クリニックの社員旅行の旅費を福利厚生費にして節税とスタッフ満足を実現!

公開日:2019年11月8日
更新日:2024年4月9日
クリニックの社員旅行

スタッフのモチベーションアップやリフレッシュのため、社員旅行を企画する医院・クリニックも多いでしょう。

その社員旅行ですが、福利厚生扱いの経費支出とすることで、クリニック側にとってもスタッフにとっても節税になることがあります。

しかし、旅費を福利厚生費として算出するにはいくつかの留意点を押さえる必要があります。

そこで今回は、社員旅行の旅費を福利厚生費として経費処理できる条件などについてお伝えします。

社員旅行を行うことでスタッフのモチベーションアップに!

2020年以降の新型コロナウィルス感染症の影響により、社員旅行は以前より企画しづらくなっています。

また、「プライベートの時間を大切にしたい」「育児と両立している」というスタッフの割合が多ければ、社員旅行を企画するのは現実的でないかもしれません。

しかしクリニック側が旅行費用を負担し、日頃の業務をねぎらいながら従業員のモチベーションアップやリフレッシュを図るのは大きなメリットです。

多くの医院・クリニックでは社員旅行を行う場合、旅費の負担をすべて払うか、一部の金額を支払うため、スタッフは格安で旅行を楽しめます。

スタッフにとって、無料もしくは格安で旅行を楽しめるのは社員旅行くらいではないでしょうか?

仕事を離れた旅行の場では、普段見ることのできない院長や医師、看護師などの新たな一面を知ることができ、結果的に院内の雰囲気向上も期待できます。

スタッフの満足度の高い旅行を実現するとともに、後述するように節税面のメリットも享受するようにしましょう。

旅費を福利厚生費として経費処理するメリット

経費のイメージ

社員旅行を交際費などではなく、福利厚生費として経費処理するメリットについては、医院・クリニック側とスタッフ側両方あります。

各々解説していきます。

福利厚生費とする医院・クリニック側のメリット

特に医療法人の場合、社員旅行を交際費ではなく、福利厚生費として経費処理するメリットが大きくなることがあります。

というのも医療法人の場合は、次のように交際費を経費として算入できる額には限りがあります。

出資金(拠出金)の金額(※)交際費を経費とできる金額
1億円超交際費の1/2まで
1億円以下①②のいずれかを選択する
①800万円までの交際費
②交際費の1/2

特に持分なし医療法人の場合は、純資産が膨らみやすく、上記「800万円までの交際費なら経費計上」が使えないケースが増えてきます。

持分あり医療法人で、しかも交際費を使うケースが少ない場合は、あまり問題ないですが、そうでなければ法人税負担が大きくなります。

一方、後述の条件を満たして福利厚生費として認められれば、交際費のような経費計上に制限を受けることなく、全額経費計上できます。

福利厚生費とするスタッフ側のメリット

社員旅行を福利厚生費として計上した場合に恩恵を受けるのは、医院・クリニック側だけではありません。

もし旅費を福利厚生費として計上できた場合には、スタッフにとっても節税が可能です。

たとえば、沖縄へスタッフ5名で4泊5日の社員旅行をしたと想定します。

1人当たりの旅費が10万円として、社員旅行の5名全員分(50万円)の旅費を給与扱いではなく、福利厚生費と計上すると法人経費の扱いとなります。

しかし福利厚生費と認められず、給与として50万円を支払った場合どうなるでしょう?

社員旅行分の旅費が加算されて給与所得が支払われるため所得税が上がり、翌年以降に支払う住民税、社会保険料までも上がってしまいます。

このように後述の条件に従い福利厚生費とすることで全額経費として、スタッフとしても給料から税金を支払う必要もなく、双方向にメリットがあるのです。

旅費が福利厚生費として認められる条件

旅費を福利厚生費として経費に

このように社員旅行については、福利厚生費として経費処理すると、節税の観点で医院・クリニック側とスタッフ側両方でメリットがあることがわかりました。

しかし、社員旅行の旅費を福利厚生扱いとするには、以下の条件を満たす必要があります。

滞在期間が4泊5日以内であること

社員旅行の滞在日数が4泊5日以内でないと、福利厚生費としては認められません。

ただし海外旅行である場合、外国での滞在日数が4泊5日であれば良いので、旅行期間が7泊8日(機内泊2~3日)などとなっても問題ありません。

スタッフの参加割合が50%以上であること

社員旅行という名目である以上、参加者が従業員の半分未満である場合は旅行の意味がないと見られ、福利厚生費として計上できません。

そのため、参加割合が最低でも全体の50%以上を実現できるような取り組みが重要となります。

ただし、分院展開している場合、それぞれの分院ごとで企画しても問題なく、その場合は分院の職場人数の50%以上が参加すれば要件を満たします。

【注意】旅費が福利厚生費として認定されない場合

経費として認められない場合

前項で旅費が福利厚生費として認められる条件をお伝えしました。

しかし、たとえ上記条件を満たしていても次の内容に該当する場合、経費として認められませんので注意しましょう。

スタッフ1人当たりの負担費用が高額すぎる(目安10万円程度)

慰安目的の社員旅行に関して、従業員に負担する費用が社会通念上常識の範囲内であれば、給与として扱われず、福利厚生費として処理されます。

では、社会通念上常識の範囲内とは、どれくらいの金額を指すのでしょうか?

