クリニックの強固なチームワークを形成するための5つのポイント

はじめに

医院経営は院長先生1人では到底成り立つものではなく、看護師や医療事務などのスタッフのチームワークが欠かせません。

院内や飲み会でのスタッフ全員との笑顔の集合写真を思い浮かべながら、「もっと雰囲気を良くしてチームワークを強固にしたい」と考える先生も多いのではないでしょうか?

仕事のストレスを軽減し、スタッフ全員が力を合わせてイキイキと働くにはどうしたら良いのか?

人件費に対する費用対効果に関わりますし、チームワークは患者さんにも伝わりますから、患者満足度にも大きく影響します。

そこで今回は、クリニックが強固なチームワークを形成するための重要なポイントについてお伝えします。

ポイント1:自分のクリニックに合う人だけ採用する

履歴書の画像

人間関係、労使間トラブル対策、スタッフの定着率……、これらすべての労務問題に共通することですが、チームワークは採用時点である程度決まります。

労務問題全般、問題を解決することも大切ですが、そもそも問題を起こさないようにすれば、院長先生やスタッフのストレスがかかりません。

労務に関する課題を起こさないようにするには、誰を採用するか、といったことが非常に重要になってきます。

採用難、売り手市場と言われる医療業界で、採用する人材を絞るというのは勇気がいることかもしれません。

しかし、自院に合わない人を多く採用してしまうと、どんなに先生やベテランスタッフに統率力があっても強固なチームワークは形成されません。

求人広告で多くの求職者に興味を持ってもらうことは大切ですが、採用する人は絞る必要があります。

ですから、先生が理想のスタッフ像を明確にしておく必要があります。

そのうえで先生のクリニックの理念、また働くことによってスタッフがどのようなスキルを得て成長できるかを優先的に先に伝えましょう。

さらにスタッフの適正、成長意欲、向上心、退職リスクを面接時に確認し、「合わないな」という人は採用を見送りましょう。

ポイント2:【スタッフの退職】来るもの拒まず、去る者追わず

退職票の画像

スタッフの定着率を高めるために、就業規則等で労働条件を明確にしたり、人間関係を良好することは当然必要です。

しかし、どうしても先生のクリニックには合わないスタッフまでクリニックに残ってもらうべきかと言われれば、決してそんなことはありません。

むしろ、嫌々働くスタッフを無理に引き止めたり、問題スタッフを放置するのは、明らかに逆効果です。

強固なチームワークを形成するどころか、院内全体のモチベーションを下げ、労使間トラブルにも繋がります。

また、「院に合わない」「チームワークを乱している」スタッフは、自身も働くモチベーションを失っている可能性があります。

その場合は、「他に向いている医院があるかもしれない」と転職を促しても良いでしょう。

チームワークと言うと、「他人を排除してはいけない」「誰にとっても安心安全の場」と考えがちですが、決してそんなことはありません。

時には毅然とした対応が求められます。

ポイント3:サッカーのプレー方針から考えるチームワークの考え方

サッカーのプレー方針から考えるチームワークの考え方

2018年のサッカーW杯の2ヶ月前、急遽監督が交代になったことを覚えているでしょうか?

W杯開幕まで残すところあと2ヶ月という段階で監督交代するのは異例です。

サッカーのプレー方針には、大きく分けて次の2つの方法があります。

・一人ひとりの力を最大限に生かす方法
・組織として戦っていく方法

解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は前者の方法を取り入れ、個人が最大限の力を発揮することを前提としました。

しかし、W杯前のテストマッチで結果を残すことができず、さらに試合後の会見で選手を批判するなど、選手との信頼関係の希薄さが垣間見れました。

また、日本人は世界的に見て身体のサイズが小さく、個人の努力には限度があります。(サッカーに限らず、バレーボールなどでも良く言われることです)

一方、2018年のW杯限定で急遽就任した西野朗新監督(現タイ代表監督)は、後者を選択します。

「規律や組織をもとに結束して戦える強さがある。グループでのパフォーマンスが日本の良さ」
「所属クラブで見せている力を、選手たちがストレートに出せる状況を作りたい」

西野新監督は、当時そのように説明し、さらに、このように付け加えました。

「選手がパフォーマンスをしっかり出せる環境を作れば、勝てる確率は上がる」

正確には、西野新監督は前者と後者両方選択したと言えるでしょう。

これは組織運営でも同じようなことが言えないでしょうか?

