【医師や看護師の守秘義務】もしクリニックから個人情報が漏洩したら

公開日:2019年12月18日
更新日:2024年6月5日
個人情報保護法

カルテなどの患者の個人情報は、医師や看護師などの医療従事者には厳格な守秘義務が課されています。

万が一、患者の同意がなく、クリニックから個人情報が漏洩した場合は、個人情報保護法違反などで法的に罰せられることになります。
当然患者、その家族との信頼関係も崩壊するでしょう。

患者の個人情報については慎重に取り扱わないといけないのですが、個人情報漏洩のリスクは至るところに潜んでいます。

医師や看護師が守るべき守秘義務とは? また患者の個人情報が漏洩してしまった事例や対応策についてお伝えします。

多くの医院・クリニックでは秘密保持契約(守秘義務契約)を結んでいると思いますが、実際に理解している医師や看護師は多くありません。

LINEやTwitterなどのSNSの普及などで、個人情報が漏洩しやすくなっていますから、最後までご覧になって理解を深めてください。

医療従事者の守秘義務に係る法令の規定

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まず守秘義務とは、一定の職業や職務に従事する者・従事した者に対して特別に課せられた、職務上知った秘密を守る法律上の義務です。

つまり、基本的には医療従事者の守秘義務に関しては次のように法令で明確に規定されています。

つまり、医療従事者が個人情報を漏洩してしまうと、何らかの法的な根拠によって刑事罰の対象ということになります。

資格名根拠法
医師刑法第134条第1項
歯科医師刑法第134条第1項
薬剤師刑法第134条第1項
保健師保健師助産師看護師法第42条の2
助産師刑法第134条第1項
看護師保健師助産師看護師法第42条の2
准看護師保健師助産師看護師法第42条の2
診療放射線技師診療放射線技師法第29条
臨床検査技師臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律第19条
衛生検査技師臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律第19条
理学療法士理学療法士及び作業療法士法第16条
作業療法士理学療法士及び作業療法士法第16条
視能訓練士視能訓練士法第19条
臨床工学技士臨床工学技士法第40条
義肢装具士義肢装具士法第40条
救急救命士救急救命士法第47条
言語聴覚士言語聴覚士法第44条
歯科衛生士歯科衛生士法第13条の5
歯科技工士歯科技工士法第20条の2
あん摩マッサージ指圧師あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第7条の2
はり師あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第7条の2
きゆう師あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第7条の2
柔道整復師柔道整復師法第17条の2
精神保健福祉士精神保健福祉士法第40条

第1回「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」議事次第 資料16「医療関係資格に係る守秘義務の概要」抜粋

特に医院・クリニックに関わるところでは、医師や歯科医師、薬剤師、保健師等の根拠法となる「刑法134条」、看護師や保健師等の「保健師助産師看護師法」でしょう。

医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法第134条

第四十二条の二 保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得
た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなった後においても、同様とする。

第四十四条の三 第四十二条の二の規定に違反して、業務上知り得た人の秘密を漏らした
者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

引用元:保健師助産師看護師法

医療従事者の守秘義務Q&A

Q&A

患者の個人情報等の守秘義務について、よくある質問についてお答えします。

そもそも守秘義務のある患者の情報とは?

医師や看護師が守るべき個人情報は、主に次のようなものが含まれます。基本的には診療記録に記載されている内容すべてと考えて良いでしょう。

・患者の氏名、生年月日、居住地、家族構成などの基礎的情報
・患者の健康状態、病歴、症状の経過、診断名、予後及び治療方針

また診療記録に記載されていないものでも、患者の個人を特定するような情報の漏洩は許されません。

クリニックを退職した後はどうなるのか?

結論から言うと、クリニック退職後も守秘義務は基本的に続きます。

例えば保健師助産師看護師法第42条の2で「保健師、看護師又は准看護師でなくなった後においても、同様とする」と明確な記載があります。

基本的に就業中に知り得た情報については、退職して何年経とうが守秘義務が発生すると思って良いでしょう。

退職した医師や看護師に医院・クリニックの情報を話すのは?

