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「開業コンサルタントにお願いしたら費用ばかり掛かってしまった」
「コンサルタントが広告ばかり勧めてくるが、効果がイマイチ。毎月の資金繰りが苦しく、廃業せざるを得ない」
「小児科クリニックにアドバイスに従ってプレイルームを設けたら、『うるさい』とクレームが」

ここではコンサルタントを使った失敗事例や、コンサルタントの選び方の留意点を見ていきます。

開業コンサルタントにお願いしたものの…失敗事例

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開業コンサルタントに頼り過ぎ、失敗してしまった事例をご紹介します。

事例1:廃業してしまった内科開業医の例
事例2:赤字転落の恐怖から、休みなしで働き続ける整形外科医の例
事例3:子どもの声が響き渡る小児科医院の例

事例1:廃業してしまった内科開業医の例

落ち込む

内科勤務医のA先生は、独立を考えていました。
そのため、以前から開業医コンサル会社のホームページ、メルマガを読んで、開業の知識、経営の基礎、人材教育、資金管理などに関して勉強していました。
その中で気になっていたあるコンサル会社は、「開業場所が大事」という主張をしていました。主催していたセミナーに行ってみたら、同じことを話していました。

A先生もその通りだと思い、忙しい勤務の間を縫って、自分で場所を探してみましたが、これと言った場所が見つかりません。
そこでそのコンサル会社に、直接相談すると、コンサル会社が、「我々が最適な場所を紹介します」と言います。そこでA先生はこのコンサル会社に、場所探しを含めたコンサルティングや開業準備を依頼することにし、契約しました。

その後、このコンサル会社は駅前の一等地を提案してきたのですが、A先生は「ちょっと高いな……」と思います。しかし「場所選びは大事で、一等地の方が集患しやすいです」というコンサル会社の主張に押し切られる形で決めました。

その後もコンサル会社の提案する機材、内装、設備、Webページや人材募集広告などを「少し高い」と思いながらも導入。結局7-8千万円で設定していた予算を大幅に超え、1億3千万円の開業資金となってしまいました。
(銀行の融資はコンサル会社のアドバイスもあり、無事におりました。)

いざ開業してみると、たしかに駅前の一等地だったので集患にそこまで苦労しませんでした。しかし、借金の返済と人件費がかなり多くかかり、毎月残る現金は想定より少なかったのです。
コンサル会社に相談してみると、「患者さんを増やすために広告費を増やしましょう」と言われました。

確かにチラシやインターネット広告により一時的に患者さんの数は増えましたが、長くは続きません。
コンサル会社に言ってみても、「広告を増やして勝負しましょう」というアドバイスしかもらえず、他にいい手段も思いつかないので毎月のキャッシュフローを気にしながらも、打てるだけの広告を打っていました。

しかし1年後、更に悪いことに、近くに同じ内科診療の病院ができたのです。
そのため、患者さんの数はすぐに減っていき、毎月の資金繰り(キャッシュフロー)が完全に赤字になってしまいました。
そのため、A先生は廃業することを決めざるを得なくなりました。

教訓:たしかに開業場所は大事ですし、開業当初は広告を出して患者を集めることも重要です。しかし、経営後に資金ショートするリスクも十分あります。「開業は場所こそが大事」「広告を出しましょう」としか言わないコンサル会社には注意が必要です。承継開業など、資金を抑える方法はいくらでもあります。

事例2:赤字転落の恐怖から、休みなしで働き続ける美容外科医の例

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B先生は大学病院の形成外科医です。
同期の先生が、美容整形クリニックを開業して年収が4000万円を超えているという話を聞き、自身も開業を考えました。

インターネットで情報収集している際に、美容整形のコンサル実績が豊富な、ある医院開業のコンサル会社を発見。さっそくコンタクトを取り、担当者とも何度か話しました。

担当者も自信を持ってコンサルを勧めてきたため、この会社に開業の手伝いをしてもらうことを決断。
丸投げではなく、しっかりと自分の希望を伝え、2年間をかけて一緒に開業の準備を進めてきたのです。

しかし無事に開業してみると、1つ誤算がありました。
美容外科は、受けたことを周りに言わないので「口コミ」が起こりにくく、広告費用が思ったよりも多くかかるのです。

しかもインターネット広告は、大手美容整形グループ数社が独占している状態。
小さな新しい美容外科医院が入り込むすき間は、ほとんどありませんでした。

集患に苦戦している間にも、ローンの返済費用や、スタッフの人件費はかかるため、当初用意した運転資金は減っていく一方。

そこでB先生は、昼間は自分の医院、土日や夜には他の病院でアルバイトをすることに。
それで何とか資金繰りを回し、廃業を回避している状態です。

まだ若いから身体がもっているものの、休みもなく働き詰めの生活。
いつ自分の病気やケガなどで働けなくなるか、怖くて仕方ありません。

教訓:大手の美容整形クリニックグループには広告では勝ち目がありません。
大手がやらないような経営戦略を提案してくれないコンサル会社、広告ばかりを提案してくるようなコンサル会社には注意が必要です。資金を抑えながら競合との差別化を図る提案をしてくれるコンサルタントを選びましょう。

