離れずの態度を取るのは全然構いません。
ほどよい距離を取るようにすることで、スタッフの態度も自然と改まっていくでしょう。
もちろん、なかなか態度が改まらないスタッフに対しては、毅然とした態度を取ることが重要です。
職場環境に対する方針をきちんと発信する
院内の人間関係を良好にし、雰囲気を良くすることは、クリニック内のストレス緩和や離職率の低減には必須事項です。
しかし、こういった院内の雰囲気について、方向性を明確に発信しているクリニックの院長はかなり少ないです。
ミーティングなどで人間関係や職場環境の方針を伝える
明確な方向性とは、例えば「具体的には批判や愚痴を許さない」「疑問に思ったことは自由に発言して良い」といったことをスタッフに明確に伝えることです。
このような人間関係や職場環境に関することは、「言わなくてもわかるだろう、小学生でもあるまいし」と口に出さない方が多いです。
しかし、人間関係や職場環境に対して明確な発言をし、院内に浸透させることは思いのほか重要です。
多くの人間関係に悩む医院では、誹謗中傷をしたり、誰かの足を引っ張ったり、派閥を作って誰かを孤立させたりしているのです。
このような最悪の雰囲気をなくすためには、院長先生が自らミーティングなどで方針を明確に伝えるしかありません。
ミーティングだけでなく、毎日毎日言い続けるのです。
定期的に、一部のスタッフに対してコミュニケーションスキルやコーチングを学ばせるのも良いでしょう。
発信すれば遅くても1~2年で雰囲気は改善する
方針を明確にすることで、批判や愚痴ではなく、建設的な意見を出し合うスタッフが増えたり、お互いを尊重し協力し合う雰囲気が醸成されたりしていきます。
おそらく遅くても1~2年もすれば、院の雰囲気は全然違ってくるでしょう。
スタッフの笑顔が増えたり、協力しあって仕事したりする姿は、患者さんも案外すぐに察知します。
ですから、スタッフの人間関係が改善されると同時に、先生のクリニックの評判も良くなり、売上の安定にも繋がっていくでしょう。
意外とクリニックの人間関係を左右するスタッフルーム
最後に、クリニックで働く人の憩いの場となるスタッフルームですが、単なる休憩所と考えるのはちょっともったいないところがあります。
スタッフルームは、クリニックの人間関係改善、スタッフのモチベーション向上には意外と大事だからです。
スタッフルームで緊張をほぐしてストレスを緩和する
医院・クリニックで働くスタッフは、患者さんの健康や命に関わる仕事に携わっているため、日常的に緊張を強いられています。
そういうときに重要な役割を担うのがスタッフルームです。
スタッフルームで、こうした緊張をほぐし、ストレスを緩和すれば院内の雰囲気の悪化を防ぐだけでなく、業務効率のアップも図れます。
スタッフルームで人間関係が良くなった事例
例えば大阪府池田市にある内科クリニックでは、スタッフルームにアロマコーナーを設置しています。
アロマコーナーに癒され、疲れた体や緊張した体をほぐしていくのです。
その結果、スタッフの笑顔が増え、患者さんからも「スタッフが明るい」と評判になったそうです。
そして、これまで多かったスタッフ間のトラブルも少なくなり、人間関係が良好になっていったとのこと。
スタッフルームに、こういったリラクゼーション効果を高めることで、院内の雰囲気が良くなることもあります。
もちろん、方法はアロマを炊くことだけではありません。
ゆったりしたソファやリクライニングチェアを設置しても良いでしょう。
スタッフルームはスタッフ同士が交流できる貴重な場所
スタッフルームには、「スタッフ同士が交流できる貴重な場所」という側面も忘れてはいけません。
ですから、物に溢れていて、雑然としていて話に集中できないというのは、極力避けたいものです。
整理整頓したうえで、大きめの机を設置し、ソファやリクライニングチェアを設置し、話ができる雰囲気があると良いでしょう。
このように整備されていれば、スタッフルームでちょっとしたミーティングしたり、昼食を取ったりもできるので、スタッフ間の交流機会が増えるでしょう。
スタッフルームは重要視されないことが多いのですが、院内の雰囲気を良くするには、結構重要な役割を担っているのです。
【まとめ】人間関係が良くなれば売上と離職率の両方が解決する
今回は、医院・クリニックのスタッフ間の人間関係の注意点についてお伝えしました。
- 特定のスタッフにえこひいきしない。またえこひいきしているように誤解されないこと。
- スタッフ間の派閥は百害あって一利なし。すぐに解消すること。
- なれなれしいスタッフには、付かず離れずで接すること。
- 院長自ら、職場環境や人間関係について明確な方向性を出すこと。
- スタッフルームの活用を軽視しない。
院内の人間関係や職場の雰囲気は、クリニックの運営やスタッフのメンタルヘルスに大きな影響を及ぼします。
人間関係を良くすれば、クリニックで働くことにやりがいを見出し、生産性が高まり、安定した売上に繋がります。
ぜひ、今回お話したことを1つでも取り入れて、クリニック内の人間関係の向上を図っていきましょう。
以下の記事も併せてご覧ください。
また、本記事では詳しくお伝えしていませんが、「仕事ができない」「性格的に問題がある」スタッフも業務生産性や人間関係を破壊します。
このようなスタッフを最初から採用しないように、採用時の対策も必要となります。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
監修者
亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。