開業医やアルバイト医師が確定申告で払いすぎた税金を還付してもらうには?

公開日:2019年8月22日
更新日:2024年3月18日
確定申告

開業医の先生やアルバイト医師など収入源が複数ある勤務医の先生は、確定申告をしなければいけません(勤務医の先生は主な給与以外の所得が20万円を超えた場合)。

万が一確定申告をした後で、納めた税金が多すぎた、もしくは還付される税金が少なかったことに気づいたら、どうすればいいでしょうか?

その場合「更正の請求」という手続きにより、減額更正することにより払いすぎた税金を還付してもらえるかもしれません。

そこで今回は、払いすぎた税金を還付してもらうための「更正の請求」の手続きについてお伝えします。

更正の請求とは?

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国税庁のホームページには、更正の請求について、次のように記載されています。

更正の請求書が提出されると、税務署ではその内容の検討をして、納め過ぎの税金がある等(繰越損失の金額が増える場合を含む。)と認めた場合には、減額更正(更正の請求をした人にその内容が通知されます。)をして税金を還付することになります。よって、所得金額の増減や所得控除の追加があっても、最終的な税額に異動がない場合は、更正の請求はできません。

引用元:国税庁のホームページより抜粋

「更正の請求」の「更正」には「間違いを正す」という意味があります。

つまり「更正の請求」という言葉の意味は「間違いを正すことを請求します」ということになります。

税金の大原則は「正しく納税する」ことです。

税金を間違って多く支払っていた場合は正しい納税になりませんので、手続きをすることにより税金が戻ってくる可能性があります。

どんなときに更正の請求ができるか?

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更正の請求は、下記のようなケースに該当した場合に採用できる手続きです。

更正の請求ができるケース
  • 1.実際の税額よりも大きな税額になっていた方
  • 2.純損失等の金額が実際よりも小さくなっていた方
  • 3.還付金が実際よりも少なくなっていた方

よくある間違いとして「売上を多く申告してしまった」「経費となるべきものを入れていなかった」「消費税を多く払ってしまった」などがあります。

その他、ふるさと納税による寄付金控除の申告を忘れた、医療費が10万円を超えたのに医療費控除をしなかったなど、控除を忘れるケースも多くなっています。

更正の請求ができる例

例えば、大学病院を辞めて2021年1月から医院開業をしてた開業医の先生がその翌年に確定申告をしたとします。

2021年からの医院開業なので、医療収益も2021年1月から計上されます。

また2021年1月から12月までの医業収益と同じ期間の経費を計算して確定申告をしました。

先生は2021年という期間に限って考えていたので、2020年に使った経費のことは考えていませんでした。

しかし後日「開業費という項目」が認められ、2020年度の経費であっても、医院開業のために使ったものは計上できると知りました。

このような場合に更正の請求ができます。

過去の確定申告書が間違っていたので、開業費を経費に入れて再提出します。

そうすることで納めた税金が還付されて戻ってきます。

更正の請求ができる条件

ただし、更正の請求は上記3つのケースに該当していて、かつその修正の内容が下記の要件を満たしている場合に限り行うことができる手続きです。

更正の請求ができる場合
  • 1.税務署に提出済みの確定申告書に記載された金額の計算が「税法の規定に従っていなかった」場合
  • 2.税務署に提出済みの確定申告書に記載された金額の計算が「単純に間違えていた」場合

