医院・クリニックの開業資金は?診療科目別の目安や算出方法、資金を抑えるポイントを詳細解説

公開日:2025年2月17日
更新日:2025年2月17日

開業検討中の勤務医の先生が気になるのが、医院・クリニックの開業資金ではないでしょうか?

どの診療科目でも、開業資金は決して安価ではなく、多くの場合多額の融資が必要になります。

物件、内外装、医療設備など必要最低限の資金が必要である一方で、開業後の資金繰りを考慮して無理にお金をかけるのも禁物です。

そこで、今回は医院・クリニックの開業資金の目安や算出方法、資金を抑えるポイントをお伝えします。

【診療科目別】医院・クリニックの開業資金と開業医の年収の目安

診療科目別の、医院・クリニックの開業資金や開業医の年収の目安は次の通りです。

あくまで目安なので参考程度にして、詳細については最寄りの税理士や開業コンサルタントに相談してください。

特に開業資金については、物価の高騰などによっても変わってくるので、近年は上昇傾向にあります。

開業資金の目安年収の目安
内科最低でも5,000万円以上2,500~2,800万円
眼科最低でも
3,000~8,000万円
(手術の有無による)
3,300万円程度
整形外科最低でも5,000万円以上3,000万円程度
小児科最低でも5,000万円以上2,800万円程度
耳鼻咽喉科最低でも5,000万円以上2,600万円程度
産婦人科最低でも
5,000~1億円
(分娩の有無による)
3,000万円程度
婦人科最低でも5,000万円以上2,500万円程度
泌尿器科最低でも5,000万円以上2,000~2,500万円
透析内科最低でも8,000万円以上2,500万円程度
在宅医療最低でも2,000万円以上2,500~3,000万円
皮膚科最低でも2,000万円以上2,800万円程度
美容皮膚科最低でも8,000万円以上3,000万円以上
(1億円以上の先生も)
美容外科最低でも8,000万円以上3,000万円以上
(1億円以上の先生も)
精神科・心療内科最低でも2,000万円以上2,500万円程度
脳神経外科最低でも
5,000~2億円
(CT・MRIの有無による)
2,500~3,000万円程度
神経内科最低でも
5,000~2億円
(CT・MRIの有無による)
2,500万円程度
リウマチ科最低でも5,000万円以上2,500~3,000万円
歯科最低でも5,000万円以上1,200万円程度
矯正歯科最低でも5,000万円以上?(データなし)

※開業後の運転資金は除く

なお、上記の開業資金は初年度の運転資金は含まれていません。

資金調達する場合は、上記の金額にプラスして、最低でも3,000万円程度の運転資金が必要となることが多いです。

皮膚科や精神科、心療内科など、医療設備が少ない診療科目の場合は、開業資金は少なくなります。

一方で、眼科で手術、産婦人科で分娩など、ある程度医療設備や診療スペースが必要になると開業資金はどうしても高くなります。

脳神経外科のCT・MRIなど連携する医療機関の設備を利用できるケースがあるので、医療設備についてはよく検討してください。

最初から無理に設備投資するのではなく、地域間連携を進めつつ、経営が軌道に乗ったら設備投資することで問題ありません。

開業してから患者さんのニーズを踏まえつつ、設備投資していきましょう。

診療科目別の詳細は、以下の記事をご覧ください。

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必要な自己資金と資金調達について

開業資金については、主に次の方法で用意することが多いです。

自己資金開業資金の10~20%程度を目安にする。
補助金・助成金ものづくり補助金、IT導入補助金など。
身内からの資金提供贈与税が発生しないかどうかは確認しておくようにする。
金融機関の融資WAM、日本政策金融公庫、自治体制度融資、医師信用組合、銀行など

