看護師が副業で儲けていた!院長として副業をどこまで認めるか?

公開日:2020年1月21日
更新日:2024年3月18日
副業

以前は副業禁止としている企業が多かったですが、終身雇用制度の崩壊等により副業解禁とする企業が増えてきました。

副業解禁とすることで、従業員が自己実現により生き生きと働ける、本業での新しいアイディアの誕生に繋がるなどのメリットを指摘する声もあります。

少なくとも「業務に支障が出ないのであれば、副業で収入を得ても問題ない」とする考えが現在の主流の考え方です。

しかもコロナによる景気の悪化や価値観の大きな変化に伴い、もはや副業は「当たり前」という認識になっています。

このような時代に、副業が発覚したからといって懲戒処分を下して、スタッフが納得するとは思えません。

労使間トラブルに繋がるのは目に見えていますから、就業規則で副業禁止を規定していれば見直しの余地はあるでしょう。

一方で「看護師やスタッフの副業を全面的に許すべきなのか?」と問われれば、その答えもNo.です。

当然クリニックにとって不利益になるような副業であれば、認めるべきではありません。

院長先生は、客観的な視点で認める副業と、認められない副業を明確にする必要があります。

そこで今回は、クリニックの院長先生がトラブル防止のために知っておくべき、看護師やスタッフの副業について詳しくお伝えします。

※もしかしたら、現在クリニックで働きながらこっそりと副業している看護師の方もご覧になっているかもしれません。看護師の方も、ぜひ本記事を参考にしてください。もしかしたら、こっそりではなく正々堂々と副業をして良い可能性もあります。

デイトレ、不動産投資、アフィリエイト、メルカリ……これって副業!?

副業OKの線引

今は多様なお金の稼ぎ方があり、在宅ワークなどで簡単に副業ができるようになってきました。

多様なお金の稼ぎ方が出現したことで、「これはそもそも副業なのか?」と線引きが難しいものが増えています。

代表的なものに「仕事ではなくて投資ではないのか?」というもの、「不労所得も副業に該当するのか?」というものです。以下に詳しく解説していきます。

そもそも副業に該当しないものであれば、いくら副業禁止規定を定めても認めなければいけないので注意しましょう。

資産運用による運用益

資産運用

オーソドックスなドルコスト平均法による積立投資による運用益や、株の売買による利益、株主優待……。

これらの資産運用による利益は、仕事ではなく投資による利益なので当然ながら副業には該当しません。

これを禁止してしまえば、株も買えない、FXもできない、積立投資もできない、保険も入れない……ということになってしまいます。

これではあまりにも理不尽ですし、院長先生も困るでしょう。

デイトレード

デイトレード

それでは株やFXなどのデイトレードのような、投資というよりは投機と呼べるようなものはどうでしょう。

デイトレードに関しても、上記の資産運用と同じ考えになるので、基本的には副業には該当しないと考えて良いでしょう。

ずっとPCに張り付いて株価や為替の変動をチェックしているイメージがあり、「明らかに労働じゃないか?」と思う方もいるでしょう。

しかし、株式投資やFX、デリバティブ取引は公務員でも禁止されていないことを考えれば、副業に該当しないと考えるのが妥当でしょう。

しかし、業務時間中にも関わらず、院内で長時間PCに張り付いて株価や為替の変動をチェックしているのであれば当然問題です。

明らかに、それは副業うんぬん以前の問題でしょう。

不動産投資による賃貸収入

不動産投資

不動産投資による賃貸収入については、こちらも資産運用なので「副業ではない」と考えて間違いありません。

とは言っても「不動産投資で懲戒処分になった公務員もいるくらいだから、副業ではないのか?」と思う先生もいるでしょう。

たしかに、実際に公務員が不動産投資で懲戒処分を受けた例はあります。

しかし、これは不動産投資について人事院規則のルールがあるためです。

例えば独立家屋の数が5棟10室以上だった、年間500万円を超える賃貸収入があった場合です。

このように大きな規模での不動産投資になると、投資ではなく自営に該当すると人事院の規則で定められているのです。

公務員以外の職業で、不動産投資を副業と定義するのであれば、人事院の規則と同等の規定が必要になります。

ただ、開業医の先生でも税金対策も兼ねて不動産投資を行うケースは多いので、不動産投資を禁止するのは現実的ではないでしょう。

【不労所得】アフィリエイト、本の出版、ネットワークビジネス……

不労所得は副業?

