クリニックでトラブルなく外国人労働者を雇用するポイントは?
はじめに
ここ数年、日本国内の労働市場における人手不足などを背景に、日本で働く外国人労働者は年々増加傾向にあります。
厚生労働省が公表した平成29年度のデータによると、現在130万人近い外国人労働者が日本で働いています。
この数字は、前年比で約20万人増、増加率は約18%で、平成19年からの届出の義務化以降、過去最高の数字を記録しています。
医療の現場でも今後、外国人労働者を有効に活用するケースが出てくることが予想されます。
とはいえ、これまで外国人労働者を雇用したことがない医院の経営者にとっては、色々と不安が多いのではないでしょうか。
外国人労働者を雇用することは、日本人を雇用する時と違い、様々な注意点があります。
特に外国人労働者の雇用にかかわる法律を理解しておくことが重要です。
そこで今回は、どのような点に注意して外国人労働者を雇用すればよいのかについて解説します。
もしも、外国人労働者を雇用することになったら
実際に外国人労働者を採用するケースが出てきた場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
まずはその点から解説します。
在留資格在留期間を確認する
外国人労働者と労働契約を締結する場合、もっとも重要なことは、雇用を検討している外国人が日本で「労働する資格」を持っているか否かを確認することです。
日本に在留する外国人は、入国時に与えられる「在留資格」の範囲内で、「在留期間」に限り、日本国内で活動する(労働する)ことが認められているに過ぎません。
ですので、外国人労働者を雇用する時は、まずは職場で働く業務の内容が含まれている「在留資格」の範囲内であり、かつ「在留期間」が過ぎていないか等について、パスポート、上陸許可証印、外国人登録証明書等で確認するようにしてください。
ちなみに、該当する外国人のビザがあるから雇用しても大丈夫というものでありません。
ビザとは、日本の大使館や領事館(外務省)が、その本人のパスポートの有効性を確認して日本への入国を推薦する(許可する)ものにすぎません。
ビザには、外国人が日本に入国した後の、日本に滞在する理由が書かれています。
入国管理局(法務省)は、そのビザに記載された日本での滞在理由に限定して在留する資格を与え、入国を最終的に許可する、という流れになっています。
つまり、分かり易く言えば、ビザは入国するために必要なものに過ぎません。
一方、在留資格は「入国後にその外国人は日本の法律に則って日本に滞在するための資格」となります。
「在留資格」と「ビザ(査証)」は全く別物ですので注意してください。
在留資格がないのに雇用すると・・・
もし雇用者(医院経営者)が、在留資格がない、あるいは在留期間が過ぎている外国人(看護師、介護士、受付など)と労働契約を結び、就労させてしまった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、その該当する外国人自身が刑事罰の対象のみならず、雇用者も「不法就労助長罪」として、
3年以下の懲役
もしくは
200万以下の罰金
または
これら両方
の刑罰を受ける恐れがあります。
雇用する側の責任として、「知らなかった」では済まされない問題となります。
くれぐれも「在留資格」と「在留期限」について確認するよう注意してください。
在留資格にもいろいろある
上述のように、外国人は日本国内に滞在するために必ず在留資格を持っていなければなりません。
この在留資格にはすべて有効期限があります。期限内に更新の手続きをせずに期限が過ぎると「不法滞在」になります。
それでは、在留資格にはどのようなものがあるのでしょうか。
在留資格は現在27種類あります。しかし、在留資格があれば日本で働くことができるというわけでありません。
そこで、就労可能がどうかの観点から在留資格を3つのグループに分けて見てましょう。
(1) 在留資格に定められた範囲内で就労が可能な在留資格
・「外交」、「公用」、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「投資・経営」(一定の事業規模、待遇面、経歴についての要件を満たす外国人)
・「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術」、「人文知識・国際業務」(人文科学の知識を必要とする業務に従事しようとする一定の要件を満たした者)
・「企業内転勤」、「興行」、「技能」(外国料理の調理、外国特有の製品の製造等、特殊な分野の熟練した技能を有する一定の要件を満たした者)
(2) 就労できない在留資格
・「文化活動」、「短期滞在」、「留学」、「就学」、「研修」、「家族滞在」、「特定活動」
(3) 就労に制限がない在留資格
・「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」
これらの在留資格を見ると、医院が外国人労働者を採用する場合に、確認が必要な「在留資格」は、
(1)在留資格に定められた範囲内で就労が可能な在留資格の1つである「医療」に該当します。
「医療」の在留資格の有効期限は、「5年、3年、1年、または3ヶ月」などがあります。
※また、「医療」の場合は海外の医療資格のみを有していても認められず、日本の資格が必要です。
外国人労働者のみを対象として就業規則の作成はできるか?
