【開業失敗事例】自己破産、廃業…追い詰められる内科医の実態
勤務医の先生で、理想のやりたい医療を実現するために医院・クリニックを開業したいと考えている方は多いのではないでしょうか?
令和2(2020)年医療施設調査によれば、2019年10月~2020年9月までの一般診療所の開設数は8,302件、そのうち個人診療所は2,516件になります。
ただ、一方で同じ期間内で一般診療所の廃止は7,770件、一般診療所は2,115件と、だいたい同程度の廃止があることがわかります。
診療所を廃止する理由は、後継者不足や、院長先生やスタッフの高齢化に伴う引退、死亡など、経営不振以外の理由が多いです。
ただ、なかには開業直後に医院経営が軌道に乗らず、廃業してしまうケースもあります。
場合によっては自己破産するケースもありますが、そうでなくても多額の借入金を背負った状態で勤務医に戻ることになります。
そこで、今回は医療機関数が多い内科のクリニックの失敗事例と対策を解説します。
内科医の失敗事例①:高級住宅街の駅前に開業したけれど…
開業を検討しているある内科の勤務医の先生がいました。
その内科医の先生は、前から気になっていた開業コンサルタントに相談したところ、
「何と言っても物件選びが一番です。私にお任せください」
と言われ、背中を押された内科医はコンサル契約を結びました。
しかし、これがすべての失敗のきっかけになってしまいました。
提案されたのは東京都内の、とある一等地の高級住宅街の駅前でした。たしかに単純に考えて良い場所ですが、いかにも高そうな物件。
内科医は心配になり開業コンサルタントに不安を打ち明けますが、
「物件で妥協したら患者さんが来ませんよ!私は物件選びに失敗して後悔している先生を多く見てきました」
開業コンサルタントがあまりに自信満々に言うものですから、「じゃあ信じてみるか」と、その場所を選んでしまいました。
ホームページを開設し、スタッフも雇用し、その内科医はなんとか開業することができました。
しかし、ここまででかかった開業資金は1億円を超えてしまいました。
開業当初から借入金の返済がキャッシュフローを大きく圧迫しました。
さらにコンサルタントの言われるまま、最初からスタッフを多く採用してしまったので、月々の人件費も嵩んでいます。
しかも、駅前という割には、なかなか患者が集まりません。
というのも、その場所は、近くに内科のクリニックが他にいくつもあり、競合している場所だったのです。
しかも、その割には他のクリニックとの違いを打ち出すことができなかったのです。
患者さんは、近くに新しいクリニックができたとしても、余程不満がなければ今の通院しているクリニックを変えようとしません。
ですから、他のクリニックにない独自の診療などがない限り、新しい患者さんはなかなか来てくれないのです。
「患者さんが来ない、どうにかならないか」と開業コンサルタントに相談したところ、やはり自信満々に「よし、広告をいっぱい出しましょう!」と言われます。
そこで内科医は、厳しいキャッシュフローにも関わらず、さらに広告費をかけてしまいました。
それでも、見事集患数が増えて何とか黒字経営を実現!とは残念ながらいきませんでした……。
広告費を増やしても、全然患者さんが集まらなかったのです。
しかも、内科医の先生は経営のストレスから患者さんの対応やスタッフへの対応も雑になり、評判も良いものではありませんでした。
だから、ますます患者さんが離れてしまったのです。
赤字はどんどん膨らんでいき、その内科医は廃業、自己破産に追い詰められました。
このように、開業コンサルタントから「良い物件です!」と紹介されたものの、競合が多くて集患に苦労する。
そしてキャッシュフローを圧迫し、広告費をかけても回収できない失敗例は多いです。
物件選びはたしかに重要ですが、しっかりした資金計画とコンセプトがないと、開業後に医院経営が軌道に乗るのは難しいです。
内科医の失敗事例②:多額の開業資金、スタッフの退職の果てに……
もうひとつ、内科のクリニックが廃業した例を紹介します。
ある勤務医を長く経験した内科医の先生がいました。
他の開業医の先生と同様、自分のやりたい医療を実現したい想いと年収を増やしたいという理由から開業を検討します。
そこで、知り合いの医師から勧められた薬卸業者に相談したところ、「無料で開業のお手伝いをします!」とありとあらゆることを手伝ってくれました。
その内科医の先生は、安心しきって、その薬卸業者に丸投げしてしまいます。
しかし、これがすべての失敗の始まりでした。
開業場所、医療機器、看護師やスタッフ、ホームページと2年くらいかけて、見事に開業にこぎつけることができました。
