節税したい開業医必見!適正な役員報酬の決め方とは?

公開日:2019年5月16日
更新日:2024年10月21日

医療法人を設立すると、院長先生や理事となる人の役員報酬を決める必要があります。

役員報酬の設定にあたっては、「高めに設定するべきか」「交際費など必要経費を増やし報酬を少なく設定するか」など悩まれる先生が多くいらっしゃいます。

この役員報酬は節税する上での重要な要素であり、何も考えずに金額を設定してしまうと節税上損をすることになりかねません。

また金額を設定する上で、法律に従わなかった場合には罰則が課されることもあります。

本記事では医療法人の役員報酬を決める上での注意点、そして節税効果を高めることができる役員報酬金額の決め方をお伝えします。

役員報酬と役員賞与の損金の考え方の違い

医療法人の適正な役員報酬のバランス

まず、法人税法で言われる役員給与については、役員報酬と役員賞与の2つがあります。

これは従業員に支払われる給料に例えれば、給料と賞与(ボーナス)ということになりますが、役員と従業員では損金に対する考え方が違います。

従業員に支払う給与や賞与はどちらも損金として扱うことができますが、役員報酬と役員賞与については厳格なルールがあります。

役員賞与については損金として計上することができません。

また、役員報酬については、損金として認められるには後述するように税金逃れを防ぐために厳しい条件があります。

医療法人の役員報酬を損金扱いとするための2つの注意点

節税手段のひとつであり、先生の所得や医療法人の財務体質を大きく左右する役員報酬。

この役員報酬は経営者である先生自身で決め、損金扱いとして計上できますが、設定額は慎重に決める必要があります。

闇雲に役員報酬金額を設定すれば良いわけでなく、損金と認められる役員報酬の設定の条件を守る必要があるためです。

まず、本項では役員報酬を設定する際の基本的な2つの注意点をお伝えします。

医療法人設立後3ヶ月以内で決める

役員報酬は医療法人設立後3ヶ月以内に決定しなければ、損金として算入することができません。
売上の見通しが立たない創業期に役員報酬を決めることは難しいことではありますが、定款や株主総会によって報酬額を定める必要があります。

3ヶ月という期間ですが、報酬の金額により毎月の社会保険料や所得税・地方税などの税金が大きく変わるので、期限内に慎重に検討する必要があります。

毎月同じ報酬額で設定する(定期同額給与)

役員報酬が損金として認められるには、毎月定額を支払うことが必須であり、額面の金額と手取り金額を揃えておく必要があります。

では、なぜ役員報酬は同じ金額に定めないといけないのかというと、税金逃れ防止のためです。

たとえば、ある時期に予想を上回る利益が発生した場合、「役員報酬を途中で上げて節税しよう!」という発想に至ることがあるかと思います。

そのような報酬変更による税金逃れを防ぐために、毎月同じ報酬額を設定する必要があるのです。

これを定期同額給与と言います。

定期同額給与の条件

損金算入ができる定期同額給与の条件には、原則的に次の条件があります。

  1. 支給期間が1ヶ月以下の一定の期間ごとであること(実務上は月払いが一般的)
  2. その各支給時期における支給額が事業年度を通じて原則同額であること

このように条件を縛り、月々の支給額については事業年度を通じて原則同額としているのです。

これは、役員報酬を途中で増額するなどして法人税をコントロールすることを防ぐためです。

そのため、事業年度の途中に増額や減額をすると、定期同額給与とはみなされず、一部が損金として認められません。

役員報酬を増減額しても損金として認められるには?