次に雇用する外国人労働者と、職場のルールとして適用する「就業規則」についてです。
就業規則は、法人・個人事業主を問わず「常時10人以上の従業員を雇用している事業所」は必ず作成しなければならないと、労働基準法に法的定められています。
就業規則とは、簡単に言えば、職場で働く従業員、そして経営者にとっての重要なルールブックに相当する、職場内のルールを定めたものです。
例えば、「勤務時間」、「賃金」、「退職」、「その他の労働条件」等々です。
よくある論点として、雇用する外国人労働者のみに(限定して)適用する就業規則の作成は可能か?というものがあります。
労働基準法3条では『使用者は、労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない』と明確に定めています。
就業規則の適用範囲も、正社員だけではなく、アルバイト、パート従業員も含まれます。もちろん、日本人従業員と外国人労働者の区別も一切ありません。
この原則は、就業規則の適用範囲を検討する上で非常に重要なポイントになります。
つまり、外国人労働者という理由で別途外国人労働者向け限定の就業規則を作成することは認められていません。
したがって、外国人労働者であっても、労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法などのすべて日本人と同等に日本の法律が適用されるわけです。
よって、日本で外国人労働者を雇用する場合、日本人労働者と同じように社会保険の加入義務も発生します。
別途就業規則を作成する場合はどうする?
とはいえ、外国人を雇用する場合、日本人と同じ労働倫理を期待して同じ就業規則で対応すると、一般的な日本人で想定し得ない行為を起こし、職場にトラブルを抱えてしまう可能性があるのも事実です。
例えば、仕事より家庭を重んじ、残業は一切行わないなどの行為が挙げられます。
日本人だけ残業して、外国人は残業しない。
このような職場内で2つの基準ができてしまう事態もできれば避けたいところです。
このようなケースが回避したい場合、どのように対応すればよいのでしょうか?
昭和63年3月14日に労働基準局長名で発した通達「昭和63年3月14日基発150号」によると、労働基準法第3条の「差別的に取り扱い」に該当しなければ、同一の職場で働く労働者の内、一部の労働者にのみ適用される就業規則は作成することは可能という判断が下されています。
ここでのポイントは、国籍を理由とした差別的な意味合いを含む項目を就業規則に盛り込むのではなく、合理的内容であれば就業規則は別途作成することは可能ということです。
詳細については社会保険労務士などの専門家と相談しながら、日本人と外国人の働く環境に矛盾がでないよう就業規則を作成するようにしてください。
外国人労働者とのトラブルを防ぐには?
最後に、外国人労働者を雇用する際に、特に注意が必要な点について解説します。
労働契約の期間
労働契約の期間を定める場合は、外国人労働者についても同様で上限は3年です。
「医療」の場合、就労できる在留資格の期限は、最長5年ですが、大半は3年また1年のため、労働契約期間にあわせて、在留資格を更新する必要が出てくるので注意してください。
契約更新の際は、契約更新する場合の判断基準を明示し、本人にしっかり理解を得たほうが、後々のトラブルを未然に防げるでしょう。
労働時間・休日・有給休暇
外国人の場合は、仕事とプライベートを明確に区別し、個人の権利を前面に主張するケースが多々見られます。
特にトラブルの原因となるのが、就業規則を周知せず(理解をさせていなかった)ことが原因でトラブルが発生します。
始業時間、終業時間、休憩時間、休日などの規定は明確に、かつ周知を徹底しましょう。
契約の解除
契約の解除もトラブルが起こる原因の一つです。
契約途中で解雇できるのか、また外国人労働者から退職を申し出る場合は何日前に、どのような手続きで行うかを明確にしておきましょう。
よくあるケースが、ある日突然「今日で辞める」と言い出し、そのまま出社しなくなり退職するケースです。
これも、母国の習慣、文化の違いからくるトラブルだと思われます。
こういったトラブルを未然に防ぐためも、契約解除にあたっての権利義務については明確にしておきましょう。
まとめ
今回は、医院で外国人労働者を雇用する時の注意点やポイントについて解説しました。
今後、日本の労働人口が減少していく中で、外国人労働者を雇用するという場面は増えてくると思われます。
人材を確保できるというメリットはあるものの、国の文化や習慣の違いによるトラブルも少なくありません。
こうしたトラブルを防ぎ、労使共に快適に働ける環境を作るために、外国人労働者を雇用する際に注意するべき点を把握し、対策を事前に立てることが大切です。
多くのトラブルは、日本人の感覚で、日本人を雇用する感覚で、そのまま外国人労働者を雇用することで発生します。
まずは相手を知ること、違いを理解するところから始めてはいかがでしょうか。
監修者
亀井 隆弘
社労士法人テラス代表 社会保険労務士
広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。