開業した場所も、先の内科医の先生と同様、駅前の一等地で、かなり集患には有利と思える場所です。
医療機器も薬卸業者が指定し、先生は首をかしげながらも最新のものを揃えました。
1億円を超える開業資金の多くは、銀行からの借り入れでした。
かなり高い開業資金で、しかもほとんどが借入金でしたが、その内科医の先生は自信満々でした。
しかし、蓋を空けてみれば集患人数は1日15人程度。
ちなみに、開業リスクに見合う収入を得られ、患者さんを十分診療できる無理のない1日の患者数は40人が目安と言われています。
そこから考えれば、集患人数は圧倒的に足りません。
しかも多額のローンの返済やスタッフの人件費でキャッシュフローを圧迫。
勤務医時代の貯金を切り崩して開業したクリニックを維持する羽目になります。
焦りとイライラが募ってくる内科医は、看護師やスタッフに当たり散らします。
「せめて給料分の仕事してくれ!」
「対応が悪すぎる!これじゃ患者が来ない!」
しかも、診療時間中、患者さんの目の前で怒鳴り散らすものですから、ますます患者さんは離れていきました。
もちろん、看護師やスタッフのストレスもピークに達し、気付いたら全員が退職。
オープニングスタッフは、経営が安定するまでは長く働いてくれない傾向があり、油断すると雇用が不安定になりがちです。
その内科医は1年も経たずに資金がショートし、廃業に追い込まれました。
この内科医の先生が失敗した要因も、多額の開業資金。
薬卸業者によって医療機器を指定されてしまい、高額の医療機器を揃えたのも一因でしょう。
そもそもその医療機器は、この内科クリニックの診療圏ではとあまりニーズがないものでした。
また、クリニックのコンセプトに合っているかどうかも疑問でした。
それに加えて、ストレスでクリニック内の雰囲気が険悪になったのがとどめになったのでしょう。
内科医の失敗事例③:スタッフが無愛想で清潔感のないクリニック
先の内科医の事例は、どちらかというと開業コンサルタントや薬卸業者の言いなりになり、多額の開業資金をかけてしまった場合です。
たしかに開業資金に1億円以上かかることもありますが、資金計画が曖昧なままでは借入金が圧迫し、資金がショートしてしまいます。
逆に、開業時に必要以上に資金を渋ってしまうのも考えものです。
首都圏で内科のクリニックを運営している開業医の先生は、開業3年目になります。
開業3年目というと、そろそろ黒字に転じて医院経営が軌道に乗ることを期待できる時期です。
しかし、その内科医の先生の患者数は1日20~25人程度。
開業リスクに見合った1日の来院患者数の目安が40人というのを考えれば、その半分程度です。
とある開業コンサルタントから聞いた話では、開業資金をかなり抑え、スタッフ採用も最小限に留めていたので、何とか医院経営を保っていた状態でした。
ただ、「資金を抑えるのはいいが、もう少し患者さんが来るような工夫が必要」と感じるところが多々あった印象だったと言います。
まず、クリニックの場所がわかりづらいのです。そのクリニックは駅前とは言えないものの、駅から歩いて数分と、決して立地条件は悪くありません。
それなのに見つけづらいのは、クリニックのあるビルに、目立つような看板がないためです。
マッサージ店や不動産屋と同居したビルの中に入って、クリニックの名称と電話番号が書かれた小さな表札でよく見れば気付く程度。
そのコンサルタントも、最初はクリニックの場所をなかなか探すことができなかったようです。
しかもクリニックの場所をようやく見つけて中に入ると、待合室は古い雑誌が雑然と並んでおり、清潔感があるとは言えません。
診察室は、診察デスクに背もたれのある椅子、患者さん用の黒い丸椅子が置いてあるだけ。
待合室も診察室も、開業3年目とは思えないほどのくたびれ具合で、来院した患者さんが不安に感じるほどです。
これは先生の方針で、開業時に極力お金をかけないようにしたためだそうです。
内装はオフィス業者にパーティションのみ依頼し、机や椅子は中古で購入。
ビルに看板がないのも、コストカットのためです。
おそらく、先生のなかでは「見た目では患者さんの病気は治せない。医師の腕がすべてだ」という思いがあったのかもしれません。
お金をかけないのなら、せめてスタッフと協力してクリニック内を掃除したりすれば良いのですが、スタッフに全然その意識がありませんでした。
特に受付の患者さんに対する対応は無愛想そのもので、しかも受付中に爪を切り始めたのです。
これでは既存の患者さんを大事にしているとは思えず、口コミで良い評判があるとは思えません。
