医院・クリニックや病院で働く医師や看護師にとって、休日は大きな関心事です。

特に最近はワークライフバランスの意識が高まっており、院長先生は労働基準法に定められた休日について知っておく必要があります。

一般的に知られているのが土日を休日とした完全週休2日ですが、この休日設定をしているクリニックは少ないでしょう。

実際には変形労働時間制などを活用して、クリニックの診療方針に合わせて様々な労働時間や休みの設定が可能になります。

今回は、勘違いしやすい「週休2日」と「完全週休2日」の違いや、特例措置対象事業場の適用、変形労働時間制について解説します。

労働基準法の休日の規定について

一般的に多いのが完全週休2日ですが、労働基準法上では完全週休2日を義務付けているわけではありません。

1.使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
2.前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

つまり、労働基準法第35条によれば、少なくとも週1回の休日を与えていればOKということになります。

一方で労働基準法第32条では、次のような規定があります。

1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

一般的によく知られている1日8時間、週40時間という所定労働時間のことです。

ですから週休1日や週休1.5日とする場合も、所定労働時間は守る必要があります。

現実的には診療時間を短くしたり、後述する特例措置対象事業場の適用を受けたり、変形労働時間制を適用する必要が出てくるでしょう。

「完全週休2日」と「週休2日」の違い

既に本記事の中でも「完全週休2日」と「週休2日」という2つの言葉が出てきていますが、正確には同じ意味ではなく大きな違いがあります。

世間一般で言われている「週休2日」というのは、正確には「完全週休2日」のことを指しています。

完全週休2日

完全週休2日とは、毎週2日間、必ず休日を取得できることを指します。

年間で、休日が1日にしかない週が1回でもあるのであれば、それは完全週休2日とは言えません。

一般的には土曜日と日曜日を休日とする企業が多いですが、クリニック経営においては現実的ではありません。

また、特に土日や祝日を休日としなければいけないという規定もありません。

例えば水曜日と日曜日、木曜日と金曜日というように休日を設定することは問題ありませんし、多くのクリニックではこちらが現実的でしょう。

さらに休日の曜日を固定する必要もないので、比較的人員を確保できているクリニックであれば、スタッフの休日を変えても問題ないでしょう。

最近は毎日診療しているクリニックも増えてきましたが、シフト制等を導入して医師や看護師によって休日が異なっている運用にしています。

ただ、これは比較的スタッフ数の多いクリニックだからできることで、小規模の個人のクリニック等では難しいのが現状でしょう。

完全週休2日制のメリットは安定的に休日を取得することができるので、スタッフの同意を得やすい点です。

求人の観点では、後述する週休2日よりは完全週休2日の方が有利と言えます。

週休2日

一方で、週休2日とは、スタッフの休日が2日ある週が、毎月最低1回はある形態のことを言います。

つまり、「最初の1週間に休日が2日あれば、残りの3週間の休日が1日ずつだったとしても、週休2日制になる」ということです。

世間一般で知られているのは完全週休2日であるため、「完全週休2日=週休2日」と思い込んでいる人はかなり多いです。

そのため、新しく採用するスタッフについては、その旨をしっかり伝えないと後々トラブルになることもあるので注意しましょう。

また先に話したように、この場合は労働基準法第32条の所定労働時間に気を付けないといけません。

1日8時間労働で週に6日働いたら、週の労働時間は48時間になってしまいますので、8時間分の時間外手当を支払わないといけなくなります。

こういったことを避けるには後述するように特例措置対象事業場の適用を受けたり、変形労働時間制を取り入れたりする必要があります。

なお、完全週休2日と同様、週休2日についても休日の指定はありません。

特例措置対象事業場の適用(10人未満のクリニック限定)

特例措置対象事業場とは、次のパートやアルバイトを含むスタッフの人数が10人未満の事務所や店舗が適用を受けることができ、医院・クリニックも含まれます。

特に特例措置対象事業場については適用の手続きは不要で、10人未満のクリニックであれば自動的に特例措置対象事業場として扱われます。

商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業映画の映写、演劇、その他興業の事業
保険衛生業病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、公園、遊園地、その他の接客娯楽業

特例措置対象事業場の適用で労働時間が週44時間まで可能に

特例措置対象事業場の適用を受けると、例外的に労働時間が1日8時間週44時間まで可能になります。

使用者は、法別表第一第八号、第十号(映画の製作の事業を除く。)、第十三号及び第十四号に掲げる事業のうち常時十人未満の労働者を使用するものについては、法第三十二条の規定にかかわらず、一週間について四十四時間、一日について八時間まで労働させることができる。

特例措置対象事業場でも1日の労働時間8時間は変わらず

ここで気をつけたいのは、所定労働時間が週40時間⇒週44時間に増えただけで、1日の所定労働時間は8時間と変わらないことです。

ですから、特例措置対象事業場の適用を受けたところで1日8時間の労働時間を超えると時間外労働になります。

1週間の所定労働時間のみ増やした特例措置対象事業場は週6日勤務を想定していることになります。

例えば月曜日から金曜日までは終日診療として8時間勤務、土曜日だけ午前中のみの診療で4時間勤務とする場合です。

また、1日の所定労働時間を7時間20分とすれば、週6日終日診療することも可能です。(特例の適用を受けない場合は、1日6時間40分が上限となります)

