精神科・心療内科の開業医の年収は?勤務医との比較や開業資金についても解説
精神科・心療内科は導入する医療機器が少なく、必要なスペースも多くないので、開業資金が少なくて済む診療科目です。
もちろん安易に考えては失敗リスクを伴いますが、精神科・心療内科は、比較的開業を検討しやすい診療科目と言えます。
そこで、精神科・心療内科で開業しようと考えている先生に向けて、開業医の年収や、勤務医との比較、開業資金の目安について解説します。
※開業医の年収は個人差がかなりあり、年収や開業資金にはバラツキがあるので、あくまで参考までにご覧ください。
医療経済実態調査から見る精神科の開業医の年収と内訳
精神科の開業医の年収については、第22回医療経済実態調査のP350一般診療所(個人・青色申告を含む)で、医業・介護収益から費用を引いた損益差額を年収とすると、2455.8万円と算出できます。
同調査から算出される全開業医の平均年収は2,763万円に比べると少し低い水準で、他の診療科目の開業医と比較しても精神科の開業医の年収はやや低い方です。
※1番高年収なのが産婦人科の4,551.9万円、2番目に高いのが眼科の3377.9万円、1番低年収が外科の2,020.8万円
しかし、著しく他の診療科目と比較して低いわけでもなく、大きな差異があるとも言えません。
また、医療経済実態調査の内容は、借入金の返済など経費にならない支出を含んでおらず、上記の金額がそのまま開業医の年収になるとは言えません。
正確なデータこそありませんが、精神科や心療内科は、比較的手元に利益が残りやすく、勤務医で言う手取りは実は高いとも言われています。
そのため、あくまで参考値として、以下の収支の内訳をご覧ください。
※同調査には心療内科のデータはありませんので、ここでは精神科についてお伝えします。
収益の内訳
第22回医療経済実態調査を元に精神科開業医の年間収益の内訳を示すと、医業収益は7,237.6万円となっています。
これは同調査で、皮膚科(6,566.1万円)、耳鼻咽喉科(7,097.8万円)に次いで低い数値となっています。
さらに収益の内訳を見てみると、入院診療の内訳の割合は15.1%、外来診療の内訳が83.8%となっています。
内科の入院診療の内訳は1.7%、外科は4.7%、整形外科が2.4%なので、精神科の入院診療の割合は比較的高い数字です。
なお、入院診療の収益の割合が一番高いのは、産婦人科の50.2%ですが、精神科は産婦人科に次いで入院診療の収益割合が高くなっています。
入院施設がない印象の強い精神科なので、少し意外な数字と言えます。
また、保険診療の割合は、同調査の結果から算出すると、入院診療では99.6%、外来診療では97.3%と、保険外診療はほとんどありません。
経費の内訳
精神科の開業医の年間経費(医業・介護費用)は4,781.8万円となっています。これは内科開業医の年間経費の5,471.9万円より700万円ほど低い数字です。
また、この数字は皮膚科(3,774.8万円)、耳鼻咽喉科(4,500.5万円)に次いで低い数字となっています。
これを見ると、皮膚科、耳鼻咽喉科とともに精神科は収益も低ければ、経費も低い診療科目と考えられます。
さらに細かく分析するために、精神科の開業医と内科開業医の年間経費の内訳を以下の表にまとめます
精神科開業医 | 内科開業医 | |
---|---|---|
経費 | 4,781.8万円(66.0%) | 5,471.9万円(67.9%) |
給与費 | 1,827.9万円(25.3%) | 2,041.7万円(25.3%) |
医薬品費 | 1,498.9万円(20.7%) | 1,377.1万円(17.1%) |
材料費 | 416.7万円(4.5%) | 202.9万円(2.5%) |
給食用材料費 | 43.2万円(0.6%) | 2.3万円(0.0%) |
委託費 | 127.9万円(1.8%) | 271.1万円(3.4%) |
減価償却費 | 155.7万円(2.2%) | 347.0万円(4.3%) |
その他 | 1,126.5万円(15.6%) | 1,230.0万円(15.3%) |
経費の内訳で、構成比を比較すると、内科開業医とは大きな違いは見られません。
精神科の勤務医の年収
精神科の勤務医の年収は、独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)によれば1,230.2万円です。
勤務医となると、年齢によって年収は大きく違いますが、これはちょうど精神科の開業医の約半分程度の年収になります。
この傾向は、他の診療科目と大きく違うものではありません。
- 勤務医の年収も一般企業の会社員や公務員に比べれば高給であること
- 開業すると倍の年収が見込める
- 開業医の年収は青天井だが、年収がゼロになる開業リスクを伴う