事例3:子どもの声が響き渡る小児科医院の例

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小児科医のC先生は独立開業を検討。
同じ小児科仲間が、コンサル会社に頼んで開業したことを知り、C先生もそのコンサル会社を紹介してもらい、開業することにしました。

「小児科の場合には、プレイルームを作ると良い。待ち時間も子どもさんが退屈しないから、お母さんも喜びますよ」
というアドバイスに従って、プレイルームを設ける形で開業を果たしました。

場所もよく、開院当初からたくさんの患者さんが来てくれました。
しかし、プレイルームを設けたことで、子どもたちの声が一日中ずっと響き渡り、先生も看護師もストレスが溜まるようになってしまいました。

さらに、他のお母さんからも「うるさい」というクレームがつき、子ども同士の喧嘩で、怪我も出てしまいました。
トラブルが出たこともあり、次第に患者さんの足が遠のくという結果に。

結局プレイルームを失くし、徐々に患者さんの数は戻ってきたのですが、かなり嫌な思いをしたのです。

教訓:小児科の場合、プレイルームが必ずしも悪いわけではなく、逆に患者満足度の向上に繋がることも多いです。しかし、トラブルの未然防止や、発生の際の対応までを想定していないのは問題です。単純に「プレイルームを作りましょう」とだけ言うコンサル会社には注意が必要です。

どんな人が開業コンサルタントを名乗っている?

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開業コンサルタントは、医院・クリニック開業サポートの専門家です。
先生が、忙しい業務の合間にすべての準備業務を一人で行うのは現実的ではありません。

開業に関わる、土地や建物選び、建設計画、機器の購入、人事・労務、税務、集患のための広告。多岐にわたる準備について、豊富な経験からアドバイスを行い、先生が苦手な分野について、代行や専門家を斡旋するなどして、スムーズな開業を助けてくれる役割を持っています。

開業コンサルタントには、独立系の個人や法人、または建設会社、医薬品卸会社、医療機器卸会社などがサービスとして無料で行っている場合などがあります。
会社や担当者ごとに、得意分野や支援の内容が異なったものになることが多く、どういう方を選ぶかでその後の労力がかなり変わってくることになるでしょう。

まずは各コンサルタントと、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。

1)経営(開業)専門コンサルタント

医院開業・経営支援に特化し、コンサルティングサービスを有償で行います。
全体的に言えることですが、得意分野や実績、開業後の経営支援の有無、コンサルティングの方針など、先生のニーズや考え方に合致しているかを見極めることが大切です。

メリット:しがらみなくドクターの立場で支援が可能。製薬・医薬品卸・医療機器卸会社、建設系などの「ひも付」ではないため、公正で手厚い支援を期待できます。

デメリット:技量にばらつきがあったり、大手でも経験の浅い人が来たりする可能性があります。担当者の実力をしっかりと見極めることが必要です。また、大手の場合、社員数が多いため担当者がコロコロ変わることもあるので注意が必要です。逆に1人で事務所を構えているコンサルタントは、すぐに手一杯になってレスポンスが悪くなることがあります。

2)製薬・医薬品卸・医療機器卸系コンサルタント

医療系のコンサルタントで、コンサルティングサービスを基本的に無償で行います。しかし、無償であれば良いというわけでないので、無償のメリット・デメリットをしっかり把握してコンサル会社を選ぶ必要があります。

メリット:勤務医時代の付き合いの延長線上で、気安く頼める。他医療機関の情報を入手しやすい。耳鼻科や眼科などの特定科について、科特有のノウハウを有していることも多い。

デメリット:薬や医療機器導入に付随するコンサルティングのため、その会社のものを購入、使用せざるを得なくなります。結果としてコスト高になるリスクがあります。また、担当者によって当たりはずれがあることが多いでしょう。さらに、一般的には開業した後の経営支援を望めないことが多いと考えられます。