一方で、退職した医師や看護師が以前勤めていた医院・クリニックの情報を現職のスタッフが話すのもNGです。

現職のスタッフと退職したスタッフが会って、「最近うちのクリニックで◯◯で……」という話をすることもあると思います。

このような会話自体がだめというわけではないですが、現在の患者の個人情報を退職した医師や看護師に話さないように注意が必要です。

患者が死亡したらどうなるのか?

守秘義務は、死亡した患者にも適用されます。患者が亡くなったからといって、生前に得た情報を安易に取り扱うことは許されません。

クリニックを退職しても、患者が死亡しても守秘義務が発生するということは、半永久的に個人情報の漏洩は許されないということです。

ただし、患者さん本人が生前個人情報の開示を承諾したような場合は、守秘義務が免除されると考えて良いでしょう。

また亡くなった患者の家族が、健康上のリスクに関わる情報の開示を求めた場合は、例外的に開示することがあります。

事例検討に利用する場合はどうなるのか?

事例検討だからといって守秘義務の例外にはなりません。

事例検討で利用する際は、患者の情報は特定できないように配慮しないといけません。

また、事例検討に利用する際は、患者の同意が必要となります。

刑法第134条記載の「正当な理由」とは?

日本医師会の公式サイト「医の倫理の基礎知識2018年版 【医師と患者】B-8.医師の守秘義務」では、次のような記載があります。以下抜粋します。

この規定の適用が実際上問題になるのは、主に「正当な理由」の有無に関してである。より具体的に述べると、正当な理由があり、したがって違法性はないとされるのは、

①法令に基づく場合、例えば、母体保護法に基づき人工妊娠中絶につき都道府県知事に届け出る場合や結核予防法に基づき保健所長に届け出る場合等、
②第三者の利益を保護するために秘密を開示する場合(ただし、この場合には、開示の必要性と開示によって損なわれる利益の性質および程度等を相関的に考慮した利益考量に基づいて、その当否を決定すべきものとされる)、
③本人の承諾がある場合、などである(大コンメンタール刑法第2版第7巻346頁以下)。

実際の裁判例として、最高裁平成17年7月19日判決は、「医師が、必要な治療又は検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物の成分を検出した場合に、これを捜査機関に通報することは、正当行為として許容されるものであって、医師の守秘義務に違反しない」と判示している。

日本医師会の「医師の職業倫理指針」では守秘義務を免れるのは、患者本人が同意・承諾して守秘義務を免除した場合、あるいは患者の利益を守るよりもさらに高次の社会的・公共的な利益がある場合としている。

引用元:日本医師会の公式サイト「医の倫理の基礎知識2018年版 【医師と患者】B-8.医師の守秘義務」

ここで、「患者本人が同意・承諾して守秘義務を免除」というのはわかりやすいと思います。

問題は「患者の利益を守るよりもさらに高次の社会的・公共的な利益がある場合」です。

例えば警察や患者の家族から個人情報の開示を求められた場合など、「正当な理由」に該当するかどうかは判断が難しいでしょう。

ご自身で判断するのは難しいでしょうから、専門家の指示を仰ぐのが現実的と考えられます。

なお、以下の記事には、患者本人、もしくは第三者からカルテの開示を求められた場合など、個人情報保護法について詳しく書かれています。

守秘義務と個人情報保護法は密接に関わるものなので、併せてご覧ください。

カルテの開示請求があったら拒否できるのか?個人情報保護法を詳細解説

患者さんや家族などからカルテの開示を求められる場合があります。 患者さんから開示請求があった場合、医院・クリニック側は、「何か不満があるのか?」「訴訟を起こされ…

患者の個人情報漏洩の事例

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以上、医師や看護師などの医療従事者は、半永久的に患者の個人情報等を漏洩させてはいけないことがわかったと思います。

