【看護師等の65歳以上の求人】クリニックのシニア採用の好事例と助成金活用

公開日:2020年3月27日
更新日:2024年11月22日

少子高齢化が急速に進行する中、企業の人材不足が深刻になっています。

特に団塊世代が大量に退職した2010年頃から少子高齢化のインパクトが強くなり、多くの企業が求人に苦戦しています。

そこで注目されてきたのが、定年退職した65歳以上の人材の雇用を目指すシニア採用です。

病院やクリニックなどの医療機関でも同様で、どの医療機関も求人に関しては売り手市場になっています。

そのため、医療機関でも65歳以上の医師・看護師を求人するケースが増えてきました。

また、シニア採用については、対象となる助成金制度があるので、条件を確認して活用していきましょう。

そこで、今回は医院・クリニックのシニア採用の好事例と助成金についてお伝えします。

看護師のシニア採用の好事例

厚生労働省は「看護師のセカンドキャリアにおける活躍を図るための職場環境整備の好事例集」において、看護師のシニア採用の好事例について掲載しています。

掲載されているのは、ほとんどが比較的規模の大きい病院ですが、シニア採用の参考になるのもあるので一部紹介します。

※以下の事例は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構作成の次の事例集から抜粋しています。

A:生涯現役いきいき企業100選(2014年版)
B:生涯現役いきいき先進事例集(2014年版)
C:70歳いきいき企業100選(2012年版)
D:70歳雇用先進事例集(2012年版)
E:70歳雇用先進事例集(2022年版)
F:65歳超雇用推進事例集(2020年版)
G:平成25年度 高年齢者の多様な働き方事例集
H:平成24年度 高年齢者の多様な働き方事例集
I:平成22年度 高年齢者の多様な働き方事例集

短時間勤務等の柔軟な勤務形態

・短時間正社員制度の導入

・賃金は定年時より下がるが、希望に応じて短時間勤務を認めたり、肉体的負担の少ない部署へ配属したりする。

・65歳継続雇用終了後の再雇用の慣例を内規化するとともに、必要な能力基準や目標を明示して仕事の質や技術の向上を図る。

・定年後に本人の希望に応じた柔軟な働き方の選択を可能とし、正職員同様の評価基準を適用したり能力に応じた役割・目標を与えたりしてモチベーションの維持を図る。

・医療法人内に委員会を設置し、職員アンケートなどを踏まえて数多くの就業形態を設計。

・過疎地域のために人材確保が困難であったことから、年齢・時間について本人の希望を優先し、条件の制限を撤廃して募集。多数の高齢者の応募があり、人材確保に成功。

・これまで家族の介護を理由とした退職が多かったことから、家族の介護などで勤務継続が難しくなる高齢職員を助ける「ハーフタイム勤務制度」(半日勤務)の導入

60代の高齢スタッフが「まだまだ働けるぞ!」と言っても、どうしても青壮年期のように元気に働くには限界があります。

どうしても体力や健康面では20~40代よりは体力面では不利になります。

また、家族の介護などで勤務時間に制約が出てくることもあり得ます。

そのため、フルタイムの正社員雇用だけでないのはもちろん、様々な勤務形態を用意して、柔軟に対応する必要があります。

週3~4日勤務や、週6時間勤務を選択できるようにして、しかも変更が可能なようにしましょう。

一方で、長年の熟練した技術を活かせるような評価基準や目標を明確に示すことで、モチベーションを維持することは大切です。

勤務時間帯の設定の工夫

・60歳定年後は、65歳まで嘱託として、常勤、週30時間以上のパート、週30時間未満のパートから選択して勤務。

・子育てをしている看護師は早朝や夕方勤務を外れたり、日勤と夜勤の切り替わる時間帯に人手が不足したりする傾向がある。これを比較的時間に余裕のある高齢者にカバーしてもらうような勤務時間を設定。若手と高齢者がお互いに補い合って勤務できる就業形態を確立。