3)建築系コンサルタント

設計事務所や不動産会社、ハウスメーカーなどのコンサルタントでコンサルティングサービスを基本的に無償で行います。

メリット:建築物と連動しており、開業スケジュールをしっかり立ててくれる(スケジュールが把握しやすい)。

デメリット:「建築物が建てば終わり」という無責任なことになるリスクがあります。また、設計優先、建物優先となり、医院の採算性については優先順位が低くなること、開業後の経営支援は望めないことにも注意です。そうなると製薬・医薬品卸・医療機器卸系コンサルタントと同様、コスト高の割にはサービスの質が低くなるリスクがあります。

4)会計(税理士)・行政書士・社会保険労務士事務所系コンサルタント

顧問先に医療機関が多く、専門特化しているところのコンサルタントで、コンサルティングサービスを基本的に無償(開業後の顧問契約が前提)で行います。

メリット:経理関係や人事・労務など、先生の知識が浅い分野を一任できる。

デメリット:自分の専門分野を中心にコンサルティングしがちになるリスクがあります。また、料金体系が明確な事務所と、そうでない事務所があるので注意が必要です。また、税務と労務、法務を別々の事務所に依頼してしまうことで、連携がうまく進まず、開業に支障が出ることもあり得ます。

5)調剤薬局チェーン、医療モール企画運営会社

通常自社の運営物件に入居する開業医に対して、コンサルティングサービスを基本的に無償で行います。

メリット:内装工事や金融機関などもセットで紹介してもらえることが多い。自社の利益にも直結するため、開業後の経営相談にも乗ってもらいやすい。

デメリット:当然ながら、開業場所がその物件に限定されます。また専門性が低い人が担当になる可能性もあります。

それでは次に、良いコンサルタントの見分け方をお話ししましょう。

良い開業コンサルタントの見分け方

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医院開業のプロを名乗るコンサルタントは数多くいますが、単に
・開設手続きをしたことがあるという程度
・開業の一部にしか関わっていない
というコンサルタントも正直いますので、そうした人を選んでしまわないようにしましょう。

必ず複数回の面談時間を設け、お互いのことを知り合えるよう、じっくり話をしましょう。
先生のやりたいことをしっかりとヒアリングして、それに向かってできる限りのことをしようという姿勢が感じられるかをチェックしてください。
すぐに自分の得意分野の話や、コンサルティング手法に持っていこうとするコンサルタントには注意です。

コンサルティングの専門知識を見極めるには、具体的な質問をしてすぐに返答が返ってくるかを確認しましょう。

  1. 開業にかかる平均的な資金
  2. 診療科目別の採算ラインとなる患者数
  3. 予定している医療機器の平均的な値段相場
  4. 医療機器のメーカーごとの特色

などは、経験豊富なコンサルタントならすぐに返答が返ってくるでしょう。
一方、開業までの一部分にしか関わっていないような自称コンサルタントではすぐには答えられません。

また、コンサルティングサービスが無償の場合は、本業の医薬品・医療機器や不動産といった部分で利益を回収されることになります。
そのため、開業支援を有償サービスとして行っているコンサルティング会社と比べると、こちらの要望を通しにくくなります。また、支援がどうしても手薄になりがちなので注意が必要です。

さらに、紹介手数料が発生する業者にのみ発注するコンサルタントも存在します。
特定の業者を強引に進めてくることはないか、相見積もりはどこまで取れるのか、1つひとつ確認しながら準備を進めていってください。

コストが高くなり、開業支援や開業後の経営支援が手薄になってしまうと、借入金の返済額が莫大になり、しかも利益が見込めません。経営が軌道に乗る前に資金がショートするという最悪の結果を招いてしまうことになります。

重要なポイントは、開業して終わりではなく、クリニックのオープン後も黒字化するまでしっかりとアフターフォローしてくれること。どのようなメニューが用意され、費用はどれくらいかかるのか明確かどうかも、しっかり確認しましょう。

【まとめ】うまく開業コンサルタントを活用しよう

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開業コンサルタントに依頼した際の失敗事例、開業コンサルタントの種類とそれぞれのメリット・デメリット、開業コンサルタントを選ぶ際のポイントについてお話してきました。

コンサルタントに言われるがままに従って開業に失敗するケースが後を絶ちません。しかも、アドバイスしたコンサルタントは責任をとることはなく、責任を負うのは経営者である院長先生になります。そのため、コンサル選びはもちろん、コンサルタントのアドバイスを鵜呑みにせず、慎重に判断するようにしましょう。

また開業後の経営支援まで依頼する場合、開業コンサルタントとは、長いお付き合いになります。

理想は自分の経営理念に共感してくれて、その実現のために労力を惜しまず動いてくれるような、経験豊富で頼りになる開業コンサルタント。誠実に開業支援してくれるコンサルタントには待遇を良くして、長いお付き合いができるようにしていってください。

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この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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