個人の力を最大限に発揮するためには、ある程度の規律や組織力を固めることは必要です。

そのためには、先生が院の方針をしっかりと示し、スタッフ一人ひとりのことを理解することが必要です。

そのうえで、スタッフが動きやすいように敢えてルール作りをしていく必要があります。

クリニックの方針、規律とスタッフの能力が噛み合って初めて、強固なチームワークが形成されます。

ポイント4:スタッフに対する説明責任

スタッフに対する説明責任

2018年のW杯と言えば、突然の監督交代に対するサッカーファンの目は厳しいものでした。

「2ヶ月前に監督を代える理由がはっきりしない」という意見が飛び交ったのです。つまり、説明責任に対して、不満を抱かれてしまったのです。

日本代表を応援するサッカーファンとしては「こんな時期に交代なんて、何考えてるんだ!」となります。

「選手とのコミュニケーションと信頼関係が薄れていた」だけでは納得できなかったのでしょう。

説明責任(accountability)とは、次のように定義されます。

政府・企業・団体・政治家・官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、株主や従業員(従業者)、国民といった直接的関係をもつ者だけでなく、消費者、取引業者、銀行、地域住民など、間接的関わりをもつすべての人・組織(利害関係者/ステークホルダー)にその活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考え

つまり、医院経営に当てはめれば、説明責任は患者さんなどの対外的な説明だけでなく、スタッフなどに対する対内的な説明も含まれます。

対内的な説明を怠れば、組織運営や人員確保の点で、組織内部に影響を及ぼすことになります。

説明責任とは、、結果や過程を説明するだけでなく、「組織内外からの評価を得ること」「将来のビジョンを示すこと」も必要とされています。

2018年のサッカー日本代表の監督交代については、次の4点が不足していたと考えられます。

  1. (1)“なぜ監督を変更したのか”という経緯
  2. (2)監督を変更したことによる具体的な将来のビジョン
  3. (3)そのビジョンを達成させる具体的な手段は何か
  4. (4)新しく決めたビジョンは組織内で評価されているのか

これを医院経営に当てはめると、院長先生は次のような説明責任が求められると言えます。

  1. (1)なぜ、そのような方針にするのか、新しく取り入れるのかという経緯
  2. (2)(1)による具体的な将来のビジョンを明確に示す
  3. (3)ビジョンを達成させる具体的な手段は何か、他にないのか?
  4. (4)(1)~(3)はスタッフにどのように評価されているのか?

これは何か方針を変える時だけでなく、何か新しい仕組みを取り入れるとき、何か新しいことにチャレンジするとき全般に言えます。

医院経営において、先生の理念やビジョンを共有することは、強固なチームワークを形成するうえで必須となります。

ただ、理念やビジョンをどこにも閲覧できるようにするだけでなく、そのための手段をスタッフに説明し、一緒に考えていきましょう。

ポイント5:チームワークを高めるために飲み会は有効か?

飲み会は必要?

スタッフ全員がイキイキと働き、和気あいあいとしているクリニックというと、「飲み会や食事会でも楽しそうにしている」イメージはないでしょうか?

なぜかというと、医院・クリニックのブログ、SNSなどを見てみると、飲み会でみんなが笑顔で写っている写真をよく見るためです。

結論から言うと、まったく飲み会や食事会をしないのはコミュニケーションの機会を逸することになるものの、頻繁に行う必要はないでしょう。

チームワークと言うと、「みんなで仲良く」というイメージが付きますが、多くの人は同時に一人の時間も欠かせません。

家庭もある人も多いでしょうし、あまりプライベートの時間を奪われたくない人も多いでしょう。

クリニックの雰囲気にもよるかもしれませんが、飲み会については、時々行う程度で良いのではないかと思われます。

忘年会や歓送迎会でもない限り、参加は任意とする程度で良いでしょう。

あくまで飲み会はコミュニケーションの一手段です。他にもコミュニケーションを図る手段はあるので、総合的に考えましょう。

【まとめ】院に合う人に長く働いてもらい、チームワークを強固にする

以上、クリニックのチームワークを高める重要なポイントについてお伝えしました。

スタッフ採用や退職について触れたのは、少し意外かもしれません。

しかし、チームワークを強固にするには、まずはスタッフが「このクリニックは自分に合っている。ここなら長く働きたい」と思うことが大前提です。

合わない人は、どんなに組織力を高めようが、院の雰囲気を良くしようが、まず溶け込むことができません。

クリニックに合う人に長く働いてもらい、そのうえで規律やルールを作り、一人ひとりが力を発揮しやすい環境を作る。

さらに、理念やビジョンを共有し、目的達成の手段に対する説明責任を果たす。

そうすることで、スタッフは自主的に行動し、チームワークは自然と醸成されていくでしょう。

ご相談・お問い合わせ

お問い合わせはこちらから

この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