クリニックで働くパートのスタッフに有給休暇を与えないとだめ?

公開日:2019年12月6日
更新日:2024年4月9日

「パートで雇用しているスタッフが有給休暇を使いたいと言っていますが、パートでも有給休暇は与えないといけないのですか?」

常勤だけでなくパートやアルバイトのスタッフを雇用しているクリニックの院長先生も多いでしょう。

ですからパートの労務管理についての問い合わせも多く、比較的多いのが有給休暇についてです。

そこで今回はクリニックで働くパートタイマーの有給休暇について詳しくお伝えしたいと思います。

有休休暇については労働基準法改正により2019年4月以降は義務化されており、知らないでは済まないのでよく確認するようにしてください。

パートでも有給休暇は与える必要あり

結論からお伝えすると、パートやアルバイトのように常勤よりも短時間、少ない日数で勤務している場合でも有給休暇を与えないといけません。

労働基準法39条1項では、6ヶ月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した職員に対して有給休暇の権利を与えないといけないことになっています。

この労働基準法で定められていることは常勤だけでなく、パートタイマーで働くスタッフに対しても同様です。

「は!? あなたパートでしょ? 有休なんて認めない!!」というのは労働基準法に抵触します。

【働き方改革】年次有給休暇の義務化はパートタイマーも対象

2019年以降、働き方改革関連法の1つとして有給休暇義務化が定められていますが、常勤だけでなくパートやアルバイトも対象です。

具体的には労働基準法の改正によって、年10日以上有休の権利がある職員に対して最低5日以上の有休取得を義務付けるものです。

これまでは何も申請がなければ、年間でまったく有休を取らないスタッフもいたかもしれませんが、それが許されなくなりました。

しかも違反して罰せられるのはスタッフではなく、クリニック側になりますので注意しましょう。(対象スタッフ1人につき30万円以下の罰則規定)

法改正を知らなかったでは済まされません。もしパートのスタッフが有休取得できる環境が整備されていない場合は対策を急ぐ必要があります。

【関連記事】働き方改革の目玉「有給休暇義務化」の内容とクリニックで行なうべき2つの対策

年次有給休暇の比例付与

労働基準法39条では、所定の労働時間、労働日数、継続勤務年数に応じて有給休暇の権利を与えることになっています。

【表1】通常の労働者の付与日数

継続勤務年数
6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
10日11日12日14日16日18日20日

表1は通常の労働者の有給休暇の付与日数です。通常の労働者とは、労働基準法第39条の②に定められています。

主に週4日以上、年216日を超える労働者、または週30時間以上の労働者が該当しますので、多くは常勤のスタッフが該当することになります。

【表2】週30時間未満勤務のスタッフに与える有給休暇

週所定労働日数年間の所定労働日数継続勤務年数
6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月 3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
4日169~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

一方で、表2は週所定労働日数が4日以下で、週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数を示しています。

パートやアルバイトの多くは、表2に従って有給休暇の権利を与えることが必要になります。

これを「年次有給休暇の比例付与」と言って、パートやアルバイトの場合は、勤務日数に応じて有休を与えることになります。

なお、表2の赤字部分に該当する労働者は、「年10日以上の有休の権利」に相当するため、5日以上の有給休暇の義務化に相当します。

「パート⇒常勤」「常勤⇒パート」に変わる際の有給休暇の付与

「週3日勤務のパートの看護師がフルタイムの常勤になる」

「常勤の看護師が育児などを理由に週3日のパートになる」

女性スタッフの多い医院・クリニックの働き方としては、パートから常勤に変わる、もしくはその逆に変わるのは珍しいことではありません。

その場合の有給休暇の付与については、どのように考えれば良いのでしょうか?

有給休暇の権利は、入社から6ヶ月継続勤務した時点で発生しますが、この日を「基準日」と言います。

4月1日入社であれば、10月1日が基準日となるわけです。

雇用形態が変わった場合の有給休暇の付与数については、変更した直後の基準日の所定労働日数によって決まります。

例えば入社時に労働時間週30時間未満のパートであった人が、6ヶ月経過日(基準日)に常勤に変わっていたとします。その場合は10日の年次有給休暇を付与しないといけないということです。(昭63.3.14基発150号)

なお、有給休暇の発生要件である「継続勤務年数」について、雇用形態が変わった場合はどのように扱えば良いのでしょうか?

この場合、例え新しく雇用契約書を交わしていたとしても、最初に雇い入れた日からの勤続年数としないといけません。

例えば最初はパートとして入社したスタッフが5年間勤務していて、2年前に常勤に変わっていた場合でも継続勤務年数は5年になります。

つまり、5年間パートとして勤務していた人が常勤に変わり、1年半経過した場合は、20日の年次有給休暇を付与しないといけないことになります。

所定労働日数や労働時間がバラバラな場合の有給休暇の付与

パートのスタッフの場合、1週間の所定労働日数や労働時間が定まっていないケースもあり得ます。例えばシフト制であればあり得る話です。

このような場合は、過去6ヶ月の労働日数の実績を2倍にしたものを、1年間の所定労働日数とする場合があります。

例えば過去半年間の労働実績が50日であった場合は、1年間では100日とみなせます。この人が働き始めて半年のスタッフであれば、付与する有給休暇は3日ということになります。

