クリニックの医師、看護師と強固なチームワークを作る7つのポイント
医院経営は院長先生1人では到底成り立つものではなく、他の勤務医、看護師、医療事務などスタッフのチームワークが欠かせません。
「もっと雰囲気を良くしてチームワークを強固にしたい」
「ストレスなく、スタッフ全員が力を合わせてイキイキと働くにはどうしたらいいか?」
と考える先生も多いのではないでしょうか?
特に医師や看護師のチームワークは、医療経営に直結してきます。
人件費に対する費用対効果に大きく関わりますし、チームワークは患者さんにも伝わりますから、患者満足度にも大きく影響します。
そこで今回は、クリニック内の医師や看護師が、強固なチームワークを作るための重要なポイントについてお伝えします。
【求人採用】自分のクリニックに合う人だけ採用する
強固なチームワークを作るためには、日々の人材マネジメントやスタッフ教育も大切ですが、求人採用も大切なポイントです。
看護師同士の人間関係、労使間トラブル、スタッフの離職率……、これらを改善するには、採用の基準の見直しも必要なことがあります。
つまり、自分のクリニックに合った医師や看護師を採用するということです。
採用難、売り手市場と言われるなかで、採用する人材を絞ることは勇気がいることかもしれません。
しかし、自院に合わない人を多く採用してしまうと、どんなに先生やベテランスタッフに統率力があっても強固なチームワークは形成されません。
チームワークが形成されるどころか、人間関係と生産性が悪くなって、医院経営にも悪影響を及ぼします。
求人広告で多くの求職者に興味を持ってもらうことは大切ですが、採用する人は絞る必要があります。
ですから、先生が理想のスタッフ像を明確にしておく必要があります。
そのうえで先生のクリニックの理念、また働くことによってスタッフがどのようなスキルを得て成長できるかを優先的に先に伝えましょう。
さらにスタッフの適正、成長意欲、向上心、退職リスクを面接時に確認し、「合わないな」という人は採用を見送りましょう。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】医院・クリニック開業時の採用面接、書類選考、採用後のスタッフ教育で失敗しないコツとは?
【スタッフの退職】来るもの拒まず、去る者追わず
スタッフの定着率を高めるために、就業規則等で労働条件を明確にしたり、人間関係を良好にしたりすることはとても大切です。
しかし、どうしても先生のクリニックには合わないスタッフまで働き続けてもらうべきかと言われれば、決してそんなことはありません。
むしろ、嫌々働くスタッフを無理に引き止めたり、問題スタッフを放置したりするのは、明らかに逆効果です。
強固なチームワークを形成するどころか、院内全体のモチベーションを下げ、労使間トラブルにも繋がります。
他の勤務医や看護師に悪影響を及ぼしてしまうでしょう。
また、「院に合わない」「チームワークを乱している」スタッフは、自分自身も働くモチベーションを失っている可能性が高いです。
その場合は、「他に向いている医院があるかもしれない」と転職を促しても良いでしょう。
チームワークと言うと、「他人を排除してはいけない」「誰にとっても安心安全の場」と考えがちですが、時には毅然とした対応が求められます。
【マネジメント①】サッカーのプレー方針から考えるチームワークの考え方
2018年のサッカーW杯の2ヶ月前、急遽監督が交代になったことを覚えているでしょうか?
W杯開幕まで2ヶ月で監督交代するのは異例です。
サッカーのプレー方針には、大きく分けて次の2つの方法があります。
・一人ひとりの力を最大限に生かす方法
・組織として戦っていく方法
解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は前者の方法を取り入れ、個人が最大限の力を発揮することを前提としました。
しかし、W杯前のテストマッチで結果を残すことができず、さらに試合後の会見で選手を批判するなど、選手との信頼関係の希薄さが垣間見られました。
また、日本人は世界的に見て身体のサイズが小さく、個人で能力を発揮するには限度があります。
一方、2018年のW杯限定で急遽就任した西野朗新監督(当時)は、後者を選択します。
「規律や組織をもとに結束して戦える強さがある。グループでのパフォーマンスが日本の良さ」
「所属クラブで見せている力を、選手たちがストレートに出せる状況を作りたい」
西野新監督は、当時そのように説明して、さらに、このように付け加えました。
「選手がパフォーマンスをしっかり出せる環境を作れば、勝てる確率は上がる」
正確には、西野新監督は前者と後者両方選択したと言えるでしょう。
これは組織運営では同じようなことが言えないでしょうか?