先ほども書いたように、体力的な限界のある高齢スタッフに対しては、勤務時間や勤務日については柔軟に対応する必要があります。

しかし、一方で子育て中や両親を介護中のスタッフにも、勤務時間に物理的な限界があります。

高齢スタッフは比較的時間に余裕のある確率が高く、相互の限界を補完できる勤務形態にすることで、労務の改善を図ることができます。

人手不足も解消されやすくなり、スタッフからも不満が生まれない、生産性が高くなるように勤務時間を工夫しましょう。

高齢スタッフがやりがいを持てる仕事・処遇・職場風土の形成

・高齢スタッフが、後進の指導や日常業務を通じて役割意識を持てるようにして、職場の先輩として役割を果たせるような職場風土を育てている。

・リーダー的な高齢スタッフには技能継承のためのマニュアル作成や新人教育指導者として活躍してもらっている。

・技能継承や高齢スタッフの体力負担軽減を目的とした若手スタッフとのペア就労。

・作業負担軽減のために職場改善等、勤務時間・日数の選択制等、モチベーション維持のための再教育制度などを実施。

・全職員が意欲をもって働けるように、能力と役割に応じた賃金・評価制度を導入。

・本人の意欲や能力を重視し、定年・継続雇用制度改定に伴う人事管理制度の変更を敢えて行わないことでモチベーションを維持する。

・高齢職員向けの教育訓練、研修参加の機会の提供。

・在職中のスタッフはもちろん、退職者を対象とした「退職事由アンケート」も実施して職場環境を改善し、不本意な理由による離職を防ぐ。

・高齢スタッフのIT化の推進のため、IT機器操作の習得を目的とした研修。IT導入による高齢スタッフの負担軽減。

高齢スタッフと若手スタッフの大きな違いは、何と言っても長年の経験と熟練した技術です。

そのため、後進の指導、マニュアル作成や研修での指導者として、大きな役割を果たしてもらえそうです。

新しい職域の開発

・専門知識を活用して患者の情報収集や担当診療科への誘導、診療・検査・処方等の専門的事項の説明を行う新しい就業形態(シニア・コンシュルジュナース)を設けている。結果として、円滑な病院の運営や患者満足度等のアップに繋げている。

・生活経験豊かな高齢職員が外国人技能実習生の指導役・相談相手となっている。

高齢スタッフの長年の熟練した知識と技術を活かせるような就業形態を設けることで、自分に合った働き方ができることもあります。

高齢スタッフの働くモチベーションを維持できるのはもちろん、医院全体の生産性が上がり、患者満足度の向上に繋がることがあります。

その他健康管理、研修

・高齢スタッフが長く元気に生き生きと働けるよう、食事と運動の管理について組織的に取り組む。

・理事長自らが主治医となって、高齢スタッフに対して日々食事と運動の管理についてフォローしている。

・研修を充実することにより、スタッフが経営の方向性を共有できるので、高齢になっても働き続ける目的や目標を持てるようになっている。

・スタッフの体力負担軽減につながる介護支援用ロボットの導入や、用具・器具の改善、安全対策の強化、熱中症対策の導入。

・高齢の患者の通院だけでなく、通勤用のマイクロバスの導入。

・「永年勤続表彰」について、65歳以上の高齢スタッフにも適用。

高齢スタッフの心配な点は健康面や体力でしょう。

定年退職後の継続雇用に関しては、健康診断など健康管理については組織的に取り組み、長く健康的に働けるような取り組みをしていきましょう。

シニア採用時の助成金活用

クリニックでも活用できる助成金はたくさんありますが、シニア採用時に活用できる助成金について紹介します。

詳しくは専門の社労士に相談し、受給額や条件が変わることがあるので、厚生労働省などのホームページも随時確認するようにしましょう。

特定求職者雇用開発助成金

高齢者、母子家庭の母親、障害のある方、東日本大震災の被災者などをハローワークの紹介により雇用した場合に支給する助成金です。

このなかでも、高齢者の雇用に関する助成金は特定就職困難者コース、もしくは生涯現役コースがありました。

ただし、2023年4月1日以降には生涯現役コースは廃止され、特定就職困難者コースに65歳以上が追加される予定です。

以下、現状の制度についてお伝えしますが、今後の見直しについては最新情報を確認するようにしてください。

特定就職困難者コース

【対象】高年齢者(60~65歳)や母子家庭の母、障害者などの就職困難者を雇い入れた場合
※2023年度に65歳以上も対象となる予定

【支給額】

対象労働者支給額助成対象期間支給対象期ごとの支給額
短時間労働者以外の者高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等60万円1年30万円×2期
重度障害者等を除く身体・知的障害者120万円2年30万円×4期
重度障害者等240万円3年40万円×6期
短時間労働者高年齢者(60歳以上65歳未満)、母子家庭の母等40万円1年20万円×2期
重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者80万円2年20万円×4期

※2023年度に65歳以上も対象となる予定

生涯現役コース

※2022年度末に廃止予定。

【対象】65歳以上の離職者で1年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れた場合

【支給額】

支給対象者支給額助成対象期間支給対象期ごとの支給額
短時間労働者以外の者70万円1年35万円×2期
短時間労働者50万円1年25万円×2期

65歳超雇用推進助成金

高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するための助成金です。

65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成されます。

全部で3つのコースがあります。

65歳超継続雇用促進コース

【対象】
次の(1)~(3)の条件を満たす場合。
(1)次のいずれかの制度を導入している
A:65歳以上への定年引上げ
B:定年の定めの廃止
C:希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
D:他社による継続雇用制度の導入

