泌尿器科の開業医・勤務医の年収は? 開業資金や注意点も解説
泌尿器科で開業しようと考えている先生に向けて、泌尿器科の開業医・勤務医の年収、開業資金の目安、注意点について解説します。
泌尿器科というと男性の患者さんが中心のイメージで、女性特有の尿漏れや骨盤臓器脱などを扱う女性泌尿器科の需要も高まっています。そのため、今は男性医師が多い泌尿器科も今後は女性医師の進出が増えてくると考えられます。
男性、女性に限らず、日本の高齢化によって泌尿器科の需要は今後高まるかと考えられます。
ただ、単体で泌尿器科を標榜する医院・クリニックは他科に比べれば少なく、比較的競合の少ない診療科目と言うことができます。
この点を踏まえて、開業資金の目安や注意点についてお伝えします。
本記事で出している年収額や開業資金などの金額は、あくまで目安として参考値として捉えてください。
泌尿器科の勤務医の平均年収は1,078.7万円
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によると、脳神経外科の勤務医の平均年収は1,078.7.万円です。
これは、同調査の勤務医の平均年収ではもっとも低い平均年収となっています。
ただ、この金額は、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科と合わせた4つの診療科目の平均値となっています。
そのため、泌尿器科単体の平均年収として考えると、あくまでも目安と捉えてください。
なお、同調査でもっとも勤務医の平均年収が大きい診療科目は脳神経外科です。
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科と内科の年収層の分布を比較すると以下のようになります。
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 内科 | |
---|---|---|
人数、統計母数 | 313 | 715 |
年収300万円未満 | 2.6% | 3.5% |
年収300~500万円 | 8.3% | 7.1% |
年収500~700万円 | 12.5% | 7.4% |
年収700~1,000万円 | 17.3% | 13.5% |
年収1,000~1,500万円 | 33.2% | 29.2% |
年収1,500~2,000万円 | 22.0% | 28.4% |
年収2,000万円以上 | 4.2% | 10.9% |
このように、年収1,500万円を超える層は内科が合計で39.3%に対して泌尿器科は26.2%となります。
また、もっとも勤務医の年収の高い脳神経外科は、年収1,500万円以上の層は60.2%となっており、それに比べると年収面では少し見劣りするかもしれません。
ただ、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、皮膚科は時短勤務する女性医師の割合が高い傾向があるため、一概に低年収と言えない点は注意が必要です。
つまり、働き方次第では勤務医でも十分高年収が期待できると言えるでしょう。
また、勤務医の場合は労働時間と給与は比例する傾向にあります。
実際に泌尿器科は、勤務医で平均年収の高い脳神経外科、外科、産婦人科に比べれば救急疾患が少なく、予定手術が大半を占めます。
比較的ワークライフバランスを確保しやすい科目でもあります。
泌尿器科の開業医の年収は?
一方で、泌尿器科の開業医の年収については、医療経済実態調査でも損益差額が示されておらず、明確な根拠で目安を示すことはできません。
ただ、肌感覚としては一般内科と同等と考えることができ、平均すると2,000~2,500万円くらいではないかと思われます。
これは内科なども同時に標榜している医院・クリニックが多いことも理由の1つですが、実際に他科と大きな違いは感じません。
また、これも開業医特有の特徴ですが、年収にはかなり開きがあり、なかには年収5,000万円以上を得る場合もあり得ます。
後述するように、泌尿器科はまだ比較的数が少ない割には、今後の需要が見込める診療科目の1つです。
地元のかかりつけ医として長く認知されやすい診療科目と言えるでしょう。
泌尿器科の競合の少なさと今後の需要の高さ
泌尿器科は、高齢化が進む日本にとっては、今後も需要が増えていく診療科目と考えられます。
しかし、その一方で泌尿器科医が比較的少ないという実態もあります。
厚生労働省の「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」P8の「表4 主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数及び平均年齢」によると、泌尿器科の医師数は7,422名となっています(病院と診療所の医師数の合計)。
以下、他の代表的な診療科目と比べても比較的医師数が少ないことがわかります。
