結婚、出産、子育て…仕事との両立に悩む女性医師の実態
2018年、東京医科大学、順天堂大学などが医学部の大学受験で女子に対して一律減点をしていたことが発覚した医学部不正入試問題は、まだ記憶に新しい先生も多いでしょう。
医学部不正入試問題は、「理解できる」「理解できない」の意見が分かれ、賛否両論がありました。
上記の女性医師のワークライフを応援するWEBマガジン「joy.net」を運営するエムステージの調査結果では、65%の医師が、東京医科大学入試での女子一律減点に理解を示していることがわかっています。
やはり、女性医師の出産や子育てに関する休職・離職への影響で、男性医師や未婚女性医師への負担を大きくしているという意見が多かったのです。
過酷な労働環境に陥りやすい医療現場では、出産や子育てと両立できる女性医師の確保と職場環境の改善が大きな課題であることを浮き彫りにしています。
そこで、今回は結婚、出産、子育てと仕事との両立に悩む女性医師の実態をお伝えします。
国内の女性医師の割合は年々増加中
※厚生労働省「医師・歯科医師薬剤師統計」のデータを元に作成(歯科医師数を除く)
全医師数に対する女性医師の割合は、1980年以降から右肩上がりに増えています。
1980年代の女性医師の割合は約10%程度でしたが、2018年には21.9%まで増加しています。
また、第115回医師国家試験(2021年)の合格者の女性の割合は33.6%でしたが、近年は女性合格者の割合は30~35%で推移しています。
このことから、2018年の医学部不正入試問題の影響はともかくとして、女性医師の割合は今度も増えていくと考えられます。
世界的に見れば、日本の女性医師の割合は低い
日本の女性医師の割合が年々増加しているとはいえ、世界的に見れば、女性医師の割合は決して多いとは言えません。
※OECD雇用局医療課「図表でみる医療2019:日本」
むしろ、OECD加盟国で比較すると、上の図のように、女性医師の割合については日本が最下位であることがわかっています。
世界的に見れば、日本の女性医師の割合はまだまだ少なく、後進国といって良いのです。
また、同じ調査結果では、日本はOECD加盟国のなかでは人口当たりの医師数が5番目に低いという結果も出ています。
女性医師の割合が低いことだけが、日本の医師不足の原因とは言えません。
ただ、世界的に見て日本がまだまだ医師不足で、しかも女性医師の増加が進んでいないとも読み取れるデータです。
年齢が上がるほど女性医師の割合は下がる
日本の女性医師の割合が、OECD加盟国で最下位となっている背景は、年齢別に女性医師の割合を調べていくと想像が付きます。
※厚生労働省「平成 30(2018)年医師・歯科医師薬剤師統計」のデータを元に作成
年齢別の女性医師の割合について示すと、以下のように年齢層が高くなるにつれて女性医師の割合が顕著に下がっていることがわかります。
これは、そもそも昔は、女性医師の割合が少なかったことも一因としてあると思われます。
しかし、次にお話しするように休職・離職理由を見ると、やはり他の職業と同様、出産と子育てによる休職・離職によるところも大きいかと考えられます。
女性医師も、出産・子育てを理由に休職・離職する
女性医師も、一般的な職業と同様に出産・子育てを理由に休職・離職することがデータからも読み取れます。
日本医師会女性医師支援センター「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」(2017年8月)の調査結果を紹介します。
女性医師の休職・離職理由の大半は出産・子育て
2016年の女性医師の休職・離職理由では、圧倒的に出産と子育てによるものが多くなっています。
1位:出産(77.0%)
2位:子育て(47.6%)
3位:自分の病気療養(15.3%)
4位:夫の転勤(10.1%)
5位:留学(8.8%)
なお、休職・離職期間としては、全体の61.4%が1年未満であるものの、20%は2年間職を離れていることもわかっています。
女性医師の悩みの大半は「家事と仕事の両立」
同様の調査では、女性医師の悩みを聞き取ったところ、圧倒的に家事と仕事の両立に対する悩みが多いことがわかっています。
1位:家事と仕事の両立(68.3%)
2位:勉強する時間が少ない(45.1%)
3位:プライベートな時間がない(41.3%)
4位:男性主導社会(20.3%)
5位:当直室・更衣室・休憩室などの施設環境の不備(18.4%)
女性医師が仕事を続けるうえでしてほしい支援
同様の調査では、仕事を続けるうえで必要な支援として、圧倒的に多かったのは「勤務環境の改善」と「子育て支援」でした。
具体的には、出産・子育てとの両立に悩む女性医師が必要と思う支援としては、次の通りです。
- 1位:宿直・日直の免除
- 2位:医師の増員
- 3位:時間外勤務の免除
- 4位:主治医制の見直し
- 5位:フレックス制度導入
- 1位:病児保育
- 2位:保育施設
- 3位:男性の家事・育児参加
- 4位:学童保育
- 5位:院内保育所
すでに女性医師が家庭と仕事を両立するために整備されていることは?
