開業医が知っておきたいクリニックの人材マネジメント4つのポイント

公開日:2024年7月16日
更新日:2024年11月27日

多くのクリニックの院長先生は、医院経営するうえで売上や支出などお金のことだけでなく、スタッフなどの人の問題に悩んでいます。

クリニックの組織力は、思った以上に医院経営に直結します。

実際に組織力が強いクリニックは、開業してから早い段階で医院経営が軌道に乗っている傾向にあります。

逆に、まとまらない組織で、院長先生とスタッフ間、スタッフ同士でトラブルが頻発すると、院長先生の負担は増えるばかりです。

そこで、今回はクリニックの院長先生が知っておきたい人材マネジメントの重要なポイントについてお伝えしていきます。

院長とスタッフのパイプ役を用意して円滑なスタッフマネジメントを促す

院長先生がスタッフを直接指導したり、方針をスタッフに伝えたりすることも重要ですが、院長先生とスタッフのパイプ役を用意することも大切です。

パイプ役となる人を用意することは、次のメリットがあります。

・院長先生の負担が軽減し、診療に専念できる

・院長先生とスタッフ間で、お互い言いづらいことも言えて情報共有しやすい

・相性の良くないスタッフとの潤滑油となり得る

このように、多忙な院長先生の間を取り持ってもらうことで、気持ち良く医院経営をすることができるようになります。

医院・クリニックの場合、代表的に次の方が「パイプ役」になるケースが考えられます。

また、院長先生とスタッフの橋渡しになるような方を対象にして求人募集するのも良いでしょう。

事務長をパイプ役にする

開業医の先生は、勤務医の先生と違って「医師・経営者・管理者」という3つの役割を担うことになります。

しかし、本来は「もっと自分の医療に専念したい」という思いが強い先生も多いでしょう。

そのようなときに、事務長制を導入して、経営・管理をある程度任せる方法があります。

具体的には、管理上の手続きや、人事関連の書類整理や事務作業を一任することに加え、院長先生とスタッフ、もしくはスタッフ間の橋渡し的な役割を任せるのです。

ただ、その場合、事務長になる方が院長やスタッフと相性が悪いようでは、逆に不満を募らせることになるので逆効果です。

事務長採用に関しては、経営・管理のサポートにするのか、パイプ役も担ってもらうのか、採用方針を明確にしましょう。

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院長先生の配偶者をパイプ役にする

院長先生の配偶者が同じクリニックで働いている場合、事務長的な役割に据えるケースは以前から多いです。

院長先生の配偶者が、どこまで運営に関わるべきか、ということは適性を見ながら判断していかないといけません。

ただ、もし配偶者が統率力に長けていたり、マネジメント能力があったりすれば、院長とスタッフ間の橋渡しとしては理想的でしょう。

特に奥様の場合、女性が多い職場である医院・クリニックのマネジメントに女性が関わるのは、かなり有効と言えます。

女性の気持ちは理解しやすいし、同じ女性だから理解しやすいという面もあるでしょう。

一方、昔ほどではないにしろ、「院長の配偶者がいると、スタッフが働きづらい」という印象を持つスタッフもいます。

そのため、スタッフとの人間関係を良好にするためにも、院長先生と一緒にクリニックの方針などを考えていくと良いでしょう。

詳しくは、以下の記事に詳しく掲載しています。

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ベテランスタッフをパイプ役にする

スタッフ教育で頼りになるベテランスタッフは、院長先生とスタッフ間のパイプ役としても大いに期待できるでしょう。

特にそのクリニックで長く勤めている場合は、理念や方針、院長先生のパーソナリティをよく知っています。

技術面でも優れ、潤滑油的な存在となってもらえるのであれば、他のスタッフはとても仕事がやりやすくなるでしょう。

ただ、この場合もベテランスタッフの特性によって向き不向きがあるので、注意が必要です。

院長先生は、ベテランスタッフに求める技術やノウハウだけでなく、マネジメントスキルも明確にしておきましょう。

相性の良くないスタッフ同士のコミュニケーションこそパイプ役の力を借りる

事務長や院長先生の妻以外に、院長先生とスタッフとの橋渡しになることが期待できるのはベテランスタッフです。

開業して医院経営が軌道に乗り、スタッフの人数が増えてくると、必ずと言って良いほど、次のことに悩む院長先生やスタッフが出てきます。

「なんだか、このスタッフは苦手だ」

「私はスタッフに嫌われているかもしれない」

「スタッフAとBが、仲が悪いがどうにかならないのか」

しかも医院・クリニックの場合、大半のスタッフは女性なので、この問題の難易度は高いかもしれません。

ここで、少し医療業界から離れて、サッカーの話をします。

女子サッカー日本代表の佐々木則夫元監督は、選手を次の3つに分類していたそうです。

(1)どんな状況でも自分を受け入れてくれるタイプ

(2)ケース・バイ・ケースで受け入れてくれるタイプ

(3)なかなか自分を受け入れてくれないタイプ

このうち、佐々木元監督が気をつけていたのは、(3)のタイプです。

「誰からも好かれたいと願うのが人間ですが、(3) との関係改善にばかりエネルギーを注ぐのは避けるべきです。『どうして自分を認めてくれないのか』といったストレスが溜まりますし、(1)や(2)との関係がおろそかになってしまうこともあるからです」

では、(3)のタイプについて、佐々木元監督はどうしていたか?