ここでは、実際の個人情報漏洩事例を挙げていきたいと思います。

コロナ患者の電子カルテが流出

2020年4月、青森県五所川原市で保健所館内の新型コロナウィルス感染者の電子カルテ画像が、LINEを通じて外部に流出しました。

情報を流出させた看護師は、「注意喚起のために同僚に送った」とのことで悪質性はないらしいですが、守秘義務に関する認識が甘かったと言えるでしょう。

もともと、LINEやFacebook、TwitterといったSNSで情報が漏洩したケースは以前からありました。

医院・クリニックにおいても、SNSの使い方については注意喚起が必要でしょう。

もっとも多いのはUSBメモリの紛失

医療機関の個人情報漏洩で一番多いのはUSBメモリの紛失です。

・大阪府八尾市の市立病院で、1057件の患者情報を含むUSBメモリを紛失

・福島県の病院で、237件の患者情報を含むUSBメモリを紛失

・兵庫県の病院で、11名の介護支援情報や家族の使命と電話番号が含まれたUSBメモリが紛失

USBメモリなど、個人情報データが含まれたものについては、家に持ち帰ったりしないなど、明確なルールを設ける必要があるでしょう。

その他の事例~ちょっとした心がけで防げるものばかり~

その他、実際に病院やクリニックで患者の情報漏洩事故が起きた事例です。

・待合室で患者と世間話をした後、持っていたカルテを待合室に置き忘れてしまった

・院内でPC作業中不正プログラムの入ったソフトウェアがダウンロードされ、患者の個人情報が漏洩してしまった

・看護師が、ついうっかり患者の個人情報を家族に話し、その家族が患者の両親に話したことで情報漏洩として訴えられた

パソコンのウィルス対策、個人情報の入った持ち物の管理徹底、患者の個人情報保護の意識徹底……ちょっとした心がけで防げるものばかりです。

情報セキュリティのルールは周知徹底する必要があるでしょう。

3省2ガイドライン

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上記の些細なミスによる患者の情報漏洩を防ぐために、見直しておきたいのが「3省2ガイドライン」です。

これは、医療情報を電子化して外部媒体に保存する際に守るべき指針で、以下のガイドラインの総称です。

3省2ガイドライン
  • ①厚生労働省『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』
  • ②経済産業省・総務省『医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン』

①は、医療情報システムを運用する医療機関、②は医療情報システムを提供する事業者が対象です。

接続元IPアドレスの制限、不正侵入を防止するシステム、クラウドサーバーへのログの保管体制の整備など、最低限必要な運営管理が示されています。

患者の個人情報が漏洩してしまったときの対応は?

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もちろん、上記のミスを起こさないようにして、患者の個人情報の保護を徹底する必要があるのは言うまでもありません。

しかし、それでも万が一個人情報が漏洩してしまうことも考えられます。その場合は、患者やその家族に対して、冷静かつ迅速な対応が欠かせません。

では、具体的にどのような対応をしていくかということですが、概ね次のようなものが考えられます。

患者の個人情報が漏洩してしまったときの対応
  • ①商品券など見舞金や見舞品を送付
  • ②患者や家族の自宅に訪問して謝罪
  • ③診療に支障が出ないように、問い合わせとなる窓口を設置
  • ④情報漏洩の原因、漏洩拡大範囲を調査して患者に説明
  • ⑤危機管理専門のコンサルティングを受けたり、専門家の窓口を設置
  • ⑥被害拡大防止策を検討して患者に説明
  • ⑦警察や監督官庁への届出
  • ⑧クレジットカード会社への協力要請
  • ⑨再発防止対策の検討

診療に負担がならないように窓口を設置するなどして、極力上記すべての対応を行い、患者とその家族に誠意を示す必要があります。

再発防止対策については、情報漏洩した原因ごとに異なる対策を行う必要があるでしょう。

例えばウィルス感染やフィッシング詐欺であれば、情報セキュリティの強化が必須でしょう。

何者かによって建物内へ侵入された場合には、侵入システムの見直しが必要になります。

【まとめ】クリニック全体で守秘義務の意識の徹底を

以上、医師や看護師などの医療従事者が守るべき守秘義務や、個人情報漏洩の事例や対応策についてお話しました。

今回紹介した患者の個人情報漏洩の事例は、すべて些細なミスであり、安全意識を徹底するだけで防げたような事例です。

また、倫理観の欠けたスタッフが周りにベラベラと患者情報を話したり、SNSで投稿する危険性もあります。

日頃から院内研修で守秘義務について周知徹底し、危うい行動を目撃したら注意する必要があるでしょう。

それだけで勝手に仕事を持ち帰ったり、SNSに投稿したり、脆弱なセキュリティのままPCを使用することは防げるのではないでしょうか?

もし万が一情報が漏洩するようなことがあれば、患者とその家族に対して然るべき措置を迅速に行うようにしましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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