日本医師会女性医師支援センターの同様の調査内容では、すでに就労環境や規則として整備されている内容も示されています。
- 1位:勤務時間の短縮、残業、当直等の免除(84.2%)
- 2位:事業所内託児施設(60.5%)
- 3位:X線被爆の回避(24.2%)
- 4位:休暇の際には代診医師を確保(24.0%)
- 5位:法定外の産前・産後の休暇(12.1%)
つまり、「勤務時間の短縮」「残業、当直等の免除」「事業所内託児施設」については、比較的整備されていると読み取れます。
これは、産休、育休、短時間勤務制度などの法定内の制度が整っている背景もあると考えられます。
たしかに最近は、女性が働きやすい制度のある病院やクリニックも増えてきました。
一方で、「代診医師の確保」「法定外の産休・育休」などについては、まだ割合が低い状態です。
勤務環境の改善で要望が多かった「医師の増員」について、まだまだ課題が多いと読み取れます。
余談ですが、女性医師の割合が45%を占めているドイツでは、女性のほうが多い病院も珍しくありません(女性医師の割合は日本の倍です)。
また、当直や勤務時間も男性医師と女性医師でほとんど変わらないとのこと。
なぜ、このようなことが起きるかというと、単純にドイツは日本より男女の家事・子育ての分担が徹底されているのです。
また、ドイツでは男性も育児休暇を取るのは当たり前です。
その他、ドイツでは日本と比べて、子育てとの両立に対して、柔軟に対応が可能なのです。
患者最優先の思想が強い日本に対して、このシステムを完全に導入することは難しいかもしれませんが、見習うべき点はあるかもしれません。
患者さんに求められる女性医師
これまで女性医師の割合や、家事・育児との両立についてお伝えしてきましたが、診療科目別の女性医師の割合はどうでしょうか?