自己資金が少なくても資金調達はできるものの、ある程度用意した方が融資の申請は有利に進みますし、開業後の資金繰りも楽になります。

開業資金が1億円必要としたら、最低でも1,000~2,000万円程度は自己資金で賄うことをおすすめします。

しかし、自己資金(貯金)が十分でなくても、悲観することはありません。

社会的な信用の高い医院開業は、支援に積極的な金融機関が多いです。

当社でもこれまで、自己資金ほぼゼロで医院開業された先生をたくさんサポートさせていただきました。

自己資金ゼロで開業しても、開業して軌道に乗れば数年で借入金を完済することも可能です。

自己資金を貯める時間を省いてスピーディーに開業したい先生は、自己資金がない状態で開業するのも1つの手です。

また、融資だけでなく、補助金・助成金などの活用も検討するといいでしょう。

補助限度額はありますが、返済の必要がないので、その分自己資金や融資額を抑えることができます。

詳細は、以下の記事をご覧ください。

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開業資金を算出して事業計画書を作成する6STEP

開業資金は、まずいくら必要になるのかを算出するために事業計画書の作成が必要となります。

事業計画書とは通常5年計画で作成され、項目としては主に損益と収支がメインとなります。

金融機関から資金調達するには、作成した事業計画書の提出が求められます。金融機関は事業計画書を参考にして融資が可能かどうかを判断します。

一方で、事業計画書は医院・クリニックの未来予想図であり、先生が理想の医療を実現するための第一歩です。

資金調達のためというだけでなく、開業後に長期的に利益が医院や先生ご自身の手元に残るように、具体的に計画を立てましょう。

詳細については、最寄りの税理士に必ず相談するようにしてください。

【STEP1】開業資金の内訳を示して資金計画を立てる

事業計画書を作成する際は、まずは上記のように開業資金の内訳を示して資金計画を立てていきます。

なお、先に示した診療科目別の開業資金には、初年度の運転資金が含まれていません。

事業計画書を作成する場合は、初年度の運転資金は算出しておき、資金調達しておくことが必要となります。

運転資金については、開業後の資金計画を明確にする必要があります。

そのため、後述する人件費計算や初年度月別収支を作成したあとに記載した方が具体的な金額がわかるでしょう。

上記の開業資金計画では、テナント開業を例にしていますので、戸建て物件の場合は書き換える必要があります(土地や建物の取得価額等)。

開業資金の内訳について、具体的に示すと以下の通りです。

テナント開業時の初期費用
※テナント開業の場合のみ
敷金、保証金、礼金、仲介手数料、初回保証料、火災保険、内装工事費用など
土地建物購入費用
※戸建て物件の場合のみ
土地建物取得価額、仲介手数料など
医療機器購入費開業時に診療で必要な医療設備を購入する費用。診療科目や治療方針によって大きく変わる。
什器備品医療設備以外で必要な備品類。机、椅子、パソコン、待合室やスタッフルーム用備品、その他消耗品、電子カルテや予約システムの導入など
開業費用初期薬品材料、開業時広告宣伝費、開業時採用費、開業手続き事務手数料、医師会入会金、前家賃(テナント開業時のみ)など
運転資金※後述

【STEP2】月別収支計画を作成する

月別収支計画は、開業初年度の1年間の月別の売上と、2年目以降の年間の売上を算出します。

診療科目やメニュー別に分けて、患者数、単価、売上を記載します。

事業計画書では、物件選定時に行う診療圏調査をもとに見込める患者数を予測します。

ただ、診療圏調査で算出した推計患者数は、あくまで理論値にすぎません。

当社が事業計画書を作成する際は、以下のように多少悲観的な観測でも収支が見込めるように、現実的な患者数の予測を立てていきます。

①手元に残したい生活費、借入返済、税金、人件費などの経費から逆算して、毎月必要な医業収入や患者数はどれくらいか?
②スタッフ数や診療内容、診療日数、集患力等から見込める患者数は何人か?
③①>②であれば、どうやって毎月の患者数を増やすか?
④①>②であれば、人件費や広告費を多くかける必要はあるか? そのときの支出はいくらになるか?
⑤④で加わった経費から逆算して、毎月必要な医業収入や患者数はどれくらいか?
⑥④の場合に、現実的に見込める患者数は何人か?
⑦⑤<⑥となっているか?