投資は基本的に「ビジネスではない」ため、副業に該当しないことがわかりました。

しかし、今ではビジネスと定義されるものでも、副業に該当するかどうかわかりづらいケースが増えてきています。

それがアフィリエイト、本の商業出版、それとイメージは良くないですがネットワークビジネスのような不労所得です。

結論から述べると、これらのビジネスで得た収入については、院長先生は副業とみなして構いません。

不労所得と呼ばれるビジネスについては、「労働する必要のない所得だから副業でない」と主張する方もいます。

しかし不労所得は、特に労働の有無で定義づけられた言葉ではなく、権利により受け取れる収入を意味する言葉です。つまり権利収入のことです。

例えばサイトアフィリエイトの場合は、一生懸命Webサイトを作って、記事を量産します。

本の出版であれば、著者は印税を手にする前から一生懸命原稿を執筆しています。

ネットワークビジネスであれば、一生懸命会員になってくれそうな人を探して営業(勧誘)します。

つまり、不労所得を得ている人達の大半は、一生懸命労働しているのです。

これで「副業には該当しない」と考えるのはかなり不自然でしょう。

同じ理由で広告収入をメインとするユーチューバーも副業と考えて間違いありません。

メルカリやラクマなどの不用品販売

メルカリやラクマなどの不用品販売

看護師に限らず、若い女性を中心に、メルカリやラクマなどのフリマアプリを用いて不用品販売をする人が増えてきました。

「メルカリで物を売るのは立派な副業ではないか?」と思う先生もいらっしゃるでしょう。

しかし、メルカリやラクマで、自分が使っていて不要になった物を販売すること自体は「副業」に該当しない可能性が高いです。

メルカリやラクマが存在する以前から存在した、フリーマーケットやブックオフのようなリサイクルショップを思い浮かべればわかりやすいでしょう。

「ブックオフで不用品を販売することは就業規則に反するから懲戒処分にした」なんて聞いたことないはずです。

せどりや転売などの物販

せどり・転売などの物販

「メルカリで不用品を売るのではなく、せどりや転売行為はどうなのか?」

これについては明確な線引きが難しいことはありますが、次のように考えてもらえれば良いです。

①副業に該当しない⇒自分の不用品をメルカリやリサイクルショップで販売する程度
②副業に該当⇒営利目的で商品を仕入れて転売する行為(せどり・転売)

例えば、せどりや転売でよくある次のような行為は基本的に副業と考えて構いません。

基本的に副業と考えて差し支えないもの
  • ・中国のアリババから商品を大量に輸入してAmazonで販売する
  • ・転売目的でAmazonから安く商品を仕入れてメルカリで販売する
  • ・商品の申込みのあとに、Amazonなどで商品を仕入れて販売する(無在庫転売)

メルカリ販売が必ずしも副業に該当しないわけでなく、明らかにせどりや転売目的であれば「副業になる」と考えてください。

不用品販売だけで年間の所得が20万円以上になるとは考えにくいので、住民税額から本業以外の収入が発覚すれば確認しても良いでしょう。

「副業ではなく趣味です!」と主張されるもの

副業ではなく趣味!と主張されるもの

その他、「副業ではないか?」と問われても「趣味です!」と主張されることもあります。

「副業ではなく趣味です!」と主張されるもの
  • ・ハンドメイド作家
  • ・セミナー主催、講師
  • ・ユーチューバー
  • ・お菓子作り
  • ・料理教室
  • ・占い
  • ・カウンセリング、コーチング、ヒーリング
  • ・ヨガインストラクター etc……