労働時間や日数がバラバラなスタッフがいた場合は参考にしてください。

時季変更権

年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることとされているので、基本的には休暇日の具体的な月日を指定した場合は、年次有給休暇を与えないといけません。

ただ、例外的に年次有給休暇を与えることで事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができる時季変更権があります(労働基準法第39条第5項)。

例えば、同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、全員に休暇を与えづらい場合です。

ただ、「忙しい時期に休むな」など、単に「業務多忙だから」という理由では時季変更権は認められないので注意してください。

基本的には、労働者の持つ有給取得の権利の方が強いことになるので、時季変更権の行使は慎重にしないとトラブルの元となります。

人材不足などでどうしても厳しく、時季変更権を行使せざるを得ない場合は最寄りの社労士に相談して慎重に検討してください。

パートタイマーの有給休暇の賃金計算

もちろん、アルバイトやパートに支払う有給休暇の賃金は働き方に応じて少なくなります。

例えば1日4時間勤務の人の1日当たりの有給休暇として払う金額は4時間相当です。

正確には、次のいずれかの方法で計算をします。

①平均賃金(過去3ヵ月間における1日当たりの賃金)
②通常の賃金(所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金)
③標準報酬日額(健康保険法の考え方に基づいた1日当たりの賃金)

①と②は就業規則等で、③の場合は労使協定を締結したうえで就業規則によって定める必要があります。

パートタイマーの場合は、必ずしも毎日同じ時間に出退勤するわけでなく、日によって変則的な勤務形態になっている人も多いでしょう。

このような場合でも有休期間中の賃金は、基本的に労働条件通知書で示している始業時刻・終業時刻を基準として計算します。

ただし時給制のパートタイマーや曜日によって所定労働時間が変わる場合は、②通常の賃金に基づくと有休取得日によって不公平が生じます。

その場合は①平均賃金に基づく計算方法が適していると言えるでしょう。

①平均賃金に関しては労働基準法12条に基づき、以下の計算式で計算した金額のうち、いずれか高い金額を適用します。

・直近3ヶ月間の賃金総額÷直近3ヶ月間の総暦日数
・直近3ヶ月間の賃金総額÷直近3ヶ月間の出勤日数×0.6

詳しいことは、最寄りの社労士に相談して、適した計算方法で間違いのないように計算してください。

有休取った日の通勤費はどうする?

通勤費を実際に出勤した日に応じて支払うこととしている場合、有休取得日に通勤費を支払う必要はありません。

ただし、「通勤費は実際に出勤した日についてのみ支給する」など支給基準があらかじめ明確にされていることが必須です。

労働基準法136条では、「有給休暇を取得したことを理由として労働者に不利益な取扱いはしてはいけない」とされています。

しかし有休取得時に通勤費がかかるはずがないので、通勤費を支払わなくても不利益な扱いにはなりません。

有休の推進は生産性の向上と併せて検討を

先にお伝えしたとおり、有休10日以上のスタッフの有給休暇取得が義務付けられ、違反した場合は罰則の対象になります。

パートタイマーが有休を申請するのはごく自然なことで、驚くことではありません。場合によってはパートタイマーでも有給休暇の取得が義務付けられる場合があります。

これまで、多くの医院・クリニックは有給休暇を取得できる環境が整備されていませんでしたが、今は法律的に許されません。

しかし法律で強制されているからといって、有休を取るために、その前日や次の日に遅くまで残業しては本末転倒です。

業務処理方法の見直し、業務のマニュアル化、ITシステムの導入、人員の再配置……。

有休取得の推進は労働コストの増加に直結しますから、生産性の向上策と併せて検討していく必要があるでしょう。

また、働き方改革推進支援助成金のように、年次有給休暇や特別休暇の促進に向けた環境整備をした事業主に向けた助成金もあるので活用してみてください。

有休ですべてが解決するわけではありませんが、有休を取りやすい仕組みにしていけば、働きやすい職場づくりが実現するでしょう。

有休取得の実績を作っていけば、常勤でもパートでもスタッフは長く働いてくれるようになり、優秀なスタッフが残りやすくなります。

クリニックの評判は良くなりますから、スタッフを新たに募集する際も有利に働くでしょう

【まとめ】パートも常勤も有休取得は必須

以上、パートタイマーで働くクリニックのスタッフの有給休暇についてお伝えしました。

パートタイマーであっても、有給休暇を申請されれば与えなければいけません。

しかも、2019年以降は有給休暇を取ることが義務化されたため、パートだろうが常勤だろうが有休を取らないといけなくなりました。

もはやパートから有休を申請されて院長が驚くような時代は終わりました。

パートの有給休暇の付与については、1週間の労働時間や日数、継続勤務年数に応じて変わりますので確認しましょう。

また、パート⇒常勤に変わったようなときも、有給休暇の付与について明確な基準があるので確認するようにしましょう。

クリニックの雰囲気を良好にして、優秀なスタッフに長く働いてもらうためには有休取得の推進は欠かせません。

業務の効率化を積極的に考えながら、有休を取得しやすいクリニックに変えていきましょう。

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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