少子高齢化でも産婦人科の開業で成功する9つのポイント|開業支援実績が多い税理士が詳細解説
産婦人科の開業は、お産を行うかどうか、不妊治療を扱うかどうかなど、診療内容次第で、開業準備、資金などが大きく変わります。
また、産婦人科は、少子高齢化や出生数の減少、不妊治療に対する高い需要など、マーケットの動向を注視して開業準備をする必要があります。
診療所の産婦人科の数は、もともと多くなく、しかも減少傾向にあるので、内科や歯科に比べると競合医院は多くありません。
一方で、少子高齢化の影響で、出生数が年々減少してきているので、患者数も年々減少しています。
つまり、お産に関しては需要も供給も低下傾向にあり、決して楽観視できる状況ではありません。
しかし、今はお産の対応しない産婦人科も増えてきているなど、産婦人科を取り巻く状況は時代とともに変わってきています。
特に不妊治療や更年期障害など女性疾患の治療は、産婦人科の開業では要検討でしょう。
少子高齢化や晩婚化による不妊治療のニーズなど、マーケットを踏まえながら産婦人科の開業で失敗しないポイントを解説します。
産婦人科を取り巻く現状
まずは、近年の産婦人科を取り巻く状況を簡単に解説します。
産婦人科を取り巻くマーケットを踏まえて、開業コンセプトを十分検討していく必要があります。
診療所の産婦人科の医師数はもともと少なくて、しかも減少傾向
産婦人科は、もともと診療所数はそこまで多くありません。
「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 」によると、全国の診療所で働く産婦人科、産科、婦人科の人数と構成割合は次の通りです。
診療所の医師数(人) | 構成割合(%) | |
産婦人科 | 4,109 | 3.8 |
産科 | 114 | 0.1 |
婦人科 | 1,185 | 1.1 |
【参考】内科 | 38,907 | 36.2 |
【参考】眼科 | 8,471 | 7.9 |
診療所で働く医師数の多い内科医や眼科に比べると、決して多くはありません。
また、日本産婦人科医会の「産婦人科医療施設の動向」によると、産婦人科の診療所数、診療所で働く医師数は減少傾向にあります。
※日本産婦人科医会 「産婦人科医療施設の動向 施設情報調査2022より 」から抜粋
上のグラフからわかるように、総合病院の産婦人科の施設数は横ばい、医師数は増加しているにも関わらず、診療所については減少傾向にあります。
以上のことから、産婦人科については、他の診療科目よりは競合医院は少ない傾向にあります。
少子高齢化に伴い取扱分娩数は減少傾向
※日本産婦人科医会 「産婦人科医療施設の動向 施設情報調査2022より 」から抜粋
一方、産婦人科の取扱分娩数も、年々減少傾向にあります。
診療所の産婦人科医は減少しているものの、お産の需要も減少してきていると言えます。
TBS「少子化の影響ここにも 分べん数の減少が産科医療を直撃 経営成り立たず閉院を決めた産院も 模索が続く医療現場の今 」
地域によっては分娩数の減少が産婦人科の経営を直撃しているケースも見られます。
特に2030年以降は、少子高齢化の影響がますます顕在化すると言われており、お産を扱う産婦人科を取り巻く環境は一層変化すると考えられます。
今後のマーケットを考えた場合、お産の対応なしで、不妊治療や婦人科外来を中心とすることも検討の余地があるでしょう。
不妊治療や女性更年期障害は今後も需要が高いと考えられる
言うまでもないですが、産婦人科にはお産だけでなく、不妊治療や女性更年期障害、人工妊娠中絶(アウス)などの治療もあります。
人工妊娠中絶の数は減少してきていますが、不妊治療や女性更年期障害の需要は高いです。
特に、晩婚化が進んでいることを考えると、不妊治療の需要については今後も高いと考えていいでしょう。
※政府広報オンライン「不妊治療、社会全体で理解を深めましょう 」より抜粋
実際、不妊治療の1つである、生殖補助医療による出生児数は右肩上がりに増えてきています。
2030年以降を見据えた産婦人科の開業で成功する9つのポイント
産婦人科を取り巻く状況を踏まえて、産婦人科の開業で失敗しないポイントについて解説します。
最近は、お産に対応しない産婦人科も増えてきているので、開業コンセプトは十分検討しましょう。
お産の対応をするかどうかで適した立地・物件が大きく変わる
産婦人科では、お産の対応をするかどうかで、開業の方向性が大きく変わります。
お産の対応をするには、相応の設備と入院設備が必要となるので、なるべく大きなスペースが必要となります。
狭い場所が多くなる駅前の都心部よりは、住宅街などで駐車場も確保できる広い場所を探すことになります。
緊急時に備えて、自宅兼クリニックにする先生や、近くに住む先生も少なくありません。
また、全国的に分娩数は年々減少傾向にあるので、開業地域のお産の需要はよく調べておく必要があります。
お産対応すると、それなりに開業資金がプラスされますし、助産師の採用も必要になるので、慎重に検討しましょう。
一方、お産対応のない婦人科外来中心のクリニックで、MRIやCT、マンモグラフィーを設置しない場合は、比較的狭い場所でも問題なく開業できます。 ただ、MRIやCTなど設備を自院で確保できない場合は、地域連携を意識して物件を選定する必要があるでしょう。
不妊治療に特化したレディスクリニックを視野に入れる
先ほどお伝えしたように、少子高齢化や晩婚化の影響で、出産数は年々減少しているものの、不妊治療の数は逆に右肩上がりに上昇しています。
そのため、不妊治療専門のレディスクリニックも視野に入れて開業するのも1つの手です。
不妊治療専門のクリニックとして評判が高くなると、遠方から来院する方も多くなります。
ただ、一般的な不妊治療とするのか、高度不妊治療まで行うのかによって、開業資金やランニングコストが変わってきます。
当然、後者の方が不妊治療専門のクリニックとして際立ちますが、開業資金やランニングコストがかかります。
最初から不妊治療に特化するのではなく、経営が軌道に乗ってきたら徐々に高度な不妊治療を導入するのもいいでしょう。
