クリニックのコロナ休診など自粛要請中の有給休暇どうする?

公開日:2020年5月12日
更新日:2024年3月18日
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はじめに

新型コロナウィルス感染症に対応する病院が休む暇もないほど大変な状況に追い込まれているのは、最近の報道の通りです。

一方、コロナ最前線から距離を置いた病院や医院・クリニックは、逆に患者激減による経営悪化やスタッフの労務対応に追われています。

緊急事態宣言中は休診しているクリニックも多いでしょう。

別記事でコロナ対策下の休業補償についての記事を書きましたが、今回は有給休暇・特別休暇について詳しくお伝えします。

有給休暇と特別休暇の違い

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まず最初に休暇に関する基本的な考え方として、有給休暇と特別休暇の違いについてお伝えします。

有給休暇

年次有給休暇は、労働基準法第39条によって認められた労働者の権利であり、労働者は年次有給休暇を原則として自由に取得できます。

【労働基準法第39条第1項】

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

引用元: 【労働基準法第39条第1項】

また労働基準法第136条において、年次有給休暇を取得した労働者に対して、不利益な取扱いをすることは禁じられています。

【労働基準法第136条】

使用者は、第39条第1項から第3項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

引用元: 【労働基準法第136条】

特別休暇

こちらについては特段法律の定めはなく、任意で定められるものであり、具体的にはボランティア休暇、リフレッシュ休暇、裁判員休暇、病気休暇などがあります。

特別休暇については、各々のクリニックで、どのような就業規則を定めているかに依ります。

また、コロナ対策に限定した特別休暇制度も作ることができます。

これらの法に基づいた考えが原則となりますが、それではコロナ対策下では、有給休暇や特別休暇の取扱いはどうなるでしょうか?

スタッフがウィルスに感染して休業する場合

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この場合の休業補償の考え方としては、労働者の責に帰すべき事由によるため、原則欠勤扱いとなるものの、労災認定されるため100%の休業補償となる可能性が高くなります。

また、有給休暇や特別休暇については、スタッフは通常通り事由に取得することができます(労働基準法第39条)。

どちらにしろ、スタッフにとって不利益な取扱いとならないように注意する必要があります(労働基準法第136条)。

コロナ対策に関連して特別休暇制度を新たに設けることも考えられます。その際は助成金の申請と併せて検討しても良いでしょう。

コロナを疑われる症状のスタッフが休業する場合

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コロナウィルス感染の疑いがあるため、スタッフが休業する場合は、

①:有給休暇を使う
②:病気休暇等の特別休暇の対象とする
③:①②が不可能な場合は院長の指示であれば60%の休業補償が必要で、スタッフの自主的な判断であれば欠勤扱いとする。

という順番で対応することになるでしょう。

しかし、休業の場合、院長の指示によるものなのか、スタッフの自主的な判断によるものなのかは、かなり判断が難しいでしょう。

そのため、有給休暇や特別休暇を使い切るようなことであれば、休業補償を与えるのが現実的と思われます。

また、この場合も、コロナ対策の特別休暇制度を新たに設けて、スタッフに安心して休業してもらうのが望ましいでしょう。

不利益な取扱いはできませんから、スタッフの生活を保障し、感染拡大の防止に努めるのが理想です。

緊急事態宣言などで、クリニックを一斉休診する場合

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コロナ対策による一斉休診は、もっとも経営が苦しくなりますが、苦渋の決断で休業しているクリニックもあります。

例え医院を閉めて一斉休診するような場合でも、使用者の責に帰すべき事由によるものになります。

そのため、スタッフ全員に対して有給休暇や特別休暇、もしくは休業手当の支払いが必要となります。

この場合でも、スタッフに対して不利益となるような取扱いは原則できません。

スタッフが有給休暇や特別休暇の申請を消化したいのであれば、院長先生は拒むこともできませんし、逆に有給休暇や特別休暇を強制することもできません。

売上は一切ないのに、人件費は払うことになってしまうので、経済的な負担が非常に大きくなります。

そのため、社労士や税理士などの専門家に相談し、助成金や融資措置を検討することが必須となるでしょう。

感染を防ぐためにスタッフから出勤したくないと言われた場合

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緊急事態宣言が発令されている期間中は特に、スタッフから「感染したくないから出勤したくない」と言われることがあるでしょう。

