【医院開業物件選定】診療圏調査で患者数を推計する基本的方法や注意点を簡単解説


診療圏調査とは、ある場所で開業した場合に、1日あたりの来院患者数を統計的に推計するための調査です。
言うまでもなく、診療圏調査は物件選定の重要な参考データになります。
開業物件の選定は、後から変更が利かないので、慎重に行わないといけません。
診療圏調査についても専門家任せではなく、先生ご自身でも最低限知っておいた方がいいポイントがいくつかあります。
そこで、診療圏調査で来院患者数を推計する方法や注意点について簡単にお伝えします。
診療圏調査で来院患者数を推計する方法

診療圏調査による推計患者数は、以下の計算式で求められます。
推計患者数=(診療圏内の人口×受療率)÷(競合医療機関数+1)
※1は、自院をカウントしたもの
つまり、診療圏の範囲、診療圏内の人口、受療率、競合医療機関を分析していく必要があります。
上記の計算式を踏まえて、来院患者数を推計する基本的な方法を解説します。
診療圏の距離設定をする
まずは診療圏内の患者さんの人口を把握するため、患者さんが開業場所まで来院する距離を設定します。
一般的には、開業予定地を中心にして、同心円の距離で集患を行える範囲を設定することが多いです。

上図のように、開業予定地から距離が近いところから一次診療圏、二次診療圏、三次診療圏と呼ぶことが多いです。
一次診療圏が集患の中心となる診療圏で、二次診療圏、三次診療圏が、競合医院との競争力次第で集患できる範囲と考えていいでしょう。
距離設定は診療科目や立地などによって変わってきます。
例えば、内科や歯科医院の場合は競合医院が多くなることが多いので、一般的には距離設定が狭くなることが多いです。
逆に耳鼻咽喉科、脳神経内科や循環器内科などの場合は、少し遠くても来院を見込めるケースが多くなります。
精神科や心療内科のように、あまり自宅から近すぎるとかえって来院されにくい場合もあります。
また、住宅街なのか、ロードサイドなのか、オフィス街なのかによっても距離設定が変わってきます。
患者さんが徒歩で来院するのか、自家用車なのか、電車なのかなど移動手段が変わってくるためです。
なお、エリアによっては上記のような同心円で線引きするのではなく、自家用車やバスの到達時間で線引きした方が、精度が高くなることがあります。
いずれにしても、上記の診療圏はあくまで参考値です。
エリアによって患者さんの生活動線が変わってくるので、一概に一般論で距離設定しても精度に限界があります。
・近くにショッピングモールや商業施設、公共施設、スーパー、コンビニ等がある
・最寄り駅やバス停が近い(もしくは遠い)
・最寄り駅からの分断が多い(もしくは少ない)
・2車線道路や踏切、河川の反対側にある(もしくはない) etc
大病院は別として、小規模の医院・クリニックは上記の生活動線の違いに影響を受けやすくなります。
詳しいことは、物件選定に詳しい専門家に相談するようにしてください。 場合によっては、先生ご自身が専門家と一緒に開業予定地の近くに実際に行ってみることも必要でしょう。
診療圏の人口を把握する

次に、上記で設定した診療圏内の人口構成を把握します。
医院・クリニックによって患者さんの属性が異なるため、年齢別などで把握していく必要があります。
また、ファミリー層が多く住む住宅街などでは夜間人口(常住人口)を設定した方がいいですが、オフィス街では昼間人口を設定することが多いです。
つまり、単純な人口総数だけでなく、「高齢者が多いのか」「ファミリー層が多いのか」「サラリーマンが多いのか」といったことも確認する必要があるのです。
小児科であればファミリー層が多い地域がいいでしょうし、認知症などは高齢者が多いエリアが有利になります。
単純な人口総数だけでなく世帯特性を把握することが大切で、それによって物件選定後の内外装の設計や集患戦略が変わってきます。
言うまでもなく、診療圏調査に限らず物件選定の前に、開業コンセプトや治療方針を明確にすることが大切です。
受療率を把握する

受療率は、病院やクリニックで受療した患者さんの推計数を、人口10万人との比率で表した数値です。
厚生労働省が公表している「患者調査」を適用することが多いです。
診療圏内の人口×受療率によって、診療圏の患者さんの総数がわかってきます。
競合医療機関の数や競争力を調査する