ただし、決算終了後の定時社員総会など、毎年所定の時期に行われる改定(通常改定)で、次の要件を満たせば、定期同額給与とみなされ、全額を損金にできます。

  1. 期首から原則3ヶ月以内(3月決算法人なら6月末まで)に行う改定であること
  2. 事業年度内において、改定前の毎月の支給額が同額であること
  3. 事業年度内において、改定後の毎月の支給額が同額であること

医療法人の業績が変化すると、期中であっても毎月支払う役員報酬の改定(増減額)を検討する可能性がありますが、改定理由にとっては、損金扱いとできない場合があります。

役員報酬の設定で法人税と所得税は変わる

役員報酬の設定で法人税と所得税は変わる

医療法人の経営者は、法人税だけでなく、役員報酬に掛かる個人として所得税や住民税が発生し、さらに社会保険料も負担する必要があります。

そのため、手元に残すお金を増やしたいのであれば、医療法人の法人税率・個人の所得税率の両方の観点で考えないといけません。

そこで、法人税率と所得税率、所得税に大きく関わる給与所得控除について、以下にまとめます。

法人税率

通常、法人税率は以下のように医療法人の所得によって変動します。

区分税率(開始事業年度別)
H28.4.1以後H30.4.1以後H31.4.1以後
出資金1億円以下の
医療法人
年800万円までの所得金額15%15%15%か19%*
年800万円を超える所得金額23.4%23.2%23.2%
出資金1億円を超える医療法人23.4%23.2%23.2%
特定医療法人年800万円までの所得金額15%
【16%】
15%
【16%】
【16%か
20%*】
年800万円を超える所得金額19%
【20%】
19%
【20%】
19%
【20%】

所得税率

所得税率については、以下の速算表の通りです。

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円を超え 330万円以下10%97,500円
330万円を超え 695万円以下20%427,500円
695万円を超え 900万円以下23%636,000円
900万円を超え 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円を超え4.000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

給与所得控除

所得税の計算では給与所得控除の影響も大きくなりますので、令和2年分の給与所得控除について、以下のように示します。

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,800,000円以下収入金額×40%-100,000円
550,000円に満たない場合には、
550,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下収入金額×30%+80,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下収入金額×20%+440,000円
6,600,000円超 8,500,000円以下収入金額×10%+1,100,000円
8,500,000円超1,950,000円(上限)

