訪問診療(在宅医療)を開業するための10個の重要ポイント|開業支援実績が多い税理士が詳細解説

公開日:2024年12月2日
更新日:2024年12月2日

訪問診療(在宅医療)の開業資金は他の診療科目より低くなります。

ハードルは高いですが、特に外来がほとんどなく、訪問診療を専門に行う診療所の場合は、かなり開業資金を抑えることが可能です。

厚生労働省は2025年を目処に、重度な要介護状態でも住み慣れた地域で自分らしく最後まで暮らせるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。

※厚生労働省「地域包括ケアシステム 」より抜粋

このため、現段階でも高齢者を中心に訪問診療が増えてきていますが、今後も需要が高いのは間違いないでしょう。

また、診療報酬が外来より格段と高いので、開業医の先生の平均年収も高い傾向にあります(ただ、訪問診療に従事する勤務医の先生も年収が高いです)。

こういった背景もあり、訪問診療で医院開業したいという先生が増えてきています。

そこで、訪問診療を開業するための重要ポイントを解説します。

【ポイント①】訪問診療専門か、外来+訪問診療かを決める

訪問診療(在宅医療)の開業コンセプトを決める際、重要なことは訪問診療専門の在宅療養支援診療所(在支診)とするのか、外来+訪問診療の在宅療養支援診療所とするかです。

訪問診療専門とする場合は、在宅医療を専門とする診療所の開設要件を満たす必要があります。

開設要件に加えて、在宅専門診療所の在宅療養支援診療所の施設基準を満たさないと、診療報酬の減算となります。

施設基準は、在宅患者の占める割合が95%以上、1年5か所以上の医療機関からの新規患者紹介など基準を満たすハードルが高くなります。

そのため、訪問診療で開業する場合は、外来も行う在宅療養支援診療所が現実的と言えるでしょう。

【ポイント②】在宅療養支援診療所(在支診)の要件を満たすこと

外来を行いながら訪問診療を行うことは可能ですが、在宅療養支援診療所となるには、次の基準を満たす必要があります。

在宅療養支援診療所の基準を満たすかどうかで、診療報酬の評価に大きな差が生まれます。

①24時間連絡を受ける体制の確保

②24時間の往診体制

③24時間の訪問看護体制

④緊急時の入院体制

⑤連携する医療機関等への情報提供

⑥年に1回、看取り数等を報告している

⑦適切な意思決定支援に係る指針を作成していること(※2022年の改定より追加)

厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護) 」を元に作成

つまり、24時間対応と医療機関との連携体制が求められることになります。

在宅医療を専門とする診療所の開設要件、在宅専門診療所向けの在宅療養支援診療所の施設基準、在宅療養支援診療所の基準の詳細は以下の記事をご覧ください。

在宅医療(訪問診療)の開業医・勤務医の年収は? 開業に必要な資金や重要ポイントは?

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【ポイント③】複数の医師とスタッフを採用して24時間体制を築くこと

上記のように、在宅療養支援診療所の基準を満たすには、24時間体制を築くことが必須となります。

内科や歯科など通常の外来診療の開業であれば、開業直後は医師が院長先生1人のケースも少なくありません。

しかし、訪問診療であれば、院長先生が1人で24時間体制に対応することは不可能です。

なお、「訪問診療を担当する常勤医師が3人以上」、もしくは「訪問診療を担当する常勤の医師連携内で3名以上」の場合、緊急往診や看取りの実績次第では機能強化型の在宅療養支援診療所の要件を満たし、診療報酬が高くなります。

※厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護) 」より抜粋

【ポイント④】他の医療機関や介護施設などと連携する

※厚生労働省「在宅医療・介護の連携推進の方向性 」より抜粋

訪問診療では、外来以上に他の医療機関、介護施設などとの連携が重要になります。

冒頭でお伝えした通り、厚生労働省は住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。

上図のように、他の病院や訪問看護ステーション、介護サービス事業所などとの連携によって患者さんをサポートすることが求められます。

患者さんの情報については、細かく連携施設に共有することも大切です。

そうすることで、緊急時でも慌てずに対応することができて、患者さんに対して適切なケアを行うことができます。

また、連携施設との信頼関係が生まれて、患者さんを紹介してもらうこともできるでしょう。

開業後、経営が軌道に乗ってきた場合は、訪問介護ステーションを開設したり、高齢者住宅の運営をしたり事業拡大していくのもいいでしょう。

【ポイント⑤】経営理念を明確にする

在宅療養支援診療所として訪問診療を行うには、24時間体制や他の医療機関、介護施設の連携などが必要です。

診療報酬が高い分、外来にはない大変な部分もたくさんあります。

開業コンセプトはもちろんのこと、経営理念、経営ビジョンを明確にするようにしましょう。

具体的には、訪問診療を通じてどんな地域貢献をしたいのか、患者さんにどんなことを提供していきたいのかを考えるのです。

訪問診療の場合、「この先生であれば任せられる」と患者さんやご家族、連携医療機関などに信頼を得ることがとても大切になります。

たた、耳障りのいい言葉ではなく、自分自身のなかで腹落ちするまで考えることが大切です。

【ポイント⑥】福祉医療機構からの融資も検討する

外来、訪問診療関わらず、医院を開業する際は金融機関からの融資がほぼ必須です。

通常、融資というと地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫あたりから融資を検討される先生が多いでしょう。

しかし、診療所不足地域の在宅療養支援診療所であれば、福祉医療機構からの融資も検討の余地があります。

診療所へのご融資

(中略)

無床・歯科診療所の場合

1.建築資金(建物を建築、改修、購入、賃借する場合)

新築資金(診療所不足地域における新設の場合及び在宅療養支援(歯科)診療所、かかりつけ医機能を有する診療所の新設の場合にご利用できます)

※福祉医療機構ホームページ より抜粋

詳しいことは、福祉医療機構のホームページを参考にしてください

【ポイント⑦】訪問診療を行っていることをホームページなどで発信する

訪問診療のホームページでは、外来だけでなく訪問診療を行っていることを積極的に発信していくことが重要です。

在宅療養支援診療所であれば、「24時間体制」「介護施設など地域間の連携」「在宅ホスピスに対応」などです。

その他、クリニックの理念やビジョン、訪問診療の対象になる患者さんと対応エリア、費用への案内など基本情報は掲載しましょう。

患者さんだけでなく、他の医療機関や介護施設が閲覧することで紹介に繋がることもあります。

【ポイント⑧】他の医療機関や介護施設から患者さんを紹介してもらう

医院・クリニックの集患というと、ホームページやチラシ、看板、口コミなどを思いつく方も多いでしょう。

一方、先ほどもお伝えしたように、訪問診療の場合は、他の医療機関や介護施設から患者さんを紹介してもらうことも重要となります。

連携施設との信頼関係を構築することは、スムーズな訪問診療だけでなく、集患上でもとても大切になります。

【ポイント⑨】外来で訪問診療をしている旨を告知する

多くの場合、訪問診療専門で開業するのではなく、外来+訪問診療で開業することになるでしょう。

外来も行っている場合は、待合室で「訪問診療をしている」と告知することも大切です。

そうすることで、外来の患者さんから「訪問診療してほしい」などと自然と相談されるようになっていきます。

【ポイント⑩】外来以上にバックオフィスの強化を図る

訪問診療を進めるうえで、バックオフィスの強化は欠かすことができません。

・連携施設との連絡や定期的な訪問
・新設した連携施設への挨拶
・患者さんやご家族とのやり取り
・訪問診療で必要な書類の作成

など、外来にはない事務作業がたくさんあります。

人材採用やシステムの導入など、効率的に事務作業を進めることができる仕組みを作っていきましょう。

【まとめ】地域に欠かせない訪問診療を実現する

訪問診療(在宅医療)の医院・クリニック開業のポイントについて解説しました。

訪問診療では、高齢者社会が避けられないことと厚生労働省の方針もあり、ニーズが高まっていくことはほぼ間違いありません。

外来と違って、様々な基準を満たしていく必要があり、24時間体制と他医療機関や介護施設との連携は欠かせません。

本記事でお伝えしたことを念頭に置いて、開業準備を進めるようにしてください。

税理士法人テラスでは、経験豊富な税理士、社労士、行政書士、物件などの専門家が結集してワンストップで医院開業支援を行っています。

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笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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