【STEP3】人件費を計算する

次に開業後にかかる人件費を計算します。

職種や職位等に分けて、一人当たりの給与と採用人数を検討して人件費を計算します。

同じ看護師でも「正職員なのかパート・アルバイトなのか」「新規採用なのか中途採用なのか」によって給与が変わってきます。

どんなスタッフが必要なのかを明確にして記入していきましょう。

採用が少なすぎず、多すぎないようにすることがポイントです。

開業時に必要以上に採用してしまい、経費を圧迫するケースが意外と多いので注意してください。

【STEP4】初年度月別収支を作成する

次に、初年度月別収支(12ヶ月分損益計算書)を作成します。

所得税、借入返済、生活費を含め、収支が黒字になるか赤字になるかの目安が一目で分かるようになります。

 

想定外の支出で資金繰りを圧迫しないように、開業後の運転資金として考えられる支出を洗い出すようにしましょう。

上図の最後にある「現預金残」は、先生の手元に残るお金になります。

当然ながら、赤字であれば減り、黒字であれば増えていきます。

集患が期待しづらい開業直後は、赤字になることも止むを得ないこともあります。

しかし、月別収支の予測を可視化することで、冷静に判断することができます。

また、開業後に収支が事業計画書通りでなかった場合は、事業計画書と照らし合わせてどこを改善すれば良いか明確になります。

もし、現時点での月別収支で赤字が続く場合は資金計画に無理があるということです。

費用のうち人件費(職員給与費、法定福利費、賞与)、地代家賃、借入返済(据置期間の有無)など、支出割合の多いところから見直しましょう。

最初に記入した開業資金計画や人件費計算の見直しが必要になる場合があります。

ただし、生活費については、なるべく修正しないようにしましょう。 生活費を削るようなことになれば、当然生活は苦しくなりますし、満足した人生とかけ離れてしまいます。

【STEP5】5カ年収支を作成する

次に5ヵ年収支を作成します。

開業初年度は赤字であっても、2年目以降は黒字で、先生の理想の人生を実現するために預金残高が十分に増やせるように計画を立てていきましょう。

5ヵ年収支は、開業後の資金計画を示すものですが、ゴール設定からの逆算という意味では最重要項目になります。

もし、預金残高など不満が残る内容であれば、他のシートを見直すようにしましょう。

【STEP6】借入返済計画を作成する

最後に、上図のように借入返済計画を立てます。

資金繰りの悪化を防ぐために開業直後に据置期間を置く場合は、元本返済額の欄は記入せず、空欄にしてください。

月別収支や5ヵ年計画と見比べて、無理のない返済計画になっているか確認しましょう。

なお、上図の借入返済シートは元金均等返済で計算しています。

借入の返済方法は、大まかに元金均等返済と元利均等返済の2つの方法があります。

元金均等返済の方が利息分の支払いが少なくなり、総返済額は少なくなるので、長い目で見ればおすすめの方法です。

ただし、返済開始当初の返済額が大きくなるので、借入時に十分な収入や手元の預金残高がないと資金繰りを圧迫するデメリットもあるので注意しましょう。

開業資金を抑える7つの方法

最後に、医院・クリニックの開業資金を抑える方法についてお伝えします。

治療方針に合う物件や必要最低限な医療設備は必要ですが、資金繰りを圧迫することは避けないといけません。

自分の理想とする医院・クリニックと乖離しないことが前提となりますが、次のことも意識しながら開業準備を進めていくと良いでしょう。

居抜き開業・M&A開業

言うまでもなく、居抜き物件での開業や、&A開業であれば、開業資金を大幅に抑えることが可能です。

特にM&A開業の場合は、物件はもちろん、基本的にスタッフや医療設備も引き継ぐことになるので、かなり資金を抑えられます。

また、患者さんも引き継ぐことになるので、開業初期の集患で悩むことがありません。

ただ、先生のコンセプトや治療方針を合致するかどうかはよく考えないといけません。

また居抜き物件の場合で、もし長く買い手が付いていないならそれなりの理由がある可能性があります。