医療法人化した後、分院展開で不妊治療に特化するケースもあります。
女性患者さんのプライバシーを意識した外観・内装デザインとする
当然ながら、産婦人科や婦人科の外来は、女性の患者さんが中心になります。
女性の患者さんに配慮した外観・内装デザインにすることに加え、プライバシーに配慮した内装にしておく必要があります。
例えば、待合室では患者さん同士が向き合わないようにしたり、診察室で患者さんの声が漏れないようにしたりすることです。
不妊治療を行う場合は、同伴者の男性が立ち入るエリアと、女性患者さんしか入れないエリアを分ける必要もあります。
防音や密閉、動線など、かなり配慮が必要になってきますし、トイレやパウダールームの充実も求められます。
なるべく、産婦人科の設計経験が多い施工会社に相談してください。
お産に対応するかどうかでも、外観・内装は大きく変わってきます。
外観・内装の写真はホームページや、SNSにも積極的に掲載し、集患に役立てるようにしてください。
お産に対応する場合は助産師の採用も必要となる
産婦人科で、分娩対応する場合は、看護師資格だけでなく、助産師の資格を持つスタッフの採用が必要となります。
産婦人科医の先生同様、助産師も夜勤や休日対応が発生するので激務のイメージがあることが、人材不足に拍車をかけています。
また、離職率も比較的高く、他に就労条件のいい産婦人科が見つかると、すぐに転職する傾向があります。
看護師以上に採用と定着が難しいので、採用は早めに動き出し、末永く働いてもらえる組織作りは欠かせません。
なお、産婦人科、婦人科ともに管理栄養士を採用して、栄養指導を行っているケースもあります。入院施設を作る場合は、調理師の採用も欠かせません。
口コミを意識したマーケティングが必要である
産婦人科や婦人科は、ややデリケートな症状を扱うケースもあるとはいえ、ある程度口コミの拡散効果は期待できます。
男性よりも、若い女性の方が口コミの拡散力が強いためです。
しかも、産婦人科や婦人は、口コミの良し悪しを気にする患者さんが少なくありません。
場合によっては、理不尽で身に覚えのない悪評が集患に悪影響を及ぼす必要があるので、Googleの口コミ対策などは注意した方がいいでしょう。
Googleなどの口コミ対策の詳細は、以下の記事をご覧ください。
SNSを活用して集患やスタッフ採用に活かす
若い女性の患者さんが多い産婦人科や婦人科の場合は、InstagramなどのSNSを活用して集患するのもいいでしょう。
ホームページやチラシ同様、医療広告ガイドライン には注意しないといけませんが、無料でアカウント作成ができるので、コストをかけずにPRできます。
SNSの投稿、患者さんに安心感を与えながら、ホームページなどに誘導していくといいでしょう。
また、SNSはスタッフ採用にも活かすことができます。
スタッフが働いている写真も多めに投稿するようにして、採用に活かすのもいいでしょう。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
産婦人科や婦人科は女性医師の需要が大きい
産婦人科や婦人科というと、「男性より女性の先生に診てほしい」という患者さんは少なくありません。
「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国の診療所で働く産婦人科の医師の女性割合は31.6%、婦人科は45.1%と比較的高めです。
男性の院長先生が不利というわけではないですが、比較的女性医師が活躍しやすい診療科目です。
女性の院長先生は、ホームページやSNS、看板などで院長が女性である旨を強調してPRしておくといいでしょう。
ホームページなどは、「女医」「女性医師」などのキーワードでSEO、MEO対策を実施するのもおすすめです。
男性の院長先生の場合は、ホームページや院内掲示で、女性スタッフの写真と自己紹介を載せておくと、患者さんの安心感に繋がります。
オンライン診療を導入する
産婦人科や婦人科の先生であれば、アフターピルのオンライン診療の導入を検討した方がいいでしょう。
オンライン診療をきっかけに、婦人科系の疾患で来院する患者さんが増え、医業収入の増加に繋がることも考えられます。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で、アフターピルに関する記載があるので、よく確認するようにしてください。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
女性疾患の治療以外の女性向きサービスを導入する
産婦人科や婦人科は、配偶者が同伴することはありますが、基本は女性の患者さんしかいません。
同じく女性の患者さんが多い美容皮膚科と連携して成功した例がありますし、美容外科との連携もいいでしょう。
また、マタニティヨガやアロマテラピーなどのサービスを導入している産婦人科や婦人科もあります。
開業後に軌道が乗ってきたら、患者さんの要望に合わせて女性向きサービスを導入するのもいいでしょう。
【まとめ】内科の開業コンセプトを明確にしてから開業準備をする
産婦人科の医院・クリニック開業の失敗しないポイントについて解説しました。
産婦人科の開業については、お産に対応するかどうかで、開業方針が大きく変わります。
また、少子高齢化や晩婚化などを考慮すると、不妊治療や更年期障害などに特化していくのも検討の余地があります。
今後のマーケットを踏まえながら、開業コンセプトをよく検討するようにしましょう。
なお、産婦人科の開業医・勤務医の年収や働き方については、以下の記事で詳しく解説しています。
税理士法人テラスでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、事業用物件の専門家などが結集してワンストップで医院開業支援を行っています。
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監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。