役員報酬の設定のシミュレーション

役員報酬の設定のシミュレーション

所得税率を見てもわかるように、年間で4,000万円を超える所得を得ている場合は、この場合は45%も所得税が課せられます。

住民税と合わせれば55%になるので、収入の半分以上が税金として課せられることになります。

役員報酬を下げることにより、所得税を下げることはできますが、今度は医院の利益が増え、法人税率が上がります。

効率の良い節税をするためにも、法人所得と個人所得のバランスを整え、適切な役員報酬の額を決めておく必要があるのです。

そこで、40歳独身で資本金5,000万円の医院を運営しているという設定でシミュレーションしてみます。

役員報酬を除いた医院利益が年間2,000万円あったとして、役員報酬が年間1,000万円の場合と、1,500万円の場合とで税金の違いを比べてみましょう。

役員報酬以外の所得がなく、基礎控除のみ所得控除がある場合を前提としています。

また、令和2年度分の確定申告から、2400万円以下の所得の場合は、所得税の基礎控除額が38万円⇒48万円、住民税は33万円⇒43万円になります。

以下の計算は、この基礎控除額を使って計算しています。

【CASE①】年間役員報酬1,000万円+医院所得1,000万円の場合

個人の所得税と住民税額は、以下の計算式より189万円。

所得税=((所得-給与所得控除-基礎控除)×所得税率―控除額)×復興特別所得税

((1,000万円-195万円-48万円)×23%-63.6万円)×102.1%=112.8万円

住民税=(所得-給与所得控除-基礎控除)×10%
(1,000万円-195万円-43万円)×10%=76.2万円

112.8+76.2=189万円

法人税は1,000万円×23.2%=232万円

所得税・住民税と法人税額の総額は232万円+189万円=421万円

【CASE②】年間役員報酬1,500万円+医院所得500万円の場合

個人の所得税と住民税額は、以下の計算式より392.9万円。

所得税=((所得-給与所得控除-基礎控除)×所得税率―控除額)×復興特別所得税

((1,500万円-195万円-48万円)×33%-153.6万円)×102.1%=266.7万円

住民税=(所得-給与所得控除-基礎控除)×10%
(1,500万円-195万円-43万円)×10%=126.2万円

266.7+126.2=392.9万円

法人税は500万円×15%=75万円

所得税・住民税と法人税額の総額は392.9万円+75万円=467.9万円

節税と経営方針を考慮して役員報酬を決定する

上記CASE①と②では、手元に残るお金が467.9万円-421万円=46.9万円も違うことになります。

このように、所得税率が最大45%、法人税率は23.2~23.4%であることを考えると、医療法人の先生は、役員報酬が低めな方が節税上有利なことが多いでしょう。

役員報酬の決定には医院の経営方針を考慮する必要があります。

財務体質を強化したい、設備投資したい……といった方針であれば、ある程度の資金を医院として残しておいた方が良くなります。

また先に書いたように、役員報酬には基準額(業務内容や・会社規定・業界平均に左右される基準値)があり、不相当に高額と判断された場合には、一部の金額を損金として算入できないこともあります。

このように役員報酬は医院の状況に応じて適正な金額を設定する必要があります。

医院として発展を選ぶのか安定を選ぶのか、といったように医院方針と財務体質を決めた上で、自社のためになる「最適な役員報酬」を設定しましょう。

院長夫人に給料を支払って節税する

院長夫人に給料を支払って節税

ほとんどの場合、院長先生と院長夫人の財布は実質的に同一でしょう。

そのため、医院と院長を含めた全体での節税を考えた場合、院長夫人に給料を支払うことによって節税を行えるケースがあります。

例えば、院長先生の役員報酬が3,000万円の場合と、院長先生の役員報酬が2,000万円、院長夫人の役員報酬が1,000万円では、後者の方が節税になります。

詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。

医療法人が家族経営をする場合のメリットとデメリット

はじめに 大病院ではなく、診療所・クリニック規模の医療法人は、配偶者やお子様など親族を社員や理事にしている家族経営(同族経営)が多いです。 今でも、多くの医療法人…

このように、院長夫人の給料で所得分散を図ることで節税を実現することも可能です。

ただ、院長夫人を役員ではなく1人のスタッフとして雇う場合、給料についてはほぼ問題なく損金扱いとして計上できますが、1点気になる点があります。

それはみなし役員とみなされるのではないかという点です。

法人税法において、次の①②を満たす場合はみなし役員とされます。

  1. 登記簿の役員以外でも同族会社であり、かつ経営に影響力を持つ者など一定の要件を満たす場合
  2. 実質的に法人の経営に従事している場合

しかし、医療法人は会社ではなく、社団法人もしくは財団法人であるため、①には該当しません。

同族経営(家族経営)の医療法人は多いですが、そもそも会社ではないため、条件から外れるということです。

また、医療法人では医療法上、経営に携われるのは原則的に理事と監事しか認められず、スタッフが②に該当することはほぼあり得ません。

そのため、院長夫人がみなし役員とされる可能性は非常に低いと言えるでしょう。

院長夫人に医療法人で働いてもらう際は、節税上の観点と、院長夫人のスキルなど総合的に判断して役職は検討する必要があるでしょう。

【まとめ】役員報酬は節税と財務体質両方の観点で検討を

今回は医療法人の役員報酬の決め方についてお伝えしました。

  1. 役員報酬は医院設立から3ヶ月以内に決めること
  2. 役員報酬は毎月定額となるよう設定すること
  3. 医院の経営方針と財務体質を明確にした上で役員報酬を決めること

役員報酬の決め方については、節税上の観点と、財務体質の2つの観点で慎重に決める必要があります。

ぜひ、今回お伝えしたことを1つでも取り入れて、医療法人の節税対策に役立てていただければと思います。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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