それこそ、「パイプ役」の助けを借りていたと言います。

「監督である私を毛嫌いする選手でも、コーチの誰かとは打ち解けているものです。そこにコミュニケーションの突破口があります。『A』という選手と仲の良い『B』という選手を通して、

『A』の情報を吸い上げることもあります」

もし、先生が相性の合わないスタッフ、心をなかなか開かないスタッフがいたら、まずは「パイプ役」の人に力を借りるのも良いでしょう。

これは決して院長の怠慢ではなく、スタッフの人間関係を円滑にするためには、このように人の助けを借りることも必要です。

そうすれば、ストレスや時間の負担なく、診療に専念できるでしょう。

業務に関することからスタッフ個人のことまで情報共有する仕組みを作る

特に医院・クリニックのスタッフの人数が多い場合、必ずと言って良いほど次の悩みが付きまといます。

スタッフのマネジメントのイメージ

クリニックの規模が大きくなるほど、スタッフ一人ひとりの距離は遠くなり、マネジメントが困難になりがちです。

スタッフに関する情報を共有するのは難しくなっていきますが、だからこそクリニック全体でコミュニケーションを仕組み化する姿勢が求められます。

一見些細なことでも情報共有する

クリニック全体で情報共有をこまめに行うことは大切です。

一見些細なことに思えるようなことでも、定期ミーティングなどで情報を共有しましょう。

患者さんの症状はもちろんのこと、スタッフの日頃の疑問点や課題についても密に連絡を取り合うと、業務がスムーズに進みます。

もちろん、些細なことでも情報を共有するには、何か言い出しにくい雰囲気を作らないように、風通しの良い職場づくりに努めることが必須です。

些細なことでも情報を共有して、遠慮なく意見を言い合える環境が、強固な組織を作っていきます。

業務だけでなくスタッフの情報も共有する

こまめに情報共有するのは、患者さんの症状や業務上の問題点だけではありません。

定期ミーティングや面談の場を用いて、スタッフに関する些細な情報も共有するようにしましょう。

開業直後でスタッフが少ないうちはいいかもしれませんが、クリニックの規模が大きくなると、院長先生だけが把握することは困難です。

この場合は、事務長や配偶者、ベテランスタッフといったパイプ役になり得る方の力を借りて、情報共有してもらうようにしましょう。

つまり、院長先生以外のリーダー格の人が、些細なことでもスタッフの変化を共有するようにするのです。

・今日は全然話さないな

・こんなミスをするなんて珍しいな

・疲れているように見える

できれば、このレベルでも気になることがあれば報告してもらうようにしましょう。

問題が大きくなる前に、スタッフの悩みや業務上の課題が解決できるきっかけになるかもしれません。

パイプ役の人やベテランスタッフの力を借りて情報共有する仕組みを作る

院長先生が1人でスタッフ全員のことを把握することは難しいので、極力「パイプ役」の人や、ベテランスタッフの力を借りるようにしましょう。

院長先生以外のリーダー役の人が、業務やスタッフの些細な変化でもあれば、先生に共有するようにするのです。

クリニック全体でスタッフの情報を共有する体制を築けば、スタッフマネジメントが円滑に進められるでしょう。

本来の診療に集中できるようにしつつ、スタッフのことは把握できる状態を作っておく体制作りが大切です。

スタッフ間で課題を解決して自律的な行動力を身に付けてもらう

業務のことや、スタッフ個人のことを院長先生が把握する一方で、スタッフ同士で話し合い、課題を解決するように促すことも重要です。

もちろん、問題をスタッフに丸投げするわけではありません。

「こんな方法はどう?」「経営理念から考えた場合、どうかな?」と問いかけながらスタッフに対応を任せるのです。

一方的に回答した方が楽なこともありますが、それではスタッフが指示待ち人間から抜け出すことはできません。

また、スタッフ間で話し合ってもらうことで、院長先生が考えていた以上の解決策が生み出されることもあります。

何よりも、スタッフが自分で納得して出した答えなので、自律的に動いてくれるようになります。

課題にもよりますが、スタッフ間で考えてもらい、自律的に行動してもらうことは強い組織を作るうえでは大切です。

【まとめ】人の助けを借りながら円滑なスタッフマネジメントを行う

以上、スタッフの人材マネジメントの重要なポイントについてお伝えしました。

・院長先生とスタッフの橋渡しとなるパイプ役を用意する

・パイプ役の力を借りながら、業務やスタッフ全体のことを把握する

・スタッフ間で、ある程度の業務を任して問題解決を促す

スタッフには、ある程度のことは任せて、院長先生は状況を把握するだけにしておくと、業務負担を減らしながら円滑な医院経営が可能になります。

少しでも自分の医療に専念できるように、スタッフの力を借りながら、ストレスのない医院経営を目指しましょう。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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