この特徴は、精神科でも同様と言えそうです。ただ、後述するように、精神科の場合は開業資金が他の診療科目より少なく、開業リスクは比較的低めです。
精神科・心療内科医師の働き方
精神科や心療内科の開業の話をする前に、精神科医や心療内科医の働き方についてお伝えします。
というのも、病院勤務医と開業医だけでなく、精神科や心療内科には精神保健福祉センターなどの公的機関という選択肢もあるためです。
病院勤務
精神科や心療内科というと、時間外勤務やオンコールが比較的少なく、ワークライフバランスを重視した働き方が可能なイメージがあります。
しかし、病院勤務医になると、入院患者さんの対応など、時間外勤務や当直などが発生することは十分あり得ます。
強制入院など、緊急時の呼び出しに対応することもあります。
そのため、あまりワークライフバランスを期待してしまうと違和感を覚えることになってしまうでしょう。
精神保健福祉センターなどの公的機関勤務
精神科や心療内科の勤務医の先生の職場は、大学病院や総合病院だけでなく、精神保健福祉センターなどの公的機関という選択肢もあります。
こちらは公的機関なので、病院勤務医よりは時間外勤務がなく、福利厚生の充実、土日祝日の休みが確保できるという利点があります。
ワークライフバランスを維持し、開業リスクも取りたくない先生には理想的な働き方です。
しかし、その分年収は1,000万円以下と、勤務医や開業医よりは低くなる傾向にあります。
メンタルクリニックの開業
医療経済実態調査の結果では、入院診療の収益の割合が他の診療科目より大きかった精神科ですが、実際は入院施設を持たないメンタルクリニックの開業は増えています。
うつ病や適応障害など、様々な心の悩みを抱える患者さんは、現代のストレス社会において大変多いです。
また、以前よりも精神科や心療内科に通院することに抵抗を覚える患者さんが減ってきており、メンタルクリニックのニーズは高まっていると言えます。
入院施設を持たなければ、開業資金を抑えられますし、病院勤務医のように時間外勤務や当直、オンコールなどの対応もなく、ワークライフバランスを維持しやすいでしょう。
ただ、開業するわけですから、診療以外にもクリニック経営という役割もあるので、必ずしも病院勤務医よりは時間を作れるとは限りません。
また、自分の好きなように診療ができ、平均年収も高くなる半面、開業リスクを伴うので注意が必要です。
メンタルクリニックの開業資金は安い
精神科・心療内科の開業医の場合は、内科や眼科、産婦人科、美容外科のような施設や医療機器を必要としません。
居抜き物件やM&A開業でなければ、他の診療科目では、開業資金が最低でも4,000~5,000万円必要です。
しかし、精神科や心療内科は2,000万円程度で開業が可能なため、居抜き物件やM&Aでなくても開業リスクを抑えることができます。
精神科や心療内科の開業物件に対する考え方は少し独特です。
「クリニック=駅前や人の多いところに開院すれば患者さんは来るだろう」という、他の診療科目と同じような考え方で物件を選ぶと失敗する可能性があります。
というのも、精神科や心療内科の場合はどうしても「通院しているところを人に見られたくない」という思いが働くためです。
そのため、人通りが多い場所で開業し、目立つ看板を立てるようなことをしてしまうと敬遠されてしまう可能性があります。
このような、精神科、心療内科ならではの患者さんのニーズもしっかりと汲み取って物件を検討する必要があります。
精神科や心療内科は、目立つ外観のメリット・デメリットが両方あるので、判断が難しいところです。
上記の考え方で目立たない場所に開業する場合は、ホームページでアクセス情報をわかりやすく記載し、患者さんが安心して通えるようにしましょう。
【まとめ】敷居が低い精神科・心療内科の開業も慎重に検討
以上、精神科・心療内科の開業医の年収と勤務医の年収との比較、開業資金についてお伝えしました。
精神科・心療内科の開業医と勤務医の年収は、他の診療科目と大きく変わるものではありません。
しかし、施設や導入する医療機器が少ないことから、開業資金は低く、比較的開業リスクの少ない科目と言えます。
そのため、借入金の返済額も少なく、うまく集患できれば、割と早く黒字経営を実現し、手元にお金を多く残すことが可能です。
そのため、精神科や心療内科の実質的な年収はもう少し高いと考えていいかもしれません。
また、ストレスフルな現代社会で、メンタルクリニックのニーズはますます高まるでしょう。
しかし、他の診療科目と同様、競合のメンタルクリニックも多く、患者さんのニーズを踏まえて、慎重に開業を検討するようにしましょう。
特に精神科や心療内科は、患者さんの属性から目立つ場所の開業がかえって不利に働くことがあります。
そのため、ホームページなどを使った集患対策も十分検討する必要があります。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。