実際にGoogleマップの口コミを見たら、あまり良くない投稿もありました。しかも悪い口コミに対して返信もなく、対応しようという気もないようでした。
まだ、ホームページを作ればクリニックの場所がわかりづらくても何とかなったかもしれませんが、簡単に作っただけでしばらく更新がありません。
また、クリニックの場所がわかりにくいので、丁寧にアクセス情報を書いているかと思えばそんなことはなく、住所と電話番号があるだけ。
それでも、この内科医の先生は、どの開業コンサルタントや同業の医師の耳を貸すようなことはしませんでした。
その知り合いのコンサルタントも、「スタッフさんに院内の掃除をしてもらう」「患者さんへの接遇を見直す」「手作りのチラシを駅前の商店街に撒いてくる」などお金をかけない方法を提案したそうです。
しかし、先生は改善しようとしませんでした。
今もそのクリニックは細々と経営していますが、近くに競合のクリニックができると廃業の危機に陥るかもしれません。
内科医の失敗事例④:医療モールを過信した例
とある医療モールで開業した内科医の先生がいました。
医療モールは、認知度が早く上がりやすく、専門性の高いクリニックが複数の診療科目で集まるため、集患の相乗効果も期待できるところがあります。
そのため、医療モールは人気のある開業場所の1つです。
ある内科医の先生も、医療モールのメリットに惹かれて開業しました。医療モールは競争率が激しいので、内科医の先生は物件が決まった時点でとても喜んでいました。
しかし、この内科クリニックは、半年経っても、1日に1~2人しか来院しない状況が続きます。これではとても経営が成り立ちません。
その医療モールは大手の不動産会社が開発した物件で、開業時には地域でもそれなりの話題となったようです。
しかし、駅から遠くてアクセスは決していいと言えず、しかも駐車場も足りなかったのです。
それでいて運営会社が不動産の管理だけをしていて、肝心の広告宣伝や医療モール全体の盛り上げには知恵を絞っていませんでした。
つまり、この医療モールに入っているクリニックの多くが集患に困るという事態が発生したのです。
また、喉の不調であれば内科でも耳鼻咽喉科でも診察が可能など、違う診療科目で患者の奪い合いのようなことも発生しました。
医療モールに過剰な期待を寄せていた内科クリニックの思惑は見事に外れ、すぐに撤退を余儀なくされます。
現在は別の場所で開業し、順調に医院経営をしています。
医療モールはたしかに医療物件としての要件も満たしているし、認知も広がりやすいのでメリットは多いです。
しかし、医療モールの立地自体に魅力がなければ失敗する可能性もあり、他のクリニックとの相性にも左右されます。
有利な物件であることは間違いないですが、確認すべきところは確認しましょう。
【まとめ】開業前に現実的な資金計画をしっかり立てる
いかがでしたでしょうか。4人の内科医の失敗事例から、開業に失敗する内科医の特徴が浮かんできます。
- 開業コンサルタントや薬卸業者に頼りすぎている
- 物件選びや医療機器に開業資金をかけすぎた
- 開業資金が莫大だったのに集患がうまくいかない
- 資金計画やコンセプトが曖昧
- 広告費をかければ良いと思っている
- クリニック内の雰囲気が悪く、スタッフが辞めていく
- 清潔感のないクリニックになっている
- 患者さんに対する対応が無愛想
このように、あまりに経費を削減するのも問題ですが、事業計画の詳細な検討なく莫大な開業資金をかけるのも大きな問題です。
開業すればなんとかなる、とは限らないのです。
開業前にコンセプト、ビジネスモデル、事業計画を明確にすることが最重要です。
また、「物件選びが大事!」「集患には広告費!」としか言わない開業コンサルタントは要注意です。他にも検討すべき事項はたくさんあります。
なお、内科の年収や開業資金については、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】内科の開業医の年収は?勤務医の年収との比較と開業資金についても解説
開業の失敗事例については、こちらの記事も参考になります。
監修者
笠浪 真
税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号
1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。
医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。
医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。