1日の診療時間を短くする方針であれば、検討の余地はあるでしょう。

しかし、この特例はクリニック側には有利ですが、スタッフにとっては、休みの減る不利な労働条件になります。

求人募集においては不利になることを覚悟する必要があるでしょう。

変形労働時間制の適用

医院・クリニックでは半日診療の日を設定したり、土日の診療時間を長くしたり短くしたりする場合が多いです。

その場合は特例措置対象事業場の適用だけでなく、変形労働時間制を適用することも検討しましょう。(もしくは特例措置対象事業場の適用との併用)

変形労働時間制とは、1週間あたりの労働時間が平均40時間以内となるように、労働日と労働時間を設定する制度です。(特例措置対象事業場の適用があれば平均44時間)

変形労働時間制には、次の3種類があります。

  1. 1週間単位の非提携定期変形労働時間制
  2. 1ヶ月単位の変形労働時間制
  3. 1年単位の変形労働時間制

しかし、1週間単位の非提携定期変形労働時間制は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店に限定され、医院・クリニックは対象外です。

また、1年単位の変形労働時間制は、季節によって繁忙期の違う百貨店やスキー場などでよく導入され、医院・クリニックではほとんど導入されません。

そこで、本記事では医院・クリニックで相性がいい1ヶ月単位の変形労働時間制について解説します。

1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内であれば、特定の日や週の法定労働時間を超えて労働させることが可能な制度です。

つまり、労働時間が特定の日は8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる制度です。

また、特定の週に法定労働時間を超えたとしても時間外手当は支払わなくて良いことになります。

1.使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。
2.使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

つまり、以下のような変形労働時間制を設定できることになります。

※厚生労働省資料より引用

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定または就業規則などで規定することが必要となります。

就業規則規定例
(始業時刻、終業時刻および休憩時間)

第○○条 毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は、1か月を平均して1週間40時間以内とする。

第○○条 各日の始業時刻、終業時刻および休憩時間は、次のとおりとする。

始業時刻終業時刻休憩時間
1日から24日まで午前9時午後5時正午から午後1時まで
25日から月末まで午前8時午後7時上記に同じ

(休日)
第○○条 休日は、毎週土曜日および日曜日とする。

変形労働時間制の活用事例

変形労働時間制は、例えば次のようなことが可能になります。

  1. 診療時間が長いクリニックでは、その代わり週休2.5日、もしくは3日にする。
  2. 基本土曜日は休診だが、第一、第三土曜のみ午前診療とするなど、週によって診療時間を変えることができる
  3. 繁忙期と閑散期で柔軟な対応ができる

病院の看護師の勤務体制でよく目にする「4週8休」は、変形労働時間制を用いた例です。

これは週休2日や完全週休2日と違い、4週間(28日間)に休みが8日割り振られていることを指します。

夜勤や半日休暇などが発生しがちな病院の場合、毎日同じ労働時間にすることが難しい場合が多くなります。

1日しか休めない週があったり、3日休める週などが出てきたり、勤務時間が長かったり短かったりするので、変形労働時間制を用いているのです。

【事例①】1日の診療時間を長くして完全週休3日の導入

変形労働時間制を利用することによって、クリニックの1日の診療時間を長くして、その代わり休日を増やすことも可能です。

例えば月~木曜は10時間働き、金~日は休日とする勤務体制です。

1日あたりの労働時間が長くなるものの、休日が1日増えることに魅力を感じている人は多いでしょう。

上記の例ですと1日2時間だけ長く働けば、週3日休めるので、プライベートの時間が充実したり、通勤時間のストレスを減らしたりすることができます。

また患者を優先させるため、診療時間を長くしたいクリニックの先生も多いでしょう。特に歯科医院の場合、1日の診療時間が長いことが多いです。

そのような場合、完全週休3日にすることで対応することができますし、夜遅くまで働いてもスタッフから不満は出にくいでしょう。

もちろん夜遅くまで診療を受け付けているので、仕事で帰りの遅いサラリーマンの方などの満足度は高まるでしょう。

患者満足度やスタッフ満足度両方上げることが可能なので、場合によってはクリニックの業績は上がりやすくなります。

【事例②】1日の診療時間を短くして週5.5~6日勤務

患者さんのニーズやスタッフのニーズ、診療方針のバランスを考えた場合、逆に1日の診療時間を短くして週5.5~6日勤務とする手もあります。

患者さんの層やスタッフの要望次第では、勤務日を週5.5日、6日にする代わりに、1日の診療時間が短い方にニーズが高い場合もあります。

早朝や夜間に診療のニーズのない医院・クリニックや、勤務時間があまり長くない方が好ましいスタッフさんが多い場合は、診療時間を短くするのもいいでしょう。

【まとめ】所定労働時間を守ったうえで柔軟な休日対応を

以上、クリニックの休日の取得パターンについては、多種多様な方法があったのが理解できたかと思います。

勤務日を多くする代わりに診療時間を減らすこともできれば、夜遅くまで診療する代わりに週休3日とする方法もあります。

スタッフさんによって「早く帰りたい」と言う人もいれば、「休みを増やして欲しい」と言う人もいます。

また患者さんのニーズも同様に変わってきます。

オフィス街など夜遅くまで診療していた方がありがたい場合もあれば、住宅街のように休日診療のニーズがあるところもあります。

完全週休2日制を基準としながらも、各々のクリニックに合った労働時間や休みを柔軟に設定するようにすると良いでしょう。

詳しいことは、社会保険労務士などにご相談ください。

スタッフの休日に関する労務については、以下の記事も併せてご覧ください。

【関連記事】【医師と看護師の休日出勤】振替休日と代休の違い|オンコール時間の扱いや手当についても解説

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
亀井 隆弘

社労士法人テラス代表 社会保険労務士

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

                       

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