「2018年医師・歯科医師・薬剤師統計」を見ると、女性医師の割合が高い診療科目もあるのがわかります。特に皮膚科は病院、診療所ともに約半数が女性医師です。
病院 | 診療所 | |||
---|---|---|---|---|
1位 | 皮膚科 | 54.8% | 皮膚科 | 44.3% |
2位 | 産婦人科 | 44.5% | 婦人科 | 39.7% |
3位 | 乳腺外科 | 44.1% | 眼科 | 36.7% |
4位 | 眼科 | 42.4% | 小児科 | 33.1% |
5位 | 麻酔科 | 40.9% | 糖尿病内科 | 31.2% |
6位 | 産科 | 40.0% | 乳腺外科 | 30.7% |
7位 | 糖尿病内科 | 37.3% | リハビリテーション科 | 30.1% |
8位 | 婦人科 | 36.7% | 形成外科 | 29.3% |
9位 | 小児科 | 36.4% | 放射線科 | 28.3% |
10位 | 形成外科 | 32.7% | 麻酔科 | 26.8% |
※臨床研修医を除く
このように、比較的勤務時間の融通が可能で、時間外の緊急の呼び出しがないイメージの強い科や、女性の来院数が多い科は、女性医師の割合が高い印象です。
患者さんの立場でも、どちらかというと女性医師に診察してほしいという方も多いでしょう。
特に産婦人科など女性患者さんが中心となる科の場合は、女性特有の悩みや感情が理解できる女性医師のほうが安心感を生むこともあるでしょう。
男性患者さんでも、女性医師に診てもらう方が、相性が良いということもあるかと思われます。
そう考えると、男性医師だけでなく、女性医師に対する地域医療のニーズも高いことがうかがえます。
徐々に女性が働きやすい制度を導入する病院や医院・クリニックは増えていますし、女性医師の開業も増えている印象です。
今後、一層女性が働きやすい制度、環境づくりができるようになると、患者さんにとってはプラス材料になるでしょう。
そもそも女性医師が働きやすくなれば、医師数が確保され、全体的に時間の融通ができて、男性医師も含めて家庭と仕事の両立しやすくなる好循環になります。
女性医師の開業という選択肢
出産と子育てと仕事との両立を検討する場合、ひとつ選択肢として考えておきたいのがクリニック開業です。
女性医師の割合が年齢とともに減少していくことでわかるように、ライフステージが進んだ女性医師は、若い女医よりも時間的自由度が低くなります。
また、お子さんがいる女性医師の場合、自宅から勤務地の病院の距離も気になるところです。
勤務医で自宅から遠い場所で勤務していると、お子さんとの時間を思うように取れません。
そう考えると、自分のライフステージに合った形で女性医師がクリニックを開業するというのは、ひとつの有効な選択肢かもしれません。
先に書いたように、女性医師は患者からの信頼を集めやすいので、個人開業した場合にも患者さんがついてくるケースも多々あるかと思います。
特に、産婦人科や小児科などはその傾向は強いのではないかと思われます。
ただ、クリニック開業には様々な労力と手続き、そして莫大な開業資金が必要になります。
・信頼できるコンサルタント探し
・様々な開業手続き
・物件選び
・外装や内装
・医療機器の購入
・資金調達
・人材の確保
・開業直後の集患
・広告宣伝
もちろん、うまくいけば勤務医時代よりも高い年収が期待できますが、最近では患者が集まらず、莫大な開業資金を回収できないケースも増えています。
そうなれば廃業、ひどい場合は自己破産に至ることもあります。
開業医ともなれば経営者としての仕事も増えてきますので、経営者としての知識や技能を身につけていかなければなりません。
あくまで個人開業は、ひとつの選択肢として捉えていただければと思います。
【まとめ】まだ女性医師の割合は少ないが、患者さんからは求められている
今回は、結婚や出産・子育てと仕事の両立に悩む女医の現実について書きました。
女性医師の割合は増えてきていますが、他のOECD加盟国では最下位で、特にベテランの女性医師の割合が圧倒的に少ないです。
また、多くの病院や医院・クリニックでは女性医師の育児との両立に対する理解は、徐々に上がっていますが、課題もあります。
特に、医師の人材不足問題が解消されない限り、女性医師の仕事と家庭の両立という問題解決は難しいところもあるでしょう。
一方で患者の立場で考えれば、女性医師は信頼しやすい、安心できるというメリットがあり、地域医療のニーズは比較的高いと思われます。
信頼されやすいという点では、開業に向いた女性医師は少なくありません。
- 時間的な融通を効かせたい
- 家事と両立させたい
- 子どもとの時間を多く確保したい
- もっと収入を上げたい
- 自分の理想の治療を実現したい
このようなことであれば、もちろん経営リスクは伴いますが、クリニック開業も検討して良いと思います。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。