次に、競合となる病院やクリニックの数を調査します。
ただ、病院やクリニックによって、集患規模が違ってきますし、様々な診療科目を標榜しているケースもあります。
そのため、単純に同じ診療科目の病院やクリニックを「1」とカウントするだけでは、精度は高くありません。
小規模クリニックが2~3院近くにあるよりも、大病院が1院だけの方がインパクトは大きい場合もあるのです。
精度を上げるには、競合の医療機関のメインとなる診療科目、専門性、医師数・スタッフ数、1日あたりの来院数、休診日などを細かく分析する必要があります。
エリアによっては、駐車場の有無なども影響します。
そのうえで、係数化して「0.7」「1.5」「2」などと強弱をつけてカウントすることで精度は高くなります。
また、医療機関のデータベースが最新でなければ、新たに開業した医院が含まれていなかったり、逆に廃院した医院が含まれていたりします。 最新のデータをもとに算出しなければ、当然誤差は大きくなってしまうので注意しましょう。
【注意点】診療圏調査の信ぴょう性には限界がある

診療圏調査は、あくまで統計的な情報をもとに来院患者数を推計したものです。
・患者さんの生活動線を考慮して診療圏を細かく設定する
・想定される患者さんの属性を細かく分析する
・競合医療機関の細かい分析をする
などのことで、可能な限り精度を高めることはできますが、完璧な信ぴょう性を求めることはできません。
あくまでも目安として捉えておきましょう。
簡易的な診断ほど精度が悪い
診療圏調査は、専門家の手を借りずにアプリやWeb診断を使って行うことも可能です。
しかし、アプリなどは簡易的な調査結果に過ぎず、患者さんの生活動線や、競合医療機関の集患力を考慮していないことが多いです。
そのため、精度としてはあまり期待できません。
極力、医院物件に詳しい専門家に依頼して、密なコミュニケーションを取り、必要に応じて一緒に現場に向かって調査を進めましょう。
また、専門家でも実際に足を運んでおらず、Web上のデータのみを使っているケースもあるので、専門家選びには注意してください。
定性的な影響も受ける
診療圏調査では、人口特性や受療率、競合医療機関の数などの定量的なデータから来院患者数を推計します。
しかし、どんなに極限まで精度を高めたとしても、開業後の来院患者数とはどうしても乖離が出てきます。
診療圏調査では把握しきれない、次のような定性的な影響も大きく受けるためです。
・新しく開業する医院・クリニックの集患力(Webマーケティングなど)
・治療内容に対する患者さんの需要
・スタッフの数や能力
・患者さんの評判・口コミ
・地域の医療機関との連携
・将来の都市計画 etc
診療圏調査に加えて、定性的なデータも加味して、開業物件を選定していく必要があるでしょう。
再開発により人口変動や生活動線に変化が起きる可能性がある
医院開業後に、再開発により人口変動が起きたり、新しい道ができて生活動線が変わったりする可能性があります。
しかし、だからとって簡単に医院移転することはできません。
可能な限り、今後の都市計画についても確認して物件を選定した方がいいでしょう。
・今後10年間の都市計画
・再開発の時期や進捗状況
・再開発後の影響
これらの情報については、市役所などに行けば、ある程度は教えてもらえます。
また、今後競合の病院・クリニックが増加する可能性も十分考えられます。
新たな開業予定の医療機関についても、可能な限り情報を集めておいた方が良いでしょう。
こちらについても、詳しいことは専門家に相談するようにしてください。
連携できる医療機関が近くにあるかどうかも重要である
開業する医院・クリニックの診療科目や治療方針によっては、地域間連携が可能な病院やクリニックが近くにあるかどうかも重要になります。
競合医療機関の数だけでなく、連携できる医療機関についてもしっかり調査しておくことが重要です。
【まとめ】診療圏調査のデータはあくまで物件選定の判断基準の1つと捉える
以上、診療圏調査について、開業予定の先生が最低限知っておきたいことをお伝えしました。
診療圏調査は、物件選定ではとても重要で、細かく分析して精度を高めることは重要です。
しかし、実際の集患は、診療圏調査のデータ以外の定性的要素も大きく影響するので、完璧な信ぴょう性はありません。
あくまで物件選定の判断基準の1つとして考えて、総合的に判断するようにしましょう。
医院・クリニックの開業物件選びについては、以下の記事も参考にしてください。
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最後までご覧いただきありがとうございました。


監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。