個人の力を最大限に発揮するためには、ある程度の規律や組織力を固めることは必要です。
そのためには、先生が院の方針をしっかりと示し、スタッフ一人ひとりのことを理解することが求められます。
そのうえで、スタッフが動きやすいように敢えてルール作りをしていく必要があります。
クリニックの方針、規律とスタッフの能力が噛み合って初めて、強固なチームワークが形成されます。
【マネジメント②】スタッフに対する説明責任
2018年のW杯と言えば、突然の監督交代に対するサッカーファンの目は厳しいものでした。
「2ヶ月前に監督を代える理由がはっきりしない」という意見が飛び交ったのです。つまり、説明責任に対して、不満を抱かれてしまったのです。
日本代表を応援するサッカーファンとしては「こんな時期に交代なんて、何を考えているんだ!」となります。
「選手とのコミュニケーションと信頼関係が薄れていた」だけでは納得できなかったのでしょう。
説明責任(accountability)とは、次のように定義されます。
政府・企業・団体・政治家・官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、株主や従業員(従業者)、国民といった直接的関係をもつ者だけでなく、消費者、取引業者、銀行、地域住民など、間接的関わりをもつすべての人・組織(利害関係者/ステークホルダー)にその活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考え
つまり、医院経営に当てはめれば、説明責任は患者さんなどの対外的な説明だけでなく、スタッフなどに対する対内的な説明も含まれます。
対内的な説明を怠れば、組織運営や人員確保の点で、組織内部に影響を及ぼすことになります。
説明責任とは、結果や過程を説明するだけでなく、「組織内外からの評価を得ること」「将来のビジョンを示すこと」も必要とされています。
2018年のサッカー日本代表の監督交代については、次の4点が不足していたと考えられます。
- (1) “なぜ監督を変更したのか”という経緯
- (2) 監督を変更したことによる具体的な将来のビジョン
- (3) そのビジョンを達成させる具体的な手段は何か
- (4) 新しく決めたビジョンは組織内で評価されているのか
これを医院経営に当てはめると、院長先生は次のような説明責任が求められると言えます。
- (1) なぜ、そのような方針にするのかという経緯
- (2) (1)による具体的な将来のビジョンを明確に示す
- (3) ビジョンを達成させる具体的な手段は何か、他にないのか?
- (4) (1)~(3)はスタッフや患者さんにどのように評価されているのか?
これは何か方針を変えるときだけでなく、何か新しい仕組みを取り入れるとき、何か新しいことにチャレンジするとき全般に言えます。
医院経営において、先生の理念やビジョンを共有することは、強固なチームワークを形成するうえで必須となります。
ただ、理念やビジョンをどこにも閲覧できるようにするだけでなく、そのための手段をスタッフに説明し、一緒に考えていきましょう。
【コミュニケーション①】情報の共有を徹底的に行う
チームワークを保つためには、医師、看護師間で情報共有を徹底的に行うことです。
一見些細なことでもスタッフ間で共有するように教育し、定期的にミーティングの場を設けるなど仕組みを作るようにしましょう。
患者さんの症状などを共有するのはもちろんのこと、スタッフの日頃の疑問点や課題についても密に連絡を取り合うようにすると、業務がスムーズになります。
また、医療事故など重要な問題が発生しにくくなりますし、医師、看護師の技術力、接遇力アップにも繋がります。
そのため、普段から何か言い出しにくい雰囲気を作らないように、風通しの良い職場づくりに努めましょう。
何でも言い合える環境こそが、強固なチームワークを作っていきます。
【コミュニケーション②】スタッフを変えようとしない
日々の診療の現場では、勤務医や看護師が自分の思ったように動かず、イライラすることもあるでしょう。
しかし、だからといって、「○○しろと言っただろ!」と叱責して行動を強制する、つまり相手をコントロールしようとするとチームワークが急速に悪くなります。
「自分は正しいことを指導している」と思っていても、スタッフにとってはストレスになることがあります。
そして、スタッフは言いたいことも言えなくなり、情報共有もされなくなっていくので、業務がスムーズに進みません。
相手を批判したり、叱責したりすることなく、「こうすればもっとうまくいくよ」と伝え方などを工夫するようにしましょう。
【コミュニケーション③】チームワークを高めるために飲み会は有効か?
スタッフ全員がイキイキと働き、和気あいあいとしているクリニックというと、「飲み会や食事会でも楽しそうにしている」イメージはないでしょうか?
なぜかというと、医院・クリニックのブログ、SNSなどを見てみると、飲み会でみんなが笑顔で写っている写真をよく見るためです。
結論から言うと、まったく飲み会や食事会をしないのはコミュニケーションの機会を逸することになるものの、頻繁に行う必要はないでしょう。
しかも、クリニックのスタッフの大半は女性です。頻繁に飲みに行く人の方が少ないのではないでしょうか?
チームワークと言うと、「みんなで仲良く」というイメージが付きますが、多くの人は、同時に一人の時間も欠かせません。
家庭もある人も多いでしょうし、あまりプライベートの時間を割かれたくない人も多いでしょう。
クリニックの雰囲気にもよるかもしれませんが、飲み会については、時々行う程度で良いのではないかと思われます。
忘年会や歓送迎会でもない限り、参加は任意とする程度で良いでしょう。
あくまで飲み会はコミュニケーションの一手段です。他にもコミュニケーションを図る手段はあるので、総合的に考えましょう。
【まとめ】院に合う人に長く働いてもらい、チームワークを強固にする
以上、クリニックのチームワークを高める重要なポイントについてお伝えしました。
スタッフ採用や退職について触れたのは、少し意外かもしれません。
しかし、チームワークを強固にするには、まずはスタッフが「このクリニックは自分に合っている。ここなら長く働きたい」と思うことが大前提です。
合わない人は、どんなに組織力を高めようが、院の雰囲気を良くしようが、まず溶け込むことができません。
クリニックに合う人に長く働いてもらい、そのうえで規律やルールを作り、一人ひとりが力を発揮しやすい環境を作る。
さらに、理念やビジョンを共有し、目的達成の手段に対する説明責任を果たす。
そうすることで、スタッフは自主的に行動し、チームワークは勝手に醸成されていくでしょう。
監修者
亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。