診療科目 | 人数 | 構成割合 |
---|---|---|
泌尿器科 | 7,422人 | 2.4% |
内科 | 60,403人 | 19.4% |
消化器内科(胃腸内科) | 14,898人 | 4.8% |
外科 | 13,751人 | 4.4% |
小児科 | 17,321人 | 5.6% |
精神科 | 15,925人 | 5.1% |
整形外科 | 21,883人 | 7.0% |
眼科 | 10,778人 | 3.5% |
皮膚科 | 9,362人 | 3.0% |
耳鼻咽喉科 | 9,288人 | 3.0% |
もちろん、他にも泌尿器科よりも医師数の少ない診療科目はありますが、相対的に考えれば泌尿器科の医師数は少ないところがあります。
需要と供給のバランスの面で考えれば、比較的泌尿器科は開業しやすい科目と言えるかもしれません。
特に女性泌尿器科に関してはまだ数は多くないように思われますので、地域によっては、一定の需要が見込める可能性があります。
泌尿器科の開業資金の目安
泌尿器科の開業資金についても、一般内科など他の診療科目と比較して大きな特徴はなく、だいたい4,000~5,000万円程度に初期の運転資金を見込んでおくといいでしょう。
もちろん、最新の医療機器を充実させたり、診療スペースを広めにとったりすれば開業資金はさらに多くなります。
この点も、一般内科などと傾向はさほど大きく変わらないでしょう。
泌尿器科開業の主な注意点
泌尿器科はこれからの需要が見込まれ、競合が少ないという点を考えれば、泌尿器科の開業検討中の先生にはチャンスと言えそうです。
しかし、一般内科や外科に比べれば専門性が高く、その分需要が限定化されやすいなど必ずしも開業に有利とは限りません。
専門性が高ければ競合が少なくなりますが、その分見込める患者層が限定される点は注意が必要です。
そのため、周りに競合がいないという理由だけで開業すると、思った以上に集患に苦労することが予想されます。
ここで、開業の注意点についてお伝えします。
尿のイメージによる抵抗にどう対処するか
泌尿器科は、その字のごとく「尿」という名称がつくため、受診が恥ずかしいと思い、患者さんが抵抗を感じやすい傾向にあります。
女性に特化した泌尿器科でなければ、女性の場合は特に抵抗を感じやすいことが考えられます。
そのため、クリニック名についても「泌尿器科」を入れるかどうかは要検討事項と言えます。
また、内装に関しても男性と女性で動線をわけるような工夫も検討していいでしょう。
ただ、だからといって、精神科や心療内科のように目立たないところに物件を選定するのは逆効果になる恐れがあります。
クリニック名称や内装に工夫をするようにしましょう。
口コミがあまり期待できない
泌尿器科の場合、患者層の大半は男性になりますから、良くも悪くも口コミによる集患は期待できないでしょう。
また、女性泌尿器科に関しても、泌尿器科のことを話すことに抵抗を感じる女性が多いと考えられ、同じように口コミは期待できないと考えられます。
小児科のように、口コミをもとに集患することは難しいかもしれません。
そのため、Webサイトやパンフレットなどで認知を高める工夫が重要になってきます。
需要が見込める地域で物件を探して開業する
比較的競合の少ない泌尿器科ですが、だからといってどこに開業していいわけではありません。
需要が見込める患者さんが多い地域でないと、専門性の高さから集患に苦労することが考えられます。
そのため、他の診療科目と同様に、開業コンセプトを明確にしてから物件を選定することを忘れないようにしましょう。
他の関連医療施設との連携
排尿関連の疾患では、泌尿器科以外に他の診療科目に受診することがあります。
特に女性であれば婦人科、男性であれば心療内科や精神科(男性更年期障害)に最初に通うことがあります。
専門性の高い泌尿器科では、他の診療科目の病院・クリニックと連携を図っていく必要があります。
そうすることで、開業後の集患対策にも役立てることができます。
物件探しでは、近くに連携できる病院やクリニックがあるかどうかという観点でも検討するようにしていくといいでしょう。
【まとめ】競合が少ないとはいえ開業物件の選定は慎重に
以上、泌尿器科の勤務医・開業医の年収と開業資金の目安、注意点についてお伝えしました。
泌尿器科については、今後の需要と競合を考えれば、開業のチャンスが高い科目と言うことができます。
しかし専門性が高く、需要が限定されることも考えられるため、いくら競合が少ない場所で開業しても経営がうまくいくとは限りません。
そのため、他の診療科目と同様に開業コンセプトや治療方針を明確にして物件を選定することを忘れないようにしましょう。
治療方針が明確になれば、競合の少ない泌尿器科は比較的開業しやすい診療科目であると考えられます。
泌尿器科の開業をお考えの先生は、ぜひご相談ください。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。