更正の請求を行うときの5つの注意点

税

税金を払いすぎたために更正の請求をする際は、主に次の5つについて注意し、積極的に税金を還付してもらいましょう。

承認されるとは限らない

更正の請求は、手続きをすれば必ず認められるというわけではありません。

例えば、ある開業医の先生は、お正月に看護師やスタッフの家族に豪華なおせち料理を贈っていました。

これを福利厚生費としたかったのですが、税務署には交際費だと指摘され経費として認められませんでした。

また、税額計算が法律の規定どおりでなかったり、訂正内容を証明する証拠がなかったりする場合は、請求が却下されてしまいます。

申告書の内容などを税務署で確認し、適法と判断された場合のみ請求が通ります。

また2012年2月2日以降から、更正の請求を行う際には「事実を証明する書類」の添付が必要となりました。

期限は確定申告後5年まで

更正の請求の申請はその年度の確定申告期限の最終日より5年までと定められています。

例えば2021年の確定申告の場合だと2027年3月15日が更正の請求の期限日になります。

5年というと期限が長いように思うかもしれませんが、先延ばしにするとつい税金を払いすぎたことを忘れてしまうこともあります。

期限が長いからと言って先延ばしにせずに早めに対応しましょう。

※厳密には5年を過ぎても後発的な事情で更正の請求ができることがありますが、非常にレアケースです。

請求前に確定した税額の徴収は原則猶予されない

更正の請求を行っても、その請求前に確定した税額の納付義務は課せられたままの状態で徴収は原則として猶予されません。

「更正の請求が認められるはず」と思い込んで確定した税額を納めないと、滞納処分を受ける可能性があります。

税務調査が入る可能性

確定申告で間違えた申請をした場合、税務調査が入りやすくなる可能性があると言われています。

納められる税額が少なくなる更正の請求は、税務署にとってはデメリットでしかありません。

更正の請求をする際はできる限り証拠資料を集めておくことをおすすめします。

虚偽申告は処罰対象

当然更正の請求による虚偽申告は処罰の対象となります。

具体的には更正の請求で虚偽の申告をした場合、50万円以下の罰金または1年以下の懲役の処罰が下されます。

更正の請求の手続きについて

確定申告

それでは、更正の請求の手続きについて説明します。

更正の請求そのものについては、さほど煩雑な手続きではありませんが、先に書いたように必ず認められるものではありません。

ここでは、更正の請求書の書き方や、更正の請求が認められなかった場合の対処法についてお伝えします。

更正の請求の際に用意する書類

更正の請求に必要な書類は、次の3つです。

更正の請求に必要な3つの書類
  • 1.令和◯◯年分所得税の更正の請求書
  • 2.訂正理由を証明する書類
  • 3.本人証明書類

まずはこの3つの書類を用意し、手続きを進めていきましょう。

更正の請求書の書き方

「令和〇〇年分所得税の更正の請求書」という書類を税務署から受け取ります。税務署・国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。

書類には住所や氏名等の基本的事項の他、下記5つの記載が必要になります。

・請求の目的となった申告又は処分の種類
例)令和3年度所得税の確定申告書

・申告書を提出した日、処分の通知を受けた日、請求の目的となった事実が生じた日
上記例の申告日

・更正の請求をする理由、請求するに至った事情の詳細、添付書類等
例)○○経費の計上漏れがありました

・請求書の計算書
基本的には通常の確定申告書への記入と同様

・還付される税金の受取場所
振込先銀行・口座番号

これらの書類を税務署に提出すると、早ければ数週間、遅くても1~2ヶ月程度で税務署の方から連絡がきます。

内容に問題がなければ納税者の自宅に直接「更正通知書」が届きます。

なお、内容に問題があり、かつ税理士が関与していれば税理士宛に電話がきます。

更正の請求が認められなかった際の対処法

納税者には税務署からの納得いかない処分に対し、不服を申し立てる権利が認められています。

正当な手続きをしているのにもかかわらず申請を拒否されるようなら、不服申し立てをして処分の見直しを求めましょう。

たとえば、経費として認めてもらえるはずのものなのに、経費計上できなかったような場合です。

しかし、経費に計上できるかどうかは、事業に関連するかどうかが争点となります。

一例として、知人との食事代に関して、食事をした相手が先輩開業医と情報交換を行った場合であれば、交際費として経費に計上できます。

しかし食事の相手が医療業界と無関係の大学時代の友人などであれば、経費にはできません。

詳細は以下の記事をご覧ください。

【関連記事】“節税”と”脱税”は紙一重|これは経費にできるか? できないか?

【まとめ】税金を払いすぎたら5年以内に更正の請求を

今回は、確定申告後に過大な所得税を払いすぎたとき、「更正の請求」によって減額更正ができます。

  1. どのような時に更正の請求ができるのか
  2. 更正の請求を行う時の注意点
  3. 更正の請求の手続きと認められなかった場合の対処法

更正の請求は納税者に与えられた大切な権利の1つです。

税金を払い過ぎたときには、すぐに更正の請求を行いましょう。

なお、今回は所得税の更正の請求の話をしましたが、相続税や贈与税も払いすぎたら更正の請求ができます。

こちらは相続・承継の話なので、別途お伝えしたいと思います。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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