この金額に関して上限は明確に定められてはいませんが、過去に国税庁が発表した事例では医院負担10万円程度が相場として明記されたことがあります。

つまり、スタッフ1人当たりの負担費用が20万円とか、30万円になってしまうと、福利厚生費とするのは難しいと考えられます。

もしも1人当たりの旅費が10万円以上になってしまう場合は、スタッフが個人で負担することが望ましいでしょう。

場所は日程が明確になっていない

社員旅行が福利厚生費として認められるには、旅行場所が国内でも海外でも良いのですが、重要なことは場所や日程が明確になっていることです。

社員旅行において、場所や旅行日程などをスタッフが各々自由に決めた場合、プライベート旅行として見られるケースがあります。

これは指定の旅行代理店を使ったとしても認められず、スタッフの給与所得として課税対象となってしまいます。

スタッフにある程度の社員旅行企画を任せるといっても、すべてを委任してしまうと福利厚生費として認められません。

院長先生が最終の承認処理を行うなどして、社員旅行の内容を明確にしておきましょう。

社員旅行で取引先を招いている

いくら慰安目的の社員旅行とはいえ、医院外の取引先を招いた旅行である場合、接待要素が高いとみられ、交際費対象とされてしまいます。

福利厚生費より交際費として計上するほうが不利になることがあるのは前述の通りです。

福利厚生費というのは、スタッフが快適に働けるように整備するための経費であるため、自院でない人員に対する金額は対象外となります。

旅行参加者が限定的(役員のみ等)

スタッフのモチベーションアップの対策として成績優秀者や何かしら表彰された人だけに社員旅行を実施するということもあるでしょう。

しかし、その場合、税制上は参加者を限定することとなってしまいます。

成績優秀者だけであると、前項の「参加者が50%以上」という条件を満たしたとしても、福利厚生費扱いにはなりませんので、給与扱いとなります。

また、医療法人の役員のみの旅行に関しても、参加者を限定することとなり、福利厚生費として経費処理できないので注意しましょう。

このように、参加者を限定した社員旅行は、福利厚生費として認められない点を覚えておきましょう。

なお、成績優秀者限定の社員旅行は成績が明確に現れる営業職は適していますが、医院・クリニックではメリットはほとんどないでしょう。

家族分の旅費を負担した

スタッフの家族の旅費も負担してしまった場合、スタッフである本人の分も含めて福利厚生費として認められません。

スタッフ本人を含む家族全員分の旅費が給与として課税されます。

もしも家族を社員旅行に同行させたい場合、家族分の旅費はスタッフに実費で支払ってもらうなど調整しておきましょう。

旅行不参加者に現金を支給した

社員旅行に参加していないスタッフに対して、旅行代金相当額のお金を支払った場合、当然ながら給与扱いの課税対象となります。

そして、この場合は社員旅行に参加したスタッフについても給与扱いの課税対象となります。

ただし、業務上やむ得ない理由で参加できなかった場合に関しては旅費の支給が可能であり、その場合は不参加者のみが給与として課税対象となります。

社員旅行の旅費が当期の費用ではない

社員旅行の旅費が当期の費用として扱われるのは、その期の間に旅行に行った時に限られます。

決算間際になって旅行会社に旅費だけ支払い、翌期に社員旅行へ行ったとしても代金は前払金(資産)扱いとなり、当期の費用とならず福利厚生費になりません。

期末に利益が見込めそうな時には、社員旅行を節税対策として利用できるように、あらかじめ医院・クリニックの年間イベントとして計画しておくことをお勧めします。

【まとめ】社員旅行で節税とスタッフのモチベーションアップを両方実現する

今回は、社員旅行を福利厚生費として計上する場合の注意点についてお伝えしました。

  1. 社員旅行で節税およびスタッフ満足の両方を図ることができる
  2. 福利厚生費として経費処理するとクリニック側、スタッフ側の双方で節税上有利
  3. 福利厚生費として認められるにはいくつか条件がある

旅費を福利厚生費として計上した場合、医院・クリニック側でなく、スタッフとしても節税効果を見込めるため、双方にとってメリットのある取り組みです。

さらには税金面だけでなく、旅費を負担することによってスタッフのモチベーションアップにも繋がります。

ぜひ、今回お話したことを1つでも取り入れて、医院・クリニック経営における節税やスタッフのモチベーションアップを実現できればと思います。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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