休日を使って、このような趣味を活かして「プチ起業」「週末起業」を始める人は大変多いです。

つまり、趣味と副業の線引き自体がとても難しいのです。

判断基準としては、「利益を得ているかどうか」なのですが、多くても月数万円程度の収入の人が大半です。本当に「趣味程度」であることが多いのです。

本業に支障が出るほどの熱の入れようなら指摘は必要ですが、そうでなければ、敢えて指摘する必要はないかと思われます。

プライベートまで干渉して、趣味を禁止するわけにはいきません。

労働基準法と副業禁止は無関係

労働基準法と副業禁止は無関係

まず、副業禁止については、特に労働基準法で定められているものは特にありません。

基本的に労働基準法は経営者(院長)より労働者(スタッフ)を守る法律ですから、労働者にとって不利になる規定はできません。

しかし、一方で労働基準法では、「経営者は副業を認めなければいけない」という規定もないのです。

つまり、これまで多くの企業が規定してきた副業禁止は、経営者が自ら就業規則で規定していたのです。

多くのクリニックの副業禁止規定に関する問題点

副業禁止規定に関する問題点

副業を解禁している一部のクリニックを除けば、おそらく多くのクリニックでは、次のような副業禁止の就業規則を規定していると思われます。

職員は、医院の許可なく在籍のまま、他の会社の役員もしくは従業員となり、または自ら事業を営むことをしてはならない。

副業禁止の就業規則の例

就業規則でこのような規定があれば、副業を全面的に禁止していることになります。

副業を全面的に禁止するのは、看護師やスタッフとのトラブル防止の観点では現実的ではありません。

院長先生の立場で考えれば、忠誠を誓ってクリニックの業務に専念してほしいというのが本音でしょう。

しかし看護師やスタッフの立場で考えれば、副業禁止は業務時間外の行動まで拘束され、経済的自由を阻害されていると捉えられます。

後述するように全面的に解禁するのはNGですが、「院長の許可を得れば副業可能」とするなど、条件付きで認めることを推奨します。

上記の就業規則のままのクリニックは、見直しの余地が十分あるでしょう。

副業解禁は歓迎されるべき。しかし明確なルールが必要

副業解禁は歓迎されるべき。しかし明確なルールが必要

多角的な働き方が認められた時代になっていること、終身雇用制度は崩壊していることを考えれば、副業解禁は大いに歓迎されるべきです。

しかし、だからといって全面的に副業を認めるというのは、クリニックにとって大きな不利益となりかねません。

これまで多くのクリニックが副業を禁止してきた理由

これまで、多くのクリニックが副業を禁止してきた理由は次のようなものです。

①副業により精神的・肉体的に疲労が蓄積され、業務に支障をきたす。

②他社の従業員になることにより、クリニックに対して誠実で完全な仕事ができなくなり、クリニックの秩序を乱す

③他社の従業員になることにより、クリニックの対外的信用や体面を傷つける可能性がある

④競合するクリニックに就職するなど、就業で経営上の秘密が漏れることがある

副業解禁が増えてきた時代とはいえ、上記4つに該当する副業については、今でも認めるべきではないでしょう。

副業を解禁するにしても、①~④に該当する副業に関しては禁止して、院長先生の許可を得る旨をルール化しておくことが必要でしょう。

厚生労働省のモデル就業規則

参考までに、厚生労働省の示した「副業・兼業」に関するモデル就業規則を抜粋します。

副業・兼業を認めつつも、上記①~④に関しては禁じていることが明確にわかります。

労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

抜粋: 厚生労働省の示した「副業・兼業」に関するモデル就業規則

副業を認めてはいけない具体例

副業を認めてはいけない具体例

それでは、具体的に副業を認めてはいけない例を次に挙げます。

タイトル
  • ・Amazonの転売ビジネスに夢中になって夜遅くまで作業し、遅刻や欠勤が発生したり、業務中に居眠りしたりしている。
  • ・業務時間中に、仕事そっちのけでアフィリエイト収入を得るためにブログを書いている。
  • ・業務時間中にPCに食らいついてデイトレードしている。(副業禁止には抵触しませんが、勤務態度に問題があります)
  • ・反社会的勢力と繋がるようなビジネスをしていて、クリニックの信用が傷つく可能性がある。
  • ・法律に触れるようなビジネスをしていて、クリニックの信用が傷つく可能性がある。
  • ・ネットワークビジネスのしつこい勧誘など、他のスタッフに迷惑がかかっている。
  • ・患者の個人情報を必要とする副業。もしくは個人情報が漏洩する危険性が高い副業。

院長先生は、スタッフの副業については、「クリニックに不利益になるか、ならないか」を慎重に検討するようにしましょう。

パートタイマーの副業については、どう対応する?

パートタイマーの副業

正職員のスタッフですら、上記の禁止する理由①~④に該当しない限りは副業解禁が推奨される時代です。

1日の勤務時間が3~4時間、週2~3日出勤のパートタイマーに副業を禁止するのは不可能に近いでしょう。

実際にパートタイマーのスタッフの場合は、他の職場や個人事業主と掛け持ちしているケースも少なくありません。

しかし、パートタイマーでも重要なことは上記の禁止する理由①~④に該当しないことを確認することです。

特にパートタイマーの場合、他のクリニックと勤務しているケースがよく見られます。

クリニックの秘密を外部に漏らさないよう、機密遵守誓約書を提出してもらう等の対応が必要でしょう。

【まとめ】クリニックに不利益にならない限りは副業を解禁する

以上、看護師やスタッフなど、クリニックで働く人の副業をどこまで認めるか?についてお伝えしました。

基本的にはクリニックに不利益になるようなことがない限りは、副業は解禁すべきでしょう。

業務時間外にどういう過ごし方をしようが、本人の自由であり、それを阻害するようなことがあればトラブルに繋がります。

副業を全面的に禁止しているクリニックは、スタッフからの信頼関係を担保できるよう、規程を見直すことを推奨します。

しかし、クリニックにとって不利益になるような副業は認めてはいけません。

これは、看護師やスタッフが副業で稼いでいる額とは関係ありません。

月1,000円しか稼げなかろうが、100万円稼ごうが、副業は副業ですし、クリニックに不利益になるかどうかは別問題です。

原則的に副業を解禁しつつ、禁止する副業について明確なルール化を行い、周知・徹底するようにしましょう。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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