この場合は、院長先生からの指示ではなく、自主的な判断で休みたいということになります。感染を疑われる症状があるケースとも違います。

有給休暇や特別休暇を消化したいという申し出があれば、拒むことはできません。

ただ、すでに有給休暇などを使い切ってしまっている場合は、原則休業補償のない欠勤扱いとなるでしょう。

しかし、クリニックとしては、スタッフの生命、身体の安全を守る安全配慮義務を負っています。

「感染したくないから出勤したくない」という申し出があったことを理由に解雇してしまうと、不当解雇として訴えられる可能性があります。

また、この非常事態のなかで、「勝手にしろ。給料は出さない」と欠勤扱いするのも、スタッフから不満が出てくることが十分考えられます。

そのため、コロナ対策の特別休暇制度を設けるなどの対策が必要になるのは必然でしょう。

学校が休業や保育園の登園自粛で、子供が自宅にいるためスタッフが勤務できない場合

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こちらの場合は、小中学校が休業になったりオンライン授業になった場合と、育児休暇が絡む保育園の登園自粛によって事情が違います。

小中学校が休業となった場合

コロナ対策で小中学校が休業となったり、オンライン授業で問題になっているのが、母親の負担が増えるという点です。

「子供が学校に行けないから働けないじゃない!」

という心の叫びが報道されていた時期もあります。

この場合についても、基本的には有給休暇や特別休暇を使ってもらうことになります。

あくまでもスタッフの個人的な事情の範疇の話なので、有給休暇などを使い切っているのであれば、欠勤扱いすることもできるでしょう。

しかし、コロナ対策による家事・育児の負担増加を単なる個人的事情と解釈して欠勤扱いし、スタッフが不満を持たないとは考えられません。

そのため、この場合についても、コロナ対策による特別有給休暇を求められることになるでしょう。

保育園の登園自粛の場合

こちらについては育児・介護休業法が絡んできて、育児休業給付金にて対応することになります。

詳しいことは、先に紹介した休業補償の記事にて詳しく紹介していますので、こちらを併せてご覧ください。

【関連記事】【クリニックのコロナ対策】休業補償は支払う? 支払わない?

【まとめ】コロナ対策に特化した特別休暇制度を作ることも検討を

以上、コロナ対策下の有給休暇と特別休暇について、休業補償の考えと合わせて、以下の表にまとめます。

  休業補償 有給休暇・特別休暇
スタッフがコロナに感染して休業する場合 労災認定され、100%休業補償となる可能性が高い スタッフの不利益にならない取扱いになるよう、総合的に判断する
コロナを疑われる症状のスタッフが休業する場合 院長先生の指示かスタッフの自主的な判断でどちらになるかは判断が難しく、休業補償を支払うのが妥当 まずは有給休暇、特別休暇の取得。使い切ったら休業補償。
緊急事態宣言下など、集団感染を避けるために一斉休業する場合 助成金や融資措置を併せて検討し、できる限り休業補償などの対応を行う まずは有給休暇、特別休暇の取得。使い切ったら休業補償。
感染を防ぐためにスタッフから出勤したくないと言われた場合 できる限りの配慮は必要。しかし個人的な判断であれば休業補償は不要 欠勤扱いでは不満が出てくるので、コロナ対策に特化した特別休暇対策の検討
学校が休業や保育園の登園自粛で、子供が自宅にいるためスタッフが勤務できない場合 小中学校の休業の場合、理論的には休業補償は不要
育児・介護休業法に基づいた範囲内で育児休業給付金は支払われる
小中学校の休業の場合、欠勤扱いでは不満が出てくるので、コロナ対策に特化した特別休暇対策の検討

共通して言えることは、助成金や融資措置を併せて考えながら、コロナ対策に特化した特別休暇制度を設けるか検討することでしょう。

「感染を防ぐためにスタッフから出勤したくないと言われた場合」「小中学校が休業して勤務できない場合」については、有給休暇も特別休暇も使い切っていれば理論上は欠勤扱いにすることができます。

しかし、それではスタッフから不満が出てきて、離職率が高まるなどのリスクも考えられます。

そのため、極力スタッフにとって不利益にならないように、コロナ対策に特化した特別休暇制度を設けることを検討しましょう。

また、「コロナが怖いから休みたい」と理由に解雇することは原則できず、不当解雇として訴えられる点も注意しましょう。

休業補償や助成金については、以下の記事で詳しく書かれていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】【クリニックのコロナ対策】休業補償は支払う? 支払わない?

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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