医院・クリニックの物件として適切かどうか、慎重に考える必要があります。

医療モールでの開業

医療モールとは、複数のクリニックや調剤薬局が1つにまとまっている施設のことです。

地域住民から認知度を得られやすいうえに、施設側でトイレや駐車場などを用意しているので開業資金を抑えられる可能性があります。

しかし、賃料が高いケースも多く、かえって不動産初期費用や賃料が高くなる可能性があるので注意してください。

集患で不利にならない範囲で賃料を抑える

テナント開業の場合、当たり前ですが集患で不利にならない範囲で賃料を抑えられないか、よく検討した方がいいでしょう。

例えばテナントビルの場合、一般的には1階の開業がおすすめで、2階以上は目立たないのでおすすめしません。

多少賃料が高くても1階の方がおすすめというケースが多いです。

しかし、精神科や心療内科、泌尿器科などプライバシーの配慮が必要な診療科目では、あまり目立たない場所で、看板も控えた方が集患上有利な場合もあります。

もちろん、2階など目立たないような場所の方が賃料を安く抑えることができます。

診療科目や患者さんの属性を考慮して、抑えられるところは抑えましょう。

医療設備や什器備品はリースも検討する

医療機器や什器備品などは、購入だけでなくリースも検討した方がいいこともあります。

設備の支払いをリースにまわすと、一時的に負担を減らすことができるので、資金繰りが改善されます。

特に短期で入れ替えが必要な設備などは、都度購入すると負担が大きいので、リースの検討の余地は大きいです。

しかし、リースの場合は、次のようなデメリットがあります。

・トータルコストが高くなる可能性がある
・中途解約ができない
・売却や譲渡ができない
・税務上の特別償却ができないので節税上不利になる
・切替えや再リースで追加費用が発生する

この点に注意して、購入かリースをよく検討するようにしましょう。

家賃発生時から開業までのスケジュールを短縮する

テナント開業の場合、家賃発生時から開業までのスケジュールは短い方が、開業資金を抑えることができます。

適正価格を把握して値下げ交渉を行う

物件の選定や医療機器の購入、内外装の工事など、適正価格や相場を把握して、異常に高ければ値下げ交渉を行いましょう。

高額をふっかけるような業者も少なくないからです。

もし、値下げ交渉をして応じてもらえないのであれば、業者を変えることも検討の余地があります。

DXによる業務効率化で人件費を削減する

近年、医院・クリニックでもDX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化の動きが進んでいます。

例えば電子カルテやレセプトコンピューターを導入することでレセプト返戻や再請求、査定など事務的な負担を減らすことが可能です。

経理作業もDXの導入を検討した方がいいでしょう。

導入費用はそれなりに高額なことが多いので、本当に自院にとって必要かどうかは考えないといけません。

ただ、業務効率化を進めることで、人件費を減らすことができるので、長期的な取り組みとして検討の余地があります。

【まとめ】必要最低限の開業資金で開業する

以上、医院・クリニックの開業資金の目安や事業計画書の作成、資金を抑える方法について解説しました。

理想の治療をするために、ある程度大きな物件で高額の医療設備を揃えようとすると、どうしても開業資金が巨額になります。

開業コンセプトや患者さんのニーズを踏まえて、必要最低限の開業資金で開業することがおすすめです。

経営が軌道に乗ってきたら、必要に応じて設備投資していく方が、失敗するリスクを抑えられます。

税理士法人テラスでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。

税務・労務・法務すべてワンストップで開業準備を進めることができるので、ぜひご相談ください。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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