※70歳未満の雇用確保制度の導入を行い、令和2年度末までに支給申請を行い本コースを受給した申請事業主が、新たに70歳以上の雇用確保制度を導入した場合は、令和3年4月以降の助成額から既に受給した額を差し引いた額(その額が0円を下回る場合は0円)を助成する。

【支給額】( )は年齢の引上げ幅
A:65歳以上への定年引上げ&B:定年の定めの廃止

60歳以上
被保険者数
65歳66~69歳70歳以上定年の定めの廃止
5歳未満の引上げ5歳以上の引上げ
1~3人15万円20万円30万円30万円40万円
4~6人20万円25万円50万円50万円80万円
7~9人25万円30万円85万円85万円120万円
10人以上30万円35万円105万円105万円160万円

C. 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入

60歳以上被保険者数66~69歳70歳以上
1~3人15万円30万円
4~6人25万円50万円
7~9人40万円80万円
10人以上60万円100万円

D.他社による継続雇用制度の導入(※)

 66~69歳70歳以上
支給上限額10万円15万円

※上記表の支給額を上限に、他社における制度の導入に要した経費の1/2の額を助成。
※2022年4月現在

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

【対象】
(1)雇用管理整備計画の認定
次のいずれかの取組みに係る「雇用管理整備計画」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出して認定を受けている

・高年齢者の雇用の機会を増大するための能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入
・医師もしくは歯科医師による健康診断を実施するための制度の導入

(2)高年齢者雇用管理整備の措置の実施
(1)の雇用管理整備計画に基づき、同計画の実施期間内に高年齢者雇用管理整備の措置を実施している

【支給額】
雇用管理制度の整備等の実施に要した経費に、次の助成率を乗じた額

 中小企業事業主の助成率中小企業事業主以外の助成率
生産性要件を満たした場合75%60%
生産性要件を満たさなかった場合60%45%

※2022年4月1日現在。

高年齢者無期雇用転換コース

【対象】
次の(1)~(2)によって50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者の無期雇用労働者への転換を実施した場合

(1)無期雇用転換計画の認定
「無期雇用転換計画」を作成し、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出してその認定を受けること

(2)無期雇用転換措置の実施
(1)の無期雇用転換計画に基づき、当該計画の実施期間中に、高年齢の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること

【支給額】
対象労働者1人につき、以下の金額を支給。< >は生産性要件を満たした場合。

中小企業中小企業以外
48万円 <60万円>38万円 <48万円>

エイジフレンドリー補助金(2022年度は終了)

⾼齢者が安⼼して安全に働くことができるよう、中小企業事業者による職場環境の改善等の安全衛生対策の実施に対し補助を行うものです。

このなかには新型コロナウイルス感染の防止対策も含まれます。

2022年度中の受付は終了しましたが、2023年度も補助が行われる可能性がありますので、最新情報をチェックするようにしてください。

2022年のエイジフレンドリー補助金についての対象は以下のようになっています。2023年も行われる場合は、対象が変わっている可能性があるので参考程度にしてください。

【対象となる事業者(2022年)】
・高年齢労働者(60歳以上)を常時1名以上雇用している
・医療・福祉業については100人以上、資本金(または出資総額)5,000万円以下が対象

【対象となる対策(2022年)】
・身体機能の低下を補う設備・装置の導入
・働く高齢者の健康や体力の状況の把握等
・高年齢労働者の特性に配慮した安全衛生教育
・その他、働く高齢者のための職場環境の改善対策

【補助金額】
・補助率:1/2
・上限額:100万円(消費税は除く)

【まとめ】医院・クリニックでもシニア採用が増えるのは必須

少子高齢化の人材難の時代というのもありますが、そもそも昔に比べれば、今の高齢者は健康で、65歳を過ぎても働く意欲が十分です。

また、技術的に熟練しているので、後進の育成やマニュアルの整備に貢献するなど、医院運営が円滑になり、生産性が向上することも考えられます。

高年齢者雇用安定法の順守も必要なので、医院・クリニックの生産性の向上や患者満足度の向上に繋がるように、高齢者が働きやすい体制を整えていきましょう。

なお、医師・看護師の定年廃止や延長、継続雇用のメリットとデメリット、高年齢者雇用安定法の改正については以下の記事をご覧ください。

医師・看護師の定年廃止や延長、継続雇用のメリットとデメリットや対策、法改正について詳細解説

厚生労働省の「看護師のセカンドキャリアにおける活躍を図るための職場環境整備の好事例集」では、次のような医療法人の事例が紹介されています。 「昭和43年の発足当時か…

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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